事業承継は、多くの企業オーナーにとって避けて通れない課題です。
しかし、単に株式を後継者に引き継ぐだけでは、次世代の経営が安定するとは限りません。特に日本では、少子高齢化が進み、親族内での承継が難しくなるケースが増えています。そのため、いかにして資産を管理し、事業を成長させながら、家族の未来を守るかが重要なテーマとなっています。
そこで注目されるのが「ファミリーオフィス」の活用です。
ファミリーオフィスとは、富裕層の資産を長期的に管理し、事業承継や投資運用を総合的にサポートする仕組みのことを指します。欧米では長い歴史を持ち、ロックフェラー家やロスチャイルド家といった著名なファミリーも、この仕組みを活用して資産を維持・成長させてきました。
しかし、日本ではまだファミリーオフィスの認知度が低く、その運用方法も確立されていません。特に、税制や法務の面での課題、家族間のガバナンスの難しさなどが、導入の障壁となっています。とはいえ、事業承継が複雑化する現代において、ファミリーオフィスは単なる資産管理ツールではなく、家族の未来を守るための戦略拠点としての役割を果たすことができます。
本記事では、事業承継におけるファミリーオフィスの活用法を詳しく解説し、資産を次世代へ確実に引き継ぐためのポイントを探ります。ファミリーオフィスが持つ可能性を最大限に活かし、家族の繁栄を守るための最適な戦略を考えていきましょう。
1. 事業承継とは?なぜ今注目されているのか?

事業承継とは、企業の経営権や資産を次世代へと引き継ぐプロセスを指します。中小企業から大企業まで、経営者が代替わりする際に避けて通れない課題です。
近年、事業承継が特に注目されている背景には、日本国内における経営者の高齢化が大きく影響しています。
日本商工会議所の調査によると、日本の中小企業経営者の約60%が60歳以上であり、そのうち約50%が後継者未定という深刻な状況にあります。さらに、経営者の平均年齢は約62歳と過去最高を記録しており、多くの企業が「いつ、どのように事業を承継するか?」という課題に直面しています。
また、2018年の「事業承継税制の特例措置」の導入により、事業承継に伴う税負担を軽減する制度が整えられました。しかし、制度を活用できるのは条件を満たした企業のみであり、事業の継続を確実にするためには適切な計画と戦略が不可欠です
日本における事業承継の課題と現状
現在、日本における事業承継の最大の課題は「後継者不足」と「税負担」の二点に集約されます。
1. 後継者不足
少子高齢化の影響で、経営者の子どもが必ずしも後継者として経営を引き継ぐとは限りません。さらに、起業や他業界への転職志向が強まり、親族内承継が難しくなっているという現実もあります。そのため、親族外承継やM&Aの活用が増加しています。
2. 相続税・贈与税などの税負担
事業承継に伴い、多くの経営者は相続税や贈与税の負担に直面します。企業オーナーが非上場株式を後継者に譲渡する場合、多額の贈与税が発生することがあり、適切な税制対策を講じなければ、承継自体が困難になるケースも少なくありません。
このような背景から、円滑な事業承継を実現するための新たな手法として、ファミリーオフィスの活用が注目されるようになっています。
近年、富裕層の間でファミリーオフィスの活用が増加している背景
近年、富裕層や企業オーナーの間でファミリーオフィスの設立が加速しています。その理由には、次のような要素が挙げられます。
- 資産の多様化とグローバル化
近年、富裕層の資産は不動産・株式・ベンチャー投資など多岐にわたるため、一元的な管理が求められています。 - 税務・法務リスクの増大
国際的な税制改革や国内の事業承継税制の変化により、適切なプランニングが不可欠になっています。 - 長期的な資産保全
一代で終わる事業ではなく、家族全体で持続可能な資産管理を行うための仕組みが求められています。
ファミリーオフィスが事業承継にどのように役立つのか?
ファミリーオフィスは、経営権の移行をスムーズにし、資産を最適に管理するためのプラットフォームとなります。具体的には、以下のような役割を果たします。
- 事業承継計画の策定と実行支援
→ どのタイミングで、どの方法で承継を進めるべきかを計画する - 相続税・贈与税対策の最適化
→ 納税負担を抑えながら、円滑に資産を移行する方法を構築 - 家族間の意思決定のサポート
→ 企業ガバナンスを確立し、経営の安定性を確保
これにより、事業の長期的な安定と資産の適切な継承が可能になります。
2. 事業承継とファミリーオフィスの基本

2.1 事業承継の概要
事業承継の一般的なプロセス
事業承継のプロセスは大きく分けて以下の3ステップに分かれます。
- 事業承継計画の策定
- 後継者の決定(親族内・親族外)
- 事業の現状分析(財務・経営課題の整理)
- 承継スケジュールの立案
- 承継準備の実施
- 株式の移転やM&Aの活用
- 相続税・贈与税対策
- 事業承継税制の適用可否の確認
- 経営権の移行と事業の安定化
- 後継者への経営移行
- 家族・従業員・投資家との調整
- 企業の成長戦略の継続
2.2 ファミリーオフィスとは
ファミリーオフィスの基本的な役割と目的
ファミリーオフィスとは、富裕層が資産管理や事業承継を円滑に行うために設立する専用の組織です。その役割は多岐にわたります。
- 資産の一元管理(投資・不動産・事業)
- 事業承継・相続対策
- 税務・法務サポート
- 後継者教育とファミリーガバナンスの強化
シングルファミリーオフィス(SFO)とマルチファミリーオフィス(MFO)の違い
- SFO(シングルファミリーオフィス)
→ 一族単独で管理を行うオフィス。資産規模100億円以上の超富裕層向け。 - MFO(マルチファミリーオフィス)
→ 複数の富裕層家族が共同で運営。規模が小さい富裕層にも適用可能。
経済環境の変化を見据えた戦略が必要となる中で、ファミリーオフィスは事業承継を成功に導く強力なツールとなるでしょう。
3. 事業承継税制とファミリーオフィスの関係

事業承継税制とは?(納税猶予制度・特例措置など)
事業承継税制とは、企業オーナーが後継者に自社株を承継する際の税負担を軽減するための制度です。通常、経営者が自社株を後継者に譲渡する際には、多額の相続税・贈与税が発生します。これが大きな障壁となり、事業の存続を難しくしているのが現状です。
そこで、日本政府は2009年に事業承継税制を導入し、2018年には特例措置が追加されました。特例措置を活用すれば、以下のようなメリットが得られます。
- 自社株の贈与税・相続税の100%納税猶予
- 複数の後継者への分散承継が可能
- 親族外承継でも適用が可能(一定条件あり)
ただし、これらの特例を活用するには、後継者が5年間事業を継続し、雇用の8割を維持するなどの条件を満たす必要があります。
ファミリーオフィスが事業承継税制を活用する際の留意点
ファミリーオフィスを活用する場合、事業承継税制を適用するにはいくつかの重要なポイントを押さえておく必要があります。
- ファミリーオフィスが「実態のある事業」と見なされるか?
- 事業承継税制の適用を受けるには、承継対象となる企業が「実態のある事業」を行っている必要があります。
- 単なる資産管理会社としての機能だけでは、税制適用の対象外となる可能性がある。
- ファミリーオフィスの持つ株式の扱い
- 事業承継税制を適用する場合、後継者が一定の株式割合を所有していることが求められます。
- ファミリーオフィスが間接的に株式を保有する場合、適用可否の判断が複雑になる。
- 雇用維持要件への対応
- 特例措置の適用を受けるためには、「5年間、雇用の8割を維持する」ことが必要。
- 事業を継続しながら、オフィスとしての機能をどう維持するかを慎重に計画する必要がある。
資産管理会社が事業承継税制の適用を受けられる条件
資産管理会社(いわゆるホールディングカンパニー)を活用して事業承継を進めるケースも増えています。しかし、すべての資産管理会社が事業承継税制の対象となるわけではありません。
事業承継税制の適用条件
- 会社の売上や利益の多くが「実体のある事業」から得られていること
- 例えば、不動産収入が主な収益源になっている会社は、適用が難しくなる。
- 自社株式の大部分を保有していること
- ファミリーオフィスが株式の過半数を所有している場合、適用可能性が高まる。
- 事業実態3要件を満たしていること
- これについて、次に詳しく説明します。
事業実態3要件とは?
事業承継税制の適用を受けるためには、「事業実態3要件」を満たす必要があります。これは、以下の3つの条件から成り立っています。
- 売上要件
- 事業収益の50%以上が「実際の事業活動」から得られていること。
- 例えば、不動産賃貸収入や株式配当収入が50%以上を占める場合、適用対象外となる。
- 従業員要件
- 会社が一定の従業員数を雇用していること(通常は5人以上)。
- 実態のない会社やペーパーカンパニーでは、事業実態要件を満たせない。
- 設備要件
- 事業運営のために必要な設備(オフィス、工場、店舗など)を保有していること。
これらの要件を満たすことで、資産管理会社であっても事業承継税制の適用を受けることができます。
ファミリーオフィスを活用した事業承継税制適用のためのポイント
ファミリーオフィスを通じて事業承継税制を適用する際には、以下のような戦略を考慮することが重要です。
- 事業承継に適した組織構造を確立する
- ファミリーオフィスを通じて企業オーナーの資産を統括管理し、適切な株式の持ち方を計画する。
- 長期的な事業計画とガバナンスを確立する
- 短期的な節税対策ではなく、将来の事業成長を見据えた戦略を構築する。
- 適切な資産管理と税務計画を行う
- ファミリーオフィスが単なる資産管理会社として運営されるのではなく、実態のある事業を行うことが求められる。
ファミリーオフィスによる株式管理と事業承継税制の活用方法
ファミリーオフィスを通じて株式を管理し、事業承継税制を最大限活用するには、以下の方法が考えられます。
- 持株会社(ホールディングス)を設立する
- ファミリーオフィスが持株会社として機能し、親族が経営権を維持しながら承継を進める。
- 後継者の株式割合を戦略的に設計する
- 事業承継税制の適用条件を満たすように、後継者が一定割合の株式を取得するよう調整する。
- 複数の後継者への株式分配を最適化する
- 兄弟や親族内での株式分配をスムーズに行い、後の相続問題を回避する。
5. 富裕層におけるファミリーオフィスの活用

海外におけるファミリーオフィスの活用事例
ファミリーオフィスはもともと欧米の富裕層によって発展してきた仕組みです。その起源は19世紀のアメリカに遡り、ロックフェラー家やモルガン家といった財閥が、家族資産の管理と承継を目的として独自のオフィスを設立したことにあります。
米国の事例:ロックフェラー・ファミリーオフィス
ロックフェラー家は、1870年代に石油ビジネスで巨万の富を築きました。しかし、創業者ジョン・D・ロックフェラーは、単なる財産管理ではなく、長期的な家族の繁栄を確保するための仕組みを求め、ロックフェラー・ファミリーオフィスを設立。以下のような機能を持つことで、現在もその資産を守り続けています。
- 長期的な資産運用(ヘッジファンド、PE投資)
- 慈善活動(ロックフェラー財団)
- 家族教育(後継者の育成)
- 税務・法務戦略の最適化
欧州の事例:ロスチャイルド家
ヨーロッパでは、ロスチャイルド家がファミリーオフィスの活用において代表的な存在です。ロスチャイルド家は18世紀から金融業を営み、家族の資産を数世代にわたり維持するために独自のファミリーオフィスを設立しました。その特徴は以下の通りです。
- 資産管理の分散(複数の国で事業展開)
- 家族内ルールの厳格な運用(ファミリー憲章の制定)
- 子孫が事業に関与するための厳格な教育制度
このように、欧米のファミリーオフィスは、単なる資産運用にとどまらず、長期的な家族経営の基盤として機能しています。
日本の富裕層がファミリーオフィスを設立する目的
日本でも近年、富裕層の間でファミリーオフィスの設立が増加しています。その目的は主に以下の4つに分類されます。
1. 事業承継
日本の中小企業経営者の平均年齢は62歳を超え、後継者問題が深刻化しています。ファミリーオフィスを活用することで、円滑な経営権の移行が可能になります。
- 持株会社を活用した承継スキームの策定
- 後継者の育成と経営トレーニング
- 税制適用(事業承継税制)の最適化
2. 相続税・贈与税対策
日本の相続税は最高55%と世界的に見ても高水準です。そのため、富裕層にとってファミリーオフィスは税負担を最小限に抑えるための重要な手段となります。
- 株式移転のタイミング調整
- 信託を活用した資産管理
- タックス・プランニングの実行
3. 家族資産の長期的保全・運用
ファミリーオフィスは単なる相続対策ではなく、家族資産を将来世代にわたって増やし続ける役割も担います。
- 不動産、ヘッジファンド、PE投資などの多様な資産運用
- リスク分散のための国際投資戦略
- ファミリーポートフォリオの最適化
4. 家族間のガバナンス強化
富裕層の資産が増えれば増えるほど、家族内での意思決定が複雑化します。ファミリーオフィスを通じて、ルールを定めることで家族内のトラブルを防ぐことができます。
- ファミリー憲章の策定(資産の分配ルール)
- 家族会議の実施
- 相続争いを未然に防ぐ法務対策
ファミリーオフィスの主な機能と役割
ファミリーオフィスは、家族の資産を管理・承継するために、多岐にわたる機能を持ちます。その主要な役割を詳しく見ていきましょう。
1. 投資管理・資産運用
ファミリーオフィスの中心的な業務は投資管理です。富裕層は単なる銀行預金ではなく、さまざまな資産クラスに分散投資することが求められます。
- 国内外の株式・債券投資
- 不動産投資(賃貸・開発・REIT)
- ベンチャーキャピタル投資
- コモディティ・暗号資産の活用
特に、近年の富裕層はESG投資やインパクト投資にも関心を持つようになっており、ファミリーオフィスはその管理を担っています。
2. 税務・法務サポート
多額の資産を持つ富裕層にとって、税務と法務の管理は不可欠です。ファミリーオフィスは、専門家と連携しながら最適な戦略を提供します。
- 相続税・贈与税の最適化
- 資産保全のための信託スキーム
- 国際税務の対応(タックスヘイブン対策)
- 家族財産の法的保護(資産凍結リスクの回避)
3. 後継者教育とファミリーガバナンス
富裕層の資産を次世代に確実に引き継ぐには、後継者教育が不可欠です。ファミリーオフィスは、後継者の育成と家族間のコミュニケーションを円滑にする役割を果たします。
- 次世代リーダー育成プログラム
- ファミリービジネスの承継計画
- 家族憲章(ファミリーコンスティテューション)の策定
- 海外留学・MBA取得の支援
4. 事業承継コンサルティング
事業承継は一朝一夕に完了するものではありません。長期的な計画が必要となるため、ファミリーオフィスがコンサルティングを行うことで、スムーズな移行を支援します。
- 持株会社を活用した承継スキーム
- 後継者選定・育成の支援
- M&Aによる事業承継の最適化
- 株式移転と納税猶予制度の活用
ファミリーオフィスは、単なる資産管理の仕組みではなく、長期的な視点で家族の繁栄を支える総合的なプラットフォームです。特に、事業承継や相続対策が必要な富裕層にとって、欠かせない存在となりつつあります。
次の章では、日本におけるファミリーオフィスの現状と課題についてさらに掘り下げていきます。
6. ファミリーオフィスの具体的な運営方法

ファミリーオフィスは、単なる資産管理の機関ではなく、家族の財産を守り、長期的な繁栄を支える仕組みとして機能します。そのためには、適切な設立プロセス、資産の管理方法、投資戦略、事業承継計画、ファミリーガバナンスの確立が不可欠です。
ファミリーオフィスの設立プロセス
ファミリーオフィスの設立は、家族のビジョンやニーズに応じたカスタマイズが必要になります。設立のステップは以下の通りです。
1. 資産の整理・管理方法
ファミリーオフィスの第一歩は、家族が保有する資産の棚卸しです。具体的には以下の点を整理します。
- 金融資産(預貯金、株式、債券、投資信託)
- 不動産(住宅、商業用不動産、賃貸資産)
- 事業資産(自社株、持株会社、未公開株式)
- 海外資産(海外投資、オフショア信託)
- その他の資産(美術品、貴金属、暗号資産)
このプロセスを通じて、家族全体の資産規模・リスク・分散状況を把握します。
2. 投資戦略の立案
次に、ファミリーオフィスは、資産の長期的な運用方針を策定します。多くのファミリーオフィスでは、以下のようなリスク分散型の投資戦略を採用します。
- 国内外の株式・債券投資
- 不動産投資(賃貸不動産、商業施設、REIT)
- プライベート・エクイティ(PE)投資
- ベンチャーキャピタル(VC)投資
- ヘッジファンド・オルタナティブ投資
- インパクト投資(ESG投資)
特に、近年の富裕層はESG(環境・社会・ガバナンス)投資にも積極的です。次世代に受け継がれる資産を「社会的に価値のあるもの」にする意識が高まっているためです。
3. 事業承継計画の策定
ファミリーオフィスの最大の役割の一つは、事業承継を円滑に進めることです。主に以下のような計画を策定します。
- 持株会社の設立による株式管理
- 後継者の育成(経営者教育、MBA取得支援など)
- 事業承継税制の適用プラン
- M&Aによる事業承継の最適化
- 相続発生時の税負担シミュレーション
事業承継は長期的なプロジェクトのため、10年単位のスパンで計画することが成功の鍵となります。
ファミリーガバナンスの確立
ファミリーオフィスが成功するかどうかのカギを握るのがファミリーガバナンスです。ガバナンスが機能しなければ、どれだけ資産があっても家族間の対立や経営不安定化につながるリスクがあります。
1. 家族間の意思決定プロセスの策定
富裕層の資産は、多くの場合複数の家族メンバーで共有されるため、意思決定のプロセスを明確にすることが不可欠です。
- 意思決定機関の設立(ファミリーカウンシル)
- 定期的な家族会議の開催
- 投資や事業方針を決定するルールの明文化
2. ファミリー憲章の作成
ファミリー憲章(ファミリーコンスティテューション)とは、家族の資産運用や事業承継のルールを定めた指針です。これを作成することで、次世代に明確な方向性を示し、無用なトラブルを防ぐことができます。
主な内容は以下の通りです。
- 資産の分配ルール
- 家族メンバーの経営関与ルール
- 投資方針とリスク許容度
- 教育プログラム(後継者の育成計画)
ファミリー憲章は、一度作成したら終わりではなく、定期的に見直しを行い、時代に合わせたアップデートが求められます。
ファミリーオフィス運営に関与する専門家
ファミリーオフィスの運営には、多くの専門家の協力が必要になります。一般的に、以下のような専門家がチームを構成します。
1. 税理士・公認会計士
税務管理は、ファミリーオフィスの最も重要な業務の一つです。特に以下のような税務戦略を設計します。
- 相続税・贈与税対策
- タックスヘイブンを活用した国際税務
- 持株会社の設立による法人税の最適化
- M&Aに伴う税務シミュレーション
2. 弁護士・ファイナンシャルアドバイザー
ファミリーオフィスの資産は、多くの場合、国際的な広がりを持つため、国内外の法務対策が必要になります。
- 信託の活用による資産保全
- 家族内紛争を防ぐためのリーガルアドバイス
- 国際的な相続対策
- 契約書・合意書の作成・レビュー
3. ファミリーコンサルタント
ファミリーオフィスには、経営や事業承継、家族関係に関する専門的なアドバイスを行うコンサルタントが関与します。
- 後継者の育成プログラム
- ファミリーガバナンスの設計
- 投資戦略の策定とリスクマネジメント
- 次世代への資産継承プランの作成
ファミリーオフィスの成功には、適切な運営体制、資産管理のノウハウ、そして強固なファミリーガバナンスが不可欠です。特に、資産運用だけでなく、家族全体の意思決定プロセスを確立することが長期的な繁栄のカギとなります。
次の章では、日本におけるファミリーオフィスの現状と課題について詳しく解説します。
7. 日本におけるファミリーオフィスの必要性

日本におけるファミリーオフィスの普及状況
ファミリーオフィスは欧米では長い歴史を持ち、多くの富裕層が利用してきました。しかし、日本においては、ファミリーオフィスの概念自体がまだ十分に普及していないのが現状です。
日本におけるファミリーオフィスの普及率は、欧米と比較して低いとされています。米国では、超富裕層の約50%が何らかの形でファミリーオフィスを活用していると言われていますが、日本では明確な統計はないものの、その割合は10%未満と推定されます。
この背景には、以下の要因が関係しています。
- ファミリーオフィスの概念が浸透していない
- 日本では、家族経営企業が多いものの、ファミリーオフィスという組織を設立する文化がまだ定着していない。
- 伝統的に「同族経営」が主流であり、ファミリーオフィスの必要性が認識されにくかった。
- 相続税や税制の違い
- 日本の相続税率は最高55%と、欧米諸国と比べても非常に高い。
- しかし、日本では相続税対策としてのファミリーオフィスの活用が進んでいない。
- 専門家やサービスの不足
- 欧米では、ファミリーオフィス向けの専門コンサルタントや資産管理サービスが発展しているが、日本ではまだ十分に整備されていない。
こうした課題はあるものの、近年、日本においてもファミリーオフィスの設立が増加しています。その要因として、事業承継や相続税対策の必要性の高まり、富裕層の資産運用の多様化が挙げられます。
事業承継における法務・税務リスクとファミリーオフィスの役割
日本の経営者がファミリーオフィスを活用する大きな理由の一つが、事業承継に伴う法務・税務リスクへの対応です。
1. 高額な相続税負担
日本の相続税は、累進課税により最高55%の税率が適用されます。これは欧米諸国(アメリカ:40%、イギリス:40%、ドイツ:30%)と比べても非常に高い水準です。
- 経営者が亡くなった際に、多額の相続税を支払う必要がある
- 資産の大半が自社株の場合、納税資金の確保が困難
- 事業承継税制を適用できない場合、事業の存続が危ぶまれる
2. 自社株の分散と経営権の喪失
- 相続時に自社株が複数の相続人に分散してしまうと、後継者が安定的に経営権を維持できなくなる。
- ファミリーオフィスを活用し、持株会社を設立することで、株式を集中管理できる。
3. 紛争の回避
- 相続時のトラブルを未然に防ぐ
- 家族間のガバナンスルールを策定
- 経営者の意思を明確にすることで、スムーズな事業承継を実現
ファミリーオフィスは、これらの法務・税務リスクに対応するための統合的な戦略を提供し、事業の安定性を確保する役割を担います。
日本の法律・税制とファミリーオフィスの運用
ファミリーオフィスを運営するにあたり、日本の法律や税制は重要な影響を及ぼします。
1. 事業承継税制の適用
2018年の事業承継税制の改正により、株式の100%納税猶予が可能になりました。しかし、適用には厳格な要件があり、適切なファミリーオフィスの設計が求められます。
- 持株会社を通じた株式管理
- 複数の後継者への株式移転計画
- 事業実態3要件(売上、雇用、設備)を満たすための対策
2. 信託を活用した資産管理
日本では、「民事信託(家族信託)」が近年注目されています。ファミリーオフィスは、信託を活用して資産を保全し、相続時の混乱を防ぐ役割を果たします。
- 信託を活用することで、財産の管理者を明確にする
- 後継者に徐々に資産を移転する仕組みを構築
- 税負担を最適化するためのプランを策定
ファミリーオフィスの活用における課題と今後の展望
制度改革の必要性
日本では、ファミリーオフィスに関する明確な法律や税制が未整備なため、以下のような課題があります。
- 事業承継税制の適用条件が厳しく、ファミリーオフィスを活用しづらい
- 富裕層向けの専門家やアドバイザーの不足
- 持株会社や信託を利用した資産管理に関するガイドラインが不明確
こうした課題を解決するため、政府による税制優遇措置の拡充や、ファミリーオフィスに関する制度の明確化が求められます。
企業オーナーが今後考えるべき戦略
ファミリーオフィスの導入を検討する経営者は、以下のような戦略を考慮する必要があります。
1. 持株会社の設立
- 自社株をファミリーオフィス経由で管理することで、経営権を安定化
- 後継者育成を考慮した株式分配計画を策定
2. 資産の分散管理
- 国内外の投資戦略を設計
- 長期的な資産運用を見据えたポートフォリオを構築
3. ファミリーガバナンスの確立
- 家族会議を定期開催し、承継計画を共有
- ファミリー憲章を策定し、資産管理ルールを明確化
日本におけるファミリーオフィスの必要性は、事業承継の円滑化、税負担の最適化、資産の長期的な保全という観点から、今後ますます高まるでしょう。しかし、制度的な課題も多く、今後の法改正や新たな税制優遇措置が求められます。
経営者や富裕層は、ファミリーオフィスを活用し、次世代にスムーズに資産と事業を承継できる体制を構築することが、持続的な成功へのカギとなるでしょう。
8. 事業承継におけるファミリーオフィスのメリット・デメリット

ファミリーオフィスは、事業承継を円滑に進めるための強力なツールとなります。しかし、全ての企業オーナーにとって最適な選択肢とは限らず、メリットとデメリットの両面を理解した上で活用を検討することが重要です。
8.1 ファミリーオフィスのメリット
1. 資産の一元管理が可能
ファミリーオフィスの最大の利点の一つは、家族資産や事業資産を一元的に管理できることです。
事業承継の際には、企業オーナーの資産が事業資産(自社株)と個人資産(不動産・金融資産)に分かれていることが多く、適切な管理が求められます。ファミリーオフィスを通じてこれらを統合的に管理することで、資産の無駄な分散を防ぎ、最適なポートフォリオを構築することが可能になります。
具体的な管理対象:
- 自社株の管理(持株会社を通じた経営権の維持)
- 不動産投資や金融資産の運用
- 家族全体の税務・会計の最適化
- リスクヘッジ(市場変動リスク、税制変更リスク)
2. 事業承継・相続対策の一貫性を確保
ファミリーオフィスを活用することで、事業承継と相続対策を長期的な視点で計画できるというメリットがあります。
日本では、相続税の最高税率が55%と高く、自社株を相続する際に巨額の納税負担が発生する可能性があります。ファミリーオフィスを通じて事業承継計画を策定し、以下の対策を講じることで、納税リスクを軽減できます。
- 持株会社の活用(ファミリーオフィスを通じた経営権の集中)
- 事業承継税制の適用(納税猶予制度の利用)
- 信託を活用した資産移転(民事信託・家族信託の導入)
- 後継者育成プログラムの設計
ファミリーオフィスがあることで、税務・法務・経営のすべてを統合的に管理し、承継の流れを最適化できる点が大きな利点です。
3. 家族内の紛争リスクを低減
事業承継において、相続争いは大きな問題になり得ます。特に、オーナー経営者が亡くなった際に、兄弟間・親族間で株式の分配を巡る対立が起こるケースは少なくありません。
ファミリーオフィスを通じて以下のようなガバナンスを確立することで、紛争のリスクを大幅に低減できます。
- ファミリー憲章の策定(家族内ルールの明文化)
- 家族会議の定期開催(意思決定の透明化)
- 信託を活用した資産の分配計画
- 後継者の役割を事前に明確化
これにより、家族間の関係を円滑に保ちながら、事業の継続性を確保できるのです。
4. 長期的な資産運用が可能
ファミリーオフィスは、事業承継だけでなく、資産を長期的に運用するための機関としても重要な役割を果たします。
- 株式・債券・不動産などの資産ポートフォリオの最適化
- 事業の多角化や新規投資の検討
- 次世代に向けた投資戦略(ESG投資、インパクト投資)
特に、オーナー経営者が引退後も、家族全体の資産を守りながら増やしていく仕組みを確立できるという点が魅力です。
5. 後継者の教育・育成プログラムを構築できる
ファミリーオフィスのもう一つの大きな役割は、後継者の育成です。
単に事業を承継するだけでなく、後継者が経営者としての資質を持ち、持続的に企業を発展させるための教育プログラムが必要になります。
- MBA留学や海外研修のサポート
- 企業経営に関する実践的な教育
- 家族内でのリーダーシップトレーニング
- 外部専門家とのネットワーク構築
このような教育を受けた後継者が、家業を継ぐだけでなく、新しい事業領域に挑戦できる人材に成長することが、ファミリーオフィスの重要な役割となります。
8.2 ファミリーオフィスのデメリット
1. 設立・運用コストが高い
ファミリーオフィスの最大の課題は、設立や運営に多額のコストがかかることです。
- 単独のファミリーオフィス(シングルファミリーオフィス)を設立する場合、最低でも100億円以上の資産が必要
- 専門家の確保やシステム運用費が発生
- 税務・法務のコンサルタント費用が高額になる場合がある
このため、資産規模が100億円未満の家族は、マルチファミリーオフィス(MFO)を活用する方がコスト効率が良いとされています。
2. 専門家の確保が必要
ファミリーオフィスの運営には、税理士・弁護士・ファイナンシャルアドバイザーなどの専門家が関与する必要があります。しかし、日本ではファミリーオフィス専門のアドバイザーが少なく、適切な人材を確保するのが難しいという問題があります。
3. 家族間の合意形成が難しい場合がある
ファミリーオフィスは、家族全員の資産を管理する機関であるため、意思決定の際に家族間の対立が生じるリスクがあります。
- 経営権を誰が持つかで意見が割れる
- 資産の分配方法を巡るトラブル
- 投資方針の違い
これを防ぐためには、事前にファミリー憲章を策定し、ルールを明確化することが重要です。
4. 日本ではまだ制度的な支援が少ない
日本では、ファミリーオフィスを取り巻く法整備が進んでおらず、税制や規制面での課題が残っています。
- 事業承継税制の適用範囲が限定的
- 信託やホールディングスの活用に関する法的整備が不十分
- 欧米のようなファミリーオフィス専用の金融機関が存在しない
今後の制度改革が進むことで、日本のファミリーオフィス市場はさらに成長していくでしょう。
9. ファミリーオフィスによる非上場株式の管理と相続戦略

非上場株式の承継と管理の重要性
非上場企業の株式は、事業承継において最も慎重な管理が求められる資産です。特に、創業者やオーナー経営者が保有する自社株の評価額が高い場合、相続税の負担が莫大になる可能性があります。
非上場株式の承継における課題
- 流動性の低さ
- 上場株式とは異なり、非上場株式は市場で簡単に売却できないため、相続や事業承継の際に資金化が難しい。
- 評価額の上昇による税負担
- 会社の業績が成長すると、自社株の評価額も上昇し、それに伴い相続税や贈与税の負担が増大する。
- 経営権の維持が困難
- 株式が分散すると、後継者の経営権が不安定になる可能性がある。
こうした課題を解決するために、ファミリーオフィスを活用した非上場株式の管理戦略が重要になります。
ファミリーオフィスを活用した株式管理の方法
ファミリーオフィスを通じて非上場株式を管理することで、事業承継のリスクを軽減し、経営権の安定化を図ることが可能です。具体的な管理方法を見ていきましょう。
1. 持株会社を設立
ファミリーオフィスの中核に持株会社(ホールディングス)を設立し、自社株を一括管理することで、以下のようなメリットがあります。
- 株式の分散を防ぐ(後継者が安定的に経営権を維持)
- 税負担の最適化(持株会社を通じた相続・贈与税対策)
- リスクヘッジ(事業資産と個人資産を分離し、リスク管理を強化)
2. 信託を活用
「家族信託」を活用することで、生前に株式を信託し、後継者への移行をスムーズに進めることができます。
- 創業者が認知症になった場合でも、経営権をスムーズに移行可能
- 遺産分割時の紛争リスクを軽減
- 後継者への段階的な株式移転が可能
3. 株式の売却・資金化戦略
ファミリーオフィスを活用し、事業承継のために株式を売却・資金化するスキームを構築することも可能です。
- M&Aによる事業承継
- 自社株買いによる承継戦略
- ファンドを活用した事業継続計画
持株会社化のメリット・デメリット
持株会社(ホールディングカンパニー)を設立することは、事業承継において有力な手段の一つです。しかし、その活用には慎重な検討が必要です。
メリット
✅ 経営権の安定:株式を一元管理することで、後継者の経営権を確保できる。
✅ 節税効果:株式の移転を計画的に行い、相続税・贈与税を軽減できる。
✅ 事業リスクの分散:事業ごとに子会社を設立し、倒産リスクを最小限に抑える。
デメリット
❌ 設立コストが高い:法人設立費用や管理コストがかかる。
❌ 税務管理が複雑:グループ全体の税務戦略を緻密に設計する必要がある。
❌ 一定の要件を満たさないと事業承継税制の適用が難しい。
事業承継税制と組み合わせた最適な株式承継プラン
事業承継税制を活用することで、後継者が相続・贈与によって自社株を取得する際の税負担を軽減できます。最適な株式承継プランを策定するポイントは以下の通りです。
- 事業承継税制の特例を最大限活用
- 自社株の100%納税猶予制度を適用
- 特例措置の期間内に計画的な承継を実施
- 持株会社を活用し、株式の段階的な移転を行う
- まずは後継者に少数株を贈与し、経営に慣れさせる
- 事業承継税制を適用しながら、段階的に株式を移行
- 信託を活用し、スムーズな移行を実現
- 信託銀行と連携し、後継者が経営権を確実に引き継げるようにする
- 家族内の合意を形成し、紛争を未然に防ぐ
10. まとめ 事業承継の課題解決におけるファミリーオフィスの役割

ファミリーオフィスは、単なる資産管理機関ではなく、長期的な事業承継を成功させるためのプラットフォームとして機能します。
以下のような役割を果たすことで、企業オーナーの承継リスクを最小限に抑えられます。
- 持株会社を活用し、経営権の安定を確保
- 相続税・贈与税の負担を最適化
- 家族間の合意形成をサポート
- 後継者育成プログラムを実施し、次世代経営者を育てる
日本におけるファミリーオフィスの今後の展望
現在、日本ではファミリーオフィスの普及が進んでいるものの、まだ制度的な支援が不十分です。今後、以下のような変化が期待されます。
- 税制改革によるファミリーオフィスの普及促進
- 持株会社・信託制度の活用による事業承継の効率化
- ファミリーオフィス専門の金融機関・コンサルティング機関の増加
企業オーナーがファミリーオフィスを活用する際のポイント
企業オーナーがファミリーオフィスを活用する際には、以下のポイントを押さえるべきです。
- 長期的な事業承継計画を策定する
- 持株会社・信託を組み合わせ、経営権を守る
- 専門家と連携し、最適な税制・相続戦略を立案する
今後の事業承継のトレンドと富裕層が取るべき行動
これからの事業承継において、ファミリーオフィスの活用は不可欠です。
富裕層の企業オーナーは、以下のような行動を取るべきでしょう。
- 事業承継税制の適用可能性を早期に検討
- ファミリーオフィスを活用し、資産管理・承継計画を統合
- 後継者の育成に注力し、持続可能な経営体制を構築
ファミリーオフィスは、資産を守るだけの仕組みではなく、家族の未来を創るための戦略的な拠点であるべきです。事業を次世代へ承継することはもちろん重要ですが、それだけでは十分ではありません。大切なのは、どのように資産を活かし、新たな価値を生み出していくかという視点です。
日本では「家業は親族が継ぐもの」という考えが根強く残っていますが、欧米ではプロの経営者を招き、ファミリーは所有者としての役割に徹するケースも増えています。家族が全員経営に携わらなくても、資産を増やし、長期的に繁栄する仕組みは作れるのです。事業を承継しない選択肢も視野に入れながら、最適な形を模索することが求められます。
また、ファミリーオフィスの運営では、「守り」だけでなく「攻め」の視点も大切です。事業承継税制や信託の活用も重要ですが、それ以上に、資産を成長させるための投資戦略を持つことが鍵となります。日本国内にとどまらず、海外の事業や不動産、ベンチャー投資など、多角的な運用を考えることが、次世代の繁栄につながるでしょう。
ファミリーオフィスは、家族の哲学を反映した資産運用と、次世代の育成を組み合わせることで、初めて本来の力を発揮します。ただ資産を管理するのではなく、「どんな家族でありたいか?」を考え、それを実現するための手段として活用することが重要なのではないでしょうか。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。