「資産を増やす」ことだけが、投資のゴールではなくなった——そう実感している方も多いのではないでしょうか。今、富裕層の間で急速に注目されているのが、「リジェネラティブ投資(Regenerative Investment)」という新たなアプローチです。
従来、投資といえば利益を追求するものであり、社会的な価値や倫理的な判断とは切り離されてきました。ところが近年、環境問題の深刻化や格差の拡大などにより、「資産形成=社会との関わり」という視点が広がっています。特に資産的余裕のある層ほど、その意識は顕著です。
すでにESG投資やインパクト投資といった「価値ある投資」は広く知られるようになりましたが、それらの先にあるのが「リジェネラティブ=再生的」な投資。
これは単なる持続可能性を超え、「破壊された環境や社会構造を回復させ、さらに良い状態へと導く」ことを目的とする、より踏み込んだ投資手法です。
株式会社Sustechの定義によれば、リジェネラティブとは、「自然や社会の健全性を取り戻し、循環型の経済システムへと移行する思想」であり、“ただ悪影響を減らす”のではなく、“プラスの再生を生み出す”ことを重視します。
このような視点は、特に余裕のある富裕層にこそ求められているものです。
資産の“量”だけでなく、“質”や“次世代への継承”“社会的意義”といった視点を加えることで、自らの資産に「ストーリー」と「使命」を与えることができるのです。
第1章:リジェネラティブとは — 持続可能性の先にある「再生」の思想

1-1. 「リジェネラティブ/Regenerative」の概念と背景
「サステナブル(Sustainable)」という言葉は、近年の投資分野ではすでにおなじみですが、その定義は“現状を持続させる”という消極的なものにとどまります。
一方、「リジェネラティブ(Regenerative)」という概念は、その先を行きます。破壊された自然環境や社会構造を「元の状態に戻す」どころか、それ以上の豊かな状態へと“再生”させることを目指す考え方です。
自然環境を例に取ると、リジェネラティブなアプローチは、土壌の栄養分を回復させたり、生態系のバランスを取り戻したりといった活動を通じて、自然が自らの力で回復し、長期的に循環する仕組みをつくります。
この思想は自然に限らず、経済や社会、コミュニティ、そして資本主義そのもののあり方にも適用されつつあります。ウィキペディアでは、「リジェネラティブ経済」は“エネルギーや資源の流れが再生的にデザインされた経済構造”とされており、持続ではなく“豊かな拡張”を目指す点で、従来の経済概念とは一線を画します。
言い換えるなら、「失われたものを補う」のではなく、「新たな価値を創造する」投資こそが、リジェネラティブ投資なのです。
1-2. なぜ“投資”と結びつきつつあるか
「再生」や「回復」といった言葉は、一般的には慈善活動やNPOの文脈で語られがちですが、いまやそれが“投資対象”として真剣に捉えられ始めています。背景には、環境破壊・気候変動・生物多様性の喪失といった、地球規模の課題があります。
BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の最新レポートでは、これらの問題が「長期的な経済リスク、そして富裕層の保有資産に対する脅威」として認識されていると明言されています。地球温暖化や自然災害の増加は、農地・不動産・企業業績といった投資先そのものに直接的な悪影響を与えるようになってきたのです。
このような状況下で注目されているのが、「自然資本(Natural Capital)」や「生態系サービス(Ecosystem Services)」といった“お金に換算されにくい資産”を、投資対象として組み込もうという動きです。
ウィキペディアでも紹介されている「Natural Asset Company(NAC)」のモデルでは、森林、水資源、海洋などの自然資産を企業化し、投資家が資金を提供することで、環境保全と収益の両立を図るスキームが構築されています。
つまり、再生型の取り組み自体が“価値を生む”という認識が広まり、投資のフロンティアが広がっているのです。
1-3. ESG/インパクト投資との違い — “次のステップ”としての位置づけ
ここまでお読みいただき、「それってESG投資やインパクト投資とどう違うの?」と思われた方もいらっしゃるかもしれません。実際、リジェネラティブ投資はESGやインパクト投資の延長線上にあるとされることも多いです。
まずESG投資とは、「環境(Environment)、社会(Social)、ガバナンス(Governance)」の観点で企業を評価し、それに基づいて投資判断を行う手法。評価が低い企業は排除し、優れた企業を選ぶことで、リスク回避や社会貢献を同時に狙います。
インパクト投資は、さらに一歩踏み込み、投資そのものが“社会的・環境的インパクトを生む”ことを目的とする点が特徴です。たとえば教育、医療、貧困対策などが代表的な投資先です。
これに対してリジェネラティブ投資は、“悪影響を減らす”のではなく、“ポジティブな変化を創出する”という、より積極的なアプローチを取ります。
ION Groupの専門記事では、ESGが「ネガティブスクリーニング型(悪い要素を排除)」であるのに対し、リジェネラティブは「ポジティブデザイン型(良い変化を作る)」であると表現されています。
さらにarXiv(オープンな学術プラットフォーム)の研究論文によると、ESGスコアは評価機関ごとにバラバラで信頼性に欠けることが課題とされており、その解決策として“リジェネラティブな視点”が注目されているのです。
第2章:投資対象 — どこにお金を置くか? 現実的かつアクセス可能な選択肢
を丁寧に紐解いていきます。
2-1. 再生型農業/自然再生型ランドスケープ
リジェネラティブ投資の代表的な対象のひとつが、「再生型農業(Regenerative Agriculture)」です。
この分野は、近年ますます注目度が高まっており、米国では大手ファンドや食料関連企業(NestléやGeneral Millsなど)も参入し始めています。
特にVeris Wealth Partnersが発表した調査では、「再生型農業に関連する土地やプロジェクトに対して、2024年時点で10億ドル規模の投資が流れている」とされています。
再生型農業の手法とは?
一般的な大規模農業が行ってきた「化学肥料による栄養補給」や「土壌の使い捨て」とは一線を画し、再生型農業では次のようなアプローチが取られます。
- ノー・ティル(不耕起栽培):土を耕さず、微生物の生態系を維持
- カバークロップ(被覆作物):冬期や収穫後に植物を植えて土壌を守る
- 輪作:作物の種類を定期的に入れ替えて、病害虫や栄養バランスをコントロール
- 混合農畜システム:家畜と農地を連携させ、肥料や土壌の質を自然に改善
- 有機堆肥の使用:化学肥料ではなく、有機物による土壌活性化
このような手法により、土壌の健康を回復させ、水の浸透性や炭素貯留能力を高め、生物多様性を取り戻すといった効果が得られます。これは単なる農業改革にとどまらず、「土地そのものの価値」を引き上げる投資対象となり得るのです。
投資としての魅力
BCGの2025年レポートによれば、再生型ランドスケープへの投資は、「10年で年率15〜30%のIRR(内部収益率)」を期待できるとされます。もちろん、これは理想的なシナリオに基づいた試算ですが、次のような理由から、十分に現実的な可能性があります。
- 土壌の健全性回復による収量安定
- 化学資材コストの低下
- カーボンクレジットなど新たな収益源の発生
- 消費者ニーズの高まり(エシカル商品・オーガニック)
また、投資家にとっては「農地という実物資産」に資本を置くことになるため、インフレ対策や地政学的リスクの分散先としても魅力的です。
Weiland Farms社などの事例では、再生型農業によって土地価値が短期間で20%以上上昇したという実績も報告されており、資産運用における「非伝統的な収益源」として再評価されています。
2-2. 自然資本/ネイチャー・キャピタル(森・水・生態系サービス)
「資産」と聞いて、土地や株式、現金といった“見えるもの”を思い浮かべる方がほとんどだと思います。
しかし、これからの資産運用では、“見えない資産”である「自然資本(Natural Capital)」の存在が極めて重要になります。
自然資本とは、森林、水源、土壌、生態系といった、人類が直接的・間接的に恩恵を受けている自然環境の要素のこと。たとえば以下のような価値があります:
- 森林の炭素吸収能力 → カーボンクレジット市場に参加可能
- 水源の保全 → 水の供給と水災リスク軽減
- 土壌の栄養保持力 → 持続可能な農業の基盤
- 生物多様性 → 観光資源・医療資源としての活用
これらは長らく「経済的に評価されない資産」として見過ごされてきましたが、いまや国連や金融機関が連携して、「自然資本の評価基準」を整備しようという動きが進んでいます。
中でも注目されているのが、ウィキペディアにも掲載されている「Natural Asset Company(NAC)」という投資スキームです。
これは、自然資本を“上場可能な企業体”として法人化し、株式として取引できる仕組みを指します。
NACモデルでは、たとえばある森林保全地域を管理・保有する企業が、環境影響や生態系サービスに基づいて収益を生み出し、投資家に分配するという形が取られます。つまり、自然保護そのものが“経済活動”に転換されるのです。
このように、今まで経済と切り離されていた「自然」が、資産クラスとして組み込まれつつあることは、投資家にとっても大きな意味を持ちます。特に長期視野を持つ富裕層にとっては、「今すぐ現金化はできなくても、次世代に残すべき資産」として評価されているのです。
2-3. 環境テクノロジー/再生可能エネルギー/クリーンテック
再エネや環境テック分野は、リジェネラティブ投資の中でも比較的なじみやすい分野です。
太陽光、風力、水素といった再生可能エネルギーは、すでに多くの投資ファンドで組み込まれていますが、近年ではこれに「循環」「再生」「脱炭素化」といった視点が加わっています。
たとえば、次のようなテーマが注目されています:
- 再生可能エネルギーの地産地消モデル
- 炭素除去(Carbon Removal)テクノロジー
- 廃棄物のリサイクル・再資源化技術(Circular Tech)
- バイオ炭(Biochar)を用いた土壌改良と炭素固定
- 電動モビリティとグリーン物流の拡大
これらの技術は、単に温室効果ガスの排出を減らすだけでなく、経済全体を“循環可能な構造”に転換するポテンシャルを秘めています。
しかし同時に、「再生」という言葉が安易に使われがちなのも事実です。
特にファンドレベルでは、「ESGラベルが付いているから安心」「再エネだから持続可能」といった浅い判断に基づいて商品を選んでしまうケースも見受けられます。
この分野に投資する際には、技術の成熟度(Technology Readiness Level)、市場性、法制度との親和性、競争環境、資金調達構造などを慎重に見極める必要があります。
リジェネラティブ投資という視点で選ぶならば、「環境的インパクトが測定可能で、かつ再生的価値を生む構造かどうか」がポイントです。
2-4. 混合型/ブレンド型資産(環境資産+伝統資産)
最後にご紹介するのは、リジェネラティブ投資の中でも最も柔軟で、実践しやすいモデルです。
それが、「環境資産」と「伝統的な資産」を組み合わせた“ブレンド型ポートフォリオ”という考え方です。
たとえば:
- 自然豊かな土地を購入し、再生型農業を委託して運営しつつ、土地資産として保有する
- 地方の遊休地を再開発し、サステナブルな住宅や観光施設として運用する
- 不動産の開発と同時に、森林保全や水資源管理などの自然資本を保護する契約を盛り込む
このように、リターンを生み出す「収益資産」としての顔と、社会的価値や自然再生を実現する「非財務資本」としての側面を併せ持つモデルは、特にポートフォリオ全体で「価値観のバランス」を取りたい富裕層にとって理想的です。
実際に、海外のファミリーオフィスや財団などでは、こうした“ブレンデッド・バリュー”の考え方を導入しており、資産保全と社会貢献を両立する新たな運用モデルとして注目されています。
第3章:投資としての収益性とリスク — “リジェネラティブ×富裕層”の可能性と限界
リジェネラティブ投資の魅力を語るうえで、「社会的意義」や「価値観の共有」はもちろん重要です。
しかし、富裕層の資産運用という観点からは、収益性(リターン)とリスクのバランスを抜きにして語ることはできません。
この章では、最新のデータと実例をもとに、リジェネラティブ投資がどのような収益ポテンシャルを持ち、どのようなリスクや限界を抱えているのかを、できる限り具体的に解説していきます。
3-1. 期待されるリターンとその根拠
再生型農業や自然資本への投資は、「社会貢献型投資」などと呼ばれることもありますが、決して“利益を犠牲にするもの”ではありません。
むしろ近年では、「高いリスク調整後リターン」が期待される“競争力あるアセットクラス”としての評価が高まっています。
たとえば、BCG(ボストン・コンサルティング・グループ)の2025年レポートでは、リジェネラティブ・ランドスケープ(自然再生型の土地運用)に関する投資が、**10年間でIRR(内部収益率)15〜30%**を実現できる可能性があると報告されています。
これは、不動産や伝統的な株式・債券よりも高いリターンでありながら、社会的・環境的インパクトも享受できるという、まさに「ハイブリッドな成果」を意味します。
では、なぜこれほど高いポテンシャルがあるのでしょうか?
理由は大きく4つに整理できます。
(1)土壌や土地の価値上昇による資産の再評価
再生型農業においては、土壌の健康を取り戻すことで、農業生産性が安定し、気候リスクへの耐性が高まります。
結果として、その土地自体の価値(地価や賃料)も上昇傾向にあり、「資産としての評価額アップ」が期待できるのです。
(2)コスト削減効果
化学肥料や農薬への依存を減らし、自然の仕組みを活用することで、ランニングコストの削減が可能となります。
これは長期的に見れば、利益率の改善につながります。
(3)新たな収益源の開拓(カーボンクレジット等)
リジェネラティブな農業や土地利用によって、二酸化炭素(CO₂)の吸収量が増加し、それが「カーボンクレジット」として市場で売却できる仕組みも整いつつあります。
たとえば、1ヘクタールの再生型農地が年間に吸収する炭素量に応じて、数万円〜数十万円の副収入が得られる可能性もあります。これは非常に魅力的な“非伝統的リターン”です。
(4)エシカル商品のプレミアム価格
再生型農業で生産された作物や食品は、「サステナブル認証」「オーガニック」などのラベルがつき、市場で高値で取引されやすいという特徴があります。
これは、消費者が「価格以上の価値」を見出していることの表れであり、売上面でもプラス要因になります。
これらの要素を組み合わせることで、従来の農業投資や自然保全活動では得られなかった、複合的なキャッシュフローの創出が可能になります。
つまり、リジェネラティブ投資は「環境にも良い、財布にも優しい」次世代型アセットとして注目されているのです。
3-2. リスク・不確実性・現実的なハードル
リジェネラティブ投資には多くの魅力がありますが、当然ながらリスクがないわけではありません。
むしろ、従来の投資とは異なるタイプのリスクが存在するため、慎重な検討とリスク管理が求められます。
(1)評価基準やスコアの不統一
ESG投資と同様に、リジェネラティブ投資にも共通する課題は、「評価指標のばらつき」です。
何をもって「再生的」と定義するかが曖昧なため、プロジェクトごとの成果の比較や投資判断が難しいのが現実です。
ION Groupのレポートでも、「リジェネラティブ=なんとなく良さそう」という雰囲気だけで判断されている事例があると指摘されています。
このような状況では、投資の透明性や信頼性に疑問符がつきます。
(2)流動性の欠如・長期コミットの必要性
自然資本や土地といった資産は、基本的に「長期保有」が前提となります。
短期的な売買によって利益を得ることは難しく、10年単位での運用を想定した設計が求められるのです。
そのため、すぐに現金化したい方や、資産を流動性重視で運用したい方には向かない領域かもしれません。
(3)制度・政策の不安定さ
再生型農業に対する補助金制度や、自然資本の税制優遇などは、国や地域によって大きく異なります。
たとえば、ある国ではカーボンクレジット制度が整備されていても、別の国では法的枠組みが不十分だったりします。
これにより、「投資しても期待どおりの成果が得られない」「規制変更で収益構造が崩れる」といったリスクが生じる可能性があります。
(4)“リジェネラティブ”の名を借りた不正案件(グリーンウォッシング)
もっとも警戒すべきは、“グリーン”を装った詐欺的案件や誇大表示の存在です。
arXivに掲載された研究でも、「投資家の関心を引くためだけに“リジェネラティブ”を名乗るケースが多発している」と警鐘が鳴らされています。
このような“見せかけのエコ”を見抜くためには、厳格なデューデリジェンス(事業精査)と、プロの助言が不可欠です。
3-3. 富裕層がとるべき慎重なスタンス
これらのリスクを踏まえたうえで、富裕層がリジェネラティブ投資に参入する際は、次のような方針が重要です。
- ポートフォリオ全体の中での位置づけを明確にする
たとえば「全体の5〜10%程度をリジェネラティブに振り分ける」といった設計で、リスクをコントロール。 - 事業の透明性・継続性・収益性を冷静に見極める
ラベルや宣伝文句ではなく、実際の実績・財務構造・運営体制を確認する。 - 長期視野を持ち、10年単位の運用計画を立てる
短期リターンはあくまで副産物。主眼は中長期的な「資産の価値成長」と「社会的影響力」。 - プロとの連携(ファミリーオフィス・信託・財団など)を強化する
情報収集、事業精査、税務・承継との連携には、専門家の知見が欠かせない。
第4章:実践へのロードマップ — 富裕層のための一歩目

リジェネラティブ投資が魅力的な“未来志向の資産戦略”であることは、これまでの章でお伝えしてきました。
しかし、ここから実際に「やってみよう」となると、多くの方が最初に直面するのが「何から始めたらいいのか分からない」という悩みです。
この章では、富裕層の方がリジェネラティブ投資を実践に落とし込むためのステップを、4つのフェーズに分けてご紹介します。
4-1. 自分の目的と価値観を整理する — 投資の“WHY”を言語化
投資という行為は、資金をどこにどう配分するか、という“手段”に目が向きがちです。
しかしリジェネラティブ投資では、まず**「なぜ自分はこの分野に資金を置くのか?」という“理由”を明確にすること**が非常に重要です。
たとえば、あなたはどのような未来に貢献したいと考えていますか?
- 地球温暖化の抑制?
- 食料供給の安定化?
- 地方創生やコミュニティの再構築?
- 自分の子どもや孫世代への健全な資産の継承?
このような問いに真摯に向き合い、自分なりの「投資の哲学」を持つことが、リジェネラティブ投資の“成功の本質”なのです。
これは、資産を単に「増やすため」ではなく、「意味あるものとして活かすため」の転換点です。
4-2. 投資対象のリサーチと選定 — チェックリストの提案
次のステップは、「どの投資対象が、自分の価値観と目的に合っているか」を選ぶことです。
ここで役立つのが、以下のようなチェックリストです。
| チェック項目 | 内容 |
|---|---|
| ① 投資対象の本質的価値 | 再生型農業や自然資本、エネルギー転換などの分野か? |
| ② インパクトの測定可能性 | 環境・社会への影響が定量的に示されているか? |
| ③ 財務構造の健全性 | 安定したキャッシュフローや、明確な収益モデルがあるか? |
| ④ デューデリジェンス情報の開示 | 投資先の透明性(事業計画、運営体制、過去の実績)は十分か? |
| ⑤ 法的・制度的な整合性 | 土地権利や環境保全規制、税制との整合性は取れているか? |
| ⑥ 長期運用前提の合意形成 | 最低5〜10年単位で資金をロックしても問題ないか? |
| ⑦ 倫理的な懸念の有無 | 労働環境、地元コミュニティへの配慮がなされているか? |
これらの視点を総合的にチェックすることで、「感情に流されず、理性的な投資判断」が可能になります。
なお、自身で調査するのが難しい場合は、専門家のサポートを受けることも視野に入れるべきでしょう。
4-3. 投資手段とスキームを検討 — どう参画するか
リジェネラティブ投資は、株式や債券のような「上場商品」ではないケースも多いため、投資の入り口(スキーム)についても多様な選択肢を検討する必要があります。
ここでは主な投資スキームを4つ紹介します。
① 直接所有型:土地・森林・農地の取得+運営委託
自ら土地や森林を所有し、専門の管理会社やNPOなどとパートナーを組んで運営を委託するモデルです。
- 【メリット】資産としての実物保有、自由度が高い、相続にも活用可能
- 【デメリット】管理コストや運営負担が大きい、情報収集が難しい
② ファンド型:自然資本ファンドや再生型農業ファンド
既存のリジェネラティブファンドやインパクト投資ファンドに出資するモデル。
プロフェッショナルな運用会社が、複数プロジェクトに分散投資を行います。
- 【メリット】少額から始められる、リスク分散が効いている、プロ運用
- 【デメリット】情報が少ない、透明性にばらつきあり、選定眼が必要
③ コンソーシアム参加型:富裕層ネットワークによる共同出資
ファミリーオフィスや財団などが参加する「共同投資プール」やコンソーシアムに参加し、意思決定プロセスに加わるスタイル。
- 【メリット】信頼性が高い、学びと人脈が得られる、共同支援体制あり
- 【デメリット】参入ハードルが高い、関係構築に時間がかかる
④ 上場企業・ETFを通じた間接投資
例えば、自然資本関連のETFや、リジェネラティブ事業を展開する企業の株式などを活用する方法もあります。
これは「入り口」として取り入れやすい選択肢です。
4-4. 長期保有とモニタリング体制 — インパクトと成果の確認
投資を始めた後は、放置せず「定点観測」することが肝要です。
とくにリジェネラティブ投資は、「時間とともに価値が育っていく資産」であるため、以下のような定期チェックをおすすめします。
| 項目 | チェックのポイント |
|---|---|
| 環境インパクト | CO₂削減量、生物多様性の改善、水循環の変化など |
| 財務リターン | キャッシュフロー、IRR、資産価値の変化 |
| 事業の継続性 | 運営体制の安定、政策変更への対応力 |
| 透明性 | 定期レポートの提供、ステークホルダーとの対話機会 |
| 出口戦略 | 将来的にどう現金化するか(売却、再評価など) |
このような“育てる資産”としての視点を持つことで、リジェネラティブ投資は一過性の流行ではなく、長期ポートフォリオにおける核となる存在になっていくはずです。
第5章:現実にある“誤解”“落とし穴” — 安易な飛び込みは禁物
を丁寧に執筆していきます。
リジェネラティブ投資は、その言葉の響きや理念の美しさから、どうしても「素晴らしいに違いない」「やるべきだ」というイメージだけが先行してしまうことがあります。
しかし、ここで忘れてはならないのは、投資である以上、現実的な検証・冷静な判断が不可欠だということです。
この章では、実際に起こり得る“よくある誤解”と“落とし穴”について、事例を交えながら整理していきます。
5-1. リジェネラティブ=儲かる、という短絡的な誤解
「再生的である=将来性がある=リターンが高い」
このような思考は、決して珍しくありません。確かに、BCGの報告にもある通り、リジェネラティブ投資は一定の高収益可能性を秘めています。
しかし、注意すべきは、そのリターンが“リジェネラティブであるから”ではなく、“適切なマネジメントとスキームが整備されているからこそ”実現するという点です。
単に「再生農業だから」「自然資本だから」といった理由だけで飛びつくのは、極めて危険です。
リジェネラティブ投資もまた、市場の変動・政策変更・運営体制・地域事情など、多くの変数に影響を受ける資産であることを忘れてはなりません。
5-2. ESGやサステナブル投資との混同
「ESGだから安全」「サステナブルだから社会貢献になる」——そういった認識が、リジェネラティブにも当てはまると誤解されがちです。
しかし、リジェネラティブ投資はあくまで“能動的な回復・再生を促す”投資行動であり、ESGのように“評価が高い企業に乗る”という受動的な投資とは根本的にスタンスが異なります。
また、ESGスコアそのものの信頼性も研究者の間で疑問視されています。arXivに掲載された論文では、スコアの算出基準が評価機関ごとにバラバラであること、そして企業による“スコア調整のテクニック”が横行している点が指摘されています。
つまり、「ESGと書いてあるから大丈夫」「サステナブルという言葉があるから信頼できる」という判断は、リジェネラティブ投資の本質とはむしろ逆行してしまう可能性があるのです。
5-3. 投資対象のインパクトが“見えない”リスク
リジェネラティブ投資の多くは、非財務指標(インパクト)を含む投資です。
CO₂吸収量、生態系回復、生物多様性の向上など、見えにくく、測定しづらい“価値”を扱うため、「本当に効果があるのか?」が分かりにくいという課題があります。
特に、これらのインパクトを投資家が“自分で検証”することは困難を極めます。
- CO₂が何トン削減されたのか
- 生物多様性がどの程度回復したのか
- 地域経済にどう貢献したのか
こういった情報が明確に開示されていなければ、「善意で出資したつもりが、実態が伴っていなかった」という結果にもなりかねません。
ここで必要なのは、評価指標(IRIS+やGIINなど)やレポーティング体制が整備されたプロジェクトを選ぶ慎重さです。
5-4. “グリーンウォッシング”のリスク
「再生的」「サステナブル」「エシカル」といった言葉が、マーケティング目的で乱用されるケースは、近年急増しています。
これを“グリーンウォッシング”と呼びます。
たとえば、以下のような事例があります。
- 実際には慣行農法を行っているのに、「リジェネラティブ」を名乗って資金を集めた農場
- 自然保全地域として認定されていない土地に“保護区ラベル”を付けて販売された森林投資
- ESGラベルのファンドが、実は高リスク企業にも出資していたという事後的な発覚
こうした例が示すのは、「投資先が本当に再生的であるかどうか」は、見た目では判断できないという現実です。
したがって、“美辞麗句”に流されず、実態の見えるプロジェクトを選ぶリテラシーが不可欠になります。
5-5. 投資家自身の“覚悟”不足
意外と見落とされがちなのが、投資家自身の「心構え」に起因する失敗です。
リジェネラティブ投資は、その多くが長期視野での成果を前提としており、“すぐに儲かる”タイプの資産ではないという点はすでにお伝えした通りです。
それでも、「数年で利益を出せると思っていた」「事業報告が地味でつまらない」「環境インパクトの報告が理解しづらい」など、期待とのギャップに耐えられず、途中で撤退してしまう投資家も少なくありません。
これは、本人の性格が悪いというよりも、「リジェネラティブ投資とは何か」を十分に理解しないまま始めてしまったことに原因があります。
だからこそ、投資を始める前には、自分の資産状況やポートフォリオの中での“位置づけ”、目標期間、許容できるリスクを明確にする必要があるのです。
【まとめ】 “共鳴”ではなく、“検証”こそが鍵
リジェネラティブ投資は、理念的には非常に魅力的ですし、社会的にも意義深い分野です。
しかし、だからといって「何でもかんでも良い投資」ではありません。
むしろ、その魅力が大きいからこそ、冷静な視点で検証し、疑い、問い直すことが、投資家としての責任であり、成熟した判断力の証だといえるでしょう。
第6章:富裕層としての“責任”と“可能性” — 投資以上の価値を考える
「資産を増やすこと」と「資産を残すこと」は、似ているようでまったく異なる概念です。
そして「資産を活かすこと」と「資産に意味を与えること」には、さらなる深みがあります。
この章では、単なるリターンではなく、資産を通じて“社会にどんな未来を残すか”という視点から、リジェネラティブ投資における富裕層の役割を考えてみたいと思います。
6-1. “富裕層”であることの社会的影響力
資産とは単なる通貨や数字ではありません。
それは時に、「社会に対する影響力」「選択肢を広げる力」「文化や価値観を伝える道具」にもなります。
特に富裕層の方々は、以下のような影響力を持っています:
- 資金の流れを変える力
小さなファンドでも、数百〜数千万円単位の投資で、再生農業や地域再開発プロジェクトが息を吹き返すことがある - 新たな常識を社会に提示する力
富裕層の投資行動が、他の投資家に与える影響は非常に大きく、パイオニアとしての存在感がある - 教育・情報発信を通じた影響
家族、友人、社員、次世代への「価値観の継承」は、金銭以上の“無形資産”として残っていく
富を持つことは、それだけで社会的な「選択権」を持つことにほかなりません。
そしてその選択が、「どんな未来をつくるか」という観点で問われる時代が来ているのです。
6-2. 相続や承継と、リジェネラティブ投資の親和性
「資産をどのように子どもや孫に引き継ぐか」は、多くの富裕層にとって避けられないテーマです。
その中で、リジェネラティブ投資は単なる“お金の承継”ではなく、“価値観の承継”を含む投資として非常に有効です。
たとえば:
- 土地を購入し、再生型農業や自然保全のプロジェクトに活用 → 地域とつながる“生きた資産”を子どもに残せる
- 財団を設立し、自然再生や地域支援を継続的に行う → 家族の中に「社会への責任」を根付かせる
- 教育型ファンドを通じて、次世代に“投資と社会性”を学ばせる機会を作る
このように、リジェネラティブ投資は「金銭」だけでなく、「思想」「世界観」「ミッション」といった、“非財務的な遺産”を次世代に伝える仕組みでもあるのです。
6-3. 投資家ネットワークの力を活用する
リジェネラティブ投資は、個人だけで完結する領域ではありません。
むしろ、「共鳴する仲間」とつながることで、投資の質も広がりも大きく変わってきます。
最近では、富裕層やファミリーオフィスが集まり、以下のようなネットワークやコンソーシアムが形成されています:
- 共通の投資目的を持つプライベートファンドの形成
- 地域再生・農業再建・自然資本評価に取り組む共同出資プロジェクト
- 「インパクト+リターン」を志向するクラブ的な学びの場
こうした場では、単なる金銭的出資を超え、思想の共有・社会的ミッションの共有・相互支援が育まれます。
そしてそれは、やがて「富裕層が社会変革をリードする新たなモデル」として、世の中に広がっていく可能性を持っています。
6-4. 投資=意思表示という時代へ
これまでの資産運用は、あくまで「増やすこと」が目的でした。
しかしこれからの時代、資産の使い方は「自分がどんな未来を望むか」を示す意思表示の手段でもあります。
たとえば:
- 自分の資産が、破壊的な産業に加担しているとしたら?
- 自分の投資が、子どもたちの未来にどんな影響を及ぼしているとしたら?
- 今後10年で、どんな世界を資産で支えていくのか?
こういった問いに向き合い、「自分の投資には“物語”がある」と胸を張って言えること。
それが、リジェネラティブ投資を実践する富裕層にとっての、真の“リターン”なのではないでしょうか。
終章:リジェネラティブ投資 — 新しい“資産運用の地平線”へ

あなたの資産は、いまどんな未来に投じられていますか?
それは、単に数字を積み上げるためのものなのか。それとも、次世代に希望をつなぐためのものか。
リジェネラティブ投資は、いま私たちが直面する“環境・社会・経済の限界”を乗り越えるために登場した、新しい資産運用の地平線です。
「持続可能性」のその先にある、「回復」や「再生」を目指すこの考え方は、
もはや一部の志高い理想家のためのものではなく、未来志向の富裕層が取り組むべき“戦略的選択肢”として確実に広がりつつあります。
小さな一歩から始める「再生的資産運用」
この記事を読んで、「興味はあるけれど、まだ自分には難しいかも」と感じた方もいるかもしれません。
それはごく自然な感覚です。
リジェネラティブ投資は、決して「明日からすぐ儲かる」ような派手な運用ではありません。
しかし、長期的に見れば、“富と影響力”の両方を最大化できる稀有なアセットクラスです。
たとえば:
- 小規模な自然資本ファンドへの少額投資から始める
- 再生型農業を行っている地域に視察・寄付をしてみる
- 家族と一緒に「どんな世界を残したいか」を話してみる
このような小さな一歩でも、立派なリジェネラティブ投資の入り口です。
学び・共に考えるコミュニティの重要性
また、リジェネラティブ投資は「ひとりで完結するもの」ではありません。
情報の非対称性、制度の未整備、評価基準の複雑さなどがあるからこそ、同じ志を持つ仲間と出会い、学び合うことが極めて重要です。
資産運用アカデミアでは、今後こうした“共創的な学びの場”のあり方も模索していきます。
単なるお金の話ではなく、「未来の価値をどう設計するか」という知的対話のコミュニティとして。
自分の価値観を「投資」に宿すということ
最後に、この記事の根底に流れている問いを、もう一度思い出してください。
資産を通じて、どんな未来を創りたいですか?
この問いに、正解はありません。
けれど、リジェネラティブ投資は、この問いに「Yes」と言える道を、静かに、しかし力強く提示してくれるのです。
資産とは、あなたの“人生そのもの”を反映する鏡です。
どんな価値を育て、誰に何を残すのか。どんな社会に生きていたいのか。
数字の向こうにある物語を、いまこそ見つめなおしてみませんか?
編集後記(optional)
本記事を通じて、“資産”という言葉がより広く・深い意味を持つことを実感していただけたなら幸いです。
これからも資産運用アカデミアでは、単なるテクニックや商品紹介にとどまらず、人生と資産が交差する視点を提供してまいります。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。
