日本の企業経営者の高齢化が進む中、事業承継の課題はますます深刻化しています。
中小企業庁の調査によると、日本の経営者の平均年齢は約60歳に達しており、今後10年以内に経営者交代を迫られる企業が急増すると予測されています。
しかし、実際には約66%の企業が「後継者未定」のまま、具体的な承継計画を持っていないのが現状です。
事業承継は単なる「経営権の引き継ぎ」ではありません。
「いかにして会社を存続・成長させるか?」という経営戦略の一環であるべきなのです。
また、資産管理会社を活用することで、税制上のメリットを享受するだけでなく、事業の持続可能性を高める重要な役割を果たすことができます。
しかし、多くの企業は「資産管理会社=節税対策」としか捉えておらず、その本質的な活用法を十分に理解していません。
本記事では、単なる制度の説明にとどまらず、プロの視点から見た「戦略的な事業承継と資産管理の活用法」を詳しく解説します。
「税制に依存するのではなく、事業の未来を見据えた承継戦略とは何か?」
「資産管理会社を単なる『資産の受け皿』ではなく、『企業成長の基盤』とするにはどうすべきか?」
こうした問いに対して、本記事では、制度の枠を超えた視点で考察し、経営者が本当に知るべき事業承継の戦略を解説します。
事業承継と資産管理の基本

1. 事業承継の目的と重要性
1-1. 事業承継とは?
事業承継とは、会社の経営権や資産を次世代へ引き継ぐプロセスのことを指します。企業経営者の高齢化が進む日本において、事業承継は極めて重要なテーマです。
中小企業庁の統計によると、日本の中小企業経営者の平均年齢は約60歳。さらに、経営者の約60%以上が「後継者が未定」という課題を抱えています。これは、事業の継続性を危うくする大きなリスクとなり得ます。
事業承継の主な目的は以下の3点です。
- 経営の安定
- 事業の継続には、経営のバトンタッチがスムーズに行われることが不可欠です。承継がうまくいかないと、経営の停滞や混乱が発生し、競争力の低下につながります。
- 雇用の維持
- 企業が存続することで、従業員の雇用を確保できます。経営者の引退に伴い会社が解散すれば、多くの従業員が職を失うことになります。
- 財産の継承
- 企業の資産(株式、不動産、特許、ノウハウなど)を後継者へ適切に移転し、企業価値を維持することが求められます。
事業承継の成功は、企業の将来を左右する最も重要な経営課題の一つなのです。
1-2. 事業承継税制の概要
事業承継には、相続税や贈与税の大きな負担が伴います。これを軽減するために、日本では事業承継税制が設けられています。
事業承継税制とは?
事業承継税制は、中小企業が後継者へ経営権を移転する際に適用される相続税・贈与税の納税猶予制度です。
✅ 適用を受けることで、以下のメリットがあります。
- 贈与税・相続税の100%猶予(一定の要件を満たせば最終的に免除)
- 後継者が株式を相続または贈与された際の資金負担を軽減
- 事業継続に必要なキャッシュフローを確保できる
ただし、適用には厳格な条件があり、全ての企業が利用できるわけではありません。
特に、「資産管理会社」と見なされた場合、事業承継税制の対象外となるため、注意が必要です(詳細は後述)。
1-3. 事業承継の際の課題と対策
事業承継は単に株式を移転するだけではなく、経営体制や従業員のマネジメント、金融機関との関係など、多くの要素が関わってきます。
主な課題とその対策を以下にまとめました。
課題 | 具体的なリスク | 対策 |
---|---|---|
後継者の不在 | 事業を継ぐ人がいないと会社が存続できない | 早期に後継者候補を決め、育成計画を立てる |
税負担の大きさ | 相続税・贈与税の負担が大きく、資金繰りが悪化 | 事業承継税制の活用、M&Aの検討 |
従業員の離職リスク | 経営交代による不安で優秀な社員が流出 | 早めの社内コミュニケーション、承継計画の透明化 |
金融機関との関係 | 代表者交代による融資条件の変更リスク | 銀行と早めに交渉し、経営計画を共有 |
事業承継は計画的に進めることが成功の鍵です。10年単位での承継計画を策定し、後継者の育成や財務戦略を整えていくことが重要でしょう。
2. 資産管理会社とは?
2-1. 資産保有型会社と資産運用型会社の違い
「資産管理会社」とは、企業が本業とは異なる形で資産を管理・運用する目的で設立した会社を指します。
資産管理会社は、大きく2種類に分類されます。
- 資産保有型会社
- 総資産の70%以上が「特定資産」(不動産、有価証券、預金など)の場合
- 例:不動産管理会社、持株会社
- 資産運用型会社
- 総収入の75%以上が「資産運用収入」(賃貸収入、配当収入など)の場合
- 例:賃貸経営会社、投資会社
2-2. 資産管理会社が事業承継税制の適用対象外となる理由
事業承継税制では、「資産管理会社」は原則として対象外です。その理由は、事業の実態がないとみなされるためです。
✅ 資産管理会社が対象外となる主な理由
- 経営の実態が不透明(オーナー個人の資産運用が目的)
- 従業員を雇用していないケースが多い
- 雇用維持や地域経済への貢献が小さい
- 事業活動よりも税務メリットを追求する会社が多い
ただし、一定の事業実態要件を満たせば、資産管理会社であっても事業承継税制の適用を受けられるケースがあるため、慎重に確認する必要があります。
2-3. 特定資産の種類とその影響
「特定資産」とは、事業の本質的な運営とは関係が薄いとされる資産を指します。主なものを以下に示します。
特定資産の種類 | 具体例 |
---|---|
有価証券 | 株式、社債、投資信託 |
不動産 | 遊休地、賃貸用不動産 |
現金・預金 | 余剰資金、定期預金 |
貴金属・動産 | 宝石、骨董品、会員権 |
これらの資産が一定割合を超えると、資産管理会社と判定され、事業承継税制が適用されなくなるため注意が必要です。
2. 事業承継税制の適用要件

2-1. 事業承継税制の基本要件
2-1-1. 事業承継税制とは?
事業承継税制とは、企業の後継者が経営権を引き継ぐ際に発生する相続税・贈与税の負担を軽減するための税優遇制度です。
この制度を活用することで、後継者の財務的負担を抑えつつ、スムーズな事業承継を実現できます。
日本では中小企業の約66%が後継者不在という深刻な問題を抱えています。
特に経営者が高齢化する中、事業承継の計画が不十分な企業は、承継のタイミングで税負担により経営継続が難しくなるケースも少なくありません。
そのため、国は事業承継税制を導入し、一定の要件を満たす企業に対して相続税や贈与税の納税猶予を認めています。
これにより、資金負担を最小限に抑えながら経営を引き継ぐことが可能になります。
2-1-2. 経営承継円滑化法で定義される中小企業であること
事業承継税制を利用するためには、経営承継円滑化法に基づく中小企業であることが前提となります。
この法律において、中小企業の定義は以下の通りです。
中小企業の定義(業種別)
業種 | 資本金の上限 | 従業員数の上限 |
---|---|---|
製造業・建設業・運輸業 | 3億円以下 | 300人以下 |
卸売業 | 1億円以下 | 100人以下 |
小売業 | 5,000万円以下 | 50人以下 |
サービス業 | 5,000万円以下 | 100人以下 |
✅ この基準を満たさない場合は、事業承継税制の適用対象外となります。
たとえば、大企業のグループ会社や資本金の大きい企業は制度の適用を受けることができません。
2-1-3. 上場企業・風俗営業会社・資産管理会社は原則対象外
事業承継税制には、対象外となる業種や企業形態があります。
特に、以下の3つの企業は原則として適用を受けられません。
① 上場企業
- 上場企業は株式市場で自由に売買が可能であり、事業承継の必要性が低いため、事業承継税制の対象にはなりません。
② 風俗営業会社
- 風営法に基づくパチンコ、ナイトクラブ、ゲームセンターなどは、事業承継税制の適用対象外です。
③ 資産管理会社
- 総資産の大部分が有価証券や不動産で構成されている会社は、税制適用の対象外となります。
- ただし、一定の要件を満たせば、資産管理会社でも適用を受けられるケースがあります(詳細は後述)。
2-2. 資産管理会社の形式要件
事業承継税制の適用を受けられるかどうかは、企業の**「資産管理会社」に該当するかどうか**が重要なポイントになります。
資産管理会社とは、本業の事業活動よりも、資産運用を主体とする会社のことを指します。
資産管理会社には以下の2つの分類があります。
2-2-1. 資産保有型会社の判定基準
資産保有型会社とは、総資産の70%以上が「特定資産」で構成されている企業を指します。
特定資産とは?
「特定資産」とは、事業の本質的な運営とは関係が薄いとされる資産を指します。主なものは以下の通りです。
特定資産の種類 | 具体例 |
---|---|
有価証券 | 株式、社債、投資信託 |
不動産 | 遊休地、賃貸用不動産 |
現金・預金 | 余剰資金、定期預金 |
貴金属・動産 | 宝石、骨董品、会員権 |
例えば、企業が本業として製造業を営んでいたとしても、その総資産の70%以上が賃貸用不動産や株式などで構成されている場合、資産保有型会社とみなされます。
✅ 資産保有型会社に該当すると、事業承継税制は適用されません。
2-2-2. 資産運用型会社の判定基準
資産運用型会社とは、会社の総収入のうち75%以上が資産運用収入(不動産賃貸・株式配当・預金利息など)で構成される企業を指します。
例えば、年間収入が1億円の企業が、そのうち8,000万円を不動産賃貸や株式配当で得ている場合、この企業は資産運用型会社とみなされます。
✅ 資産運用型会社も、事業承継税制の適用外となります。
2-3. 形式要件による判定方法と具体例
企業が事業承継税制を適用できるかどうかは、形式要件による判定が重要です。
以下のステップで判断されます。
判定ステップ
- 会社の総資産に占める特定資産の割合を計算する
- 70%以上なら「資産保有型会社」と判定
- 会社の総収入に占める資産運用収入の割合を計算する
- 75%以上なら「資産運用型会社」と判定
- 資産保有型・資産運用型のいずれかに該当すれば、事業承継税制の適用外
- 事業実態要件(次章で解説)を満たしていれば、資産管理会社の対象外となる可能性あり
判定の具体例
【ケース①:製造業を営む会社】
✅ 会社の総資産の内訳
- 工場・設備:50%
- 運転資金:20%
- 賃貸不動産:15%
- 有価証券:15%
この場合、特定資産(賃貸不動産+有価証券)が総資産の30%未満であるため、資産保有型会社には該当しません。
✅ 事業承継税制の適用対象
【ケース②:不動産賃貸業を営む会社】
❌ 会社の総収入の内訳
- 不動産賃貸収入:80%
- 商品販売収入:20%
この場合、不動産賃貸収入が75%を超えているため、資産運用型会社に該当し、事業承継税制の適用外となります。
3. 事業実態要件を満たせば資産管理会社として除外されるケース

3-1. 形式要件に該当しても、事業実態要件を満たせば適用可能
資産管理会社と判断されると、事業承継税制の適用を受けることができません。 しかし、形式要件に該当していたとしても、一定の事業実態要件を満たしていれば、例外として事業承継税制の適用対象となる可能性があります。
この「事業実態要件」を満たしているかどうかの判断は、会社が実際に事業を運営しているかどうかが基準となります。
つまり、たとえ資産管理会社に該当する企業であっても、形式的に資産管理を行っているだけでなく、実際に経済活動を行っていると認められれば、事業承継税制の適用が可能です。
では、どのような企業が資産管理会社から除外されるのでしょうか?
次の3つの要件を満たしているかが判断基準となります。
3-2. 資産管理会社の除外規定(3つの要件)
資産管理会社に該当する場合でも、以下の3つの要件を満たせば、事業承継税制の適用を受けることが可能です。
3-2-1. 従業員5人以上(親族を除く)
事業実態を示す重要な指標の一つが、「従業員数」です。
単なる資産運用会社ではなく、実際に事業を行っていることを示すためには、5人以上の従業員を雇用している必要があります。
従業員数の判定基準
✅ 社会保険に加入しているかどうかがポイント
社会保険の加入状況は、事業の実態を証明する上で重要な指標となります。従業員数としてカウントされるのは、社会保険に加入している者のみです。
✅ 役員・親族はカウントされない
- 後継者や経営者の親族(配偶者や子ども)は従業員数に含まれません。
- 役員(取締役・監査役)は雇用関係ではないため、従業員にはカウントされません。
✅ パート・アルバイトの扱い
- パートタイマー・アルバイトでも、社会保険に加入している場合は従業員としてカウントされる。
- 逆に、社会保険に未加入の場合はカウントされない。
例:従業員数の判定
従業員 | 社会保険加入 | カウント対象? |
---|---|---|
Aさん(フルタイム正社員) | ✅ | ✅ |
Bさん(パート、社会保険加入) | ✅ | ✅ |
Cさん(パート、社会保険未加入) | ❌ | ❌ |
Dさん(取締役) | ✅ | ❌ |
Eさん(社長の長男、後継者) | ✅ | ❌ |
このように、社会保険の加入状況や役職によって、実際のカウント数が変わるため、要件を満たしているか慎重に確認する必要があります。
3-2-2. 事務所・店舗・工場などの固定施設を所有または賃借していること
事業実態があることを示すためには、「固定施設の存在」も重要な要素です。
単なる資産管理ではなく、実際にビジネスを運営している場合は、事務所や店舗、工場などの物理的な拠点を有していることが求められます。
認められる固定施設の例
✅ 事務所(本社・営業所)
✅ 店舗(小売店・飲食店)
✅ 工場(製造業の生産拠点)
✅ 賃貸契約を締結しているレンタルオフィス
認められない例
❌ 社長の自宅(事務所と兼用の場合もNG)
❌ 倉庫のみを持っている場合(販売や営業の拠点ではないため)
❌ バーチャルオフィス(住所のみ)
✅ 固定施設は所有していなくてもOK 事務所や店舗を「所有」している必要はなく、賃貸でも問題ありません。
ただし、実態がないペーパーカンパニーとみなされるケースを避けるために、登記や契約書などで証明できるようにしておくことが重要です。
3-2-3. 3年以上継続した事業実績があること
事業承継税制の適用を受けるには、「事業の継続性」も重要なポイントになります。
そのため、事業を3年以上継続して行っていることが条件とされています。
✅ どのような業種が対象になるのか? 継続して行われている事業として認められるのは、以下のような業種です。
業種 | 具体例 |
---|---|
販売業 | 小売店、卸売業、ECサイト運営 |
サービス業 | IT、コンサルティング、飲食業、美容業 |
不動産管理業 | 不動産賃貸、物件管理、リフォーム業 |
製造業 | 工場での生産・加工業務 |
特に、不動産管理業などの資産管理会社に近い業種の場合でも、実際に運営を続けていれば、事業実態があると認められる可能性が高くなります。
✅ どのように証明するか? 事業の継続性を証明するためには、以下のような書類を準備することが推奨されます。
📌 過去3年分の決算書(売上・経費が記録されていること)
📌 事業計画書や契約書(取引実績があることを示す)
📌 従業員の雇用契約書・給与明細(労働の実態があること)
3-3. 事業承継税制の適用を受けるための具体例
3-3-1. 不動産管理会社でも実態要件を満たせば適用可能
不動産管理会社は、資産管理会社と見なされやすい業種の一つです。
しかし、以下のような条件を満たせば、事業承継税制の適用を受けられる可能性があります。
✅ 従業員5人以上を雇用(清掃・管理・営業スタッフ)
✅ 管理オフィスを設置し、賃貸契約を締結
✅ 入居者管理・修繕・リーシング業務を3年以上行っている
このような場合、不動産管理会社でも実態要件を満たす企業と認められ、事業承継税制の対象となる可能性があるのです。
4. 事業承継税制を適用する際の注意点

事業承継税制を活用することで、後継者の相続税・贈与税の負担を大幅に軽減することが可能です。
しかし、制度を適用するためには一定の要件を満たし続ける必要があり、適用後に要件を逸脱すると納税猶予が取り消され、多額の税金を支払わなければならないリスクもあります。
本章では、事業承継税制を適用する際に注意すべきリスクとその回避策について詳しく解説します。
4-1. 事業実態要件を満たさない場合のリスク
事業承継税制を適用するには、「事業実態要件」を満たしていることが必要です。
しかし、適用後に事業実態要件を維持できなくなると、制度の適用外とされ、納税猶予が取り消されるリスクがあります。
4-1-1. 事業承継後も要件を満たし続ける必要がある
事業承継税制の適用を受けた企業は、適用後も事業実態要件を維持し続けることが求められます。
特に、事業実態要件の3つの要件(従業員5人以上、固定施設の所有・賃借、3年以上の事業継続)を満たせなくなった場合、制度の適用が取り消される可能性があります。
要件を維持できなくなる主なケース
ケース | リスクの内容 |
---|---|
従業員が5人未満になる | 従業員の退職により要件を満たせなくなる |
事務所・工場を手放す | 経営悪化などで固定施設を維持できなくなる |
売上低迷による事業縮小 | 事業活動が形骸化し、実態が認められなくなる |
たとえば、適用後に従業員数が5人を下回ると、事業承継税制の要件を満たさなくなり、税優遇が取り消される可能性が高くなります。
そのため、適用を受けた後も、要件を満たし続けるための対策を講じることが必要です。
✅ 事業実態要件を維持するための対策
- 従業員数の管理 → 事業承継後も5人以上の雇用を維持
- 固定施設の確保 → 事業継続に必要な事務所・工場を維持
- 売上の安定確保 → 経営戦略を見直し、収益性を維持する
4-2. 納税猶予を受ける際の注意点
事業承継税制は、単に制度を適用するだけではなく、適用後も細かい規定に注意しなければなりません。
特に、**「特別子会社の判定基準」や「資産管理会社の形式変更」**が大きな影響を及ぼすため、慎重な判断が必要です。
4-2-1. 特別子会社の判定基準と影響
事業承継税制では、適用を受ける企業だけでなく、その企業の子会社(特別子会社)にも適用条件が影響します。
✅ 特別子会社とは?
- 代表者とその同族関係者が総議決権数の50%以上を保有する会社
- 資産管理会社ではないこと
- 事業実態があること(要件を満たしている)
特別子会社が資産管理会社と判断されると、事業承継税制の適用が制限される可能性があります。
そのため、グループ会社がある場合、特別子会社の事業実態にも注意する必要があります。
✅ 特別子会社の管理ポイント
- 持株比率を調整し、特別子会社に該当しないようにする
- 子会社の事業実態を明確化し、資産管理会社と判定されないようにする
- 特別子会社の定義を把握し、事前にリスクを回避する
4-2-2. 資産管理会社の形式変更(事業実態要件を満たすための工夫)
事業承継税制の適用を受けるためには、資産管理会社であることを避ける必要があります。
しかし、企業の実態として、一定の資産運用を行うことは避けられないケースもあります。
そこで、事業実態要件を満たすために資産管理会社の形式を変更する方法が有効です。
✅ 形式変更の具体的な対策
- 従業員5人以上の雇用を確保する
→ 人員不足にならないように、計画的な雇用を実施する - 不動産賃貸業から、管理業務を含む事業形態へシフトする
→ 単なる賃貸収益ではなく、運営管理業務を強化することで事業実態を確保 - 本業の売上を増やし、総収入の75%以上が資産運用収入にならないようにする
→ 物販やサービス提供を強化し、バランスを調整する
このように、事業の形態を見直すことで、資産管理会社と判定されないように調整することが可能です。
4-3. 制度の適用後に形式要件を満たさなくなった場合
事業承継税制は、適用を受けた後も要件を満たし続ける必要があります。
もし、適用後に形式要件を満たさなくなった場合、納税猶予が取り消され、多額の税負担が発生する可能性があります。
4-3-1. 納税猶予の取り消しリスク
納税猶予を受けた後、以下のような事態が発生すると、猶予されていた税額を一括で納付しなければならない可能性があります。
✅ 納税猶予が取り消される主なケース
ケース | リスクの内容 |
---|---|
事業実態要件を満たさなくなる | 従業員数減少、売上低下など |
会社を売却・解散する | 事業承継の継続性が損なわれる |
代表者が交代し、要件を満たさなくなる | 適格な後継者でなくなる |
例えば、事業縮小により従業員が5人未満になった場合、納税猶予が取り消され、贈与税や相続税を即時納付しなければならなくなる可能性があります。
✅ 納税猶予取り消しを防ぐための対策
- 事業計画を慎重に策定し、事業の安定性を確保する
- 納税猶予を受ける際に、リスク管理を徹底する
- 事業承継後も事業の継続性を意識した経営を行う
5. 事業承継における資産管理会社の戦略的活用

5-1. 事業承継税制を活用する際の戦略
事業承継において、資産管理会社の活用は極めて重要な戦略の一つです。
特に、株式の承継をスムーズに進めるための手段として、事業承継税制の適用を受けることが有効ですが、そのためには適切な準備と計画が不可欠です。
5-1-1. 早めの計画が必要(設立後3年以上の実績を作る)
事業承継税制を適用するためには、資産管理会社であっても「事業実態要件」を満たす必要があります。
その中でも特に重要なのが、「3年以上の事業実績」の要件です。
✅ なぜ「3年以上の事業実績」が必要なのか?
- 事業承継税制では、形式的な資産管理会社ではなく、実態のある事業会社であることが求められる。
- そのため、少なくとも3年以上の事業継続が確認できることが前提条件となる。
- 設立から3年未満の会社では、「資産管理会社」と判断されやすく、事業承継税制の適用が困難になる。
✅ 事業実績を積むためのポイント
- 設立後すぐに営業活動を開始し、売上を確保する
- 固定施設(オフィスや店舗)を確保し、従業員を雇用する
- 収益の柱となる事業を持ち、売上比率が資産運用収益を上回るようにする
📌 実例:資産管理会社の事業転換 例えば、不動産賃貸業を営む会社が事業承継税制を活用する場合、単なる賃貸収益だけでは資産管理会社と見なされる可能性が高いです。
そのため、不動産管理業務(入居者対応・修繕管理など)を自社で行うことで、事業実態を強化し、適用可能性を高めるといった工夫が求められます。
5-1-2. 納税猶予を受けられる資産管理会社の特徴
事業承継税制を適用できる資産管理会社は、一定の要件を満たしている必要があります。
特に、以下の条件をクリアしている企業は、資産管理会社であっても納税猶予の適用を受ける可能性が高くなります。
✅ 納税猶予を受けられる資産管理会社の主な特徴
- 事業実態要件を満たしている(従業員5人以上、固定施設を所有、3年以上の実績)
- 総収入の75%以上が資産運用収益ではない(不動産賃貸業などは、管理業務を強化することで該当しない可能性あり)
- オーナー個人の資産管理目的ではなく、会社経営として実態がある
- 後継者が経営権を継承し、事業の継続が見込まれる
📌 重要ポイント
- 事業収益と資産運用収益のバランスを調整することがカギ
- 資産の「管理」ではなく、「運営」に重点を置くと、事業実態を証明しやすい
- 後継者の経営能力を高めることで、金融機関や税務署からの承認を得やすくなる
5-2. 事業承継計画に資産管理会社を組み込む方法
資産管理会社を活用した事業承継には、「種類株式」や「信託」などの手法を組み合わせることで、より柔軟かつ効果的な承継が可能となります。
5-2-1. 種類株式の活用(経営権のコントロール)
種類株式とは?
通常の普通株式とは異なり、議決権や配当権、譲渡制限などの条件を設定できる株式です。
事業承継において、後継者へのスムーズな承継と経営権のコントロールを両立するために活用されます。
✅ 種類株式の活用方法
種類株式の種類 | 活用方法 |
---|---|
拒否権付株式 | 重要事項について、後継者が独断で決定できないように制限 |
無議決権株式 | 経営には関与せず、配当のみを受け取る株式として活用 |
譲渡制限付株式 | オーナーの意向に反した第三者への株式譲渡を防止 |
📌 実例:親族内承継における種類株式の活用 例えば、オーナー社長が後継者(長男)に経営権を承継したいが、他の親族(次男・長女)にも会社の利益を還元したい場合、
「後継者には議決権のある株式を与え、他の親族には無議決権株式を付与する」といった方法でバランスを取ることが可能です。
5-2-2. 信託を利用した資産管理会社の承継モデル
事業承継において、信託を活用することで、資産管理会社のスムーズな移転が可能となります。
✅ 信託を活用するメリット
- オーナーが存命中に後継者へ経営権を移譲できる
- 株式の分散を防ぎ、一貫した経営体制を維持できる
- 相続トラブルを回避し、スムーズな承継を実現できる
📌 実例:後継者育成期間中の信託活用
- オーナー社長(委託者)が、信託銀行(受託者)に株式を信託
- 後継者(受益者)は、一定の条件を満たした時点で株式を取得
- オーナー存命中に、後継者の経営能力を確認しながらスムーズに承継できる
✅ 信託を活用する際のポイント
- 後継者の選定と育成を計画的に進める
- 契約内容を明確化し、承継後の経営権を安定させる
- 税務メリットを考慮しながら、最適なタイミングで活用する
6. まとめ—「戦略的な承継」こそが未来を決める

事業承継税制や資産管理会社の活用は、「どのように事業を承継するか」を考えるうえでの手段にすぎません。
重要なのは、「なぜ承継するのか」「承継後にどのような成長を描くのか」という視点を持つことです。
事業承継を成功させるためのプロの視点
- 税制に頼るのではなく、事業そのものの持続性を重視する
- 資産管理会社を「経営戦略の一部」として活用し、成長に活かす
- ファミリービジネスの発想を取り入れ、長期的な視点で経営を考える
📌 最後に、事業承継は、「終わり」ではなく「新たなスタート」です。
未来を見据えた「戦略的な承継」ができるかどうかが、企業の持続可能性を決める最も重要なポイントになるでしょう。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。