資産運用といえば、真っ先に思い浮かぶのは「株式」「不動産」「投資信託」ではないでしょうか。どれも一般的かつ身近な投資手段ですが、今、じわじわと注目を集めているのが「事業投資」です。
一言でいえば、「他人のビジネスにお金を出す」投資。あるいは「自分でビジネスを立ち上げる」投資でもあります。
「そんなの経営者や起業家の話でしょ?」と感じた方もいるかもしれません。けれど、今や事業投資は富裕層の“裏メニュー”ではなくなりつつあります。むしろ、ある程度の余裕資産を持つ会社員や個人事業主が、資産の一部を“攻め”の運用に振り分ける選択肢として真剣に検討されているのです。
本記事では、「事業投資とは何か?」という基本から、その具体的な仕組み、リターンとリスク、さらには失敗を避ける実践知識まで、丸ごと解説していきます。
あなたが“なんとなく良さそう”ではなく、“これなら自分でも判断できる”と感じられるように。そして、“知識ある投資家”として次のステージに進むために。資産運用アカデミアが総力を挙げてお届けする、完全ガイドです。
第1章:事業投資とは?──他の投資とどう違うのか

株や不動産とは“根本的に違う”投資スタイル
株式投資は上場企業に対する間接投資、不動産投資は建物や土地という“物件”への資産投下です。これに対し、事業投資は「生身の人間が動かすリアルなビジネス」への投資です。
事業投資では、あなたのお金が「原材料の仕入れ」「人件費の支払い」「新規店舗の開設」など、極めて具体的な活動に使われます。そして、その結果として生まれた利益の一部が、出資者であるあなたの元へと戻ってくる仕組みです。
つまり、事業投資は“お金を出して株を買う”のではなく、“お金を出して一緒にビジネスを動かす”という感覚に近いのです。
投資家=オーナーになるという意味
事業投資の特徴の一つが、「投資家自身が“オーナー的立場”になる」点です。たとえ出資比率が少なかったとしても、会社の成長や経営状況が自分の投資成果に直結するため、投資先との関係性が極めて密接になります。
場合によっては、経営会議に参加する、顧問としてアドバイスを行う、販路や人脈を提供するなど、アクティブに関与するケースも珍しくありません。
もちろん、“何もしない”パッシブ型の事業投資も可能です。クラウドファンディング型やファンド型の投資では、出資するだけでOKというスタイルもあります。
初心者にもわかる代表的な形式
以下は、初心者が検討しやすい代表的な事業投資の形態です:
1. スタートアップ投資(エンジェル投資)
成長性の高い新興企業に出資する形。IPOやM&Aによる“バイアウト”が期待される一方で、倒産・清算リスクも高く、ハイリスク・ハイリターンの典型です。
2. フランチャイズ投資
飲食・介護・小売などのフランチャイズ本部と契約し、既存モデルを使って店舗を運営。初期投資額は数百万円~数千万円で、比較的“再現性”のあるモデルです。
3. 事業承継型投資
高齢のオーナーから黒字中小企業を“買い取る”形。設備や社員、既存の顧客をそのまま引き継げるのが魅力。近年、地方の事業承継ニーズの高まりから注目されています。
4. 共同経営出資(パートナー出資)
既存の経営者とパートナー契約を結び、経営の一部に関与しながら資金を提供する形態。信頼関係と経営能力の見極めが鍵です。
5. クラウドファンディング型事業投資
インターネット上の投資プラットフォームを介し、少額から事業に投資できる仕組み。事業ごとの詳細情報が開示されており、初心者にも取り組みやすい点が特徴です。
第2章:なぜいま、事業投資なのか?──マクロ経済と富裕層トレンドから読み解く

日本の投資環境が“変わった”
これまで日本人の資産運用といえば、「預貯金」が中心でした。実際、2023年時点で日本の家計の現預金比率は約50%と、米国の13%、欧州の35%と比べて突出しています。しかし、時代は明確に変わりつつあります。
超低金利時代が長期化し、銀行に預けていてもお金は増えません。それどころか、インフレや円安によって実質的な「お金の価値」が目減りするリスクが高まっています。2022年以降、日本でも消費者物価指数(CPI)が前年比で3%前後の上昇を見せ、“現金の安全神話”が揺らいでいるのです。
こうした経済環境の変化に対し、先に動き出したのはやはり富裕層でした。
富裕層は「会社」より「事業」に投資している
資産家はなぜ、個別株よりも“リアルな事業”に投資を移しているのでしょうか?その理由は大きく3つあります。
1. 資産分散の一環としての事業投資
伝統的な資産三分法(株・債券・不動産)では対応しきれない、地政学的リスクや市場のボラティリティに備えるため、富裕層は「第四の柱」として事業投資を活用しています。実際、欧米のファミリーオフィスの多くは資産の10~20%を“プライベート・エクイティ”に配分しているというデータもあります。
2. インフレに強いアセットとしての魅力
物価が上がるということは、企業の売上も増える可能性があるということ。特に原材料や人件費を価格に転嫁できるビジネスモデルを持つ企業は、むしろインフレ環境で“強さ”を発揮します。
3. コントロールできる投資という魅力
株式市場では、市場のニュースひとつで株価が乱高下します。しかし事業投資であれば、投資先のビジネスの方針に対して助言をしたり、戦略に関与したりすることで、自らのリスクを管理しやすくなります。
世界的に見ても「ビジネスオーナー」が最も資産を伸ばしている
米フォーブス誌の「世界長者番付」に名を連ねる億万長者たちのほとんどが、実は「投資家」ではなく「事業オーナー」だという事実をご存じでしょうか。
ジェフ・ベゾス(Amazon)、イーロン・マスク(Tesla/SpaceX)、ウォーレン・バフェット(Berkshire Hathaway)──彼らに共通するのは、単なる株式売買ではなく、ビジネスそのものを“育ててきた”という点にあります。
日本でも同様に、実業を通じて資産を築いた人物は数多く存在します。つまり、資産形成において最も強力なエンジンは「ビジネス」なのです。
第3章:事業投資の“5つの魅力”──期待できるリターンの中身

事業投資の魅力は、単なる利回りや数字だけでは語り尽くせません。ここでは、実際に事業投資を行うことで得られる「5つのリターン」について、定量的・定性的な観点から丁寧に掘り下げていきます。
魅力①:キャピタルゲインの可能性──成功すれば“数倍~数十倍”のリターンも
事業投資の醍醐味、それはなんといってもキャピタルゲイン(売却益)です。スタートアップへの投資では、会社がIPO(株式上場)やM&A(企業売却)を果たした場合、出資額の数倍~十数倍のリターンが得られる可能性があります。
例えば、あるベンチャー企業に1,000万円出資し、5年後に10億円で他社に売却された場合、自分の持ち分が10%あれば、それだけで1億円が戻ってくる計算になります。もちろん成功する企業は一部であり、全体の中ではごく少数に過ぎませんが、それだけに“夢のある投資”として注目されているのです。
また、スタートアップに限らず、地方の中小企業を事業承継型で買収し、数年後にバイアウトするケースでも、投資額の2~3倍になる事例が出始めています。
魅力②:インカムゲインの安定性──黒字経営の事業から得られる“配当収入”
事業投資というと、ハイリスク・ハイリターンのイメージが強いですが、実はインカムゲイン(配当や役員報酬)を目的とした“ミドルリスク・ミドルリターン”の戦略も存在します。
例えば、既に黒字経営を続けている飲食チェーンにフランチャイズ加盟する、または安定収益を上げている工場を買収するなどのケースでは、毎月または四半期ごとに一定の収益を得られる可能性があります。
このタイプの投資は、比較的リスクを抑えつつ“経営者目線”のインカムを享受できる点で、一定の資産を持つ準富裕層に人気があります。
魅力③:インフレ・通貨リスクに強い──“物価と一緒に上がる”ビジネスモデル
インフレ環境下において、現金や債券の価値は目減りする一方で、「価格転嫁」が可能な事業を保有していれば、物価上昇分を自社の売上や利益に反映できます。
たとえば、必需品を扱う小売業や、公共性の高いサービス業(介護、教育など)では、物価の上昇に応じて価格改定が比較的受け入れられやすく、結果的にインフレに強いビジネスといえます。
つまり、事業投資は“インフレヘッジ”としての側面も持つということです。これは、資産の目減りを回避したい中長期的な視点を持つ投資家にとって、大きなメリットとなります。
魅力④:税務上の恩恵──節税との相性が良い投資形態
事業投資は、税制面での恩恵が多い投資でもあります。特に以下のような制度を活用すれば、投資時や売却時、または事業承継の場面で大きな節税効果を期待できます。
- 中小企業投資促進税制
- エンジェル税制(スタートアップ投資向け)
- 事業承継税制(親族外M&Aにも適用可能)
- 経営資源集約化税制(2023年改正による新制度)
もちろん、制度活用には一定の条件や手続きが必要ですが、適切に設計すれば「税金を払うよりも事業に投資した方が有利」というケースも十分に考えられます。
税理士との連携や専門家のサポートを受けながら戦略的に進めることで、“節税×資産形成”という二重のメリットを実現することが可能です。
魅力⑤:人脈・経験・社会的意義──お金では買えない“リターン”
最後にご紹介するのは、数字では測れないリターンです。事業投資を通じて得られるのは、金銭的な利益だけではありません。
- 新たな経営者や投資家との出会い
- 自分の経験や知見を活かせる場
- 社会的意義のある事業に関わることの満足感
たとえば、地域創生に取り組む企業への出資や、教育・医療分野のNPO型ビジネスへの投資などは、単なる利回り以上の価値を投資家にもたらします。
「投資を通じて、人生が広がった」「お金よりも充実感が得られた」──そんな声も多く寄せられるのが、事業投資の特徴です。
第4章:事業投資の“4つのリスク”──知らないと痛い落とし穴

資産運用において、“リターン”と“リスク”は常にセットで考えるべきものです。特に事業投資は、他の金融資産よりもリターンが大きい分、注意すべきリスクも多岐にわたります。この章では、実際に発生し得る4つの代表的なリスクとその対処法について、初心者の方にも分かりやすく解説します。
リスク①:元本毀損の可能性──「失敗すればゼロ」になる投資
事業投資で最も警戒すべきなのは、元本が戻ってこない可能性です。特に創業間もないスタートアップや、新規開業のフランチャイズ店舗、経営再建中の事業などに投資した場合、倒産・撤退・事業清算などのリスクが常に付きまといます。
経済産業省の「中小企業白書」によれば、創業から5年以内に廃業する中小企業の割合は約50%前後に達します。つまり、2社に1社が生き残れないという現実があるのです。
これは他の金融商品とは大きく異なる点であり、事業投資における最大のリスクといえるでしょう。したがって、事前に“失っても生活に支障のない金額”で投資を行うこと、リスク分散を意識したポートフォリオを構築することが大前提となります。
②:情報の非対称性──「見えないリスク」が潜んでいる
一般的な株式投資であれば、有価証券報告書やIR資料など、一定の情報開示が義務付けられています。一方、事業投資の多くは非公開企業への投資となるため、「情報の開示レベルが低い」という課題があります。
「売上は順調です」と言われても、それを裏付ける数字が開示されていなければ判断のしようがありません。投資後に突然、資金ショートや税務トラブルが発覚するケースも現実に起こっています。
このような“情報の非対称性”が、事業投資における見えにくいリスクの一つです。これを避けるためには、投資前に財務諸表の閲覧・監査を行う、信頼できるコンサルタントや士業に依頼する、相手方の人間性を“実際に会って確かめる”といった慎重なアプローチが欠かせません。
リスク③:流動性リスク──売りたい時に売れない資産
事業投資は「現金化しにくい」という点でも他の金融資産と異なります。上場株式や投資信託であれば、基本的には売りたい時に市場で売却できますが、未公開企業の持ち分(株式・出資金)は、相手がいない限り売れません。
たとえば、出資後に急に資金が必要になっても、「明日には現金化できる」わけではないのです。売却には数か月〜数年かかる場合も珍しくなく、“資産としての流動性が非常に低い”ことを認識しておく必要があります。
このため、生活資金や短期の支出予定には使えないお金で運用するのが原則です。事業投資は“中長期的視点での資産形成”を前提とした投資であることを忘れてはいけません。
リスク④:精神的・時間的なコスト──“関わり方”で左右される負担
事業投資は“ほったらかし”でできる投資ではありません。特に経営に一定の関与を求められる投資形式(フランチャイズ経営・共同出資型など)では、打ち合わせ・レポート確認・現場訪問など、思った以上に「時間とエネルギー」が必要になるケースも多々あります。
さらに、事業の状況次第では「追加出資を求められる」「社内トラブルに巻き込まれる」「方針の対立が起きる」といった精神的なプレッシャーを感じることも。
こうした“見えにくいコスト”を最小限に抑えるためにも、自分がどのような関与レベルで投資したいのか、事前に明確にしておくことが重要です。
第5章:どんな人に「事業投資」は向いているのか?──自己分析ガイド

事業投資は、誰にでも適している投資手段とは言えません。リターンの魅力がある反面、リスクや関与度合いも大きいため、「自分の性格・資産状況・興味関心」によって適正が分かれます。この章では、あなたが事業投資に向いているかを見極めるためのヒントをお届けします。
資産状況から見た“投資余力”──最低ラインは「可処分資産1,000万円以上」
まず大前提として、事業投資は余裕資金で行うものです。生活費や子どもの教育費、住宅ローンの返済原資などに手を付けて行うべきではありません。
投資業界では一般に、可処分資産(当面使う予定のない金融資産)が1,000万円以上ある人を、事業投資の“最低条件クリア者”と見る傾向があります。理由はシンプルで、1案件あたりの投資金額が100万〜500万円規模になるケースが多いためです。
さらにリスク分散を考えるなら、複数案件への投資が望ましいため、資産全体の10〜20%程度を事業投資に振り分けるのが現実的な戦略です。
性格・価値観から考える“向き・不向き”
事業投資には、「お金の話」だけでは測れない適性があります。たとえば、以下のような人は事業投資に向いていると言えるでしょう。
- ビジネスにロマンを感じる人:「儲かるかどうか」だけでなく、「どうやって儲けるか」に興味があるタイプ
- 人との関わりを厭わない人:経営者との面談やチームビルディングなど、人間関係が鍵になる場面が多いため
- 情報収集が好きな人:市場動向、法制度、ビジネスモデルなど、自ら学ぶ姿勢がある人ほどリターンを高めやすい
一方で、「完全に受け身でいたい」「人付き合いが苦手」「変化に弱い」といったタイプの方には、株式や投資信託といった運用商品が合っているかもしれません。
投資の“関わり方”によって適性が変わる
事業投資には、関わり方によって以下の3つのスタイルがあります。それぞれに求められるスキルや時間的負担が異なりますので、自分に合った関与レベルを選ぶことが重要です。
① 完全パッシブ型(クラウドファンディング・匿名組合出資など)
- 必要スキル:低
- 投資単位:10万円〜
- 負担:ほぼゼロ
- 向いている人:忙しい会社員、手間をかけたくない人
② アドバイザリー型(ファンド出資、パートナー出資など)
- 必要スキル:中(経営分析やビジネス感覚)
- 投資単位:100万〜1,000万円
- 負担:月1〜数回の打ち合わせレベル
- 向いている人:本業での知見を活かしたい、経営に間接的に関与したい人
③ オーナーシップ型(自ら経営する、事業承継を受けるなど)
- 必要スキル:高(財務管理、人事、マーケティングなど総合力)
- 投資単位:500万円〜数千万円
- 負担:日常的な経営関与
- 向いている人:経営者志向が強く、事業そのものにコミットできる人
第6章:事業投資を成功させる「7つのチェックリスト」──後悔しないための判断軸

事業投資は、他の金融資産と違って「人間性」や「実行力」といった非数値的な要素も大きく影響します。だからこそ、実際にお金を投じる前に自分なりの“判断軸”を持つことが極めて重要です。この章では、後悔しない事業投資を実現するための「7つのチェックポイント」を提示します。
チェック①:「遊び金」で済ませない──資産配分の見直しから始める
事業投資は決して“ギャンブル”ではありません。しかし「夢があるから」と勢いで突っ込むと、大きな損失を招く可能性もあります。まず大前提として、資産の中から“失っても生活に支障のない金額”に限定すること。そして、全体の5〜20%程度の範囲でポートフォリオを構成し、他の資産クラス(株・債券・不動産など)とバランスを取りましょう。
チェック②:「実績」よりも「人物」を見る
どんなに事業計画書が魅力的でも、それを実行するのは“人”です。実際、スタートアップの成否は、ほぼ経営者の資質にかかっていると言っても過言ではありません。
特に未上場企業では、定量データ以上に「代表者の人間性」「倫理観」「修羅場経験」が重要です。面談で直接会話し、人間的信頼を感じられるか。これを判断材料に入れることは、意外なほど大きな差を生むのです。
チェック③:「利回り」で選ばず「仕組み」で判断する
「年利15%保証」──このようなうたい文句は、一見魅力的に映るかもしれません。しかし、高利回りには必ず高リスクが伴います。
重要なのは、「なぜその利回りが実現できるのか?」という仕組みを理解すること。利益の源泉がどこにあり、どのようなロジックで出資者に還元されるのかを、自分の言葉で説明できるまで理解しましょう。
理解できない投資には、手を出すべきではありません。それは「投資」ではなく、単なる「投機」にすぎないからです。
チェック④:PL・BSが最低限読めるようになる
事業投資では、企業の財務諸表(PL=損益計算書、BS=貸借対照表)を読む力が必要です。利益率が安定しているか、負債比率は健全か、キャッシュフローが黒字かなど、基本的な項目だけでも理解することで、危ない案件を避けやすくなります。
難しければ、会計士や税理士に相談するのも一手ですが、最低限の数字感覚は“自己防衛の武器”になります。
チェック⑤:契約書・出資契約の中身を必ずチェック
事業投資では、単に「お金を渡して終わり」ではありません。出資契約書、株主間契約書、業務委託契約書など、さまざまな契約書が絡みます。
出資後にトラブルが発生する原因の多くは、「契約書をよく読んでいなかった」「条件が曖昧だった」という点にあります。法律の専門家に一度チェックしてもらうことを推奨します。
チェック⑥:モニタリング計画を立てる──「投資後」を想定する
事業投資は“投資したら終わり”ではなく、“そこからがスタート”です。四半期に一度、業績報告を受ける、年に1回現場を見学する、月次のキャッシュフローを確認するなど、「投資後の関与方針」を明確に持っておくことが、成功確率を高めます。
自分がどれだけ関与できるのか、またそのための体制が整っているのかもチェックポイントです。
チェック⑦:「出口戦略」を必ず持つ──始める前に“終わり方”を考える
投資する前に、「いつ・どうやって回収するか」を決めておくことは、最も重要で、かつ見落とされがちな点です。事業が順調でも、投資家が“出口”を設計していなければ、利益を得るタイミングを逃してしまいます。
- IPOやM&Aによる株式売却
- 配当による回収
- 他の投資家への持ち分譲渡
こうした出口戦略を事前にシナリオ化しておくことで、戦略的な投資判断が可能になります。
第7章:実際の投資形態と選択肢──あなたに合う「事業投資」のスタイルとは?

事業投資と一口に言っても、その形態や関わり方には実に多様なバリエーションがあります。本章では、投資家にとって現実的かつ実行可能な5つの投資形態を厳選し、それぞれの特徴・メリット・リスクを明快に解説します。
投資①:スタートアップ投資(エンジェル投資)
概要:
創業初期のベンチャー企業に資金を提供し、株式を取得することで成長の恩恵を享受する投資スタイル。IPOやM&Aによる“イグジット(出口)”で大きなリターンが期待できます。
メリット:
- 数十倍規模のキャピタルゲインの可能性
- 最先端のビジネスに関わるワクワク感
- 若い経営者との新たなネットワーク形成
リスク・注意点:
- 倒産・清算による元本毀損リスクが高い
- 投資判断に高度な分析力が求められる
- 流動性が非常に低く、回収までに数年単位
向いている人:
ハイリスク・ハイリターンを受け入れられる人、新しいビジネスや技術に関心が高い人
投資②:フランチャイズ投資(オペレーション型)
概要:
飲食、介護、教育などの業種で確立されたフランチャイズチェーンに加盟し、自ら店舗を経営するスタイル。ビジネスモデルが完成しているため、初期の成功確率が比較的高い。
メリット:
- スタート時点でノウハウ・マニュアルが揃っている
- 本部による運営支援・マーケティングが受けられる
- 安定的なキャッシュフローが見込める
リスク・注意点:
- 初期投資が高額(数百万円〜数千万円)
- 従業員トラブル・店舗運営負担など“経営ストレス”も発生
- 加盟契約内容による拘束も強い
向いている人:
“経営者経験”を積みたい人、独立志向のある人、現場に関わることが苦でない人
投資③:事業承継型投資(M&A型)
概要:
後継者不在の中小企業を買収し、経営資源を引き継ぐスタイル。日本全国で深刻化する“後継者問題”を背景に、新たな市場として注目されています。
メリット:
- すでに黒字・安定経営の企業をそのまま承継できる
- 地方創生や社会貢献にもつながる
- 利益を出しつつ、後に第三者へ売却(バイアウト)も可能
リスク・注意点:
- 買収後の従業員マネジメントや風土改革が難航しやすい
- デューデリジェンス(調査)が甘いと隠れ負債を抱えるリスクも
- 買収金額が高額(数千万円〜億単位)になるケースも
向いている人:
経営経験がある、もしくは経営チームを組める人。中長期で事業と向き合える覚悟がある人。
投資④:共同経営出資(パートナー型)
概要:
すでにあるビジネスに“経営パートナー”として資金を出資し、一定の意思決定権やリターンを得るスタイル。自らが事業を回すわけではないが、戦略面で関与できる。
メリット:
- オペレーションを任せつつ、影響力を持てる
- 成功すれば安定的な分配金収入が得られる
- 「お金だけでなく、知恵と経験で支援する」形が可能
リスク・注意点:
- パートナーとの信頼関係に大きく左右される
- 経営方針のズレで関係悪化の可能性も
- 法的な契約・分配設計を慎重に設計する必要あり
向いている人:
過去に起業・経営経験がある人。金融やマーケティングに明るく、戦略面での貢献ができる人。
投資⑤:クラウドファンディング型事業投資(小口分散型)
概要:
ネット上の投資プラットフォームを通じて、数万〜数十万円の少額資金を複数の事業に分散して投資する形態。最近では不動産や飲食店、再生可能エネルギー事業など多様な案件が登場しています。
メリット:
- 少額から始められる(1万円〜)
- 分散投資でリスクヘッジが可能
- サイト上で事業の進捗を視覚的に把握できる
リスク・注意点:
- 利回りは3〜8%と中程度
- 元本保証は一切なし
- プラットフォームの信頼性がカギ
向いている人:
とにかく気軽に始めてみたい人、資金量は少ないが事業投資に興味がある人、忙しくて関与できない人
第8章:制度・税制面の活用ポイント──事業投資を“賢く”進めるために

事業投資を単なる「儲け話」にとどめず、より戦略的かつ安全に運用するためには、税制や公的制度を正しく理解し、積極的に活用することが不可欠です。この章では、事業投資に活用可能な主な制度・優遇措置を紹介しながら、初心者でも取り組みやすい活用ポイントを解説します。
ポイント①:エンジェル税制──スタートアップ投資の味方
エンジェル税制とは、未上場のベンチャー企業に対する個人投資を支援する制度です。一定の条件を満たすスタートアップに出資した場合、所得控除や株式譲渡益の非課税などの税優遇が受けられます。
主なメリット:
- 出資額の最大40%が所得控除の対象になる(優遇措置A)
- 売却時に生じた損失を他の譲渡益から差し引ける(優遇措置B)
たとえば、500万円出資し、その年の所得が1,200万円ある場合、200万円までの所得控除を受けることができ、実質的な税負担を軽減できます。
注意点:
- 対象となる企業は「認定ベンチャー企業」に限られる
- 出資前に申請手続きが必要で、タイミングを逃すと適用されない
税理士やスタートアップ支援団体の協力を仰ぎながら、正確な運用を心がけましょう。
ポイント②:中小企業経営強化税制──設備投資型ビジネスに最適
製造業や物流業など、設備を活用する中小企業への投資・経営参画において活用されるのが「中小企業経営強化税制」です。
一定の設備投資(機械装置や建物など)を行った場合、即時償却や特別償却、税額控除などの優遇が受けられ、法人税・所得税の節税につながります。
活用例:
- 中小製造業をM&Aで取得し、生産設備を導入
- 物流施設を建設して運営開始
特に事業承継型やM&A型の事業投資においては、“設備=節税の武器”となり得るのです。
ポイント③:事業承継税制──親族外M&Aでも適用可能に
「後継者がいない中小企業」を支援するために設計された制度です。2021年度以降、親族外への承継(第三者承継)にも拡大適用されるようになり、事業投資家が事業承継するケースでも利用可能となりました。
条件を満たせば、贈与税・相続税の猶予・免除が認められるため、数千万円〜億単位の企業を取得する際に、資金負担を大きく軽減できます。
注意点:
- 後継者としての5年以上の継続経営が求められる
- 事前の認定・申請が必要で、専門家のサポートは必須
資産を移すだけでなく、“事業も次世代につなぐ”選択肢として注目されています。
ポイント④:経営資源集約化税制(2023年度新制度)
中小企業が他の中小企業の経営資源(人材・販路・知的財産など)を統合する場合に、税制上の優遇が受けられる新制度です。M&Aを活用して事業を再編・集約する際の費用(M&A費用や設備投資など)を一部損金算入できるなどの仕組みがあります。
スタートアップだけでなく、“リアルビジネスの組み換え”を志向する投資家にとって、有力な支援制度となるでしょう。
ポイント⑤:法人化による節税──個人投資では限界がある
ある程度の事業投資を行うならば、「投資会社を設立する」ことも有力な選択肢です。法人化することで、以下のようなメリットがあります:
- 経費計上の自由度が高まる(交通費・コンサル費用・報酬など)
- 所得の分散による節税(役員報酬+配当)
- 将来的な相続・事業承継の設計がしやすくなる
税理士やファイナンシャルプランナーと相談し、自分にとって最も合理的な「法人スキーム」を選択することが成功のカギです。
第9章:【比較表】他の資産運用との違い──「事業投資」は“攻め”か、それとも“無謀”か?

これまで事業投資の魅力とリスク、制度的な支援策までご紹介してきましたが、「結局、自分には何が向いているのか?」という問いは、どの投資家にも共通です。そこで本章では、株式、不動産、投資信託、債券など、代表的な資産運用手段と比較しながら、事業投資の特性を可視化します。
代表的な資産運用手段との比較表
比較項目 | 事業投資 | 株式投資 | 不動産投資 | 債券投資 | 投資信託 |
---|---|---|---|---|---|
リターンの大きさ | 非常に高い(成功時は数十倍) | 中~高(成長株は高リターン) | 中(安定的な賃料収入) | 低~中(安定だが限定的) | 中(分散投資による安定) |
リスクの高さ | 非常に高い(元本毀損リスクあり) | 中~高(価格変動大) | 中(空室・金利リスクあり) | 低(比較的安定) | 中(分散効果により軽減) |
流動性(換金性) | 非常に低い(年単位の回収) | 非常に高い(市場で即売却可) | 中~低(売却に数ヶ月) | 高(満期前売却も可能) | 高(市場ですぐに売却可) |
必要な資産額 | 中~高(数十万〜数千万円) | 低~中(数万円〜) | 高(頭金・諸費用必要) | 低(数万円〜) | 低(100円〜可能) |
投資知識・分析力 | 高(経営・財務・市場分析力が必要) | 中(ファンダ・テクニカル) | 中(地域分析、融資理解) | 低(基本的な知識で可) | 低~中(銘柄選びがカギ) |
節税メリット | 非常に高い(制度・法人化の活用) | 一部あり(NISA、損益通算) | 高(減価償却、法人スキーム) | 低(個人運用では限定的) | 一部あり(NISA適用など) |
社会的意義 | 非常に高い(雇用創出・地域活性化) | 低(市場に流動性提供) | 中(居住環境の供給) | 低 | 低 |
経営者関与度 | 高(場合によっては運営まで関与) | 無し | 中(管理会社との連携あり) | 無し | 無し |
“攻め”の資産運用としての位置づけ
上記を見て分かる通り、事業投資は「流動性が低く、難易度が高い」というデメリットがある一方で、リターンの大きさ・節税効果・社会的意義といった面で他の資産を圧倒的に上回る側面も持ち合わせています。
つまり、事業投資は守りの資産形成ではなく、「攻め」の資産構築に特化した投資手段だと言えるのです。
そのため、株や投資信託でコツコツと資産を築き、「ある程度の金融資産が形成された後に取り組むステージ」として非常に理にかなった位置づけとなります。
資産ポートフォリオにおけるバランス戦略
理想的なのは、事業投資を資産全体の「10〜20%程度」にとどめるバランス型戦略です。
- 生活防衛資金(預貯金):20%
- 安定資産(債券・投信):30〜40%
- 成長資産(株・不動産):30%
- 攻め資産(事業投資):10〜20%
このようにバランスを取ることで、万が一の損失時も家計や資産形成計画全体に大きな支障をきたさず、長期的な投資戦略の一環として事業投資を活かすことが可能になります。
第10章:【まとめ】事業投資に踏み出す前に確認すべきこと──判断軸はあなた自身の中にある

本記事では、事業投資の全体像から具体的な手段、リターンとリスク、そして税制まで幅広く掘り下げてきました。ここでは、もう一度ポイントを整理しながら、実際に投資判断を下す前に確認しておくべき「あなた自身の判断軸」について考えていきましょう。
1. 目的を明確にする──「なぜ事業投資をしたいのか?」
最初に問うべきは、「なぜ自分は事業投資をしたいのか?」という根本的な問いです。単に“お金を増やしたい”という理由も一つですが、それだけで事業投資に踏み切ると、途中で揺らぐ可能性があります。
- 成長性の高い資産運用に挑戦したい
- 社会的に意味のある事業を支援したい
- 経営というフィールドで自分の知見を活かしたい
このように、「お金のため」だけでなく、「人生観や価値観に合った目的」を持つことが、成功確率を高める要素になります。
2. 自分のリスク許容度を冷静に把握する
事業投資には、当然ながら元本を失うリスクが伴います。そのため、自分の資産状況・収入・生活環境などをもとに、「どれだけの金額なら失っても精神的にブレないか?」を真剣にシミュレーションしておくことが重要です。
「感情」で突っ走るのではなく、「戦略」で進む。これが投資家としての成熟です。
3. 投資だけでなく、“学び”として捉える意識を持つ
事業投資の大きな魅力は、「お金の増減」以上に「学びと経験」にあります。経営者との対話、現場視察、財務のチェックなど、実際のビジネスと向き合うことで得られる洞察は、株式投資や投資信託では決して味わえないものです。
特に初心者の方にとっては、小額から始めて“投資家としての筋肉”を鍛える機会と捉えると、心構えも違ってきます。
4. 一歩踏み出すこと自体が「学び」になる
「失敗したらどうしよう」と悩み続けて、結局何も始められない方は少なくありません。しかし、成功している投資家に共通しているのは、「小さな失敗を重ねながら学び、成長している」という点です。
- まずは少額でクラウドファンディングから始める
- 地元の事業者と面談してみる
- ビジネススクールやセミナーに参加してみる
こうした“小さな一歩”が、後の大きな資産運用の礎となります。
【最終メッセージ】「お金を働かせる」から、「ビジネスに関わる」へ
事業投資は、単に“お金を働かせる”だけではありません。時に、人を応援し、地域を育て、社会を変えていく力を持つ投資手段です。
あなたが資産運用のステージを一歩進めたいと思ったとき、きっと「事業投資」という選択肢が、人生を豊かにしてくれるはずです。
資産運用アカデミアは、今後もそんなあなたの意思決定に寄り添い、信頼できる情報と視点を提供し続けます。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。