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購入した美術品を楽しみ、所有する満足も味わいながら、将来の価値上昇や売却益を期待する「アート投資」。海外の富裕層の間では一般的なアート投資ですが、日本でも静かに浸透しつつあります。どのような特徴、メリット、注意点があるのでしょうか。具体的に見ていきましょう。
資産の一部にアートコレクションを組み入れる、海外の富裕層
アート投資とは、絵画や彫刻などの美術作品を購入し、将来の価値上昇や売却益を期待する投資手法です。
世界の富裕層の間では、資産の一部にアートなどのコレクションを組み入れることは一般的であり、平均して資産の10%程度がアート作品などをはじめとする、何らかのコレクションに充てられているという調査結果もあります※1。
※1 UBS Group AG ウェブサイト UBS Investor Watch “The value of collecting”より
一方、日本では、アート作品を資産に組み入れている富裕層は少数派です。現代アートによる資産形成アドバイザリーサービス等を行っている株式会社TRiCERAが実施した調査※2では、総資産1億円以上の富裕層のうち、資産運用としてアートを活用している人は10%未満にとどまっていることが示されています。
※2 株式会社TRiCERAウェブサイト『株式会社TRiCERA、“富裕層対象の現代アート投資実態調査”を実施 現代アート投資のメリットの1位は「ポートフォリオの分散」2位は「投資リターン」』より
しかしここ数年、日本でも富裕層の間でアート投資への関心が高まっています。その背景には、日本経済が長らく続いたデフレからインフレへと基調転換しつつあることが挙げられます。インフレ下においては、配当や利息によってではなく、非代替的な希少性により価値が保全される現物資産(ゴールドや不動産など)が選好されますが、アート作品も希少性によって価値を持つ資産となりえます。

(※写真はイメージです/PIXTA)
アート投資の「3つのカテゴリー」とは?
アート投資を検討する際に知っておきたいのが「ブルーチップ」「ミッドキャリア」「エマージング」の分類カテゴリーです。ただし、これらの区分には明確な基準があるわけではなく、また、時間の経過とともに評価が変化することもあります。
◆ブルーチップ
評価が確立された巨匠作家、またはその作品を指します。例えば、日本人の現代美術作家でいえば草間彌生や村上隆、アメリカ人ならキース・ヘリングやJ.M.バスキアなど、広く知られた有名作家の作品です。ブルーチップの作品(オリジナル)は数千万円から数億円の価格になりますが、評価が安定しているため価格下落リスクが比較的低く、また流動性が高くオークションなどの二次市場(セカンダリー市場)で売買しやすいことがメリットです。
◆ミッドキャリア
権威ある展示会で受賞したり美術館に作品が収蔵されたりするなどアート界で一定の評価を確立しつつあり、かつ今後の上昇が見込まれる作家の作品です。価格帯は数百万円から数千万円程度で、作家の評価上昇に伴い、作品価格も大きく上昇する可能性があります。こちらも二次市場での売買が可能です。
◆エマージング
学校卒業直後から活動10年以内で、まだ美術界での評価が固まっていない若手作家の作品です。作品価格は数万円から数百万円程度と比較的低価格ですが、作家の評価が高まらなければほぼ無価値となることも珍しくありません。逆に“大化け”して何十倍もの価格になる可能性もあり、ハイリスク・ハイリターンな領域だといえます。入手は一次市場(プライマリー市場。ギャラリーやアートフェアなどでの直接購入)が中心となります。
ほかの資産クラスにない「アート作品ならでは」の投資価値とは
世界中の富裕層にアート投資が浸透している理由はいくつかあります。
まず、伝統的資産クラス(株式や債券など)とオルタナティブ資産は値動きの相関性が低いため、オルタナティブ資産をポートフォリオに組み入れることで、資産全体の価格変動リスクを抑え、安定性を高められるという点があります。特に近年のように世界的な株高局面では、資産全体に占める株式の割合が相対的に大きくなるため、株式市場下落への備えとしてオルタナティブ資産を保有する意義が高まります。
また、アート投資の魅力は、資産保全という観点だけでは語れません。優れた芸術作品を所有し鑑賞できることによる精神的満足感や、豊かな感性の涵養、美術史などの背景知識の習得など、一流の人間として身につけておきたい感性や教養を得るうえでも、アート投資は非常に有益です。
アート作品から得られるこうしたベネフィットは、財務的な利回り(Financial Return)と対比して、「感情利回り(Emotional Return)」や「心理的利回り(Psychic Return)」と呼ばれることもあります。
アート投資で失敗しないための注意点
アート投資には多くの魅力がある一方で、ほかの資産にはない独特のリスクや注意点もあります。
リスク1:価値(価格)評価の難しさ
アート作品には同じものが二つと存在しません。そのため、作品単体だけを見て適正価格を判断することは非常に困難です。では、アート作品の価格はどのように形成されるのでしょうか。実際には、「その作家がどのような文脈や市場、需要の中に位置づけられているか」という、アート界全体のコンセンサスによって価格が形成されます。いわば、作品を取り巻くエコシステム全体が価格を生み出しているのです。したがって、その作品価格が適正かどうかを判断するためには、アート界に精通し、その作家や作品が置かれている文脈を理解している必要があります。
あわせて、作品の真贋判定も、経験に基づいた鑑識眼がなければ困難です。そのため、真作を適正価格で購入するには、信頼できるディーラーやギャラリーを通じて取引することが極めて重要になります。
リスク2:流動性の低さ
作品はそれぞれ唯一無二の存在であるため、「その作品を欲しい」と考える買い手を見つけなければ売却できません。また、買い手が現れたとしても、価格の合意形成に時間を要することがあります。さらに、仲介手数料やオークション出品料などの取引コストも発生します。
リスク3:保管リスク
美術品の品質を劣化させず長期間保管するためには、直射日光を避け、温度や湿度が適切に管理された環境が必要です。また、地震や火災による破損・滅失、盗難などのリスクもあります。高額作品であれば、美術品保険への加入も事実上必須となります。
最初の「一点」と出会うための始め方
アート投資は、単に経済的利益だけを追求するものではなく、「感情利回り=精神的・非金銭的な満足度(リターン)」も含めてアートそのものを楽しむ視点から取り組むことが大切です。
その意味で、まずは展覧会やアートフェア、ギャラリーなどに積極的に足を運び、多くの作品に実際に触れてみることが、アート投資の第一歩です。そうするうちに、まだ世間では広く知られていない作家についても、経歴や受賞歴、作品スタイル、テーマなどの知識が自然と蓄積されていきます。

(※写真はイメージです/PIXTA)
また、どのような作品が人気を集め、評価されているのかといった、アート界のトレンドも見えてくるでしょう。
基礎的な知識が身についてきたら、信頼できるギャラリーなどを通じて、少額の作品から購入してみるとよいでしょう。とくに版画作品は、原画と比べて価格が低めなので、初心者でも購入しやすいジャンルです。その際には、作品のコンディションや作者のサインの有無に加え、版画のエディションナンバー(限定数)を確認することも忘れてはいけません。
そして何より大切なのは、自分がその作品や作家を好きになれるか、所有することに喜びを感じられるかという点です。その点が十分に満たされるのであれば、たとえ将来的に価格が上昇しなかったとしても、自分自身にとって十分な価値を感じられるでしょう。
