オフィスビル投資は、長期的な安定収益を見込める不動産投資の一つ です。
企業が借主となるため、住宅賃貸と比べて契約期間が長く、賃料未払いリスクが低い という魅力があります。一方で、景気の変動やテレワークの普及といった外部要因の影響を受けやすく、慎重な市場分析と戦略が求められます。
近年では、ESG投資(環境・社会・ガバナンス)への関心の高まりから、環境配慮型オフィスの需要が増加し、オフィス市場も新たな転換点を迎えています。また、海外投資家の日本市場への関心が高まっており、特に東京・大阪のAグレードオフィス には多くの資本が流入しています。
しかし、オフィスビル投資は 初期投資額が大きく、流動性が低いため、誰にでも適した投資ではありません。本記事では、オフィスビル投資の メリット・デメリット、リスクとリターン、物件選びのポイント まで、初心者でも理解できるように徹底解説 します。
オフィスビル投資に興味がある方は、ぜひ 市場の動向を見極めながら、自分の投資スタイルに合った戦略を考える 参考にしてください!
1. オフィスビル投資とは?

オフィスビル投資とは、法人や個人投資家が オフィスビルを購入し、賃貸収入や売却益を得ることを目的とした不動産投資の一形態 です。住宅投資と異なり、賃貸対象は 企業 であり、契約期間が長期にわたることが特徴です。
特に、都心部のオフィスビルは、経済の中心地としての安定性が高く、多くの企業が拠点を構えるため、一定の需要が保たれています。さらに、オフィスビルは テナントの信用力が高いため、賃料の未払いリスクが低い というメリットもあります。
不動産投資の中での位置づけ
不動産投資には、主に以下のような種類があります。
- 住宅投資(アパート・マンション)
- 商業施設投資(ショッピングモール・店舗)
- 物流施設投資(倉庫・配送センター)
- オフィスビル投資
この中でも、オフィスビル投資は「高リスク・高リターン」の傾向が強い投資 と言われています。その理由は、景気動向や企業の業績に左右されやすいからです。一方で、都心の一等地にあるオフィスビルは、経済が安定している限り 強い資産価値を維持しやすく、長期的に安定収益を見込める のが魅力です。
個人投資家・法人がオフィスビル投資を検討する理由
オフィスビル投資は、主に 法人投資家 や 資産を多く持つ個人投資家 によって行われることが一般的です。なぜなら、投資対象となる物件の価格が高額なため、一定の資金力が必要だからです。
近年では、不動産クラウドファンディング や J-REIT(不動産投資信託) などを活用することで、比較的少額からオフィスビル投資に参加できる 手段も登場しています。個人投資家にとっても、リスク分散の一環として注目されています。
主な投資目的
- 安定的なキャッシュフローの確保
- 資産価値の上昇によるキャピタルゲインの獲得
- 企業の信用力を活かした長期的な収益確保
- インフレ対策としての実物資産の活用
- 法人の節税対策(減価償却の活用)
どのようなリターンが期待できるのか?
オフィスビル投資では、主に インカムゲイン(賃料収入) と キャピタルゲイン(売却益) の2つのリターンを期待できます。
- インカムゲイン:
一般的に オフィスビルの利回りは4〜6%程度 と言われています。住宅投資と比べると高い水準ですが、管理コストも考慮する必要があります。 - キャピタルゲイン:
特に 再開発エリアや人気エリアのオフィスビルは、時間とともに資産価値が向上し、売却時に大きな利益を得られる 可能性があります。逆に、景気の変動によって価格が下落するリスクもあるため、タイミングの見極めが重要です。
2. オフィスビル投資が注目される理由

安定した賃料収入
長期契約が一般的
オフィスビルの賃貸契約は 3〜10年 という長期間で設定されることが多く、住宅賃貸よりも安定した収益を確保しやすいのが特徴です。さらに、法人が契約するため、入居者の信用力が高く、滞納リスクが低い 点も魅力です。
住宅賃貸とは異なる「法人向け」の特徴
- 契約更新率が高い: 企業は頻繁にオフィスを移転しないため、一度入居すれば長期間安定した収益が見込める。
- 賃料が高額: 一般的に、住宅賃貸よりも賃料単価が高い。
- 保証金が高い: 退去時のリスクヘッジとして 6ヶ月〜12ヶ月分の保証金 を設定するケースが多い。
資産価値の向上
再開発・都市成長による影響
大都市では、再開発プロジェクト によってエリアの魅力が向上し、不動産価値が大幅に上昇するケースが増えています。例えば、東京の虎ノ門・渋谷エリア、大阪の梅田エリア などは、再開発の影響でオフィスビルの価値が高騰しています。
立地と供給バランスが価格形成に与える影響
- 立地が良いオフィスビルは、空室率が低く、安定した賃料を確保できる
- 供給過剰なエリアでは、賃料が下落する可能性がある
- 企業の集積が進むエリアは、長期的に資産価値が向上しやすい
インフレ対策としての魅力
実物資産としての強み
オフィスビルは 実物資産 であり、貨幣価値の変動に対して 一定の防御力を持つ のが特徴です。インフレ時には、通貨の価値が下がる一方で、オフィスビルの資産価値や賃料が上昇しやすい ため、インフレリスクを軽減する手段としても有効です。
物価上昇に伴い賃料も上昇
オフィスビルの賃貸契約には 「賃料改定条項」 が含まれることが多く、インフレに伴って賃料が見直されるケースがあります。特に、インフレ率が高い時期には賃料が自動的に上昇し、投資家にとって有利な状況となる ことがあります。
法人需要の継続
企業活動におけるオフィスの重要性
デジタル化が進んでも、企業が拠点を構えるオフィスの重要性は依然として高い です。特に、コンサルティング業界や金融機関など、対面での業務が求められる業種では、引き続きオフィス需要が維持される傾向にあります。
日本市場におけるオフィスの空室率と需要動向
- 2023年の東京23区の平均空室率は 約6.5% と、コロナ禍以降やや上昇傾向にある。
- しかし、大手企業が集まるエリア(丸の内・六本木・渋谷)では 3%台の低水準を維持 しており、エリアごとの需給バランスが明確になっている。
3. オフィスビル投資のリスクとリターン

オフィスビル投資は、安定した賃料収入や資産価値の向上が期待できる一方で、景気変動や市場環境の変化による リスク も存在します。投資の成否を分けるのは、これらのリスクをどれだけ理解し、適切な戦略で対応できるかにかかっています。
本章では、オフィスビル投資のリスクを詳細に分析し、その一方で期待できるリターンについても掘り下げていきます。
3-1. 主なリスク
景気変動による影響
オフィスビル投資は 景気の動向に大きく左右される という特徴があります。景気が良いときは企業の成長に伴いオフィス需要が増え、賃料も安定します。しかし、景気が悪化するとテナントの撤退や賃料の引き下げ圧力が強まり、投資家にとって厳しい状況となります。
景気悪化時の空室率上昇リスク
- 経済が低迷すると、企業の倒産やリストラが増加し、オフィスの賃貸契約が解除されることがあります。
- 2020年のコロナショックでは、日本の主要都市のオフィス空室率が 2020年1月の1.7%から2021年末には6%超 まで急上昇しました。
- 空室が増えると賃料を引き下げざるを得ず、収益の低下につながります。
企業倒産やリストラによる賃貸契約の解除
- オフィスビルのテナントは法人であるため、企業の財務状況が直接賃貸契約に影響を及ぼします。
- 特にスタートアップ企業や中小企業は景気の変動に弱く、経済が不安定になると契約を解除したり、オフィスの縮小を図るケースが増える ため注意が必要です。
テレワーク普及による需要変動
コロナ禍以降、テレワークやハイブリッドワーク(出社と在宅勤務の併用)が普及 し、オフィスビル市場に変化が生じています。
企業のオフィス縮小やリモートワーク移行
- 大企業を中心に、固定費削減のためオフィス面積を縮小する動きが見られます。
- 例えば、米国の大手IT企業では従業員の50%以上がリモートワークを選択するなど、オフィス面積を20%〜30%削減 する企業が増加。
- 日本でも同様の傾向があり、東京都心部の賃貸オフィス市場では 2022年に空室率が5%台に上昇 し、オフィス需要の変化が顕著になりました。
コワーキングスペースとの競争
- WeWorkやリージャスなどのコワーキングスペースの成長 により、企業が従来のオフィス契約ではなく、柔軟な短期契約を選択する傾向が強まっています。
- 特に スタートアップ企業やフリーランス層 の間では、固定的なオフィスを持たずに シェアオフィスやバーチャルオフィスを利用する動きが加速。
- これにより、特に 小規模オフィスの空室率が高まりやすい というリスクが発生しています。
維持管理コストの負担
オフィスビルの運用には 日常的な維持管理費用がかかる ため、それが収益性を圧迫する可能性があります。
設備更新・修繕費の発生
- エレベーター、空調設備、セキュリティシステムなどの設備は、定期的な更新や修繕が必要 です。
- 例えば、大規模なビルでは 空調設備の更新に1億円以上かかるケース もあり、これらのコストを事前に見積もっておく必要があります。
築年数が古いほど管理費が増加
- 築年数が経過すると、耐震補強や老朽化対策の必要性が増します。
- 例えば、1980年代に建設されたオフィスビルでは、耐震基準が現行の法律に適合していない場合があり、大規模な改修工事が必要 になるケースがあります。
賃料下落のリスク
供給過剰エリアでは賃料下落の可能性
- 新規開発が活発なエリアでは、オフィスの供給が増えすぎて競争が激化し、賃料が下落する リスクがあります。
- 例えば、東京都心の一部エリアでは、大規模な再開発により新しいオフィスビルが増えた結果、既存のオフィスビルの賃料が引き下げられる傾向にあります。
新築オフィスとの競争激化
- 新築のオフィスビルは最新設備や環境配慮型の設計が導入されている ため、企業はより魅力的な新築物件へ移行する可能性が高いです。
- これにより、古いオフィスビルの賃料は相対的に下落するリスクがあり、競争力を維持するために リノベーションやテナント向けのインセンティブ(賃料フリーレントなど) が必要になるケースが増えています。
3-2. 想定されるリターン
利回り(キャップレート)
オフィスビル投資の利回り(キャップレート)は 一般的に4〜6% と言われています。住宅投資と比較すると利回りが高めですが、その分 市場の変動リスクも高い ことを理解しておく必要があります。
キャピタルゲインの可能性
- 都市部のオフィスビルは、再開発プロジェクトの影響で資産価値が大幅に向上するケースがある。
- 例えば、東京都港区の六本木エリアでは、2000年頃に1坪あたり100万円だったオフィスビルの価格が、2020年には300万円を超える水準に上昇した事例があります。
- ただし、逆に 景気低迷時には価格が下落するリスクもある ため、売却のタイミングが重要です。
節税効果
減価償却を活用した税金対策
- オフィスビルの減価償却を活用することで、所得税や法人税の節税が可能 です。
- 例えば、鉄筋コンクリート造(RC造)のオフィスビルの法定耐用年数は50年 であり、この期間内で減価償却を行うことで、課税所得を圧縮できます。
- また、短期間で償却できる設備投資(空調・エレベーターの更新)なども節税対策として有効 です。
4. 物件選びのポイント

オフィスビル投資の成功を左右する最も重要な要素の一つが 物件選び です。適切な物件を選べば、空室リスクを抑え、安定した賃料収入と資産価値の向上 を実現できます。一方で、選定を誤ると長期的な空室や賃料下落のリスクを抱えることになります。
ここでは、オフィスビル投資において考慮すべき 立地・テナントの質・築年数・稼働率・再開発計画 などの重要なポイントを詳しく解説します。
立地の重要性
都心部 vs. 郊外オフィスの比較
オフィスビル投資において 立地は最も重要な要素 です。都市の成長や企業の集積度、アクセスの良さによって、空室率や賃料の推移が大きく変わります。都心部と郊外、それぞれの特徴を比較すると、以下のようになります。
都心部オフィス | 郊外オフィス | |
---|---|---|
利回り | 低め(3〜5%) | 高め(5〜8%) |
空室率 | 低め(需要が安定) | 高め(企業の流出リスクあり) |
賃料 | 高額(坪単価2〜5万円) | 安価(坪単価5千円〜2万円) |
テナント層 | 大企業・外資系・IT企業 | 中小企業・スタートアップ |
資産価値 | 安定・上昇しやすい | 変動が激しい |
✓ 都心部のメリット
- 企業のオフィス需要が高く、安定した賃貸収益を確保しやすい
- 再開発プロジェクトが多く、資産価値の上昇が期待できる
- 交通アクセスが良く、テナントの入れ替わりが少ない
✓ 郊外のメリット
- 物件価格が安く、利回りが高い傾向
- 中小企業のオフィス需要が一定数ある
- テレワークの普及により、サテライトオフィス の需要が増加中
都心と郊外、それぞれのメリット・デメリットを理解し、投資目的に応じた立地選び をすることが重要です。
テナントの質
大手企業 vs. スタートアップ
オフィスビルのテナントが どのような企業か も、投資の安定性を決める大きな要素です。
大手企業が入居するメリット
- 賃料支払いの安定性 → 倒産リスクが低い
- 長期契約の傾向 → 大企業は一度入居すると10年以上借り続けるケースも多い
- 信用力の向上 → 「有名企業が入居しているビル」として、物件のブランド価値が上がる
しかし、大手企業は 厳しいビル選定基準を持っており、老朽化したオフィスビルには移転しない 傾向があります。
スタートアップが入居するメリット
- 短期で高い賃料を払うケースがある
- IT系企業やベンチャーは都心の小規模オフィスを好む
- 成長企業が長期契約する可能性もある
ただし、スタートアップは資金繰りの影響を受けやすく、契約途中での解約リスクが高い ため、慎重な判断が必要です。
築年数と設備
築浅物件の需要とリノベーションの可能性
オフィスビルの 築年数 も投資リスクを大きく左右します。
築浅物件(築10年以内)の特徴
- 最新設備が整っており、企業のニーズに合致
- 賃料が高めに設定できる
- メンテナンスコストが低い
築古物件(築20年以上)の特徴
- 初期投資が安く、利回りが高め
- リノベーションによって価値向上の余地がある
- 耐震基準を満たしていない場合、改修コストが必要
リノベーションによる価値向上のポイント
- エントランスや共用部のリニューアルでイメージアップ
- 空調や電気設備の更新でテナント満足度を向上
- 「環境配慮型オフィス」 に改修し、ESG投資の対象とする
築年数に応じた 戦略的な設備投資 を検討することが重要です。
稼働率の確認
平均空室率の低いエリアを狙う
オフィス投資では 空室率 の確認が不可欠です。エリアによって大きな違いがあり、例えば東京都心では 丸の内や六本木は空室率3%以下 で安定している一方、新宿・渋谷では6%以上に達することもあります。
空室率のチェックポイント
- 過去3〜5年の推移を確認 → 短期間で空室率が上昇しているエリアは要注意
- 近隣のオフィス供給状況を調査 → 大型ビルの新規供給が多いエリアは競争が激化する
「空室率が低い=安定した賃料収入が期待できる」ため、エリアごとのデータ分析 をしっかり行いましょう。
将来的な再開発計画
近隣の開発状況をチェック
再開発プロジェクト は、オフィスビルの資産価値を大きく左右する要因です。
✓ 再開発のメリット
- 商業施設・ホテル・交通インフラが整備されることで エリア全体の魅力が向上
- 大企業の移転・新規進出が増え、オフィス需要が拡大
- 地価上昇によるキャピタルゲイン を狙える
例えば、東京・大阪の以下のエリアは再開発の恩恵を受けた代表例です。
エリア | 再開発内容 | 地価・賃料の変動 |
---|---|---|
東京・虎ノ門 | 虎ノ門ヒルズ開発 | 賃料 10年間で約1.8倍 |
大阪・梅田 | グランフロント大阪 | 空室率 7%→3%に改善 |
投資対象のエリアに 今後の再開発計画があるかどうか は、必ず調査しておきましょう。
6. コロナ後のオフィス市場の変化

テレワークの影響
新型コロナウイルスのパンデミックは、オフィス市場に大きな変革をもたらしました。その最大の要因は テレワーク(リモートワーク)の普及 です。2020年以降、多くの企業が在宅勤務を導入し、オフィスの必要性を見直す動きが加速しました。
テレワークの普及により、以下のような変化が生じています。
- オフィスの縮小や統合
→ 企業が賃貸面積を減らし、コスト削減を図るケースが増加。 - ハイブリッドワークの定着
→ 週2〜3日はオフィス勤務、残りはリモートワークというスタイルが一般化。 - オフィスレイアウトの変更
→ 固定席を減らし、フリーアドレスやコミュニケーションスペースの導入が進む。
企業のオフィス縮小傾向
2021年以降、特に大手企業を中心にオフィス面積の縮小が進んでいます。具体的なデータを見てみましょう。
- 東京都心のオフィス空室率は2020年初頭の1.5%から2023年には6%台へ上昇。
- 三菱地所の調査によると、約30%の企業がオフィス縮小を検討していると回答。
- アメリカでは、JPモルガンやGoogleがオフィス面積を15〜20%削減。
オフィス縮小の背景には 固定費削減 や 従業員の働き方の変化 があります。コストを抑えるために、賃料の高い都心から よりコンパクトなオフィスへ移転する企業 も増加しています。
フレキシブルオフィス・シェアオフィスの需要増
一方で、従来のオフィス形態に代わり、フレキシブルオフィス(短期契約のオフィス)やシェアオフィス の需要が急拡大しています。
- WeWorkやリージャスなどのコワーキングスペースの利用者が増加。
- 東京都内のフレキシブルオフィス市場は2022年に前年比25%成長。
- 企業は固定費を削減しつつ、必要に応じてオフィスを利用するスタイルに移行。
特にスタートアップや外資系企業は、賃貸期間の柔軟性が高いフレキシブルオフィスを選択する傾向が強い です。これにより、従来の長期契約型オフィスビルの競争が激化 している点にも注意が必要です。
郊外型 vs. 都市型オフィス
コロナ後のオフィス市場では、「都心 vs. 郊外」のバランスが変化しています。
都市型オフィス | 郊外型オフィス | |
---|---|---|
空室率 | 上昇傾向(特にB・Cグレード) | 横ばいまたは低下 |
賃料 | 一部下落傾向 | 安定または微増 |
需要 | 大手企業は縮小傾向 | 中小企業やサテライトオフィス需要が増加 |
投資の魅力 | Aグレードは安定 | 利回りが比較的高い |
地方オフィスへのシフトの可能性
コロナ以降、地方都市や郊外型オフィスの需要が増加 しています。
- 地方都市(福岡・札幌・名古屋など)のオフィス賃料は安定。
- 企業がサテライトオフィスを地方に展開するケースが増加。
- 移住を進める企業もあり、地方オフィス市場が活性化している。
大手企業でも「本社機能を分散し、地方拠点を拡大する動き」が進んでおり、オフィス投資家にとっては 地方都市の物件も新たな投資対象となる可能性がある でしょう。
7. 物件タイプ別の特徴

オフィスビルは グレードごとに大きく3つのタイプ(Aグレード・Bグレード・Cグレード) に分類されます。それぞれの特徴を理解し、投資の方針に合った物件を選ぶことが重要です。
グレード別の違い
Aグレード | Bグレード | Cグレード | |
---|---|---|---|
物件規模 | 大規模(1万㎡以上) | 中規模(5千㎡前後) | 小規模(5千㎡未満) |
賃料 | 高額(坪単価2〜5万円) | 中価格(坪単価1.5〜3万円) | 低価格(坪単価1万円以下) |
テナント | 大企業・外資系 | 中小企業・ベンチャー | スタートアップ・個人事業主 |
利回り | 低め(3〜5%) | 中程度(4〜7%) | 高め(6〜10%) |
投資リスク | 低い(安定収益) | 中程度(空室リスクあり) | 高い(テナント流動性大) |
Aグレード(高層ビル、大企業向け):高額だが安定収益
- 都心の主要ビジネスエリア(丸の内・六本木・渋谷など)に立地。
- 設備・耐震性・管理体制が整っており、長期契約の大手企業が多い。
- 安定した賃料収入が見込めるが、投資利回りは低め(3〜5%)。
- 初期投資額が大きく、個人投資家には参入ハードルが高い。
Bグレード(中規模ビル、中小企業向け):バランス型
- 都心部や主要駅周辺に立地し、Aグレードに次ぐクラス。
- 中小企業やベンチャー企業が多く入居する。
- 賃料はAグレードよりも安いが、利回りがやや高い(4〜7%)。
- 市場環境の変化に応じて、空室リスクがやや高まる可能性あり。
Cグレード(築古・小規模):リスクはあるが高利回りを狙える
- 築年数が20年以上の物件が多く、耐震性や設備に注意が必要。
- スタートアップや個人事業主向けの賃貸が中心。
- 投資額が小さく、比較的高い利回り(6〜10%)が期待できる。
- 景気変動の影響を受けやすく、空室リスクが大きい。
リノベーション型投資
築古オフィスを リノベーションすることで、賃料収入を向上させる 方法も有効です。
- エントランスや共用スペースのリニューアルで物件価値向上。
- テナントのニーズに合わせた設備改善(Wi-Fi強化・防音対策など)。
- ESG投資(環境配慮型ビル)として、持続可能な改修を行う。
リノベーション投資は 初期投資がかかるものの、長期的な賃料収入の増加につながる 可能性があります。
8. ESG投資とオフィスビル

オフィスビル市場において、ESG投資(環境・社会・ガバナンスを重視する投資) の重要性が高まっています。企業がオフィスを選ぶ際、環境配慮型のビルが優先されるようになり、投資家も持続可能性を考慮した不動産を求める傾向が強まっています。
ここでは、ESG投資がオフィスビル市場に与える影響と、その具体的な施策について詳しく解説します。
環境配慮型オフィスの増加
省エネ性能の高いビルへの投資
ESGの「E(環境)」の観点から、オフィスビルは エネルギー消費量の削減や二酸化炭素(CO₂)排出の抑制 が求められています。
特に、省エネ性能の高い グリーンビル への投資が増加しており、以下のような特徴を持つビルが高く評価されています。
- 高断熱構造:冷暖房の効率を高め、エネルギー消費を抑制
- LED照明の導入:消費電力を削減し、メンテナンスコストを低減
- 再生可能エネルギーの活用:太陽光発電・風力発電の導入
- 水資源の有効活用:雨水の再利用システム、節水型設備の導入
投資家のメリット
- 企業からの賃貸需要が高まり、長期的に安定した賃料収入が得られる
- 政府や自治体の補助金・税制優遇を受けられるケースがある
- エネルギーコストが低下し、ビルの運営コストが削減できる
グリーンビルディング認証(LEEDなど)の重要性
環境配慮型オフィスは、国際的な認証を取得することで、さらに資産価値が向上します。特に、以下のような認証が注目されています。
- LEED(Leadership in Energy and Environmental Design):米国発の世界基準の環境認証
- CASBEE(建築環境総合性能評価システム):日本国内の建築物評価制度
- BREEAM(Building Research Establishment Environmental Assessment Method):英国の環境認証
- ZEB(Zero Energy Building):エネルギー消費をゼロにする建築基準
LEEDを取得している代表的なオフィスビル
- 東京ミッドタウン日比谷(LEEDプラチナ認証)
- 丸の内パークビルディング(LEEDゴールド認証)
環境認証を取得することで、企業のCSR(企業の社会的責任)活動に貢献し、テナントの誘致力が向上 する点も大きなメリットです。
SDGsとの関係
SDGs(持続可能な開発目標)の観点からも、環境配慮型オフィスの重要性が増しています。特に以下の目標が関係しています。
- 目標7「エネルギーをみんなに そしてクリーンに」 → 再生可能エネルギーの活用
- 目標11「住み続けられるまちづくりを」 → 持続可能な都市開発
- 目標13「気候変動に具体的な対策を」 → CO₂排出削減、カーボンニュートラル推進
企業のCSR戦略としてのオフィス選び
大手企業は 「環境配慮型オフィス」への移転を進める傾向 にあります。理由としては、以下のような要因が挙げられます。
- ESG投資の評価が企業の資金調達に影響する
- 従業員のエコ意識が高まり、環境に配慮したオフィスを希望
- テナント企業のブランド価値向上につながる
例えば、GoogleやAppleなどのIT大手は、再生可能エネルギー100%のオフィスを導入 しており、今後この流れはさらに加速すると考えられます。
投資家にとっては、「環境に配慮したオフィス=企業の入居が増え、安定した収益が期待できる」 という観点から、ESG投資は大きな魅力を持つでしょう。
9. 海外投資家の動向

近年、日本のオフィス市場に対する 海外投資家の関心が高まっています。特に、東京や大阪などの主要都市に 海外資本が流入している ことが注目されています。
日本のオフィス市場に流入する海外資本
日本のオフィス市場は、安定した経済基盤と比較的低い投資リスク により、海外投資家にとって魅力的な市場となっています。
主な投資要因
- 低金利環境:日本の金利は世界的に見ても低く、融資コストが抑えられる
- 円安の影響:外国人投資家にとって日本の不動産が割安に映る
- 安定した賃貸市場:オフィス需要が底堅く、キャッシュフローが安定
特に、シンガポール・香港・アメリカのファンド からの投資が活発で、東京都心のAグレードビルを中心に買収が相次いでいます。
外国人投資家の東京・大阪市場への関心
東京・大阪は、アジア圏の中でも 安定したオフィス市場を持つ都市 として評価されています。
東京 | 大阪 | |
---|---|---|
市場規模 | アジア最大級のオフィス市場 | 国内2位の市場 |
空室率 | 約5〜6%(2023年時点) | 4〜5%(比較的安定) |
投資利回り | 3.5〜5%(低リスク・安定収益) | 5〜6%(高利回り) |
東京では 丸の内・六本木・渋谷エリア に、海外投資家の資本が集中しており、大阪でも 梅田エリア を中心に投資が増加しています。
アジア圏のオフィス市場との比較
日本のオフィス市場は、アジア主要都市(香港・シンガポール・上海) と比較すると、競争力のある市場といえます。
東京 | 香港 | シンガポール | 上海 | |
---|---|---|---|---|
利回り | 3.5〜5% | 2.5〜3.5% | 3.0〜4.0% | 4.0〜6.0% |
賃料 | 高め | 世界最高水準 | 中程度 | 低め |
投資リスク | 低め(安定) | 政治リスクあり | 低め(規制が厳しい) | 高め(市場の変動が大きい) |
特に香港は中国本土の影響を受けやすく、リスクが高まっている一方で、東京のオフィス市場は安定しており、今後も海外資本の流入が続くと予想されます。
10. 節税・ファイナンス戦略

オフィスビル投資において、適切な節税・ファイナンス戦略を立てることは、利益を最大化し、リスクを抑えるために不可欠 です。特に、減価償却を活用した節税や、ローンの適切な活用方法を理解することで、収益の安定化を図ることができます。
減価償却を活用した節税効果
減価償却とは?
減価償却とは、建物の取得費用を法定耐用年数にわたって分割して経費として計上する 会計処理のことです。これにより、毎年の課税所得を減少させ、法人税や所得税を節税できる メリットがあります。
木造・鉄骨造・RC造などの違い
減価償却の適用年数は、建物の構造によって異なります。以下の表で主な建築構造ごとの法定耐用年数を比較してみましょう。
建築構造 | 法定耐用年数 | 特徴 |
---|---|---|
木造(W造) | 22年 | 低コストだが耐用年数が短い |
軽量鉄骨造(S造) | 19〜34年 | 耐用年数は柱の厚さによる |
鉄筋コンクリート造(RC造) | 47年 | 耐久性が高く、資産価値が落ちにくい |
鉄骨鉄筋コンクリート造(SRC造) | 60年 | 大規模オフィスビルに多い |
例えば、耐用年数の短い物件を購入すれば、短期間で減価償却を進め、早期に節税効果を得ることが可能 です。一方で、耐用年数の長いRC造・SRC造は耐久性があり、資産価値の安定性が高い点がメリットです。
ローン活用のポイント
オフィスビル投資では、多くの投資家がローンを利用しますが、どのタイプのローンを選ぶかによってリスクとリターンが大きく変わります。
ノンリコースローン vs. リコースローン
ローンには、大きく分けて 「ノンリコースローン」 と 「リコースローン」 の2種類があります。それぞれの違いを比較してみましょう。
ローン種類 | 特徴 | メリット | デメリット |
---|---|---|---|
リコースローン(責任追及型) | 個人・法人が債務を保証 | 低金利で借りやすい | 返済不能時に個人資産が差し押さえられる |
ノンリコースローン(非責任型) | 物件の収益のみが担保 | 返済不能でも個人資産に影響なし | 金利が高く、審査が厳しい |
✓ 安定収益が見込めるならリコースローンが有利
リコースローンは低金利で借りられるため、収益性の高いオフィスビルを長期保有する場合に適している でしょう。
✓ リスクを抑えたいならノンリコースローン
特に、海外投資家や機関投資家はノンリコースローンを活用し、個人資産への影響を最小限に抑える 戦略を取ることが一般的です。
法人 vs. 個人名義での購入の違い
オフィスビル投資を行う際、法人名義で購入するか、個人名義で購入するかによって、税務上の影響が異なります。
購入形態 | メリット | デメリット |
---|---|---|
個人名義 | ・不動産所得控除が適用される ・売却時の譲渡所得税が軽減される(長期保有の場合) | ・所得税の累進課税で税負担が重くなる |
法人名義 | ・減価償却を活用しやすい ・法人税の節税対策が可能 | ・法人設立費用や維持費用が発生 |
✓ 節税を重視するなら法人名義が有利
法人での購入は、経費計上の幅が広がり、節税効果を最大化できる 点が魅力です。
✓ 個人投資家なら個人名義も選択肢
ただし、初めてオフィスビル投資を行う個人投資家の場合は、個人名義での購入の方が手続きがシンプル で、運用しやすいでしょう。
11. 今後の市場予測

オフィスビル市場の今後の動向を考える際、都市再開発プロジェクトの影響と、新技術の導入 は欠かせない視点です。
都市再開発プロジェクトとの関連
日本の主要都市では、大規模な再開発が進行しており、これがオフィスビル市場に大きな影響を与えています。
東京、大阪、名古屋などの大型再開発
✓ 東京の再開発
- 虎ノ門・麻布台プロジェクト(2023年〜)
- 八重洲・日本橋再開発(2025年完了予定)
- 渋谷駅周辺再開発(2027年完了予定)
東京では、高層オフィスビルの建設が相次ぎ、賃料水準の上昇とともに競争が激化 する見込みです。
✓ 大阪の再開発
- 梅田1丁目エリアの高層ビル開発(2025年〜)
- 大阪駅北地区(うめきた2期)開発(2024年完了予定)
大阪では、新たなオフィスビル供給が増え、テナントの誘致競争が激しくなる可能性がある でしょう。
✓ 名古屋の再開発
- 名駅エリアのオフィス・商業複合開発
- リニア開通を見据えた都市計画(2027年開通予定)
名古屋は、リニア中央新幹線の影響で企業の移転が進み、オフィス需要が増加すると予想 されています。
新技術導入の影響
スマートビルディング、IoT導入オフィスの普及
オフィスビル市場では、テクノロジーの進化によって、「スマートビルディング」や「IoT(モノのインターネット)を活用したオフィス」 が増加しています。
✓ スマートオフィスの特徴
- 顔認証によるセキュリティ強化
- エネルギー管理システムによる省エネ化
- AIを活用した空調・照明の最適化
特に、テレワークとオフィス勤務を併用する「ハイブリッドワーク」の普及に伴い、より柔軟なオフィス環境が求められる ようになっています。
12. オフィスビル投資に向いている人

オフィスビル投資は、他の不動産投資とは異なる特性を持ち、向いている投資家のタイプが明確に分かれる ものです。安定した収益を求める人もいれば、リスクを取って高いリターンを狙う人もいます。ここでは、どのような投資家がオフィスビル投資に向いているのかを詳しく解説していきます。
安定収益を求める人
オフィスビル投資は、長期的に安定した賃料収入を得たい人 に向いています。住宅投資と比較すると、オフィス賃貸契約は長期間(3〜10年)で結ばれることが多く、収益のブレが少ない のが特徴です。
✓ オフィス賃貸の安定性
- 企業の信用力が高く、賃料滞納リスクが低い(住宅賃貸と比較して優位)
- 長期契約が主流のため、頻繁なテナント入れ替えが不要
- 都心部のオフィスビルは、空室率が低く賃貸需要が底堅い
特に、Aグレードのオフィスビルは空室リスクが低く、安定したインカムゲインを得られる ため、資産運用を考えている人にとって適した投資対象と言えます。
大きな資金を動かせる人
オフィスビル投資は、初期投資額が大きいため、ある程度の資金力が必要 です。
✓ 投資資金の目安
- 中規模ビル(Bグレード):5億円〜20億円
- 高級オフィスビル(Aグレード):20億円〜100億円
- 小規模オフィス(Cグレード):1億円〜5億円
また、オフィスビルは維持管理コストも高額になるため、運転資金に余裕があることが望ましい です。特に、設備の修繕費や賃貸仲介手数料など、年間数千万円規模の追加コストが発生する可能性 があります。
✓ こんな投資家に向いている
- 資金力のある個人投資家
- 法人として事業運営している投資家
- J-REIT(不動産投資信託)を利用した分散投資を検討する人
長期保有を考えている人
オフィスビル投資は、短期売却には不向きな投資 です。
✓ 長期保有のメリット
- キャッシュフローの安定化(賃料収入による継続的な利益)
- 都市開発や景気回復により、資産価値が上昇する可能性
- 減価償却を活用した税制メリットが得られる
例えば、東京の丸の内エリアでは、過去20年間でオフィスビルの価格が2倍以上に上昇 しており、長期保有を前提とした投資戦略が功を奏した事例もあります。
✓ こんな投資家に向いている
- 長期的な資産形成を目指している人
- 短期的なキャピタルゲインよりも、安定収益を重視する人
- 都市再開発などの成長要因を見据えて投資できる人
リスク分散を考える投資家
不動産投資においては、ポートフォリオの分散が重要 です。オフィスビル投資は、住宅投資や物流施設投資と組み合わせることで、リスクを軽減しつつ収益を安定させることが可能 です。
✓ 分散投資のメリット
- 住宅投資(アパート・マンション)と組み合わせることで、景気変動の影響を分散できる
- 商業施設・物流施設と組み合わせることで、異なるテナント需要に対応できる
- オフィスビル単独よりも、リスク分散が可能になる
例えば、オフィスビル市場が不況になっても、物流施設の需要は堅調である場合が多く、不動産ポートフォリオ全体としての安定性を確保 できます。
✓ こんな投資家に向いている
- すでに住宅投資や商業施設投資を行っている人
- 投資リスクを分散しながら、収益の安定を求める人
- 異なる不動産資産を組み合わせて、トータルリターンを最適化したい人
13. まとめ

オフィスビル投資は、安定した収益を得ることができる一方で、市場リスクや高額な初期投資が伴う投資 です。成功するためには、慎重な物件選びと市場分析が不可欠です。
オフィスビル投資は安定収益が期待できるが、市場リスクも大きい
- 賃貸契約が長期的であり、安定したインカムゲインを得られる
- 一方で、景気変動やテレワークの普及など、市場環境によって影響を受けやすい
- 物件の維持管理コストが高く、資金力が必要
物件選びや市場分析が成功のカギ
オフィスビル投資を成功させるためには、適切な物件選びと市場動向の分析 が不可欠です。
✓ 成功のためのポイント
- 立地が良く、空室率が低いエリアを選ぶ
- 再開発計画のあるエリアで長期的な資産価値の向上を狙う
- テナントの質を見極め、安定した賃料収入を確保する
また、ESG投資の重要性が増し、環境配慮型オフィスの価値が向上しているため、グリーンビルディング認証の有無も考慮すべき要素 です。
自分の投資スタイルと照らし合わせ、戦略的に取り組むことが重要
最後に、オフィスビル投資が自分にとって適した投資であるかを見極めること が重要です。
✓ 投資スタイル別の適性
投資スタイル | オフィスビル投資との相性 |
---|---|
安定収益志向 | ◎ 長期的に安定した賃料収入が得られる |
短期売却(フリッピング)志向 | △ 短期売却には不向き |
ハイリスク・ハイリターン志向 | △ 立地次第では高リターンが狙えるが、リスクも大きい |
分散投資志向 | ◎ 住宅投資や物流施設投資と組み合わせることでリスク分散可能 |
オフィスビル投資は、しっかりと戦略を練り、長期的な視点で取り組むことで、大きなリターンを得る可能性がある投資手法 です。自分の投資スタイルと照らし合わせながら、慎重に判断し、成功へとつなげていきましょう。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。