
「今のままで、本当に将来大丈夫だろうか?」
給与が上がりにくい、物価はじわじわと上がっている、円安で海外旅行のコストも上がった…。そんな体感を抱える読者の方も多いはずです。
日本国内における資産運用環境は、ここ数年で大きく様変わりしました。少子高齢化の進行とともに、社会保障への信頼感が揺らぎつつあり、インフレや円安といった「見えないリスク」が家計の足元を確実に脅かしています。
そのような背景の中、今静かに注目を集めているのが「海外ETF(上場投資信託)」という選択肢です。
ETFとは、一言でいえば「株と投資信託のいいとこ取りをした投資商品」。その中でも海外ETFは、アメリカや新興国をはじめとした世界中の経済成長を“手軽に”取り込める投資手段として注目を集めています。
特に、会社員や個人事業主など、本業で時間を取られがちな方にとって、ETFは「第二の収入源をつくる」「資産を守り育てる」ための心強い味方になり得ます。
このガイドでは、「そもそもETFって何?」「海外ETFってどうやって買うの?」「初心者でも本当にできるの?」といった疑問に答えながら、あなたが不安なく“最初の一歩”を踏み出せるよう、丁寧に解説していきます。
キーワードは「分散」「長期」「低コスト」、そして「堅実な資産形成」です。
第1章:ETFとは何か?投資信託・株式・債券と何が違うのか

ETF(Exchange Traded Fund)の基本構造と特徴
ETFとは、「上場投資信託」のこと。株式と同様に証券取引所に上場しており、リアルタイムで売買ができる点が最大の特徴です。
投資信託と異なり、ETFは市場で常に価格が変動し、証券会社を通じて簡単に購入・売却が可能。たとえば、アメリカの株式市場全体に投資できる「VTI」や、全世界の株式を対象とした「VT」などが有名ですね。
ETFのもう一つの大きな魅力は「低コスト」。インデックス(市場平均)に連動するタイプが多く、人件費や運用コストがかからない分、信託報酬も抑えられています。
投資信託や株式・債券との違い
投資対象 | 売買タイミング | 手数料 | リスク分散 | 運用透明性 |
---|---|---|---|---|
株式 | リアルタイム | 高め | × | 高い(個別) |
投資信託 | 1日1回 | やや高め | ◯ | やや低い |
債券 | 発行日固定 | 中程度 | △ | 低い |
ETF | リアルタイム | 低め | ◎ | 高い(構成銘柄公開) |
この表からもわかる通り、ETFは流動性・手数料・分散投資の観点から、バランスの取れた「初心者向け商品」として非常に優秀です。
海外ETFという言葉の意味と、日本国内での扱い
「海外ETF」と聞くと、なんだか難しそうに聞こえるかもしれませんが、実はSBI証券や楽天証券など、日本の大手ネット証券を使えば誰でも購入できます。取引は基本的に「ドル建て」で行われ、購入のたびに為替手数料が発生します(多くは1ドルあたり25銭前後)。
日本国内に住んでいる人が海外ETFを購入・保有した場合でも、特定口座で源泉徴収を選べば、確定申告の手間も抑えられます。
“初心者”だからこそ押さえておきたい概念:分散・コスト・長期保有
ETFの本質は「世界中の企業に、まんべんなく投資できること」。つまり、分散効果が高く、特定企業の倒産や業績悪化といったリスクを最小限に抑えることができます。
また、運用期間は5年、10年といった「中長期」を前提に考えるのが基本。短期で利益を狙うギャンブルではなく、堅実にお金を増やしていくための“習慣”のような感覚で取り組むのが成功の近道です。
第2章:なぜ「海外」ETFなのか?国内だけでは見えない可能性とリスク
国内株式・国内資産集中型の限界
多くの日本人は、自分でも気づかぬうちに「日本円」「日本株」「日本企業」に偏った資産構成をしています。これは“ホームバイアス”と呼ばれ、地元のものを安心して選ぶ心理傾向です。
しかし、現実はどうでしょうか?
- 日本の人口は毎年減少している(出生数は2023年で過去最低)
- 世界GDPに占める日本の比率は約5%以下
- 日経平均は円安で見た目が上がっているだけ、実質では横ばい
このように、日本市場だけに依存した運用では、長期的に資産を増やすには限界があると言わざるを得ません。
海外市場(米国・新興国など)の成長ポテンシャルと分散機能
一方、アメリカをはじめとする海外市場は、依然として力強い成長を続けています。
- 米国のS&P500指数は、過去10年間で年平均約10%のリターン
- 新興国市場も中長期では成長余地が大きい(人口増加・都市化)
- テクノロジーやエネルギー、ヘルスケアなどの分野で先進的な企業群が活躍
海外ETFを活用することで、こうした「世界の成長」を自分の資産形成に取り込むことが可能になります。
海外ETFのメリットと見落としがちなデメリット
【メリット】
- 超低コスト(信託報酬0.03%以下のETFも存在)
- 分散性が高く、長期運用に向く
- 米国ETFは高い流動性を誇り、売買がしやすい
- ドル建て資産を持つことで、円安ヘッジにもなる
【デメリット】
- 為替リスク(ドル高・ドル安による損益)
- 税務の複雑さ(二重課税・確定申告など)
- 英語の情報が多く、商品理解が難しい場合も
すべての投資に“完全な正解”はありません。だからこそ、こうしたメリット・デメリットを冷静に理解し、「自分の目的と合っているか?」を確認することが大切です。
実際の数字で見る:海外ETFと国内投資の比較
指標 | 国内株ETF(日経平均連動型) | 海外株ETF(S&P500連動型) |
---|---|---|
年平均リターン(過去10年) | 約5.6% | 約10.2%(ドル建て) |
信託報酬 | 0.14%〜0.25%程度 | 0.03%〜0.09%程度 |
成長市場への分散性 | △(日本のみ) | ◎(世界・米国・新興国) |
この数字からもわかるように、海外ETFは「リターン」「コスト」「分散」の3点で非常に優れた投資手段だと言えます。
第3章:初心者が押さえるべき海外ETFの選定基準5項目
「海外ETFを買ってみたい」と思ったとき、最初に立ちはだかるのが「どれを買えばいいの?」という問題です。実際、米国市場だけでも数千種類のETFが上場しており、どれが自分に合っているのか判断するのは至難の業。
そこでまずは、初心者が商品選びで注目すべき「5つの視点」を紹介します。
① 資産クラス(株式・債券・REIT・コモディティ)
ETFには、さまざまな資産に投資する商品があります。代表的なものは以下の通りです。
- 株式ETF:企業の成長に投資。代表格は「VOO(S&P500)」「VTI(米国全体)」など。
- 債券ETF:リスクを抑えたい時に。代表例は「AGG(米国総合債券)」「BND」など。
- REIT(不動産投資信託)ETF:不動産収入による配当を狙う。例:「VNQ」「RWR」など。
- コモディティETF:金・原油など。リスクヘッジやポートフォリオのアクセントに。
初心者には、まず「株式ETF」から始めるのが無難。理由は値動きがわかりやすく、長期的に成長が見込める市場が多いためです。
② 地域分散(先進国/新興国/テーマ別)
ひとつの国や地域に集中してしまうと、政治・経済の変化に大きく左右されます。そこで有効なのが「地域分散」。
- 先進国株式ETF:米国(VOO、VTI)、欧州、日本など
- 全世界株式ETF:VT(全世界)、ACWI(MSCIオールカントリーワールド)
- 新興国ETF:EEM(iShares MSCI Emerging Markets)、VWO(Vanguard Emerging Markets)
分散されているほど、1国に依存しない安定性が生まれます。投資先の地理的バランスも、ETF選びの大切な視点です。
③ 経費率(Expense Ratio)
ETFには「信託報酬」と呼ばれる運用手数料が存在します。これが低ければ低いほど、長期的なパフォーマンスに差が出ます。
たとえば、信託報酬が0.03%のETFと、0.5%のETFでは、20年後に100万円以上の差が出ることもあるのです。
目安としては、0.1%以下であれば“超低コスト”、0.2%台までなら許容範囲、それ以上は用途を見極めて選ぶべきです。
④ 流動性と出来高(売買しやすさ)
「買いたい時に買えない」「売りたい時に売れない」という状況は、投資のストレスになります。
そこでチェックしたいのが「出来高(1日あたりの売買数)」です。出来高が多ければ売買がスムーズで、スプレッド(売値と買値の差)も小さく、実質的なコストも抑えられます。
米国の人気ETFであれば、基本的に出来高は十分。ただし、マイナーな新興国やテーマ型ETFは注意が必要です。
⑤ 運用会社と連動指数(トラッキングエラー)
ETFは「どの指数(インデックス)に連動しているか」が核心です。
- S&P500:アメリカの主要500社。VOOやIVVなど。
- MSCIワールド:世界の大型株。ACWIなど。
- NASDAQ100:テック企業中心。QQQなど。
また、同じ指数に連動するETFでも「運用会社」によってコストや実績が異なります。
- Vanguard(ヴァンガード)
- BlackRock(iShares)
- State Street(SPDR)
この3社はいずれも信頼性が高く、初心者にも安心です。
第4章:2025年時点で注目したい海外ETF銘柄10選&活用シーン

「何を買えばいいの?」という問いに対する“答え”の一つが、実際に支持を集めている優良ETFを知ることです。
ここでは、用途別・目的別に「初心者でも扱いやすい」海外ETFを10本、厳選して紹介します。
米国株式ETF
- VOO(バンガード・S&P500)
→ 米国の代表企業500社に分散投資。安定感と成長性のバランスに優れる。 - VTI(バンガード・トータル・ストック・マーケット)
→ 米国株式市場の約99%をカバー。小型株も含めて分散したい人におすすめ。 - QQQ(ナスダック100連動)
→ テック系中心でハイリターン志向の方向け。変動性はやや高め。
全世界株式ETF
- VT(バンガード・トータル・ワールド)
→ 世界中の株式にまるごと投資。初心者が“これ1本”で始めるには最適。 - ACWI(iShares MSCI All Country World Index)
→ 米国以外にもバランスよく分散。構成銘柄に若干の差があるため要確認。
高配当株ETF
- VYM(高配当・大型株)
→ 安定した配当が魅力。長期的なインカムゲインを狙う人向け。 - HDV(財務健全性重視の高配当)
→ 分配金の安定感が特徴。企業の健全性を重視する方に最適。 - SPYD(高配当・利回り重視)
→ 利回りは高いが景気敏感株が多く、価格変動も大きめ。
新興国ETF
- VWO(バンガード・FTSEエマージング・マーケッツ)
→ 中国・インド・ブラジルなど成長余地のある国々をカバー。 - EEM(iShares MSCIエマージング・マーケッツ)
→ MSCI基準で構成。若干の違いがあるが、実質はほぼ類似。
それぞれのETFには、特徴と適合する“投資目的”があります。
目的 | おすすめETF |
---|---|
初心者の分散投資 | VT、VTI |
安定的なインカム収入 | VYM、HDV |
成長を狙いたい | QQQ、VOO |
世界全体に分散したい | VT、ACWI |
成長余地を重視したい | VWO、EEM |
第5章:海外ETFを買うには?口座開設~購入までのステップ徹底ガイド
「海外ETFに投資したいけど、そもそもどうやって買うの?」
この疑問を持つ読者は少なくありません。国内株と違い、ドル建てでの購入になるため、多少手順が異なりますが、ネット証券を使えば意外とスムーズに始められます。
ここでは「初心者が迷わない、王道の始め方」を5つのステップに分けてご紹介します。
ステップ①:ネット証券会社に口座を開設する
海外ETFを購入するには、外国株式の取り扱いがあるネット証券口座が必要です。おすすめは以下の3社です。
- SBI証券(米国ETF取扱数が豊富、為替手数料が安い)
- 楽天証券(ポイント投資に対応、UIが初心者向け)
- マネックス証券(米国株専門アプリが使いやすい)
口座開設はすべて無料で、ネットで完結。開設時に「特定口座(源泉徴収あり)」を選んでおけば、税金計算も自動で対応されます。
ステップ②:外貨(米ドル)を準備する
ETFの大半は米ドル建てで取引されます。そのため、円をドルに交換する「為替取引」が必要です。
ネット証券では、住信SBIネット銀行などと連携して1ドルあたり「4銭〜25銭」程度の為替手数料でドルに交換可能。
ちなみに「円貨決済(日本円のまま購入)」もできますが、手数料が割高になるため、慣れてきたらドル決済の方が効率的です。
ステップ③:購入したいETFを選ぶ
前章で紹介したETFの中から、自分の目的やリスク許容度に合う商品を選びます。
たとえば:
- 安定運用なら「VOO」や「VTI」
- 高配当狙いなら「VYM」や「HDV」
- 世界分散なら「VT」や「ACWI」
商品名やティッカー(VOO、VTなど)を証券会社の検索窓に入力すると、個別ページが出てきます。
ステップ④:注文を出す(指値/成行)
ETFは株式と同様に「リアルタイム売買」が可能です。
- 成行注文:その場の市場価格で即購入(初心者向け)
- 指値注文:自分が希望する価格で購入(経験者向け)
まずは成行注文で小額から始めて、操作に慣れるのが無難です。
ステップ⑤:保有後の管理と再投資
ETFを購入した後も、やることがあります。それが「配当の再投資」と「ポートフォリオの見直し」。
- 配当金は米ドルで受け取れるので、同じETFを買い増す「自動再投資」設定が便利
- 年に1〜2回、自分の資産配分(株・債券・現金)を見直すことでリスクをコントロール
投資は“買って終わり”ではありません。育てる感覚が大切です。
第6章:投資初心者が陥りやすい3つの落とし穴とその対策
海外ETFは魅力的な投資商品ですが、「初心者ゆえにやってしまいがち」な失敗も存在します。ここでは、特に多い3つのパターンと、その対処法を紹介します。
落とし穴①:為替変動を軽視してしまう
ETF自体が上がっていても、「円高」で差し引きマイナスになるケースもあります。たとえば、1ドル140円で購入したETFが、150ドル→160ドルに上昇しても、1ドル120円に円高が進めばトータルの損益はマイナスになることも。
対策
- 「長期運用が前提」と心得る:為替は短期で読めないが、長期ではリターンに吸収される傾向がある
- 複数回に分けて買う「ドルコスト平均法」でリスク分散
落とし穴②:商品選びが“なんとなく”
知名度やSNSの口コミで決めてしまい、「自分の目的と合っていなかった…」と後悔するパターンも。
対策
- ETFの構成銘柄・信託報酬・分配方針を事前に確認
- 投資の「目的」(資産形成/老後準備/配当収入)を明確にする
落とし穴③:毎日価格を気にしすぎる
特に投資を始めたばかりの人ほど、価格の上がり下がりに一喜一憂しがち。しかし、ETFは「長期保有」が基本。短期の動きに神経を使いすぎると、不要な売買をしてしまう危険性があります。
対策
- 価格チェックは「月に1回」などのルールを設ける
- SNSやニュースに振り回されすぎず、“自分の投資ルール”を持つ
第7章:初心者向けポートフォリオ構築例と10年後へのシミュレーション
「ETFは買った。で、次はどうする?」
ここでつまずく方も多いのですが、実は運用後の“構え方”こそが資産形成の肝です。
特に海外ETFは“長期・分散・積立”を前提とした設計が多いため、「ポートフォリオ(資産配分)」をどう組むかによって将来の成果が大きく左右されます。
ライフステージ別のポートフォリオ例
【30代/資産形成期】
- 米国株式ETF(VTI):50%
- 全世界株式ETF(VT):30%
- 高配当ETF(VYM):10%
- 現金・日本円資産:10%
→ リスク許容度が高く、成長を狙えるポートフォリオ。
【40代/安定運用・教育資金との両立期】
- 米国株式ETF(VOO):40%
- 全世界株式ETF(ACWI):30%
- 債券ETF(AGG、BND):20%
- 現金・円資産:10%
→ 株式と債券のバランスを意識し、安定感を重視。
【50代/セミリタイア・老後準備期】
- 高配当ETF(HDV、SPYD):40%
- 債券ETF(TLT、AGG):30%
- 米国株ETF(VTI):20%
- 現金:10%
→ キャッシュフロー重視+下落耐性を高めた設計。
年間100万円積立×10年シミュレーション(年率5%想定)
年数 | 元本累計 | 想定資産額(複利) |
---|---|---|
1年目 | 100万円 | 約105万円 |
5年目 | 500万円 | 約552万円 |
10年目 | 1,000万円 | 約1,294万円 |
このように、複利の力を活かせば年率5%でも10年後に約1.3倍になります。年率7%なら1,400万円以上に到達する試算です。
もちろん市場は一定ではありませんが、「時間」が何よりの味方であることは間違いありません。
リバランスとメンテナンス
ポートフォリオを作ったら放置ではなく、年1回はリバランス(資産配分の見直し)をしましょう。
例えば、株式が上昇して70%を超えていたら一部を債券に移して、元の配分に戻す。これを続けることでリスクが偏りすぎず、下落局面でも慌てにくくなります。
最終章:海外ETF投資は“知的で堅実な資産形成”の選択肢

最後に、ここまでの話を総括しておきましょう。
海外ETFは、初心者にとって「難しそう」と思われがちです。ですが実際には、ポイントさえ押さえればむしろ国内投資よりシンプルで、コストも安く、世界中の成長に手軽にアクセスできる手段です。
特に30代〜50代の会社員にとって、
- 本業とは別の収入源(配当)
- 日本経済や円のみに依存しないリスク分散
- 将来への備えを“自分の手で”育てられる
という観点から、海外ETFは非常に理にかなった資産運用方法だと言えるでしょう。
最後に伝えたいこと
投資の世界は「知ること」が最大の武器になります。大切なのは、最初の一歩を恐れず踏み出すこと。
少額でも構いません。ETF1本、1万円からでも未来は変わり始めます。
この記事が、あなたの「海外ETFという世界」への扉を開くきっかけになれば幸いです。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。