ここ数年、富裕層の資産の“逃避先”としてドバイの存在感が急速に高まっています。背景には、世界中で高まる税制強化の波や政治リスク、通貨下落といった不安定要素があります。特に欧米諸国では、コロナ後の財政再建を理由に富裕層への課税強化が進んでおり、それに伴い「資産をどこに置くか」が世界的なテーマとなっているのです。
国際コンサルティング会社Henley & Partnersのレポートによれば、2023年には約1万2000人の富裕層が高税率の国を離れ、税制が寛容な国へと移動したと報告されています。そして、その受け皿の一つとして存在感を強めているのがアラブ首長国連邦(UAE)、その中でも中核都市ドバイなのです。
この潮流は、日本の資産家にも無縁ではありません。資産運用の多角化を図る中で、ドバイ不動産への注目度は年々高まりを見せています。
ドバイが選ばれる3つの理由(税制・治安・成長性)
では、なぜ数ある選択肢の中からドバイが選ばれるのでしょうか?その答えは「税制」「治安」「成長性」という三つの柱に集約されます。
- 税制の魅力
ドバイには日本のような所得税、キャピタルゲイン税、相続税が基本的に存在しません。不動産に対しても、保有中にかかる固定資産税のような課税はなく、購入時の登録料や譲渡時の手数料がある程度です。この「税金がかからない構造」が、多くの投資家にとって最大の魅力となっています。 - 治安と生活インフラの安定
UAEは中東諸国の中でも特に治安が良好で、外国人にとっても暮らしやすい国として知られています。ドバイは国際都市として洗練されており、生活インフラ、医療、教育機関なども整備されているため、短期滞在から長期移住まで対応できる柔軟性があります。 - 経済成長と都市開発の加速
ドバイは2020年の万博を契機に、巨大インフラ開発や新規開発エリアの整備が急進展しました。観光業、IT、物流といった産業が多角的に成長しており、不動産需要を下支えする構造が続いています。
日本人投資家にとってのメリットと魅力
日本国内に住みながらドバイ不動産を保有することには、大きく三つのメリットがあります。
まず、税制上の優遇。日本では海外不動産の所得についても申告義務がありますが、ドバイで得られる不動産収入自体が無税であれば、最終的な課税所得が抑えられる可能性があります(後述の日本の税制に要注意)。
次に、通貨分散の効果。ドバイの通貨ディルハム(AED)は米ドルとペッグ(連動)しており、円安リスクへの防衛手段として有効です。日本円の資産に偏ったポートフォリオでは対応できないリスクに対して、実物資産としてのドバイ不動産は一つの解となります。
そして最後に、比較的低い取得コストと高利回り。物件価格に対する家賃収入の利回りが6〜8%と高水準な物件も多く、投資効率という点でも他国に比べて優位性があります。
第1章:ドバイの不動産市場の現状と今後の展望

近年の価格推移と取引件数の推移
ドバイ不動産市場はコロナショックからの回復が早く、2021年以降、価格は右肩上がりを維持しています。特に2023年には前年比で約15%の価格上昇が記録され、一部の人気エリアでは20%を超える値上がりも観測されました。
取引件数も年々増加しており、2022年の不動産取引件数は過去最高を記録。外国人投資家の流入、そして国内の富裕層の需要が相まって、旺盛な市場が形成されています。
外国人投資家の動向と主な投資エリア
投資家の国籍を見ると、インド、ロシア、中国、そしてヨーロッパ諸国が目立ちます。日本人の数は少数派ですが、年々拡大傾向にあります。
人気の投資エリアは、ビジネスベイ、ダウンタウン、マリーナ、パーム・ジュメイラなど。中でもマリーナやパームは高級レジデンスの需要が高く、外国人投資家の間でもプレミアムなエリアとして評価されています。
EXPOや長期ビザ政策が与えたインパクト
2020年のドバイ万博(EXPO)は、国内経済に強力な後押しをもたらしました。会場周辺を中心にインフラ整備が急速に進み、それが不動産価格の上昇要因にもなっています。
また、UAEは外国人に対して「ゴールデンビザ」と呼ばれる10年有効の長期滞在ビザを発給する制度を導入。この政策により、投資家や起業家にとってドバイは「投資するだけでなく、住める国」としての魅力も高まっています。
第2章:ドバイ不動産にかかる税金の仕組み

ドバイ国内で課される税制の概要
ドバイの税制は、世界でも稀有な「超低課税」体制として知られています。不動産投資に関連する税制についても非常にシンプルで、国内における所得税・キャピタルゲイン税・相続税といった日本では当たり前の課税項目が基本的に存在しません。
例えば、不動産を購入した際には「不動産登録料」として物件価格の約4%を一度だけ支払う必要がありますが、それ以外の固定的な税金はかかりません。保有期間中に課される税金もなく、売却時のキャピタルゲインにも課税されないのが通常です(2025年以降、一部の法人課税が導入予定ですが個人投資家には基本的に影響なし)。
所得税・相続税・キャピタルゲイン税の有無と背景
ここで改めて確認したいのは、ドバイがなぜこのような“課税ゼロ”の仕組みを採用しているのかという点です。その理由は明確で、外国資本の誘致と経済成長の促進にあります。UAE政府は、原油依存からの脱却を進める中で、不動産や観光、金融分野への外資導入を国家戦略と位置付け、税制をその手段として活用しているのです。
したがって、不動産収入や売却益に課税しないというのは、単なる税制の“抜け道”ではなく、国家としての方針に基づいた制度設計だと言えるでしょう。
相続税についても同様で、ドバイでは相続に関する課税が存在しません。家族信託などのスキームを活用すれば、資産承継にも柔軟な設計が可能になります。
登録料・VAT(付加価値税)などの初期コストと注意点
とはいえ、「税金がゼロだから安心」と楽観するのは早計です。実際には、いくつかの初期コストや手数料が発生します。
まず、不動産購入時には前述の登録料(約4%)に加え、デベロッパーによっては手付金や契約料が求められる場合もあります。さらに、物件が新築である場合には**VAT(付加価値税)5%**がかかるケースもあり、これは個人がデベロッパーから直接購入する際に発生します。
また、売却時にも「トランスファーフィー(所有権移転手数料)」が必要で、こちらも2%〜4%程度が相場です。これらの費用を見落とすと、想定以上にコストが膨らむ可能性がありますので、事前の資金計画が重要です。
第3章:日本居住者がドバイ不動産を所有する際の日本での税務処理

国外財産調書・国外転出時課税制度
日本に住みながらドバイ不動産を保有する場合、「日本の税制」からは逃れられません。その筆頭が国外財産調書制度です。
年末時点で5,000万円超の国外資産を保有する場合、翌年3月15日までに税務署へ「国外財産調書」の提出が義務付けられます。違反した場合、過少申告加算税などに加え、最大で50万円の罰金が科されるリスクもあります。
また、1億円超の資産を保有したまま国外転出した場合には、国外転出時課税制度(いわゆる出国税)が適用されることも。海外不動産の保有や売却を検討する際には、こうした制度も視野に入れた戦略が必要です。
日本の所得税法上の「国外不動産所得」の取り扱い
日本に居住している限り、たとえ海外で得た収益であっても「全世界所得」として申告が求められます。ドバイ不動産から得られる家賃収入も例外ではなく、不動産所得として確定申告に含める必要があるのです。
重要なのは、現地で課税されていないからといって日本での課税義務が免除されるわけではない、という点です。家賃収入の年間総額や諸経費を適切に計上しなければ、結果的に「脱税」とみなされるリスクもあります。
相続・贈与時の課税関係とリスク
最後に見逃せないのが、相続・贈与に関する日本の課税制度です。仮にドバイ不動産を相続や贈与する場合でも、日本の相続税・贈与税が適用される可能性があります。
日本の税法では、被相続人または受贈者のいずれかが「日本に居住していた場合」、原則として海外資産にも課税されます。ドバイ側に相続税がないからといって、ノーリスクとは言えません。さらに、遺産分割時における評価額や登記手続きの煩雑さも含め、事前の対策が必要不可欠です。
第4章:節税対策としての有効性とその限界

節税効果が得られる具体的なシナリオ
ドバイ不動産は、一定の条件下で節税効果が期待できる投資対象です。たとえば、日本国内では不動産所得に対する税率が高くなりがちですが、ドバイ物件からの収益には現地での所得課税がないため、“二重課税”のリスクが低減されます。
さらに、日本の確定申告においては、減価償却やローン利息、維持管理費用などを控除対象として計上することができます。これにより、課税所得を圧縮し、結果的に税負担を抑えることが可能です。
とりわけ、高額所得者や準富裕層にとっては、この「経費計上による所得圧縮」のメリットが大きく、節税目的での不動産保有という戦略が一定の合理性を持ちます。
ドバイ不動産を使った税金回避が疑われるケース
しかし、注意すべきは「節税」と「脱税」の境界線です。過去には、「海外不動産スキーム」と呼ばれる節税手法が問題視され、国税庁による調査対象となった事例もあります。
特に、過大な減価償却を計上したり、実態のない契約を経費に算入したりする行為は、課税逃れと見なされるリスクがあり、最悪の場合は追徴課税や刑事罰の対象になることもあります。
また、物件を法人名義で保有する場合、日本とUAEの間で「租税条約」が締結されていないため、控除や外国税額控除などの適用が不透明である点にも注意が必要です。税務処理を含め、専門家のアドバイスを得たうえで戦略を立てることが重要です。
国税庁の動向や取り締まり強化事例
国税庁はここ数年、「海外資産に関する課税強化」を明確な方針として掲げています。2020年以降、国外財産調書制度や出国税制度の運用が強化され、さらに「情報交換制度(CRS)」を通じて、海外金融機関や不動産関連データが日本当局にも共有されるようになっています。
つまり、海外に不動産を持っているというだけで、もはや“見えない資産”ではないのです。こうした環境の変化を踏まえると、節税目的の投資は今後ますます慎重な判断が求められるでしょう。
第5章:実際に投資する場合の注意点とステップ

購入プロセス(エージェント選定、契約、登記)
ドバイで不動産を購入する場合、基本的には「現地の不動産エージェント」を通じて契約を進めます。エージェントの登録制が整備されており、RERA(ドバイ不動産規制機関)にライセンスを持つ業者を選ぶことが鉄則です。
物件選定後は、売買契約(SPA)を締結し、手付金(通常10%程度)を支払います。その後、デベロッパーまたは現オーナーとの間で最終決済を行い、ドバイ・ランド・デパートメント(DLD)に所有権を登録します。
このプロセスは日本よりもスピーディで、契約から登記完了まで数週間以内に完了するケースも珍しくありませんが、英語での法的契約や書類のやり取りには注意が必要です。
管理と賃貸運用の仕組み
物件を購入後、現地に住んでいない場合には「プロパティマネジメント会社」による管理が不可欠です。家賃の徴収、メンテナンス対応、入居者対応などを委託できるパッケージが整備されており、月額収入の5~10%程度の手数料が一般的です。
賃貸市場は観光シーズン(10月~3月)を中心に活性化する傾向があり、短期貸し(Airbnb)と長期貸しのハイブリッド運用も可能です。収益性を高めるためには、物件の立地や管理品質がカギを握ります。
為替リスクと送金の壁
日本円とドバイ・ディルハム(AED)との為替変動は、投資パフォーマンスに大きく影響を与えます。AEDは米ドルとペッグ制を採用しているため、事実上「米ドル建て資産」としての扱いになります。
円安が進行すれば、売却益や賃料収入の実質的な円換算額は増加しますが、逆に円高になればリターンが目減りする可能性もあります。また、日本への送金には銀行の手数料や規制が関わるため、資金の流れを透明化しつつ効率的な送金ルートを確保することが重要です。
第6章:成功する投資家の共通点と失敗する人の特徴

うまくいっている人が重視していること
成功しているドバイ不動産投資家には、共通する特徴があります。たとえば、以下のような行動指針が挙げられます。
- 現地の経済指標や不動産レポートを定期的にチェックしている
- 賃貸管理会社との連携を密にして、収支管理を徹底している
- 複数の物件やエリアに分散投資してリスクを分散している
彼らは「不動産=買って終わり」ではなく、継続的なメンテナンスと情報収集を重視しています。こうした姿勢が、安定した収益と資産形成に直結しているのです。
誤解や過信から来る典型的な失敗パターン
一方で、失敗する投資家には「過度な期待」や「現地理解の不足」といった落とし穴があります。具体的には、以下のような失敗例が報告されています。
- 高利回りをうたう業者の“甘い営業トーク”に乗せられてしまった
- 購入後の空室リスクや管理トラブルを想定していなかった
- 為替の影響や日本側の税務処理を軽視していた
これらは、いずれも「事前のリスク検証」を怠った結果です。資産運用においては、数字の裏にある“物語”を読み取る力が求められます。
第7章:今後の展望と資産運用ポートフォリオへの組み込み方

日本とドバイを跨いだ国際分散投資戦略
資産運用の世界では、リスク分散は“最も重要な戦略”の一つとされています。国内資産だけに依存するポートフォリオでは、地政学的リスクや経済政策の影響をもろに受けてしまうことも少なくありません。そうした中、ドバイの不動産は、「異なる通貨圏」「異なる法制度」「異なる経済環境」に投資できるという意味で、真の意味での“地理的分散”が可能な資産クラスです。
ドバイ不動産をポートフォリオに組み入れることで、日本の不動産や株式、債券との相関を薄めることができ、全体としての安定性を高める効果が期待できます。
インフレヘッジ・通貨分散としての位置づけ
現在、日本を含む先進国ではインフレの再燃が懸念されています。そんな中、不動産投資は実物資産としての強みを活かし、インフレヘッジの手段として注目を集めています。
ドバイ不動産は、米ドルと連動する通貨ディルハム建てで資産を保有できるため、円の価値下落に対する防波堤としての役割も果たします。特に、円安が続く局面では、外貨建て資産の価値が相対的に高まるため、ポートフォリオ全体のバランスを取るうえでも有効な手段となるでしょう。
富裕層・準富裕層にとっての資産防衛策としての可能性
日本の高齢化や税制強化、将来の社会保障制度への不安などを背景に、「守る資産運用」が求められる時代に突入しています。富裕層・準富裕層にとって、ドバイ不動産はただの投資対象ではなく、**“資産防衛の盾”**となりうる存在です。
たとえば、相続税や贈与税が高額になりがちな日本に対し、ドバイではこれらの課税がなく、家族へのスムーズな資産承継が可能です。また、法人設立を通じて不動産を保有することで、さらなる柔軟な運用や事業承継対策も検討できるようになります。
つまり、ドバイ不動産は「利回り狙い」だけではなく、「資産をどこに置くか」という視点から見ても、検討に値する選択肢なのです。
まとめ:ドバイ不動産投資は「節税目的」だけでは危険

ドバイ不動産投資の最大の魅力は、何と言っても税制の優遇にあります。しかし、それだけを目的とした投資は、非常に危ういとも言えます。
現地の市場動向、為替リスク、日本側の税務処理、送金の壁、そして相続の設計まで。こうしたあらゆる要素を丁寧に把握し、計画的に進めることが求められます。
ドバイの魅力は、「買えば儲かる」ではなく、「正しく理解し、活かせば大きなリターンをもたらす可能性がある」ことにあります。節税はその“副産物”にすぎません。
今後の世界情勢や日本の経済環境を見据えたとき、「海外資産を持つ」という考え方は、もはや一部の富裕層だけのものではなくなってきています。今こそ、日本の投資家が視野を広げるとき。ドバイ不動産は、その第一歩となるにふさわしい存在ではないでしょうか。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。