
資産運用の多様化が進むなか、「プライベートエクイティ(PE)投資」への関心が急速に高まっています。 特に2020年代以降、世界的なインフレや金利上昇、そして株式市場のボラティリティ拡大を受けて、非上場企業への長期投資で安定的なリターンを狙う動きが目立つようになりました。
その中核にあるのが、富裕層や機関投資家が積極的に資産配分しているプライベートエクイティファンドです。近年では、日本国内でも年収1,000万円超の高所得者層や、事業で一定の成功を収めた経営者がPEファンドを通じて資産運用を始めるケースが増えています。
なぜ彼らがPE投資を好むのか?その答えはシンプルです。市場とは非連動で、高いリターンを狙える可能性があるから。 例えば、ある調査によると、米国の大手PEファンドの過去20年間の平均年率リターンは10〜15%とされ、これはS&P500の平均を上回る水準です。しかも、多くのPEファンドは長期視点で企業価値を高める施策を講じるため、短期の相場変動に左右されにくいのが特徴です。
とはいえ、PE投資の成功には「税金」の理解が不可欠です。エグジット時に得られるキャピタルゲイン、ファンドの形態による課税方法、そして投資対象が海外の場合の税制リスクなど、知らずに進めると思わぬ課税コストを被る恐れもあります。税制を正しく把握し、それに沿った投資戦略を組むことが、真のリターン最大化につながるのです。
本記事では、プライベートエクイティ投資の基本から税金対策までを網羅的に解説し、あなたの資産運用における新たな一手となる情報をお届けします。
第1章:プライベートエクイティ投資とは何か?

●定義と基本構造(非公開株式への投資)
プライベートエクイティ(Private Equity)とは、非上場企業の株式に対して行う投資のことです。上場企業の株式が証券取引所を通じて流通するのに対し、PE投資は主に非公開市場で資金を供給し、企業価値を向上させることを目的としています。
この投資は「短期的な売買益」を狙うのではなく、中長期的に企業の体質改善や成長を支援し、その成果としてリターンを得るという考え方に基づいています。
投資対象は、創業間もないベンチャー企業から、成熟したが成長余地を秘めた中堅企業、さらには経営再建が必要な企業まで多岐にわたります。本質は「企業価値の再構築と最大化」なのです。
●パブリックエクイティとの違い
「エクイティ」と一言で言っても、公開市場での株式投資(パブリックエクイティ)とは大きく異なります。
比較項目 | パブリックエクイティ(公開株) | プライベートエクイティ(非公開株) |
---|---|---|
投資先 | 上場企業 | 非上場企業 |
流動性 | 高い(市場で売買可能) | 低い(数年のロックアップ) |
情報開示 | 高水準(四半期報告・IR) | 限定的(契約ベースの開示) |
投資期間 | 短〜中期が多い | 中〜長期(5〜10年) |
リターン | 平均的(S&P500で年6〜8%程度) | 高リターン狙い(年10〜15%など) |
このように、PE投資は長期的視野と経営介入的アプローチが求められる、より積極的な投資手法と言えます。
●PEファンドの仕組み(GP/LP構造)
プライベートエクイティ投資の大半は、PEファンドと呼ばれる投資ビークルを通じて行われます。このファンドには主に2つのプレイヤーが存在します。
- GP(General Partner):ファンドの運営者であり、投資判断、企業支援、エグジットまでを担うプロフェッショナル集団です。PEファンドの顔とも言える存在です。
- LP(Limited Partner):出資者。機関投資家、富裕層、年金基金などがこれに該当し、運用には関与せず、GPに一任します。
この「GP/LP構造」は、リスクを分散しつつ、専門性の高い運用を実現するモデルとして、世界中で採用されています。
第2章:対象企業と投資のタイミング
●成長段階別の企業タイプ(創業期〜成熟期)
プライベートエクイティ(PE)投資では、企業の成長フェーズに応じた投資判断が不可欠です。投資のタイミングによって、リスクとリターンの性質は大きく変わります。
- 創業期(シード/アーリーステージ):この段階の企業はまだ製品やサービスが確立していないケースが多く、資金使途も主に開発・マーケティング目的です。ハイリスク・ハイリターンの象徴的フェーズであり、ベンチャーキャピタル(VC)による投資が主流となります。
- 成長期(ミドルステージ):プロダクトマーケットフィットが見えてきた企業群。売上や顧客基盤が拡大する中で、より大規模な資金が必要になります。ここでは、グロースキャピタルの出番です。
- 成熟期(レイターステージ):業績は安定しているものの、組織の硬直化や次の成長ドライバーを模索している企業が多いです。バイアウト投資がこのフェーズで活用され、経営改革や資本再編により新たなステージへの移行を図ります。
各ステージでの関与の深さやリスク管理手法は異なりますが、企業の成長曲線に沿って適切な投資戦略を選ぶことが成功の鍵になります。
●事業承継や事業再生対象企業への関心の高まり
近年、日本におけるPE投資の中心にあるのが、事業承継問題を抱える中小企業や、再建を必要とする企業への投資です。
中小企業庁の統計によると、日本国内の中小企業のうち約3割が「後継者不在」という課題を抱えています。これは市場規模にして約22兆円超のM&A・PE投資機会があるといわれるほど。PEファンドは、単なる資金提供にとどまらず、後継者の選定や経営支援を通じて企業の永続性を担保する存在として注目を集めています。
一方で、過剰債務や収益悪化に陥った企業に対しては、事業再生型のPE投資が行われます。経営改善や負債整理、時にはビジネスモデルの刷新など、ファンドがハンズオンで企業価値を再構築することで、短期的な損失を抑えつつ中長期的な利益の最大化を目指す戦略です。
●地域経済支援や社会課題解決型の投資対象
社会的なインパクトを重視する投資スタイルも広がっています。特に地方経済においては、人口減少・雇用喪失といった課題に直面しており、地方企業へのPE投資が「地域再生ファンド」や「地域支援型PE」として注目されています。
たとえば、あるPEファンドは地方の老舗企業に投資し、首都圏との取引ネットワークを導入することで、わずか数年で売上を1.8倍に伸ばすことに成功。こうした事例は、「単なる収益目的」から「社会課題解決と経済的利益の両立」へとPE投資の進化を象徴しています。
第3章:プライベートエクイティの投資タイプ

●ベンチャーキャピタル(VC)
ベンチャーキャピタルは、創業間もない企業や新しい市場に挑戦するスタートアップに資金を投じる投資手法です。イノベーションや技術革新を原動力とする企業への支援が主で、UberやAirbnbといったグローバル企業もこの段階で資金調達を受けて成長しました。
リスクは高いものの、投資成功時には数十倍〜百倍規模のリターンが見込めるのが最大の魅力です。
●グロースキャピタル
成長フェーズにある企業に対して、さらなる拡大や新規市場進出、海外展開のための資金を提供するのがグロースキャピタルです。既に一定の事業実績があるため、VCと比べてリスクは相対的に低めですが、リターンも安定志向に寄ります。
このフェーズでは、上場準備に向けたガバナンス強化や管理体制の整備支援なども含まれ、ファンドの介在価値が高まります。
●バイアウト投資(MBO・LBO)
成熟企業を対象に、経営権の取得と企業価値の向上を狙うのがバイアウト投資です。
- MBO(Management Buyout):現経営陣が出資し、オーナー企業からの独立を図る手法。経営意欲の高い幹部を支援することで、スムーズな企業承継が可能になります。
- LBO(Leveraged Buyout):資金の一部を借入で調達し、企業を買収する方法。財務レバレッジを活用することで、自己資本に対するリターンを増幅させる仕組みです。
バイアウトは、ファンドによる積極的な経営関与が特長であり、非効率な組織の刷新や不採算事業の整理など、ハードな経営改善が行われるケースも多いです。
●メザニンファイナンス
メザニンとは「中間」という意味を持ち、自己資本と他人資本の中間に位置する資金供給手段です。通常、劣後ローンや転換社債などの形式をとります。
主にLBOにおける資金不足部分の補完として利用されることが多く、高い利回りが期待できる一方で、元本リスクもあるため、リスク許容度の高い投資家に適しています。
●セカンダリー投資
既存のPEファンドの持分や投資先企業の株式を他の投資家から譲り受ける形で参入する投資手法がセカンダリー投資です。
特徴は、「投資期間の短縮」と「実績ある投資先へのアクセス」。たとえば、設立から数年経過したPEファンドの持分を割安で取得することで、短期間でのエグジットや、より正確な事業評価が可能になります。
第4章:プライベートエクイティの投資目的と出口戦略

●投資先企業の価値向上(経営支援、資本強化など)
プライベートエクイティ投資の最大の特徴は、「単なる資金提供」にとどまらず、企業価値を本質的に高める支援を伴うことです。PEファンドは、経営経験や財務スキル、業界知見を持つ専門家を投入し、企業の成長を加速させます。
たとえば、業務プロセスの効率化、人材の再配置、新規事業の開発支援、ブランド戦略の強化など、あらゆる経営改善策を体系的に実施します。また、成長資金を供給し、資本構成を最適化することで、借入負担の軽減や財務健全性の向上にも貢献します。
こうした取り組みにより、企業の収益性と競争力を高めたうえで、「出口(エグジット)」を迎えるのが、PE投資の最終目標です。
●エグジット方法(IPO、M&A、社内承継)
企業価値を高めた後、PEファンドはどのようにしてリターンを回収するのでしょうか?その答えが「エグジット戦略」です。主な手法には以下の3つがあります。
- IPO(新規株式公開):企業を上場させることで、株式市場から資金を調達し、ファンドは保有株式を売却してリターンを確定します。市場環境や事業の成長性に左右されるものの、高い評価での売却が可能な場合も多く、最も華やかな出口といえるでしょう。
- M&A(企業の売却):他の企業やファンドに企業全体または一部を売却する方法。スピード感があり、確実性の高いエグジット手段として、近年はIPOを凌ぐ勢いで増加中です。
- 社内承継(オーナーや経営陣への譲渡):MBO(マネジメント・バイアウト)を活用し、現経営陣への持分移転を行うケースもあります。事業の継続性と雇用の安定を両立できる点が強みです。
出口戦略は、投資開始時から設計されており、「いつ・誰に・どのような条件で売却するか」が綿密にシミュレーションされています。
●社会的インパクトとリターンの両立
近年、プライベートエクイティ投資の価値は「金銭的リターン」だけにとどまりません。ESG(環境・社会・ガバナンス)やインパクト投資の観点を取り入れた投資案件が増加しています。
たとえば、地方の老舗企業に投資し、事業承継や雇用維持を実現する取り組みは、地域経済の活性化にも寄与しています。あるPEファンドは、地域の中堅製造業を再編し、5年で従業員数を30%増加させるとともに、営業利益を2.3倍に伸ばした実績も。
このように、社会課題の解決と資本収益の獲得を両立できるのが、現代のPE投資の進化系といえるでしょう。
第5章:プライベートエクイティ投資の税金の基本

●キャピタルゲイン課税の構造と税率(分離課税20.315%)
PE投資で得られる最大のリターンは、エグジット時に得るキャピタルゲイン(値上がり益)です。このキャピタルゲインは、日本では原則として「申告分離課税」で20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)の税率が適用されます。
ただし、海外ファンドを通じた投資や、ファンドが法人格を持つか否かなどによって、税務上の扱いは大きく変わる可能性があります。事前に税理士と綿密に相談し、投資スキームを設計することが肝要です。
●配当との違いと課税方式(総合課税・配当控除)
PE投資先の企業から配当金が支払われる場合、これも課税対象になります。ただし、配当はキャピタルゲインと異なり、「総合課税」として他の所得と合算されるのが基本ルールです。
この場合、所得が高くなるほど税率が上昇(最大45%+住民税10%)するため、キャピタルゲインより税負担が重くなる可能性があります。ただし、配当控除(課税負担の軽減措置)を活用できるケースもあるため、具体的な税率は個人の所得状況によって異なります。
●課税タイミングと収益認識の原則
税金を考えるうえで極めて重要なのが、「いつ課税されるのか」というタイミングの問題です。PE投資におけるキャピタルゲインは、保有株式の譲渡(エグジット)時点で初めて課税対象となります。つまり、ファンドが企業を保有している期間中に株価が上昇しても、実現していなければ課税されません。
一方で、配当金は受領した年の所得として課税対象となります。ファンドの構造(たとえば匿名組合型か会社型か)によっても、収益の認識タイミングは異なるため、投資前にスキーム全体の課税ポイントを理解しておくことが不可欠です。
第6章:個人・法人・ファンド経由による税務の違い

●個人投資家:税率の固定化と申告方法
プライベートエクイティ(PE)投資を個人で行う場合、最大のメリットはキャピタルゲインへの「申告分離課税」適用です。先述の通り、譲渡益は一律20.315%(所得税15%+住民税5%+復興特別所得税0.315%)で課税されます。
この「固定税率」という特徴により、高所得者でも税率が上がらない点は、資産運用上の大きな利点です。たとえば、年収2,000万円の会社員が通常の給与所得であれば最大45%超の税率が適用されるところ、PE投資の利益は20.315%で据え置かれるのです。
一方で注意点として、損益通算が制限されていることが挙げられます。給与所得や事業所得との損益通算はできず、上場株式等との損益通算も制度上制限されているため、他の資産クラスとの税務戦略を考慮する必要があります。
申告方法については、確定申告が必要です。配当収入や売却益の受取形態によっても申告内容が変わるため、専門家との連携を前提に制度を理解しておくべきでしょう。
●法人投資家:経費計上や損益通算の戦略
法人がPE投資を行う場合、税務戦略の幅が一気に広がります。まず最大のメリットは、経費として認められる範囲が広いことです。たとえば、PEファンドへの出資に伴うコンサルタント料、デューデリジェンス費用、会計士・税理士報酬なども損金処理の対象となる可能性があります。
また、法人税計算においては、他の事業の赤字とPE投資による利益を損益通算できる点も強みです。たとえば、A事業で1,000万円の赤字、PE投資で1,500万円の利益が出た場合、差額の500万円のみが課税対象となります。
加えて、資産の繰延効果(減価償却の活用など)を使って、キャッシュフローを最適化しつつ節税することも可能です。これにより、リターンの実質的な増加を図る戦略が展開できます。
●ファンドを通じた匿名組合方式の税務処理
個人・法人ともにPE投資を行う際には、しばしば「匿名組合契約(TK契約)」を通じて出資するケースがあります。この場合、税務上はやや特殊な扱いになります。
TKスキームにおいては、原則として収益の「実現時課税」ではなく、「配当時課税」が基本。つまり、ファンドの運営期間中に分配された利益に対して、その都度課税されます。
また、TK出資者(出資者側)は、損益を自己の課税所得と合算して申告する必要があります。損失が発生した場合、その取り扱い(繰越、通算の可否)も個別の判断が求められ、税務の専門知識が不可欠です。
さらに、ファンド運用者が海外に所在している場合やファンド自体がオフショアにある場合には、CFC税制との関係性も生じるため、次章で詳しく見ていきましょう。
第7章:海外ファンド投資に関する税務上の注意

●CFC税制(タックスヘイブン対策)
海外のPEファンドに投資する際、最も注意すべき制度のひとつがCFC(Controlled Foreign Company)税制です。これは、租税回避地(タックスヘイブン)を利用して不当に課税を回避する行為を抑止するために設けられた日本の制度です。
具体的には、一定の条件を満たす海外子会社やファンドからの所得について、日本の親会社側で「合算課税」される可能性があります。つまり、実際に分配を受けていなくても、日本側でその利益に課税されるという制度です。
例えば、出資先のPEファンドがケイマン諸島やバミューダ諸島など、低課税国にある場合には特に該当リスクが高まります。ファンドが「実体性(Substance)」を持っていないと判断されると、合算対象となるため、事前のファンド選定が極めて重要です。
●外国税額控除の活用
海外ファンドからの利益に対して現地で課税された場合、日本国内での課税と合わせて「二重課税」となる可能性があります。これを防ぐために活用されるのが、外国税額控除制度です。
これは、海外で支払った税金を一定額、日本の納税額から差し引くことができる制度であり、実効税率を抑えるための非常に重要な手段です。
ただし、控除限度額が定められており、計算は複雑で適用条件も厳密です。たとえば、控除額は「外国所得 × 日本の税率」に基づき計算され、超過分は翌年以降への繰越控除しかできません。
●二重課税のリスクと回避方法
PEファンドの海外投資で特に気をつけたいのが、収益が現地と日本で二重に課税されるケースです。例えば、米国ファンドに出資して配当を受け取った場合、米国内で30%源泉課税、日本で20.315%課税されると、実効税率が50%超になるケースもあり得ます。
こうした状況を避けるには、
- 租税条約の確認
- 外国税額控除の正確な活用
- ファンドスキーム(LLC、LPS、Partnershipなど)の法的性格を事前確認
といった対策が欠かせません。税理士・国際税務専門家の関与はマストといっても過言ではないでしょう。
第8章:プライベートエクイティ投資のメリット

●高リターンの可能性と市場非連動性(オルタナティブ資産)
プライベートエクイティ(PE)投資が資産家や機関投資家のポートフォリオにおいて高い存在感を放つ最大の理由は、高いリターンの可能性にあります。
米国の年金基金や大学の基金(エンダウメント)では、PE投資が長年にわたり年率10~15%のリターンを生み出してきた実績が報告されています。特にS&P500などの株式市場が5~7%前後の年率リターンにとどまる中、PE投資は「市場平均を上回る成果」を求める投資家にとって魅力的な選択肢です。
さらに、PE投資は株式市場などの伝統的資産と価格の連動性が低いため、ポートフォリオ全体のリスク分散効果を高めるオルタナティブ資産としての価値も見逃せません。
●長期保有による短期ノイズ回避
上場株式やFXなどの流動性の高い資産は、短期的なニュースや相場の変動に左右されがちです。一方でPE投資は、通常5~10年の長期スパンを前提に行われ、日々の価格変動が存在しません。
この「価格の静けさ」がもたらす最大のメリットは、感情的な売買判断を回避できることです。長期的な視野に立った経営支援を通じて、企業価値を実質的に押し上げることに集中できるため、投資家としてのブレを最小限に抑えることが可能になります。
●社会貢献性の高さ
現代のPE投資は、単なる収益追求にとどまらず、社会的意義を伴った投資(インパクト投資)としての側面が強まりつつあります。
例えば、
- 地方企業の事業承継支援
- 再生可能エネルギー分野の新興企業支援
- 雇用創出につながる中小企業支援
といった投資活動は、地域経済や社会インフラの再構築にも寄与しています。リターンだけでなく、「社会に貢献している実感」も得られる点は、多くの富裕層投資家がPE投資を選ぶもう一つの理由ではないでしょうか。
第9章:プライベートエクイティ投資のデメリットとリスク

●非流動性と資金拘束のリスク
PE投資の最も大きなデメリットの一つが、「非流動性の高さ」です。ファンドへの出資後は、数年間は原則として資金を引き出すことができないため、生活資金や短期的な資産運用には不向きです。
例えば、PEファンドのロックアップ期間は一般に5~10年。この間に途中解約はほぼ不可能であり、出口(エグジット)が発生するまではリターンも確定しないという構造を理解しておく必要があります。
●情報の非対称性と透明性の欠如
PE投資では、投資先が非上場企業であるため、公開情報が極端に少ないという問題があります。これにより、投資家はファンド運営者(GP)からの情報開示に依存せざるを得ない状況に置かれます。
特に、投資先企業の詳細な経営実態や財務情報が定期的に報告されないケースもあるため、情報の非対称性が大きなリスク要因となります。ファンド選びの際には、運用実績だけでなく「報告体制」や「コミュニケーションの頻度」もチェック項目に加えるべきでしょう。
●管理報酬や成功報酬の高さ
PEファンドには、管理報酬(Annual Management Fee)と成功報酬(Carried Interest)という二重のコスト構造があります。
一般的に、
- 管理報酬:年間1.5〜2.5%
- 成功報酬:利益の20%前後
が相場です。これは投資額に対して長期で見ると10%以上のコスト負担になるケースもあり、高コスト体質が投資家リターンを圧迫する可能性があることを念頭に置くべきです。
特に「ドローダウン方式」で資金が徐々に拠出されるファンドでは、未投資期間にも管理報酬が発生する点に注意が必要です。
●税務処理の複雑さと税務調査リスク
PE投資の税務は、投資方法(個人/法人/ファンド経由)やファンドの拠点国、契約形態(TK契約、LLPなど)によって大きく異なる複雑な構造を持っています。
これにより、
- 課税タイミングの判断ミス
- 二重課税の回避手続きの漏れ
- CFC税制への無意識の抵触
などが生じる可能性があり、最悪の場合は追徴課税や税務調査の対象となるリスクもあります。とりわけ海外ファンドを活用する場合は、専門家による「事前のスキームレビュー」が不可欠です。
第10章:日本と海外におけるPE投資環境の違い

●日本の市場課題(情報公開・規模・投資家数)
日本のプライベートエクイティ市場は、近年徐々に成長を遂げているものの、海外に比べて構造的な課題が多く残されています。
まず最も大きな課題が、情報公開の不透明さです。上場企業に比べ、非上場企業はIR活動が乏しく、財務諸表や経営戦略が外部から見えづらい構造となっています。そのため、ファンドのデューデリジェンス(投資判断のための詳細調査)に高い専門性と時間を要するのが現状です。
また、日本国内のPE市場規模は米国の10分の1以下とされており、投資案件の数、ファンド数ともに限定的です。さらに、PE投資に対する一般投資家の理解がまだ浅く、参入プレイヤーの裾野が狭い点も、成長の足かせになっているといえるでしょう。
●海外ファンドの優位性(経験・規模・出口実績)
一方で、米国や欧州を中心とする海外のPEファンドは、歴史・運用実績・スキームの洗練度において圧倒的な強みを持ちます。
- Blackstone、KKR、Carlyleなどの世界的PEファンドは、数十年にわたる運用ノウハウを蓄積しており、1件あたり数千億円規模のディールをこなす体制を整えています。
- エグジット戦略も多様で、IPO・M&Aいずれにも強みを持つため、投資回収の確度が高い。
- 投資先の業種も幅広く、グローバル市場に通用する企業群へのアクセスが可能です。
さらに、ESG(環境・社会・ガバナンス)基準を取り入れた投資方針や、リスク管理手法も年々洗練されており、中長期的な視点で安心して資金を託せる環境が整っている点も注目すべきポイントです。
●日本人投資家が海外PEファンドに投資する際のポイント
魅力ある海外PEファンドへの投資を検討する際、いくつかの重要なチェックポイントを押さえておく必要があります。
- 通貨・為替リスク
米ドル建てファンドへの投資は、為替の影響を受けやすいため、為替ヘッジの有無やコスト構造を事前に確認しましょう。 - ファンドの法的構造と所在地
Cayman IslandsやDelawareなどに登記されたファンドが多いですが、CFC税制や外国税額控除などの税務リスクとの関連を必ずチェックすべきです。 - 信頼性と過去実績
トラックレコード(過去の投資実績)、ファンド運営者の経歴、リミテッドパートナー(LP)に名を連ねる投資家の質など、定量・定性両面での評価が欠かせません。 - 流動性とロックアップ期間
途中解約ができない場合が多いため、資金拘束の期間や分配スケジュールを細かく把握しておくことが、資金計画上不可欠です。
このような視点を踏まえたうえで、信頼できる専門家や金融機関と連携し、投資判断を進めることが成功への第一歩となります。
【まとめ】戦略的に取り組むために

これまで見てきたように、プライベートエクイティ投資は、資産運用の高度な手法でありながら、極めて現実的なリターンを狙える選択肢です。
ただし、その成功には税制の正確な理解と、制度を前提とした戦略的な設計が欠かせません。税金は「支出」ではなく、「リターンを左右する変数」として捉えるべきです。とりわけ、キャピタルゲイン課税のタイミングや税率、CFC税制の回避策などは、事前に把握しておかなければ、収益を大きく削りかねません。
さらに、数あるPEファンドの中から「どのファンドに託すか」という選択は、投資成果を大きく左右する重要な意思決定です。信頼できるGPの選定、ファンドスキームの構造、報酬体系などを吟味し、リスクとリターンのバランスが取れた投資先を選ぶことが不可欠です。
その際、税務や法務の専門家と連携し、個々の投資家に最適化されたスキーム構築を行うことが、PE投資成功の近道となります。
最後に、この分野の最大の誤解は「高リスク・高リターン」であるというステレオタイプです。正しくはこう言い換えるべきでしょう。
「高知識・高リターン」であると。
情報を制する者こそが、PE投資の恩恵を最大限に享受できるのです。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。