現代の富裕層にとって、単なる「資産運用」ではなく、「資産の管理」そのものが極めて重要なテーマになっています。
なぜならば、一定規模以上の資産を持つ場合、その運用・維持・継承にかかる課題は飛躍的に増加するからです。税制の変化、インフレリスク、金融市場の変動、事業継承、相続問題——こうした要素が絡み合う中で、資産を単に「持つ」のではなく、「戦略的に運用・保全する」ことが求められます。
特に、純金融資産1億円以上を保有する層は、銀行の通常サービスでは対応しきれない規模の資産を管理する必要があります。そのため、専用の資産管理サービスが存在し、これを活用することが資産の保全・成長・円滑な承継の鍵となります。
本記事では、富裕層向けの資産管理サービスについて、その定義や目的、そしてリスクとリターンの考え方までを深く掘り下げていきます。
1. 富裕層向け資産管理サービスとは

富裕層の定義と特徴|どこからが「富裕層」なのか?
「富裕層」という言葉はメディアや金融業界でよく使われますが、その定義は実は明確に決められているわけではありません。ただし、日本国内においては一般的に「純金融資産が1億円以上の世帯」が富裕層と見なされることが多いです。
さらに、富裕層の中でも以下のように分類されます。
資産規模 | 定義 |
---|---|
アッパーマス層 | 純金融資産3,000万円~1億円 |
富裕層 | 純金融資産1億円~5億円 |
超富裕層 | 純金融資産5億円以上 |
このうち富裕層以上になると、通常の銀行サービスではなく、プライベートバンキングやIFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)、ファミリーオフィスといった高度な資産管理サービスを活用することが一般的になります。
資産運用の目的と前提|富裕層の資産は「守る」ことが最優先
一般的な個人投資家と異なり、富裕層の資産運用には「増やす」ことよりも「守る」ことがより重要視されます。
これは、既に十分な資産を持つ富裕層にとって、過度なリスクを取るよりも、資産を長期的に維持し、次世代へ円滑に承継することが優先されるためです。
資産運用の目的は、主に以下の4つに分類されます。
① 資産の保全
- インフレリスクの回避:現金の価値は時間とともに目減りするため、インフレに対抗する資産配分が求められる。
- 資産分散によるリスク管理:単一の金融商品や地域に偏らないよう、複数の資産に分散投資することが基本戦略となる。
② 資産の成長
- 長期的な資産価値の向上:超富裕層の場合、単なる株式投資にとどまらず、ヘッジファンド、不動産、プライベートエクイティ(未上場企業投資)など、より多角的な投資手法が活用される。
- 事業投資による成長:特に経営者層の富裕層では、事業再投資やM&Aを通じた資産成長も視野に入る。
③ 相続対策
- 贈与税・相続税の最適化:日本の相続税率は最大55%と高いため、適切なタックスプランニングが欠かせない。
- 信託の活用:資産を長期的に管理し、世代間で円滑に移転するためにファミリーオフィスやプライベートバンキングの信託サービスを利用するケースが増えている。
④ 事業承継
- 後継者へのスムーズな移行:中小企業オーナーの富裕層は、事業承継計画の策定が必須。
- 持株会社の活用:法人を活用し、後継者へ効率的に事業を引き継ぐ方法を検討する必要がある。
リスクとリターンのバランス|資産の「安全性」と「収益性」をどう両立するか
富裕層の資産運用では、リスクとリターンのバランスを取ることが最も重要な課題となります。
一般的に、以下のような資産配分モデルが推奨されます。
資産クラス | 役割 | 代表的な投資対象 |
---|---|---|
リスク資産 | 長期的な成長を狙う | 株式、ヘッジファンド、PE投資 |
安定資産 | 市場変動リスクを軽減 | 債券、社債、優良不動産 |
流動資産 | すぐに現金化可能 | 預貯金、短期国債 |
例えば、プライベートバンクやIFAでは、富裕層のリスク許容度に応じた「オーダーメイドのポートフォリオ」を設計し、資産の安全性と成長性の両立を目指します。
また、富裕層特有のリスクとして、以下の点にも注意が必要です。
- 税制リスク:税制改正により、資産管理の方法が変わる可能性がある(例:相続税の基礎控除縮小)。
- 市場流動性リスク:一部の資産(不動産や未上場株)は、短期間で現金化するのが難しい。
- 地政学リスク:海外資産を保有する場合、現地の政治・経済状況の影響を受ける可能性がある。
富裕層向け資産管理サービスの種類

富裕層の資産管理は、一般的な個人投資家とは異なる特別な手法が求められます。1億円以上の資産を適切に管理・運用するためには、専門的なサービスを活用することが重要です。
本章では、代表的な富裕層向け資産管理サービスとして、プライベートバンク(PB)、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)、銀行のプライベートバンキング、ファミリーオフィスの4つを詳しく解説します。
(1) プライベートバンク|超富裕層向けの包括的な資産管理
プライベートバンクとは?
プライベートバンク(Private Bank)とは、一定以上の資産を持つ顧客に対し、オーダーメイドの資産管理・運用サービスを提供する金融機関またはその部門を指します。主超富裕層(5億円以上の資産を保有する個人)を対象としており、一般の銀行サービスでは得られない高度な金融サポートを提供します。
プライベートバンクの主な特徴は以下の通りです。
- 総合的な資産管理:株式、不動産、ヘッジファンド、プライベートエクイティ(未上場企業投資)など、多様な資産クラスを統合管理。
- オーダーメイドの運用戦略:顧客の財務状況・リスク許容度・投資目標に応じた個別戦略を設計。
- 税務・相続対策:富裕層特有の相続税・贈与税の最適化を図るアドバイスを提供。
- 専任バンカーが対応:顧客ごとに専任のプライベートバンカーが担当し、継続的なサポートを実施。
国内と海外のプライベートバンクの違い
プライベートバンクは、スイスやシンガポールなど海外発祥の金融機関が多く、日本国内のプライベートバンクとは提供サービスや手数料体系が異なります。
項目 | 国内プライベートバンク | 海外プライベートバンク |
---|---|---|
サービス範囲 | 投資管理・不動産・税務対策・事業承継 | より自由度の高い金融商品・高度な節税策 |
手数料体系 | 比較的割高(管理手数料 + 取引手数料) | ストックベースフィーが一般的 |
最低預入額 | 1億円~5億円以上 | 5億円~10億円以上 |
プライバシー | 日本国内の規制に準拠 | より強固なプライバシー保護(スイス系など) |
特に、スイスのプライベートバンクは資産保護とプライバシー管理に強みを持ち、日本の富裕層が海外PBを利用するケースも増えています。
代表的なプライベートバンクの比較
現在、日本国内外で利用できる代表的なプライベートバンクをいくつか紹介します。
- スイス系PB(クレディ・スイス、UBSなど):国際的な資産管理に強み。税務最適化・グローバル投資の選択肢が豊富。
- 日系証券PB(野村證券、大和証券など):国内市場に特化した投資管理。伝統的な富裕層向けサービスを提供。
- 日系銀行PB(三菱UFJ銀行、みずほプライベートウェルスマネジメント):相続・事業承継・不動産管理に強い。
手数料体系と利回りの実態
プライベートバンクの手数料は管理手数料(AUM手数料)と取引手数料が主軸となります。
- 管理手数料:総資産の0.5%~1.5%程度
- 取引手数料:株式・債券・投資信託の取引ごとに発生
- ヘッジファンド・プライベートエクイティ手数料:成功報酬型が一般的(利益の20%程度)
一方、利回りについては、年率3%~7%程度を目標とするケースが多いです。
メリット・デメリット
✅ メリット
- オーダーメイドの資産運用が可能
- 専門家による税務・相続サポート
- プライバシー保護が強固
❌ デメリット
- 最低預入額が高い(数億円以上)
- 手数料が高額
- サービス内容が金融機関によって大きく異なる
プライバシー保護の仕組み
プライベートバンクでは、専用サロン・個室面談・デジタルセキュリティが整備されており、顧客情報の機密性を徹底しています。
(2) IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)
IFAとは?
IFA(Independent Financial Advisor)は、金融機関に属さない独立した資産運用アドバイザーです。特定の銀行や証券会社に縛られないため、顧客の利益を最優先にしたアドバイスが可能です。
プライベートバンクとの違い
- 独立性が高い(特定の金融機関の影響を受けない)
- 手数料体系が異なる(取引手数料よりもコンサル料が主体)
- より柔軟な資産運用提案が可能
IFAは、プライベートバンクよりも少額の資産から利用可能(数千万円~)という点で魅力的です。
(3) 銀行の富裕層向けプライベートバンキング
大手銀行のプライベートバンキングとは?
通常の銀行サービスとは異なり、富裕層専用の金融・資産管理サポートを提供するのが銀行のプライベートバンキングです。
提供サービスの範囲
- 投資管理
- 税務対策
- 不動産投資
- 事業承継
- 相続対策
非金融サービス
- コンシェルジュサービス
- 医療サポート
- 人脈形成イベント(ネットワーキング機会の提供)
利用基準
最低預入額は1億円以上が一般的ですが、銀行によって異なります。
(4) ファミリーオフィス
ファミリーオフィスとは?
超富裕層向けの資産管理法人であり、税務最適化・事業運営・慈善活動支援など包括的なサービスを提供します。
プライベートバンクとの違い
- 自社運営(金融機関に依存しない)
- 節税・財務戦略に特化
- 企業レベルの資産管理が可能
富裕層向け資産管理サービスの利用方法|プライベートバンク・IFA・銀行PBの活用法

富裕層向けの資産管理サービスは、ただ選べばよいというものではありません。各サービスには利用基準があり、特定の条件を満たさなければアクセスできない仕組みになっています。本章では、プライベートバンクの口座開設の流れ、銀行のプライベートバンキングの利用基準、IFAの選び方について詳しく解説します。
(1) プライベートバンクの口座開設の流れ
紹介制の仕組み|富裕層だけが利用できる「選ばれた顧客」
プライベートバンクの口座開設は、一般的な銀行口座のように誰でも申し込めるわけではありません。多くのプライベートバンクでは「紹介制」を採用しており、既存の顧客、関係者、または金融機関からの推薦が必要になります。
紹介制が導入されている理由は以下の通りです。
- 信用力のある顧客のみを受け入れるため(マネーロンダリング防止)
- 既存顧客とのネットワークを活かし、信頼関係を構築するため
- 富裕層向けの高品質なサービスを維持するため
このため、仮に十分な資産を持っていたとしても、適切な紹介者がいなければプライベートバンクの門戸は開かれません。海外のスイス系プライベートバンクでは特に紹介制が厳格であり、日本国内のPBよりもハードルが高い傾向があります。
事前審査・面談・資産審査の内容
紹介が通ったとしても、すぐに口座が開設できるわけではありません。プライベートバンクでは、顧客の財務状況や資産の出所を厳しく審査します。
1. 事前審査
- 資産総額の確認(最低でも1億円以上、超富裕層向けの場合は5億円以上)
- 資産の出所の証明(違法な手段で得た資金ではないかチェック)
- マネーロンダリング対策(金融犯罪防止のための審査)
2. 面談
- プライベートバンクのサービス内容の説明
- 顧客の資産運用方針のヒアリング
- 長期的な関係性を築けるかどうかの判断
3. 資産審査
- 金融資産の分散状況(株式・債券・不動産・現金など)
- 流動性の確保(長期運用が可能か)
- リスク許容度(どの程度のリスクを取る運用が望ましいか)
この審査をクリアした後、正式に契約が結ばれ、プライベートバンクの口座が開設されます。
(2) 銀行のプライベートバンキングの利用基準
最低預入額の目安
銀行のプライベートバンキング(PB)も一般の銀行口座とは異なり、利用には最低預入額の基準が設定されています。主要な銀行PBの目安は以下の通りです。
銀行名 | 最低預入額 |
---|---|
みずほプライベートウェルスマネジメント | 5億円以上 |
三菱UFJウェルスマネジメント | 3億円以上 |
野村證券PB | 1億円以上 |
スイス系PB(UBS、クレディ・スイス) | 10億円以上 |
国内の銀行PBは1億円以上が一般的ですが、海外PBでは5億円以上が標準で、特にスイスのPBは10億円以上が求められることも珍しくありません。
利用条件・口座開設のプロセス
銀行のPBは、プライベートバンクと比べて口座開設のハードルがやや低いものの、それでも厳格な基準が設けられています。
- 一定額以上の資産があること(最低1億円以上)
- 長期的な取引関係を築けること
- 銀行の審査をクリアすること
審査に通ると、専任のプライベートバンカーが付き、オーダーメイドの資産管理サービスが提供されます。
(3) IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)の活用法
どのような資産運用ニーズに適しているか
IFA(Independent Financial Advisor)は、特定の金融機関に属さない独立系の資産運用アドバイザーであり、以下のようなニーズを持つ富裕層に向いています。
- 幅広い投資商品の提案を受けたい
- 特定の銀行や証券会社に縛られたくない
- プライベートバンクほどの資産はないが、高度な運用アドバイスを受けたい
IFAは、一般の銀行PBよりも柔軟な投資提案が可能であり、最低預入額が数千万円程度から利用できる点が魅力です。
IFAを選ぶ際のポイント(独立性・手数料・実績)
IFAを利用する際は、独立性・手数料体系・過去の実績を慎重にチェックする必要があります。
✅ 独立性の確認
- IFAが特定の金融機関の営業に依存していないか?
- 顧客本位の提案を行っているか?
✅ 手数料体系の透明性
- コミッションベース(取引手数料)かフィーベース(管理料)か?
- 取引ごとに手数料が発生する場合、長期的に割高にならないか?
✅ 実績と評判
- 過去の運用実績はどうか?
- 他の顧客の評価は?
IFAを選ぶ際には、単なる「商品売り」ではなく、長期的な視点で資産運用をサポートできるかを見極めることが重要です。
日本の代表的なプライベートバンクの詳細

(1) みずほプライベートウェルスマネジメント
ターゲット層
みずほのPBは5億円以上の資産家をターゲットにしており、日本国内のPBの中でも比較的高額な基準を設けています。
提供サービス
- 資産運用(国内外投資)
- 事業承継コンサルティング
- 相続・税務対策
- 健康管理・教育相談
(2) 三菱UFJウェルスマネジメント
MUFGグループの総力を活かし、不動産・金融資産・事業承継の統合管理を提供しています。
(3) その他の日系・スイス系プライベートバンクの特徴比較
日系PBは国内市場に特化し、スイス系PBは海外投資や資産防衛に強みを持っています。
プライベートバンキングと証券会社の違い|資産管理と投資商品の売買、どちらが最適か?

富裕層が資産を運用する際、選択肢として挙がるのが「プライベートバンク」と「証券会社」の利用です。しかし、この2つは提供するサービスの本質が大きく異なります。どちらが最適かは、顧客の資産規模や運用目的によって異なるため、それぞれの違いを明確に理解することが重要です。
本章では、プライベートバンクと証券会社の提供サービス、手数料体系、カスタマイズ性と顧客対応の違いを徹底比較します。
(1) 提供サービスの違い|総合資産管理 vs. 投資商品の売買
プライベートバンク:包括的な資産管理・相続対策・税務支援
プライベートバンク(PB)は、富裕層の総合的な資産管理を目的とする金融機関です。そのため、単に投資商品を売買するのではなく、顧客の長期的な財務計画に基づき、資産運用や税務対策、相続設計をトータルでサポートします。
プライベートバンクの主なサービスは以下の通りです。
サービス | 概要 |
---|---|
資産運用コンサルティング | 顧客の資産状況に応じたオーダーメイドの運用戦略 |
相続・事業承継支援 | 相続税対策、事業承継の計画策定 |
税務アドバイス | 国内外の税務最適化、タックスプランニング |
不動産投資サポート | 収益不動産の管理、ポートフォリオ構築 |
プライバシー保護 | 顧客情報の厳重管理、専用サロンでの面談 |
プライベートバンクの最大の強みは、単なる投資ではなく「資産全体を包括的に管理すること」です。超富裕層が利用するケースが多く、最低預入額は5億円~10億円以上が一般的となっています。
証券会社:投資商品の売買が中心
一方、証券会社は金融商品を売買することが主な業務であり、基本的には株式・債券・投資信託などの金融商品を顧客に提供することに特化しています。
証券会社の主なサービスは以下の通りです。
サービス | 概要 |
---|---|
株式・債券・投資信託の売買 | 顧客の希望に応じて金融商品を提供 |
IPO・新規上場株の取扱い | IPO株の割当、未公開株の取引サポート |
投資アドバイス | 短期売買向けのマーケット情報の提供 |
外国株・ETFの取引 | 海外市場へのアクセス提供 |
信用取引・デリバティブ取引 | レバレッジを活用した投資戦略 |
証券会社は、富裕層だけでなく、一般の投資家も利用可能であり、最低預入額の制限は基本的にないことが多いです。しかし、資産管理というよりも、投資商品の仲介・販売が主目的であるため、プライベートバンキングのような総合的なサポートは受けられません。
(2) 手数料体系の違い|プライベートバンクは管理料、証券会社は取引手数料
プライベートバンク:資産ベースの管理料
プライベートバンクでは、一般的に「管理手数料(AUM手数料)」が発生します。これは、顧客が預ける資産額に応じて発生する手数料であり、長期的な資産運用を前提とした料金体系となっています。
- 管理手数料(AUM):年間0.5%~1.5%
- ファンド運用手数料:利益の10~20%(成功報酬型)
- プライベートエクイティ・ヘッジファンド:個別の手数料体系あり
この手数料体系の特徴は、頻繁な取引を行わなくても、プライベートバンク側が安定した収益を得られる仕組みになっていることです。そのため、顧客にとっては短期売買を強要されるリスクが低く、長期的な視点での資産運用が可能になります。
証券会社:取引ごとの売買手数料
証券会社の手数料体系は、取引ごとに発生する売買手数料が基本となります。
- 株式売買手数料:取引金額の0.1%~1.0%(国内外で異なる)
- 投資信託の販売手数料:3.0%程度
- 信用取引の金利:年率1.0%~3.0%
このため、証券会社は取引回数が増えるほど利益を上げるビジネスモデルとなっており、顧客の資産運用よりも、短期売買を促すインセンティブが高いという特徴があります。
(3) カスタマイズ性と顧客対応の違い
プライベートバンク:オーダーメイドの運用提案
プライベートバンクでは、顧客の資産状況・リスク許容度・投資目的に応じた「オーダーメイドの運用提案」が行われます。
例えば、ある超富裕層の顧客が「年率3%~5%の安定運用を希望」と伝えた場合、プライベートバンクは以下のようなポートフォリオを提案するかもしれません。
資産クラス | 割合 | 目的 |
---|---|---|
債券 | 50% | 元本保全・安定収益 |
株式 | 20% | 成長性の確保 |
不動産 | 15% | インフレ対策 |
プライベートエクイティ | 10% | 長期資産形成 |
ヘッジファンド | 5% | リスク分散 |
こうした完全オーダーメイドの資産運用が可能なのは、プライベートバンクならではの強みです。
証券会社:標準的な金融商品販売
証券会社では、基本的に「用意された金融商品の中から顧客に適したものを提案する」形が一般的です。
例えば、リスク許容度が低い顧客には「低リスクの債券型投資信託」、リスクを取ってリターンを狙いたい顧客には「成長株やIPO銘柄」といった具合に、標準化された商品を販売する形になります。
そのため、顧客一人ひとりに完全にカスタマイズされた提案を期待するのは難しいのが現状です。
プライベートバンクは、資産管理と相続対策を重視する富裕層に適している一方で、証券会社は投資商品を短期売買する投資家向けのサービスです。それぞれの特徴を理解し、自身の資産運用方針に合った選択をすることが重要です。
富裕層向け資産管理サービスの選び方|自分に合った最適な方法を見極める

資産規模が大きくなればなるほど、資産管理の選択肢も多岐にわたります。プライベートバンク、IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー)、銀行のプライベートバンキング、ファミリーオフィスなど、どのサービスを選択するかは、自身の資産規模や目的、リスク許容度によって異なります。
本章では、富裕層向け資産管理サービスの選び方について、以下の視点で解説していきます。
- 自分の資産規模と目的に合ったサービス選択
- 国内と海外のプライベートバンクの比較
- IFA・銀行・プライベートバンクのどれを選ぶべきか?
(1) 自分の資産規模と目的に合ったサービス選択
資産規模別の適切な資産管理サービス
富裕層向け資産管理サービスを選ぶ際、まず自身の資産規模を基準にすることが重要です。以下の表を参考に、どのサービスが最適かを見極めてみましょう。
資産規模 | 適したサービス | 特徴 |
---|---|---|
3,000万円〜1億円 | IFA(独立系ファイナンシャルアドバイザー) | 柔軟な投資提案が可能、手数料が明確 |
1億円〜5億円 | 銀行のプライベートバンキング | 資産運用・税務・不動産管理のサポートが充実 |
5億円〜10億円 | 国内プライベートバンク | 相続対策やグローバル投資が可能 |
10億円以上 | 海外プライベートバンク / ファミリーオフィス | 資産防衛・相続対策・慈善活動支援など包括的なサポート |
例えば、1億円程度の資産を持つ場合は銀行のプライベートバンキングが最適ですが、5億円以上になるとプライベートバンクのサービスがより充実してきます。さらに、10億円を超える場合は、資産管理法人(ファミリーオフィス)を活用するケースが一般的です。
(2) 国内と海外のプライベートバンクの比較
プライベートバンクを選ぶ際に重要なポイントの一つが、国内PBと海外PBのどちらを選ぶべきかという点です。それぞれの特徴を比較し、手数料・サービス内容・プライバシー保護の観点から違いを見ていきましょう。
項目 | 国内プライベートバンク | 海外プライベートバンク |
---|---|---|
手数料 | 比較的高額(管理手数料+取引手数料) | ストックベースフィーが一般的 |
サービス内容 | 税務対策・不動産投資・相続対策 | より自由度の高い投資戦略 |
最低預入額 | 1億円〜5億円以上 | 5億円〜10億円以上 |
プライバシー保護 | 日本の法律に準拠 | より強固なプライバシー管理(スイス系など) |
国内PBのメリット・デメリット
✅ メリット
- 日本の法律や税制に最適化されている
- 国内不動産投資や相続対策が充実
- 信頼性の高いメガバンクが運営している
❌ デメリット
- 海外投資の選択肢が少ない
- プライバシー保護が限定的
- 手数料が比較的高め
海外PBのメリット・デメリット
✅ メリット
- スイスやシンガポールなど、プライバシー保護が強い
- ヘッジファンド・プライベートエクイティなど投資の自由度が高い
- 税務最適化(タックスヘイブンの活用)が可能
❌ デメリット
- 口座開設のハードルが高い(最低5億円以上が一般的)
- 日本の税制や法規制に適合しにくい
- サポートが英語または現地語になるケースが多い
国内外のプライベートバンクの選択は、資産規模や投資目的に応じて慎重に判断する必要があります。例えば、長期的に資産を増やすことが目的であれば、海外PBの利用が有利ですが、相続や事業承継を考える場合は国内PBが適していることが多いです。
(3) IFA・銀行・プライベートバンクのどれを選ぶべきか?
比較項目 | IFA(独立系アドバイザー) | 銀行プライベートバンキング | プライベートバンク |
---|---|---|---|
最低預入額 | 数千万円〜 | 1億円〜 | 5億円〜 |
サービス内容 | 投資アドバイスが中心 | 資産運用・税務対策・不動産投資 | グローバル資産管理・相続支援 |
手数料体系 | コンサルフィー型 | 取引手数料+管理費用 | ストックベースフィー |
投資の自由度 | 高い(独立性が強み) | 銀行の提供商品に限定 | 幅広い資産運用が可能 |
プライバシー | 標準レベル | 高度な管理 | 厳格な保護 |
富裕層が資産管理サービスを選ぶ際、IFA・銀行PB・プライベートバンクのどれが最適なのか?を見極めることが重要です。
✅ IFAを選ぶべき人
- 資産運用に特化したアドバイスを受けたい
- 銀行や証券会社に縛られず、自由な投資をしたい
- 比較的少額(数千万円単位)から資産管理を始めたい
✅ 銀行PBを選ぶべき人
- 1億円以上の資産を持ち、包括的な資産管理を求める
- 不動産投資や相続対策を銀行のネットワークで行いたい
- 国内資産を中心に運用したい
✅ プライベートバンクを選ぶべき人
- 5億円以上の資産を持ち、グローバルな運用を考えている
- 相続・事業承継の専門的なサポートが必要
- 秘密保持を重視し、プライバシーを守りたい
まとめ|資産運用は「保全・成長・継承」のバランスが鍵

富裕層向けの資産管理サービスには、IFA・銀行PB・プライベートバンク・ファミリーオフィスなど多様な選択肢があります。どのサービスが最適かは、資産規模や目的によって異なるため、慎重に選ぶことが求められます。
資産運用においては、「増やす」だけでなく「守る」「継承する」視点も欠かせません。長期的な資産管理戦略を持ち、適切な専門家のサポートを受けながら、自身に最適なサービスを選択することが成功の鍵となるでしょう。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。