多くの日本人が未だに「不動産投資=国内」という固定観念を持っています。しかし、2020年代に入ってからの経済状況は、その常識を揺るがすものでした。インフレ率の上昇、長期的な円安傾向、そして日本経済の構造的停滞……。これらの要因は、従来の資産防衛策の限界を露呈させています。
日本国内における不動産は、確かに一定の安定性を誇りますが、それだけに依存した資産設計は、地政学的・経済的リスクへの脆弱性を孕んでいます。たとえば自然災害や少子高齢化による地方物件の資産価値低下などは、その典型例です。
一方で、海外不動産は「投資」としての収益性に加えて、「資産分散」の視点からも非常に有効な手段となります。地理的な分散は、国家単位での経済変動や通貨危機に対するリスクヘッジとして機能しますし、インフレが進行している国・地域に資産を置くことで、購買力の低下から資産を守る手段ともなり得ます。
円安・金利・低成長時代の資産防衛としての“海外”の意味
2022年以降、為替市場では急激な円安が進行し、対ドルで150円を超える水準が常態化しました。これは輸入品の価格上昇など、生活面でのマイナスインパクトが強調されがちですが、逆に見れば“外貨建て資産”を持つ人にとっては資産の増加要因にもなり得ます。
また、日本の低金利政策が続く一方で、米国やオーストラリアなど海外主要国はインフレ抑制のために積極的な利上げを行っており、それに伴い不動産利回りや物件価値の上昇が見込まれる地域もあります。つまり、海外不動産は「金利収入(インカムゲイン)」と「資産価値上昇(キャピタルゲイン)」の両面において、現代の日本の経済環境では得がたいリターンを提供し得るのです。
さらに、グローバルな視野を持つことで、将来的に子どもたちへの資産承継や、海外生活・セカンドライフの拠点確保といったライフプラン上のメリットにもつながる可能性があります。
ただし「高利回り」の裏には多様なリスク――だからこそ“正しい知識”が求められる
とはいえ、「海外」「不動産」「投資」という3つのワードが揃うと、それだけでワクワクする反面、“情報格差”によって騙されたり、思わぬ損失を被る例も後を絶ちません。
特に新興国においては、現地の法律や税制度、登記手続き、言語の壁といった“知らなかったでは済まされない”要素が多数存在します。
また、為替の変動により得られるはずだった利益が目減りするケース、物件の流動性(=売却のしやすさ)が低く、出口戦略を描きにくい市場もあるのが現実です。
だからこそ、ただの「夢の海外投資」ではなく、“現実を直視したうえでの合理的判断”と“周到な準備”が求められるのです。
本記事では、海外不動産投資を成功させるための【基礎知識】【投資先の見極め方】【リスクの種類と回避方法】【実践的フロー】までを網羅的に解説していきます。
第1章:海外不動産投資とは — 基本構造と投資の“3大メリット”

そもそも「海外不動産投資」とは何か
海外不動産投資とは、文字通り“日本国外に所在する不動産”を取得・保有し、賃料収入や資産価値の上昇を通じてリターンを得る投資手法です。
投資対象は、居住用のコンドミニアムや戸建て、商業施設、リゾート物件、土地など多岐にわたります。
主な投資スタイルは、以下の2つに分類されます。
- インカム重視型:安定した賃貸収入を目的とする(例:現地居住者向けアパート)
- キャピタル重視型:物件価値の上昇を見越して購入し、将来の売却益を狙う(例:開発途上国の中心地の新築物件)
この2つを両立させる“バランス型”の戦略もありますが、投資先の国・地域によって適正なスタイルは異なります。
特に日本人投資家が好む「タイ」「フィリピン」「マレーシア」などは、比較的手ごろな価格と高利回りを見込めるインカム型として人気を集めています。
では、このような海外不動産投資には、どのようなメリットがあるのでしょうか?次に、それを3つの主要な観点から解説します。
メリット①:高い収益(賃料収入・キャピタルゲイン)の可能性
国内の不動産市場は、超低金利と人口減少の影響を受けて、利回り面での魅力が乏しくなりつつあります。
それに対して、新興国や一部の先進国の都市部では、5〜10%以上の高利回りが期待できる物件も存在します。
例えば、フィリピン・マニラのコンドミニアム市場では、年6〜8%前後のインカムゲイン(家賃収入)が見込めるケースが多く、加えて都市開発が進むエリアでは数年で20〜30%の資産価値上昇(キャピタルゲイン)も現実的です。
もちろん、為替の変動や経済政策次第でこの数値が変動するリスクはありますが、それでも「ゼロ金利時代の日本」と比べれば、リスクを取ることによって得られるリターンの幅は大きいと言えるでしょう。
メリット②:資産の地理的分散(ポートフォリオ多角化)による安定性
投資の世界でよく言われるのが、「すべての卵を一つのカゴに盛るな」という格言です。
日本国内の不動産、株式、債券に集中していると、万が一日本経済に大きなダメージがあった場合、すべての資産が一斉に目減りする危険性があります。
その点、海外不動産は“地理的な分散”という視点から、大変有効です。異なる経済圏・通貨圏にまたがって資産を保有することで、特定地域の景気悪化や通貨暴落の影響を相対的に小さく抑えることができます。
特に現代のように、世界の出来事が短期間で資産市場に反映される時代には、この“リスクの分散”は極めて重要な戦略です。
メリット③:インフレ・通貨リスク・国内経済の逆風へのヘッジ
日本は長らくデフレに悩まされてきましたが、近年では物価上昇(インフレ)の兆しが各所で見られるようになってきました。
インフレは現金資産の購買力を下げるため、実質的には資産が目減りしているのと同じです。
このような環境下において、物価と連動しやすい「実物資産」である不動産、特に“インフレ率が高い国”の不動産を保有することは、強力なインフレヘッジとなります。
さらに、外貨建て資産を持つことで「円安リスク」にも対応できます。日本円が下落しても、ドルやユーロ建ての資産価値は維持されるため、結果的に日本円換算での評価額が上がるケースも少なくありません。
このように、インフレ対策・為替防衛・国内リスク分散という複数の意味で、“海外不動産投資は未来志向の資産戦略”と位置付けることができるのです。
このあと、第2章では「海外不動産投資のリスクや注意点」について掘り下げていきます。どんなに魅力的な資産であっても、落とし穴があるのが現実。次章では、知っておきたい“リアルな影”の部分を具体的に解説していきます。
第2章:海外不動産投資の“光と影” — リスクと注意点を理解する
海外不動産投資には確かに魅力があります。高利回り、通貨分散、グローバルな資産形成――しかし、その裏には、日本国内では想像しにくいリスクや落とし穴も数多く潜んでいます。
この章では、そうした“影”の部分にしっかりと光を当て、具体的な注意点と回避のヒントを解説していきましょう。
為替リスク/通貨変動の影響とその不安定さ
海外資産最大のリスクの一つが、為替変動です。
たとえば、1ドル=130円で購入した米国物件から得られる家賃収入が1,000ドルだったとしましょう。その場合、日本円での収益は13万円です。しかし、為替が1ドル=110円になれば、同じ1,000ドルでも収益は11万円に下がってしまいます。
これが「為替差損」の実態です。逆に円安が進行すれば“追い風”になりますが、それはあくまで為替の動き次第であり、投資家がコントロールできるものではありません。
また、通貨そのものの信認(信用)にも注意が必要です。新興国の通貨は特に変動が激しく、過去には経済危機で通貨が一気に半値以下に暴落した国も少なくありません。
このようなリスクを軽減するには、「外貨建てで収入を得て、外貨建てで管理・再投資する」など、為替マッチングの考え方を持つことが大切です。
カントリーリスク(政治・経済の不安定、法制度・規制変更)
国が違えば、制度も価値観も文化も違います。
海外不動産投資における“カントリーリスク”とは、投資先の国・地域が抱える、政治的・経済的な不確実性のことです。
例えば、以下のようなリスクが現実に起こり得ます。
- 政権交代によって外国人投資家への規制が強化される
- 突然の法改正で所有権の制限や追加課税が導入される
- 金利政策の変更で不動産市場全体が急激に冷え込む
- 一部新興国では、不動産登記が完了するまでに賄賂や“非公式ルート”が必要とされるケースも
過去にはインドネシアやベトナムで、外国人の不動産所有ルールが数年単位で変更された例もありました。こうした規制の変化は投資家にとって極めて大きなリスクです。
「今はOKでも、数年後にはNGになる可能性がある」──それが海外不動産投資の現実なのです。
所有権や土地制度の違い/外国人の所有制限など法制度リスク
不動産に関する法律や制度は、国ごとに大きく異なります。日本では一般的な「所有権」ですが、海外ではそれが認められないケースも珍しくありません。
例えば:
- タイ:外国人は土地の所有権を持てない(建物はOK)
- フィリピン:コンドミニアムであれば外国人も購入可能だが、外国人比率に上限あり
- ベトナム:原則、外国人の所有は“使用権”に近い期間制限付きのものが多い
また、日本のような「登記=完璧な権利保証」とは限らず、登記の信頼性が低い国では二重登記や偽造登記などのトラブルも報告されています。
このような法制度の違いや“外国人に対する制限”を十分理解せずに契約すると、思わぬリスクを背負うことになります。
管理・運用コスト、テナント確保、空室リスクと現地管理の難しさ
不動産投資は「買って終わり」ではありません。
むしろ、購入後の運用と管理が長期的なリターンを左右する最大のポイントです。
ところが海外物件の場合、以下のような課題が立ちはだかります。
- 管理会社の質の差が大きい:レスポンスが遅い、修繕対応がずさん、家賃回収の遅延など
- テナント募集に時間がかかる:ローカルの市場動向を知らなければ、価格設定や広告戦略を誤りやすい
- コミュニケーションの壁:現地の言語、慣習、商習慣が異なるため、意思疎通に難しさがある
- 突発的な費用発生:エアコンの故障、壁の修繕、共用部の管理費など、日本以上に予測不能なコストが出やすい
これらを乗り越えるためには、「信頼できる管理会社」を見つけることが最重要です。安易に価格だけで選ばず、現地での評判、対応履歴、契約内容などをじっくり検討しましょう。
売却ができない、あるいは想定より安価でしか売れない可能性
最後に注意すべきは「出口=売却戦略」です。
海外不動産は日本のように“すぐ売れるマーケット”ばかりではありません。
- 流動性が極端に低い(買い手がつかない)
- 売却時の税金や手数料が高額
- 日本人に人気でも、現地人には不人気なエリア
- 現地通貨建てでしか売却できず、円への両替が困難
こうした事情により、「思ったように売却できず資金を回収できない」というケースが意外と多くあります。
そのため、“買う時点で売る時のことを考える”という視点が極めて重要です。地元の需要、現地の中古市場の動向、売却ルールなどを事前に確認しておくことが、将来のリスクを大きく減らしてくれるでしょう。
第3章:物件探しで失敗しないための“チェックポイント”
海外不動産投資の成功可否は、実は「購入前」にほとんど決まっている――そう言っても過言ではありません。
物件探しの段階で、「儲かりそう」「紹介されたから」など曖昧な基準で選ぶと、高確率で後悔することになります。
この章では、経験豊富な海外投資家たちが実際に重視している“7つの視点”をベースに、初心者でも活用できる実践的な選定基準を紹介していきます。
1. 国・都市の選定基準:経済成長性・政治安定・法制度の信頼性
最初に考えるべきは「どの国の、どの都市に投資するか」です。
これは単なる“国のイメージ”ではなく、具体的なデータと将来予測をもとに判断する必要があります。
見るべき指標は以下のとおり:
- GDP成長率/一人当たりGDP:中長期的な経済成長の見込み
- 政治の安定性:突発的な法改正や社会不安のリスク
- 外国人投資家への制度の開放度:所有権、ビザ制度、税制の扱いなど
- インフラ整備状況:空港、交通網、通信など生活インフラの成熟度
- 通貨の安定性/インフレ率:為替リスクや価格変動リスクの把握
たとえば、タイのバンコクやマレーシアのクアラルンプールなどは、経済成長と不動産市場の伸びが見込まれる“狙い目エリア”としてよく取り上げられます。
2. エリア分析:人口動態、賃貸需要、将来性を読み解く
都市を決めたら、次に大事なのは「その都市内のどのエリアに投資するか」。
これは日本でも同じですが、海外では**賃貸需要の“質”と“持続性”**を見る目がより重要になります。
具体的な視点は以下:
- 現地の人口動態:若者が多いか、移民や外資系企業が増えているか
- 賃貸需要の“実需”:外国人駐在員/学生/現地富裕層など、どんな人がどんな物件を借りるのか
- 将来の再開発計画:新駅の建設、大型ショッピングモール、経済特区など、今後の価値上昇の鍵
- 交通アクセスと生活利便性:主要駅や幹線道路に近いか、スーパーや病院など生活インフラは整っているか
現地に足を運んで“肌感覚”で街の雰囲気を掴むことも重要です。GoogleマップやSNSの投稿だけでは分からない空気感、建物の管理状態、治安などは現地視察でしか得られない貴重な情報です。
3. 物件タイプの選び方:目的に合った「形」と「構造」を選ぶ
海外不動産投資における物件タイプは、以下のように多様です:
- コンドミニアム(分譲マンション):都市部で人気。外国人の所有が認められやすい
- 戸建て住宅:郊外で土地付き。管理が難しくなるが、価格上昇余地は高め
- 商業物件(オフィス・店舗):上級者向け。収益性は高いが空室リスクも大きい
- 土地のみ:将来の開発目的。所有権・利用権などの確認が必須
初心者におすすめなのは、都市部のコンドミニアムです。管理組合がしっかりしている場合、メンテナンスや共用部の保守を任せられ、海外からでも比較的安心して保有できます。
4. 管理体制の確認:投資後の“安心”を担保する仕組みとは?
「物件は買ったけど、管理会社が対応してくれない」――これは海外不動産で頻出するトラブルです。
そのため、事前に以下を徹底的に確認することが重要です。
- 管理会社の実績と評判:過去の運用件数、口コミ、契約解除率など
- 契約内容:業務範囲(修繕、家賃回収、入居者対応など)と報酬体系
- 日本語対応の可否:日本人担当がいればベストだが、通訳の有無も重要
- トラブル時の対応力:家賃未払い/破損トラブル/緊急修理などへの即応性
管理がしっかりしていれば、たとえトラブルが起きても資産価値への影響を最小限に抑えることができます。
5. 価格と利回りのバランス感覚:数字に惑わされない“現実的”な判断
投資判断の基本は、「利回りの高さ」だけではありません。以下のような視点が不可欠です:
- 表面利回り vs 実質利回り:管理費、税金、修繕費などを引いた“手取りベース”で見る
- 価格上昇余地と市場価格の乖離:過去の取引事例と比較し、価格が適正かを判断
- 利回りとリスクのバランス:「利回りが高すぎる物件」は高リスクの可能性も
- 空室期間を想定したシミュレーション:仮に6ヶ月空室なら、年間利回りはどう変動するか?
あくまで“堅実なライン”でシミュレーションし、最悪の事態を想定しても黒字になるかを見極めることが重要です。
6. 実地確認と現地パートナーの重要性:見えないリスクを見つけ出す
海外不動産投資は「情報非対称」が非常に強い世界です。
現地で確認すれば避けられたはずのトラブルを、日本からの写真と説明だけで鵜呑みにして契約し、後悔する事例は後を絶ちません。
現地視察では、次のような点を必ずチェックしましょう:
- 建物の実物(写真と違う、老朽化していることも多い)
- 周辺環境(昼と夜で治安が異なることも)
- 管理体制(ゴミ、清掃、共用部の維持状態)
- 現地エージェントや管理会社との面談・相性確認
現地に信頼できる日本語対応のパートナーがいれば、トラブル時にも相談しやすく安心感が段違いです。
7. ローカルエージェントとの関係性づくり:成功の鍵は“信頼関係”
最後に意外と見落とされがちなのが、“人”です。
海外投資では、物件の良し悪し以上に「誰とやるか」が成果を左右する場面が多々あります。
- 信頼できる仲介業者か?(契約後もフォローしてくれるか?)
- 投資家目線でリスクも説明してくれるか?
- 透明性のある情報提供をしているか?
- 「売りたいだけ」ではない姿勢か?
誠実なエージェントは、「買わない方がいい物件」も正直に教えてくれるものです。信頼関係のあるパートナーを得ることが、海外不動産投資の成功確率を格段に上げる要因となるでしょう。
第4章:購入・契約から運用・管理まで — “実務フロー”と注意点

「いい物件が見つかった!」
しかし、そこからが海外不動産投資の本番です。購入プロセス、契約、送金、そして運用と管理。
この一連のフローを“なんとなく”で進めると、後から「そんなはずじゃなかった」と後悔する場面が出てきます。
ここでは、初心者でもスムーズに進められるよう、海外不動産投資のステップを時系列に沿って整理しながら、各段階での注意点も丁寧に紹介します。
ステップ1:資金構成と送金方法の検討
最初に必要なのは、「どの通貨でいくら投資するか」の設計です。
これは単なる予算取りではなく、為替リスクと送金手数料を意識した資金戦略に近いものになります。
- 円からの両替時期の見極め:円高時に外貨を買うことで、投資効率が上がる
- 分割送金の活用:一括で送るのではなく、複数回に分けて為替リスクを分散
- 送金手段の選定:銀行送金だけでなく、TransferWise(現Wise)など低コストの手段も検討
- 日本の出金規制、海外送金時の報告義務:1回100万円以上の送金は「国外送金等調書」の対象になる
また、海外送金には“通貨ペアによって銀行手数料が異なる”などの注意点もあるため、事前に金融機関との調整が必要です。
ステップ2:契約手続きと法務チェックの重要性
物件を選定し、購入意思を固めたら、次は契約フェーズです。
ここが最もトラブルの起きやすいポイントであり、特に次の3点をしっかり確認する必要があります。
① 契約書の言語と内容の理解
- 契約書が現地語や英語である場合、日本語翻訳が正確であるかを必ず確認
- 所有権の内容(完全所有 or 使用権 or 借地権)
- 支払条件・引渡時期・違約時の扱いなど、リスク場面に対応する条項を確認
② 法律専門家の活用
- 信頼できる現地の弁護士または日本人弁護士を介し、リーガルチェックを依頼
- 不動産登記、納税義務、ビザや滞在資格との関係を確認
③ 契約前の「名義確認」と「登記の可否」
- 特に新興国では、「売り主と登記名義人が異なる」など不正が起こる可能性もある
- 二重売買や虚偽登記を防ぐためにも、現地登記制度と不動産登記官庁の信頼性を調査
ステップ3:物件の引渡しと登記完了の確認
契約後、売買代金の支払いと引き換えに、正式な登記・引渡しが行われます。
ただし国によっては、日本のような“一括決済と同時登記”という仕組みが存在しない場合もあります。
そのため、
- 先に全額支払っても登記が後回しになることがある(=不安定な状態)
- 一部国では「公証人による確認」が必須(例:スペイン)
- 建築中物件(プレビルド)では引渡しが数年先になるケースもあり、完成保証の有無を確認する必要がある
海外投資では、「登記=所有の証明」ではない国も存在するため、その国の制度理解が非常に重要です。
ステップ4:物件管理・運用の体制づくり
物件を保有したら、いよいよ“収益化フェーズ”です。
ここでは管理会社との契約がカギとなります。
① 管理会社との契約内容
- 家賃の回収/送金のタイミングと手数料
- 空室時の対応(広告費・募集期間・修繕費の扱い)
- 入居者の選定と与信確認の方法
- 定期点検と突発的修繕の基準
② レポートと連絡体制
- 月次レポート(収支・入居状況・修繕履歴など)の提供があるか
- 問い合わせへの対応スピードと対応言語(日本語窓口の有無)
信頼できる管理会社であれば、現地にいなくても“安心して保有”が可能になります。
ステップ5:税務・申告の準備と対応
海外不動産投資では、「現地の税務」+「日本での申告」の両方が必要です。
① 現地の税務
- 所得税/家賃収入税:国によっては免税枠や定額控除がある
- 固定資産税・管理税・登記税:事前に把握しておくことで、収益予測の精度が上がる
- 二重課税防止条約の有無:日本と対象国の間で、同一所得に対する重複課税が回避できるか
② 日本での申告
- 不動産所得として確定申告が必要(外国税額控除の活用)
- 為替差損益の扱い:円換算した際に生じる利益も、場合によっては課税対象
- 海外資産報告(国外財産調書・財産債務調書):対象金額を超えた場合は税務署への報告義務あり
税理士に相談するのがベストですが、“何を聞けばいいか”を理解しておくことで、依頼時の精度が高まります。
ステップ6:出口戦略(売却・継承)を“購入時から”設計する
最後に、投資家が見落としがちな視点が「出口戦略」です。
購入時には華やかな将来像ばかりを思い描きがちですが、以下の点を見据えることが肝心です。
- 売却マーケットの存在:外国人向け or ローカル向けで売却ルートが異なる
- 流動性とタイムライン:売却にかかる期間と税務処理の確認
- 相続・贈与に関する現地制度:子どもへの名義変更や相続税の扱い
- 現地法人名義 or 個人名義の検討:将来的な保有構造をどうするか
成功する投資家は、「買った瞬間から売る準備も進めている」――これは決して大げさな表現ではありません。
第5章:リスク軽減のための“実践的な回避策”
海外不動産投資の世界では、「儲ける力」よりも「守る力」が重要です。
とくに日本から遠く離れた地域に物件を持つ場合、目が届かない・言葉が通じない・制度が違う――この“3つの壁”が投資家の行動を制限しがちです。
だからこそ、最初から「守り」を固めておくこと。これが成功への近道です。
以下では、実務上で有効とされるリスク回避のための具体的対策を、テーマごとにご紹介していきます。
為替リスク対策:通貨分散と為替マッチングの意識
為替変動は避けようのない外部リスクです。しかし、“向き合い方”を間違えなければ被害は抑えられます。
以下の戦略が有効です:
- 通貨分散を取り入れる:全てを1通貨に偏らせず、複数通貨で保有・投資する(ドル、ユーロ、豪ドルなど)
- 為替マッチング戦略:現地通貨で収益が得られる物件では、支出(管理費・税金)も現地通貨で完結させることで為替リスクを縮小
- 送金・両替タイミングの分散:一括両替ではなく、複数回に分けることで平均取得レートを安定化
- ヘッジ付き金融商品を併用する:為替変動を抑える仕組債や為替保険など、補助的な商品を活用するケースも
為替は読めません。ただし“備える”ことはできます。
国・物件分散:一極集中のリスクを避ける
特定の国・都市・物件に資産を集中させることは、「その国の政治や経済が揺らぐ=資産が揺らぐ」状態と同じです。
これを防ぐためには、地理的・タイプ的な分散が鍵となります。
地理的分散:
- アジア1物件+欧米1物件といった「経済圏の分散」
- 成長国(高利回り)+先進国(安定志向)を組み合わせる
- 自然災害、規制リスク、法改正リスクの“分散地図”を持つ
タイプ分散:
- コンドミニアム × 戸建て × 土地 × 商業用など、収益特性の異なる複数を組み合わせる
- プレビルド(完成前物件)×既存物件を分けて、リスクタイミングをずらす
「分散は利益を最大化しないが、損失は最小化する」――これは投資全般に通じる鉄則です。
信頼できるパートナー選び:情報の非対称性を打ち破る鍵
海外不動産の最大の不安は「情報の非対称性」――つまり、売り手や現地関係者が知っていて、投資家が知らないことが多すぎる点です。
これを補うのが、信頼できる現地パートナーの存在です。
- 日本語対応スタッフが常駐しているエージェント
- 日本人投資家の紹介実績が豊富な会社
- 営業担当が「メリットだけでなくデメリットも説明する」スタンスを持っている
- 契約後も管理・運用まで対応する体制が整っている
できれば、購入者自身が現地に渡航し、エージェントと直接面談して信頼関係を築くのが理想です。
リモート対応だけでは見えない「熱量」「誠実さ」が、面と向かって初めて分かることも多いのです。
綿密な情報収集と現地調査:「目で見て、耳で聞いて、足で歩く」
インターネットが発達した今、物件情報はスマホ1つで簡単に手に入ります。しかし、それはあくまで「提供された情報」でしかありません。
- 実際の街の雰囲気はどうか?
- 昼と夜で治安はどう違うか?
- 近隣施設の充実度や人の流れはどうか?
- 物件自体に目立たない瑕疵(カシ)はないか?
これらは現地でしか分からない情報です。特に、現地不動産価格の妥当性や取引の常識は、日本人の感覚とズレている場合も多く、実地確認が不可欠です。
投資可能額を絞り、余裕資金で行う:“無理しない投資”のすすめ
最後に、最も本質的なリスク回避法は、「そもそも無理な投資をしないこと」です。
- 緊急時に引き出せないお金は、“生活資金”ではなく“余剰資金”であるべき
- 為替や金利の変動があっても生活に支障が出ない範囲で投資する
- 最悪ゼロになる可能性も含め、「自己責任」で判断できる範囲内で動く
つまり、海外不動産は「儲かるからやる」ではなく、「やっても平気だからやる」ものであるべきなのです。
第6章:日本人投資家に人気/注目の国・地域と、その特徴(2025年時点)
「どこに投資すればいいのか?」
これは海外不動産投資を考えるすべての人が最初に直面する問いです。
もちろん“絶対に正しい答え”はありませんが、日本人投資家に人気があり、かつ現時点で投資対象として妥当性が高い国・地域には一定の傾向があります。
この章では、主要な投資先の特徴を比較しながら、それぞれに適した投資スタイルについてもご提案していきます。
【1】フィリピン(マニラ):高利回り×経済成長が魅力
特徴と魅力:
- 年間GDP成長率は6〜7%と東南アジア随一
- 英語が公用語、契約やコミュニケーションが比較的スムーズ
- コンドミニアム投資は外国人でも所有可能
- 家賃利回りは6〜8%前後(エリアにより10%超も)
- 若年層人口比率が高く、長期的な賃貸需要あり
リスク・注意点:
- 政治不安や法制度変更の可能性(長期政権の変化に注意)
- ローカル管理会社の質にバラツキあり
- 未完成物件(プレビルド)購入時は、開発業者の信頼性がカギ
【2】タイ(バンコク・パタヤ):生活環境◎×外国人人気高
特徴と魅力:
- 外国人投資家・移住者が多く、外国人向け物件の市場整備が進んでいる
- バンコクはインフラ開発が加速(地下鉄延伸、大型商業施設など)
- 外国人は土地は持てないが、コンドミニアムは購入可能(棟全体の49%まで)
- 日系企業進出が多く、日本人居住者が多いエリアでは安定した賃貸需要あり
リスク・注意点:
- 表面利回りは4〜6%程度と控えめ(物件価格が高騰気味)
- 政治的なデモや不安定さが年に数回報道される
- 地方都市の投資は慎重に(流動性が極端に低い場合あり)
【3】ベトナム(ホーチミン・ハノイ):これから伸びる“爆発前夜”
特徴と魅力:
- 年齢中央値30歳未満の“若い国”、消費・住宅需要ともに右肩上がり
- 外資導入が急増中、法整備も徐々に国際基準に追いついてきている
- ホーチミン市内の新築物件では、家賃利回りが7〜9%と高水準
- 将来的なキャピタルゲインも見込まれる“成長初期フェーズ”
リスク・注意点:
- 外国人の保有権は50年制限(延長可)など、制度面での制限あり
- 登記や契約実務に不透明さが残る(仲介業者の質に注意)
- ベトナムドンは為替の流動性が低く、日本円への換金に時間を要する場合あり
【4】アメリカ(テキサス・フロリダなど):安定感×資産保全型
特徴と魅力:
- 世界最大の不動産市場。法制度・権利関係が明確で安心
- 物件種類が豊富(住宅・商業・アパートメントなど)
- 利回りは都市によって異なるが、テキサスやフロリダ州では5〜8%程度
- 将来的な売却のしやすさ(中古物件市場が活発)
- 相続・贈与・法人化などの戦略にも柔軟に対応可能
リスク・注意点:
- 初期投資額が高め(20万〜50万ドル規模)
- 固定資産税・管理費など、運用コストが比較的高い
- 為替リスクが大きい(米ドル建て)
【5】オーストラリア(シドニー・メルボルン):富裕層向けの長期安定型
特徴と魅力:
- 政治・経済ともに安定、法制度の透明性が高い
- 教育移住やセカンドライフの居住拠点としての人気も高い
- 英語圏・日本人居住者も多く、生活環境は◎
- 価格上昇は続いているが、過熱感は落ち着きつつある
リスク・注意点:
- 不動産価格が高く、利回りは3〜5%程度と控えめ
- 外国人投資に対する購入制限・課税が強化傾向(FIRBなど)
- 輸送コスト・維持管理費用が高めに設定されることが多い
【地域別比較表(簡易版)】
| 国・地域 | 利回り目安 | 成長性 | 流動性 | 法制度の整備 | 所有制限 | 初心者向き |
|---|---|---|---|---|---|---|
| フィリピン | ★★★★☆ | ★★★★☆ | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | △(条件付き) | ◎ |
| タイ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | ★★★☆☆ | △(コンドミニアムのみ) | ◎ |
| ベトナム | ★★★★★ | ★★★★★ | ★★☆☆☆ | ★☆☆☆☆ | △(期間制限) | ◯ |
| アメリカ | ★★★★☆ | ★★★☆☆ | ★★★★★ | ★★★★★ | ◎(土地可) | ◯ |
| オーストラリア | ★★☆☆☆ | ★★☆☆☆ | ★★★★☆ | ★★★★★ | △(制限あり) | △ |
※2025年時点の一般的な傾向に基づいた筆者の見解です。実際の投資判断は最新情報をご確認ください。
第7章:こんな人に向いていて、こんな人には向かない — 投資判断のセルフチェック
海外不動産投資は、確かに魅力的な選択肢のひとつです。しかし、全ての人にとって“最適”とは限りません。
国内不動産とは異なる法制度、言語、距離感、そして通貨リスク……これらの条件を踏まえたうえで、「自分に合った投資かどうか」を冷静に見極めることが重要です。
この章では、「海外不動産投資が向いている人/向いていない人」の具体的な特徴を比較し、読者自身の立ち位置を明確にしてもらうためのセルフチェックを提案します。
【向いている人の特徴】—“慎重かつ中長期的に考えるタイプ”
① 資産に余裕がある
- 海外投資は日本以上に「余裕資金で行う」のが大前提
- 仮に短期で現金化できなくても、生活に支障が出ない人
② 中長期視点で資産形成を考えている
- 海外不動産は“時間を味方にする投資”である
- 10年単位でインカム/キャピタルのバランスを設計できる人
③ 分散投資を意識している
- 国内だけでなく、外貨建て・地理的分散を考える成熟した投資家
- リスクヘッジや相続・税制面での有利性も理解している
④ 行動力と情報収集力がある
- 必要であれば現地へ視察に行き、管理体制をチェックできる
- 投資対象の国・法制度・経済状況を自分なりに調べられる
⑤ リスクを理解し、自己責任で判断できる
- 海外投資に“絶対安全”はないと認識し、リスクも楽しめる胆力がある
- 成功も失敗も「自分の決断の結果」として納得できる人
【向いていない人の特徴】—“安易な期待とスピード重視のタイプ”
① 短期間での利益を狙っている
- 海外不動産はすぐに利益が出るとは限らない
- 数ヶ月で結果を出したい人には不向き
② 手間をかけたくない、管理を他人任せにしたい
- 現地とのやりとり、書類手続き、税務対応など“見えない労力”が多い
- すべてを外注しようとすると、情報格差に飲まれやすい
③ 資金に余裕がない
- 予期せぬ出費や為替変動に対応できないと、生活に支障が出る
- 無理してローンを組んだり、資金を取り崩す必要がある人は要注意
④ 周囲の情報や流行に影響されやすい
- SNSや知人の成功談だけで判断する人は、冷静な分析を欠きやすい
- 自分の判断軸を持てていないと、後悔しやすい
⑤ リスクを直視せず、「大丈夫だろう」で進めてしまう
- トラブルが起きた際に対処できない可能性が高い
- “楽して儲かる”を期待する人は、そもそも海外不動産向きではない
【簡易セルフチェックリスト】
| チェック項目 | YES | NO |
|---|---|---|
| 余裕資金(生活防衛資金以外)が1,000万円以上ある | □ | □ |
| 英語または現地言語にある程度対応できる | □ | □ |
| 現地の法制度や経済情報を自分でも調べる意思がある | □ | □ |
| 海外渡航や現地確認を前向きに考えられる | □ | □ |
| 数年〜10年以上の保有を前提に考えられる | □ | □ |
| 為替リスクや管理費用、税務など“見えにくいコスト”も理解している | □ | □ |
YESが4個以上であれば、海外不動産投資に向いている素質があります。
逆にNOが多い方は、まずは国内での投資経験を積んだり、少額での海外REITやETFなどからスタートするのも良いかもしれません。
海外不動産投資は「憧れ」ではなく「現実的な選択肢」
かつては一部の富裕層やプロ投資家だけの領域だった海外不動産投資も、今や情報や手段が整い、「誰でも取り組める選択肢」へと進化しています。
とはいえ、情報量と行動量がそのまま成果に直結する世界。
だからこそ、自分に合った投資なのかを丁寧に見極め、必要な知識と体制を整えたうえで一歩を踏み出すことが大切です。
【まとめ】海外不動産は“夢”じゃない、きちんと“戦略”として扱うべき資産

海外不動産投資は、一部の限られた富裕層だけのものではなくなりました。
ネットワークの発達、情報の透明化、手数料体系の明瞭化により、今や日本国内に暮らす30代〜50代の一般投資家でも、戦略的に選べば十分に活用できる時代に突入しています。
ただし――
「手軽に始められる」からといって、「簡単に儲かる」わけではない。
むしろ、国内よりも遥かに多くの知識と準備が必要な投資分野であることは、ここまでの記事を読んでいただければ明らかでしょう。
資産運用アカデミアからの5つの提言
ここで改めて、本メディア「資産運用アカデミア」として、海外不動産投資を検討する読者の皆様へ、次の5つの提言をお送りします。
① 「高利回り」の言葉に惑わされず、リスクとのバランスを見る
海外では利回り10%以上といった物件が紹介されることも珍しくありません。しかし、そこには為替、流動性、税制などさまざまな“見えないコスト”が含まれています。
表面利回りだけで判断せず、実質利回りと再販性(出口)を含めたトータル視点で考えるクセを身につけましょう。
② 物件よりも“国選び”と“エリア選定”が最重要
投資成否を左右するのは「どの物件か?」ではなく、まず「どの国か?」「どの都市か?」です。
政治・経済の安定性、法制度、外国人所有の可否、賃貸需要、通貨の信頼性――すべてが土台となります。
物件探しに入る前に、まずは国レベルで徹底的に情報を集める。これが成功の出発点です。
③ “管理と運用”こそが長期的な価値を決める
物件を購入して終わりではありません。むしろ「そこからが本番」です。
テナント対応、修繕対応、現地管理会社との関係性――これらがきちんと機能しなければ、収益は絵に描いた餅になります。
信頼できるパートナー選び、契約内容の透明性、継続的なモニタリング体制を“購入前”から仕込んでおくことが、後悔しない未来への保険になります。
④ 投資可能額=“生活に影響しない余剰資金”で設計を
海外不動産投資に限らず、投資の大原則は「余剰資金で行うこと」。
急な支出、予期せぬトラブル、想定外の損失に備え、最悪“ゼロになっても生活に影響しない”金額内で戦略を組むことが肝要です。
資産運用とは、人生の不安を減らすための手段。投資がストレスになっては本末転倒です。
⑤ 情報収集と自己判断の“両輪”で動くこと
海外不動産投資は、正しい情報を得ることが成功の鍵です。
しかし同時に、その情報を“自分の頭で解釈し、判断する”力も必要です。
・セミナーに参加してみる
・海外視察に行ってみる
・仲介会社の話を疑ってみる
・失敗事例から学ぶ
――こうした行動の積み重ねが、投資家としての“土台”をつくっていきます。
最後に:海外不動産を「資産の一角」に取り入れるという考え方
本記事を通じてお伝えしたかったのは、「海外不動産は儲かるからやるもの」ではなく、「全体の資産設計のなかで戦略的に取り入れる選択肢のひとつ」だという視点です。
- 株式や債券とは違う“実物資産”としての安定性
- 日本国内資産との分散効果
- 将来的な相続・継承の視点
- インフレや円安からの資産防衛
これらすべてを踏まえたうえで、もし自分の人生設計と一致するなら、海外不動産投資はきっと“味方”になってくれるはずです。
そしてそのときは、焦らず、じっくり、正しいプロセスで。
これが、資産運用アカデミアが皆さまに伝えたい本質です。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。
