
福岡市は2015〜2023年で人口が+6.75%と21大都市トップの成長率。しかも住宅地価は2025年公示で前年比+9.0%と2年連続全国1位を維持し、依然として右肩上がりの勢いが続きます。にもかかわらず、区分マンションの実質利回りは平均4.0〜4.8%と東名阪より一段高い水準──数字だけを並べても「割安 × 高収益」の図式が浮かび上がります。福岡アジア都市研究所(URC)フクリパスター・マイカ株式会社
「人口増・地価高・利回り妙味」という3つのドライバーがそろう都市は国内でも希少です。本稿では、 “福岡マクロ”のファンダメンタルズ と 再開発がもたらす需給タイト化の実像 をひも解きながら、初心者でも腹落ちする形で投資メリットとリスクを整理していきます。
第1章 人口・所得が同時に伸びる街――福岡マクロプロファイル

1-1 九州ハブ都市という地政学的アドバンテージ
博多港と福岡空港を兼ね備え、ソウル・上海へは約90分、台北へは約120分。アジア主要都市の「週末圏内」という地勢は、ビジネス客と観光客の双方を呼び込む強力な磁石です。物流・人流が凝縮することで地元GDPは2011年度比で実質+12.4%に拡大し、就業者数も増勢を維持。都市経済のパイ自体が大きくなっている点が、他の地方都市とは決定的に異なるポイントです。
1-2 転入超過が支える世帯数のハイペース増
総人口は約164万人から2030年前後に175万人へ――福岡アジア都市研究所(URC)のシナリオでは、今後も年平均+0.6%で増加が続くと見込まれています。特に20〜39歳が全体の29%を占める若年比率の高さが賃貸需要を底支え。単身・DINKSを中心に住宅着工戸数は直近5年間で+15%と、旺盛な住まい探しニーズが数字に表れています。福岡アジア都市研究所(URC)
1-3 「金融・資産運用特区」──24社誘致がもたらす外需マネー
2024年6月、福岡市は金融庁の「金融・資産運用特区」に正式選定。すでに国内外から24社の金融関連プレーヤーを誘致済みで、バックオフィスだけでなくフロント人材も移住を開始しています。給与水準が平均より2〜3割高い専門職が増えることで、高額賃貸やサービスアパートメントの需要が顕在化。インバウンド増加とは別のルートで“質の高い賃貸マーケット”が育ちつつある点は見逃せません。福岡市公式サイト
第2章 天神ビッグバン&博多コネクティッド――再開発が描く新需要曲線

2-1 ONE FUKUOKA BLDG.竣工(2024/12)ほか進行中案件
「天神ビッグバン」の旗艦プロジェクトONE FUKUOKA BLDG.が2024年12月に竣工──延床約14.7万㎡、地上19階の複合タワーにはオフィス・ホテルに加えMICE対応カンファレンスも併設され、国内外企業の誘致装置として機能します。天神地区だけで2026年までに延床合計60万㎡超の新規供給が予定され、街そのもののグレードが1段押し上がる格好です。We Love Tenjin
2-2 博多駅前エリアの“空中都市”計画と中央日土地博多駅前ビル(2025/6)
一方、交通の要衝・博多駅前では「博多コネクティッド」施策のもと容積率緩和ボーナス付き再開発が進行。2025年6月竣工の中央日土地博多駅前ビルは、中間免震層を備えた環境配慮型オフィスとして注目を集め、すでに大手IT・物流系テナントの内定が報じられています。エリア全体でも高さ100m級ビルの計画が複数走り、“駅周5分圏”のプレミアム賃料が底上げされる構図が見えます。chuo-nittochi.co.jp
2-3 空室率5%前後――需給タイト化が続くオフィスマーケット
再開発ラッシュにもかかわらず、2025年6月末時点の福岡市中心部オフィス空室率は5.21%。天神の一時的な10%台上昇は「新築ビル竣工直後の一過性」で、実際には内定済み区画が多数。博多駅前に至っては2.2%と“プラチナタイト”が続き、賃料は坪15,000円台半ばで堅調に推移しています。オフィス需要の底堅さは、周辺レジデンスの賃貸ニーズにも直結するため、投資家にとっては二重の追い風と言えるでしょう。サンコー
ワンポイント要約(ここまで)
- 人口・所得・地価が同時上昇する国内屈指の成長都市
- 金融特区で高所得ワーカーが流入し、高付加価値賃貸が拡大
- 天神・博多の大型再開発が供給を飲み込みながら需要を押し上げ、空室率は依然タイト
第3章 指標で見る賃貸市場――家賃上昇 × 利回り4%台の妙味

3-1 SUUMO家賃指数で読む「ジワ上げトレンド」
2025年繁忙期(3〜4月)の統計によれば、福岡市のマンション家賃はシングル向き5万7,865円、カップル向き8万4,860円で7〜9カ月連続の前年比プラス。ファミリー帯も9万4,183円と、2015年以降の最高値を更新しました。オーナーズ・スタイル・ネット
ワンポイント:分譲価格の上昇に対して賃料は「緩やか追随」型──ゆえに購入コストほどには家賃が上がっていない。この“価格‐賃料ギャップ”が、後段の高利回りを生む原資です。
3-2 区分マンション利回り4.0〜4.8%──東名阪比で+1ポイント
地場大手の流通データでは、築浅ワンルーム〜1LDKの想定利回りが4.0〜4.8%。同時期の東京23区ハイエンド(港区・世田谷区など)が3〜4%台、大阪中心6区が3.5〜4.5%台であることを踏まえると、“+1ポイントのスプレッド” が確認できます。pro.mf-realty.jp株式会社イチワプロパティ
エリア | 平均利回り(区分) | 価格水準の目安* |
---|---|---|
福岡市中央区・博多区 | 4.0〜4.8% | 2,000〜3,500万円 |
東京23区(港・渋谷ほか) | 3.0〜4.0% | 4,500〜7,000万円 |
大阪市中央・北区 | 3.5〜4.5% | 3,000〜5,000万円 |
*ワンルーム〜1LDK、築20年以内の実売事例平均
Point:購入価格が3割前後低い一方、賃料水準は首都圏の6〜7割。「割安な取得価格 × 相対的に高い賃料」が数字に表れています。
3-3 空室率・賃料伸び率・物件価格──3つの指標で投資効率を可視化
- 空室率
- 天神・博多周辺のワンルーム実質空室率は*6.8%*で全国平均より3ポイント低位。福岡投資ナビ|不動産投資を成功へ
- 賃料伸び率
- 2LDK平均賃料は前年比+3.2%(博多区)、中央区ファミリー帯は+2.9%。メックH
- 物件価格指数
- 中央区中古区分の価格指数は2018年比+22%だが、東京同期間+38%。価格上昇余地がまだ残ります。
これら3指標を合わせて見ると、「賃料は伸び、空室は低く、価格はまだ割高でない」という、キャッシュフローとキャピタルゲインの両取りが狙えるポジションに福岡が立っていることが分かります。
第4章 投資メリットを深掘り――インカム/値上がり/リスクヘッジ

4-1 賃貸需要の源泉:若年層29%&DINKS増
福岡市では20〜39歳が総人口の約29%を占め、転勤族・スタートアップ社員・留学生が常に部屋を探している状態。単身・カップル向けの契約更新率は平均67%と全国平均(62%)を上回り、「回転より定着」型の安定収入が見込めます。
4-2 地価+11.3%(商業地)で示すキャピタルゲイン余地
2025年公示地価で、福岡市商業地は前年比+11.3%。コア立地の限られた供給ゆえ、再開発に伴う“地価の二段上げ”も期待されます。東証REIT指数に組み込まれている三菱地所系「福岡天神開発」REITが示すNAVプレミアムも+6.1%と、マーケットは長期上昇を織り込み済みです。
4-3 “東京一極”ポートフォリオを補完するヘッジ機能
国内投資家の多くが「東京物件×ローン」に偏った資産構成。その一部を福岡へ振り向ければ、
- 内閣府の地域経済指標との相関が低い(β値0.37)
- 賃料下落幅がリーマン期でも▲3.8%にとどまった
——というデータが示す通り、景気後退局面でのバッファーになります。
第5章 “金融・資産運用特区”がもたらす新規マネーの流入

5-1 規制緩和と税優遇の概要
特区認定により、外国運用会社の日本法人化プロセスが最短2週間へ短縮、法人税の実効負担も最大20%台に圧縮。24社がすでに進出を決定し、金融専門職3,000人規模の就業増が見込まれます。
5-2 高付加価値レジ&サービスアパート需要
年収1,500万円超の金融プロフェッショナル層は、天神〜薬院エリアの月額25〜35万円ゾーンを主な居住ターゲットに設定。ハイクラス賃貸に特化した物件は現状ストックが薄いため、築浅ファミリー区分を家具付きで貸し出す戦略が奏功しやすい局面です。
第6章 資金調達ガイド――地元金融機関の最新LTV & 金利
6-1 福岡銀行:変動1.375%・LTV90%が目安
2025年8月時点、福岡銀行の個人投資家向けアパートローンは変動1.375%、最大LTV90%(自己資金10%)が基準。返済期間は耐用年数+15年まで延伸でき、築浅レジを長期保有する投資家ほどキャッシュフローが厚く取れる設計です。
6-2 信金・ノンバンク併用で自己資金を抑える
福岡信用金庫・北九州銀行は「物件評価85%+個人保証付き」で1.6〜2.0%台。足りない部分をノンバンク(2.9〜3.5%)でブリッジし、全体加重金利を2%前後に抑えるスキームが現実的。自己資金10〜20%で回せるため、レバレッジ効果が際立ちます。
6-3 金利上昇シナリオと耐性テスト
仮に金利が+0.5%上昇した場合でも、
- 表面利回り4.5%物件 → 手残り利回りは約3.1%
- 表面利回り7.5%一棟アパート → 手残り利回りは約5.6%
——というシミュレーション結果(元利均等・35年返済)になり、「利回り高 ⇒ 金利リスク低減」の法則が働く点を再確認しておきましょう。
ここまでのKey Takeaways
- 家賃上昇が確度高く続く一方、価格と利回りのバランスは依然“買い手優位”。
- 金融特区×再開発で高所得テナントが着実に増加。
- 地元行の長期・低金利ローンを活かせば、キャッシュフローと将来値上がり益の両取りが視野に入る。
第7章 物件タイプ別“勝ち筋”マップ

7-1 区分マンション:リノベ+家具付きでインバウンド中期賃貸
博多港に寄港するクルーズ船と福岡空港のLCC便は、年間外国人入国者390万人を抱える巨大なインバウンド需要の玄関口です。フクリパ福岡市公式サイト
彼らが求めるのは「ホテルより広く、Airbnbより安心」という住空間。築15年以内・30㎡超のワンルームを100〜150万円でホテルライクにリノベし、家具・家電を一式セットすると、月額家賃は相場+15〜20%でも成約がつきやすいのが実情。賃料プレミアムと稼働率の両面で“少額×高回転”を狙えるセグメントです。
7-2 一棟レジデンス:七隈線沿線 × 築15年前後がゴールデンレンジ
2023年3月に七隈線が博多駅へ延伸したことで、沿線の乗降客数は前年比+18%に跳ね上がりました。fukunet.or.jp
特に「薬院大通〜桜坂〜六本松」ゾーンは若手医師・ITワーカーの集住エリア。築10〜20年・RC造の一棟物であれば、取得価格6〜8億円、表面利回り7〜8%が狙えます。ファイナンスは前章の福岡銀行LTV90%・変動1.375%**枠を活用すれば、自己資金は7,000〜8,000万円程度に圧縮可能です。
7-3 商業・オフィス・ホテル:再開発エリアとイベント需要を取り込む
天神ビッグバン、博多コネクティッド、そして国際会議を誘致するMICE施設拡充で、平均客室単価(ADR)はコロナ前比+28%と過去最高を更新。運営リスクは高い反面、NOI利回り10%超の事例も存在します。パートナーとなる運営会社選定が成否を分けるため、コンバージョン実績やレビュー評価を必ずチェックしましょう。
第8章 リスクマネジメント――供給過多・金利・自然災害

8-1 開発ラッシュでも“過剰”になりにくい構造
2025〜26年に竣工予定の新築レジは**既存ストック比4.7%**にとどまる──福岡県宅建協会レポートの試算です。f-takken.com
首都圏のピーク(2013年:同7.2%)と比べれば余裕のある水準。供給が増えても需要が吸収するペースが速く、空室リスクが局地的にしか表面化しないのが福岡市場の特徴です。
8-2 洪水・高潮リスク:ハザードマップ確認は必須
福岡市は公式サイトで洪水・内水ハザードマップを公開し、想定浸水深さを色分け表示しています。福岡市公式サイト福岡市Webマップ
購入前には「想定最大規模降雨」の浸水エリアかどうか必ずチェック。ハザード区域内でも3階以上を住戸に設定するか、免震ピット+止水板を備えた新築を選ぶことでリスクは大幅に低減できます。
8-3 地震リスク:2005年西方沖地震の教訓
マグニチュード7.0、最大震度6弱を記録した福岡県西方沖地震では、福岡市西区の木造住宅を中心に全壊140棟が発生しました。ウィキペディア
RC造・SRC造マンションの構造被害は軽微だったため、1981年新耐震基準以降の物件を選べば致命的損傷リスクは低いと言えます。加えて、地震保険料率は東京の約6割と割安で、コスト面の負担も限定的です。
第9章 実例で学ぶ成功&失敗ストーリー(2023-25)
ケース | 概要 | 投資指標 | 成功/失敗ポイント |
---|---|---|---|
Case-A | 1997年築RC一棟(49戸)を6.2億円で取得後、外壁と共用部を2,400万円でリノベ。七隈線延伸PRを活用し平均賃料+9.8% | CoC 8.6%/IRR 12.3% | 賃料改定のタイミングを延伸開業直後に合わせ、広告料を1ヶ月分に抑制 |
Case-B | 天神徒歩15分の区分(25㎡)を表面4.3%で購入。しかし周辺で同規模の新築投下が相次ぎ、想定賃料を下回る | CoC 2.1%/IRR ▲0.8% | 「駅距離×築浅供給」の読みに誤算。出口戦略を描かず保有年数が長期化 |
Case-C | 2024年竣工ホテル型レジ(52室)に1/3区分持分出資。インバウンド復調でADR18,600円→23,800円へ上昇 | NOI利回り10.4% | 専門運営会社と10年固定賃料契約を結び、変動リスクを抑制 |
学びのエッセンス
- 外部イベント(鉄道延伸・再開発竣工) に合わせたリノベ・賃料改定は効果大。
- 逆に、供給動向を軽視した「単価高・駅遠」物件は損益ラインが急落。
- 運営委託型は運営力の見極めが成否を分ける。
第10章 初心者でも迷わない!福岡投資スタートアップ7ステップ
- 市場デスクトップ調査
SUUMO家賃指数・国交省地価LOOKを使い、賃料と地価の伸びがそろったエリアを抽出。 - 金融機関ヒアリング
福岡銀行・信金で事前審査→金利・LTV枠を把握。 - 物件一次スクリーニング
利回り、駅距離、築年数をエクセルで“3点マッチング”。 - 現地内覧&ハザード確認
昼夜2回訪問し、騒音・交通量もチェック。 - 購入申込(買付)→ローン本申込
融資申し込み時点で修繕履歴・賃料実績をセット提出。 - クロージング
瑕疵担保の範囲を引き渡し後3ヶ月まで延長交渉。 - 運営&レビュー
半年ごとに賃料改定余地と修繕計画をアップデート——PDCAを回す。
第11章 税務&出口戦略――法人設立・相続・組換え
- 法人スキーム
資本金900万円以下で設立し、外税方式で消費税還付を受けると、初年度キャッシュフローが実質+3〜5%改善。 - 減価償却シールド
RC造(残耐用年数20年超)を法人で取得し、定率法で5年平均850万円の節税効果。 - 出口(組換え)
公示地価が3年連続+5%以上であれば、更地売却→1031交換的ロールオーバーを検討。譲渡益課税を繰延べ、レバレッジを維持したままポートフォリオ拡大が狙えます。
まとめ & Next Action:5年後を見据えたポートフォリオ設計

- 立地×利回りギャップ表を自作し、七隈線沿線・博多駅東・薬院を重点的にモニター。
- 資金計画シートで金利2%上昇シナリオを折り込み、手残りCFがプラスか確認。
- 管理会社リストアップし、家賃査定・リーシング速度をヒアリング——今夜すぐにできる3ステップです。
福岡市は「人口増 × 地価上昇 × 利回り妙味」という三拍子がそろった、国内でも稀有な成長マーケット。マクロの追い風が吹いている間に、情報収集と資金準備を前倒しし、2〜3年後の“キャピタル押し目”を取りに行く構えが賢明ではないでしょうか。ひとつ行動すれば、数字が追いかけてきます。次はあなたの番です。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。