医師として活躍する方々にとって、収入の多さは一見すると羨ましいように見えます。しかし、その一方で、医師特有の経済的課題やリスクが隠れています。例えば、所得税と住民税を合わせた税率が最大55%に達する日本の累進課税制度では、収入が増えるほど税負担が重くなり、手元に残るお金が思ったほど多くない、という現実に直面している方も多いのではないでしょうか。
また、医師は長時間労働が常態化している職業です。そのため、仕事以外の収入源を確保する時間がなかなか取れないことが、経済的自由を阻む一因となっています。加えて、健康リスクや技術の陳腐化といった要因も将来の収入に影響を与える可能性があり、これらを踏まえた計画的な資産形成が求められるのです。
そこで、本記事では医師が投資を行う意義と、その具体的な方法について掘り下げていきます。投資の目的は単なる資産の拡大にとどまらず、節税効果の最大化やリスク分散、そして将来にわたる経済的な安心感を手に入れることにあります。本記事を読むことで、医師としての特性に合った資産運用方法を見つけ、自身の経済基盤をより強固なものにするためのヒントを得られるでしょう。
1. 医師が投資を始める前に知っておきたい基本

累進課税と医師特有の課題
医師が直面する最大の経済的課題の一つは、日本特有の累進課税制度です。課税所得が4,000万円を超える場合、所得税率は45%に達します。さらに、住民税(10%)を加えると実質的な税率は55%となり、収入の半分以上が税金として徴収される状況にあります。例えば、年収5,000万円の医師がいた場合、税金だけで2,750万円が差し引かれ、手元に残るのは2,250万円です。この現実は、収入が高いからこそ抱える大きな負担を浮き彫りにしています。
また、医師はその専門性ゆえに収入源が特定の業務に依存しがちです。例えば、診療や手術といった業務が中心であるため、体調不良や医療事故といった予期せぬリスクが発生した際、収入が急激に減少する可能性があります。さらに、医学の進歩に伴い、新しい技術や知識を習得するための学び直しが必要となることも、時間的・経済的な負担として医師のライフスタイルに影響を与えるでしょう。
投資におけるリスクとリターンの基礎
医師が投資を始めるにあたり、まず知っておくべきなのは、投資は「リスクとリターン」のバランスで成り立っているということです。リスクとは、投資で損失が出る可能性を指し、リターンはその見返りとして得られる利益を意味します。医師のように安定した高収入を得ている場合、比較的リスク許容度が高いとされますが、無計画に高リスク商品へ投資することは避けるべきです。
長期的な視点での資産形成は、特に医師にとって重要です。例えば、NISAやiDeCoといった税制優遇制度を活用すれば、節税しながら資産を増やすことが可能です。さらに、これらの制度は長期分散投資に適しており、相場の変動リスクを軽減しながら安定したリターンを狙うことができます。
また、医師は「リスク管理」に対して特に敏感である必要があります。診療業務で身につけた判断力や計画性を投資にも活用し、リスクが高い投資には慎重なアプローチを取ることが求められます。例えば、収益性の高い不動産投資においても、物件選びや地域の市場動向を慎重に調査しなければ、節税効果が思ったほど得られないケースもあります。
2. 医師が投資を考えるべき理由

税負担の軽減: 節税を通じて手取りを最大化する方法
医師という職業は高収入であるがゆえに、課税率が高い累進課税制度の影響を強く受けます。課税所得が4,000万円を超えると所得税率は45%、住民税と合わせると実質的な税率は55%に達します。これにより、せっかく得た収入の半分以上が税金として徴収されることになります。たとえば、課税所得が5,000万円の場合、税金だけで約2,750万円が引かれ、手元に残るのは2,250万円です。この現実は、多くの医師が直面する大きな課題です。
投資を活用することで、この税負担を軽減することが可能です。例えば、iDeCoやNISAといった税制優遇制度を利用することで、所得税の軽減や運用益の非課税といった恩恵を受けることができます。また、不動産投資や生命保険を用いた節税スキームを適切に活用すれば、長期的に手取り額を増やすことができるでしょう。税負担を軽減することは、医師にとって投資を始める大きな動機となります。
将来の備え: 退職後や子どもの教育費確保の必要性
医師のライフサイクルを考えると、退職後の資金や子どもの教育費といった将来の支出に備えることが不可欠です。医師の多くが抱える課題の一つが、子どもの教育費の高さです。私立学校や留学費用など、一般家庭に比べて支出が高額になる傾向があります。また、退職後の収入が減少する中で、現在の生活水準を維持するための資産を形成しておく必要があります。
例えば、平均的な大学進学費用は一人当たり数百万円以上かかると言われています。これを複数人の子どもに対して支払う場合、投資を通じて教育費を確保することは合理的です。また、医師の多くが定年を迎える65歳以降、リタイア後の生活資金として年間数百万円が必要とされることを考えると、現役時代からの計画的な資産運用が求められるのは明白です。
収入の多角化: 医療以外の収入源を確保することで経済的安定を実現
医師の収入は通常、診療や手術といった医療業務に大きく依存しています。これは一見すると安定した収入基盤のように思えますが、実際には健康リスクや専門性の陳腐化など、外部要因による収入減少のリスクが存在します。これに対処するためには、医療業務以外の収入源を確保することが重要です。
投資は、こうした収入多角化の有効な手段です。例えば、不動産投資を行うことで家賃収入を得たり、NISAを活用して株式や投資信託から配当金を受け取ったりすることが可能です。また、生命保険を用いた資産形成も、長期的な収入の安定に寄与します。医師という職業の特性を踏まえ、多角的な収入源を確保することで経済的な自由を手に入れることができます。
3. 医師向けの投資・資産運用方法

3-1. 税制優遇を活用した投資
NISA・新NISA: 非課税枠の活用と新NISAの制度変更点
NISA(少額投資非課税制度)は、年間一定額までの投資で得られた利益が非課税となる制度です。2024年から始まる新NISAでは、非課税投資枠が従来の120万円から年間360万円に拡大され、非課税期間も恒久化されます。この改正により、特に長期的な資産運用を目指す医師にとって、NISAの魅力がさらに高まるでしょう。
たとえば、年間360万円を運用し、5%の利回りを期待すると、10年間で約450万円の非課税利益を得ることが可能です。この制度を活用することで、節税効果と資産形成を同時に実現することができます。
iDeCo(個人型確定拠出年金): 掛金の所得控除と長期的なリターン
iDeCoは、個人で年金資産を積み立てる制度で、掛金が全額所得控除の対象となります。医師のような高所得者にとって、この所得控除は非常に有益です。例えば、月額2万円を積み立てた場合、年間24万円が所得控除されるため、税率が45%の場合で約10万円の税負担を軽減できます。
さらに、運用益が非課税となるため、iDeCoを活用すれば効率的に資産を増やすことができます。ただし、受け取りは60歳以降となるため、長期的な視点での運用が求められます。
3-2. 高収益を狙える投資
不動産投資: 減価償却と節税効果
不動産投資は、安定した家賃収入と減価償却を通じた節税効果を同時に得られる魅力的な手法です。例えば、築古のマンションを購入し、減価償却を活用することで課税所得を減らし、所得税や住民税を軽減することが可能です。
また、相続税対策としても有効です。特に、タワーマンションの高層階は相続税評価額が低くなる傾向があり、相続時の課税負担を軽減することができます。
航空機リース: 短期間での多額の減価償却効果
航空機リースは、高額の初期投資が必要ですが、短期間で大きな減価償却を計上できるため、高所得者に向いた投資方法です。初年度に出資額の8割程度を減価償却費として計上できるケースもあり、これにより大幅な節税が可能です。
海外不動産投資: 規制強化後の活用可能性
近年、海外不動産投資は規制が強化されていますが、一部地域では節税効果を活用できる可能性が残っています。ただし、税制の変更に注意し、専門家の助言を受けながら進めることが重要です。
3-3. 節税を目的とした投資
生命保険: 控除額と税負担軽減
生命保険は、保険料控除を通じて所得税や住民税の負担を軽減できます。たとえば、年間10万円の生命保険料を支払う場合、所得控除を受けることで数万円の税負担が減ります。さらに、相続税対策としても有効で、保険金は特定の非課税枠内で相続財産から除外されます。
寄付を活用: ふるさと納税や公益法人寄付の節税効果
ふるさと納税は、自己負担2,000円で寄付額の多くが所得税や住民税から控除される仕組みです。また、公益法人への寄付を行うことで、高額所得者にとってより大きな節税効果を得られる場合があります。寄付を通じて社会貢献と節税を同時に実現することが可能です。
4. 医師が注意すべき点

高リスク投資商品の注意点: 節税目的だけの投資は避けるべき
投資において「節税効果があるから」という理由だけで高リスク商品を選ぶのは非常に危険です。例えば、節税効果が強調される航空機リースや特定の不動産投資案件は、確かに短期的な節税効果を得られる可能性があります。しかし、これらの投資は高額の初期費用が必要であり、運用や売却時のリスクを伴います。
航空機リースの場合、航空会社の経営状態や契約内容によってはリース収入が予想を下回ることがあります。また、海外不動産投資では為替リスクや現地の規制変更による収益悪化が懸念されます。このようなリスクを過小評価すると、節税で得た利益以上に損失が膨らむ可能性があります。医師は時間的制約があるため、専門家と連携しながら慎重に選択すべきです。
税制変更のリスク: タワーマンション節税や海外不動産投資の規制
過去数年間で、日本の税制は富裕層向けの節税スキームに対する規制を強化してきました。例えば、タワーマンション節税は2024年以降、評価額の見直しにより節税効果が大幅に縮小されることが決定されています。また、海外不動産投資も2020年以降、減価償却を利用した節税が制限されるようになりました。
こうした税制の変化に敏感であることは、医師にとって非常に重要です。最新の税制に精通していないと、効果が薄れた節税手段に多額の資金を投入してしまうリスクがあります。税務専門家と相談し、常に法改正に対応した投資計画を立てることが求められます。
確定申告と税務調査への備え: 忙しい医師にこそ税理士の活用が必要
医師は忙しい日常業務の中で、確定申告や税務調査の準備を一人で行うのは困難です。しかし、税務申告を適切に行わないと、後々税務調査で指摘を受け、多額の追徴課税や罰金を課される可能性があります。
特に、不動産投資や資産管理会社を利用している場合、経費計上の根拠や帳簿管理が複雑化する傾向にあります。税理士を活用することで、これらの煩雑な手続きをプロに任せることができるだけでなく、最新の税制に基づいた適切なアドバイスを受けることが可能です。信頼できる税理士をパートナーに迎えることで、時間と労力を節約しながら税務リスクを回避することができます。
5. 医師特有の節税と資産形成の方法

5-1. 控除をフル活用
医療費控除: 医師の職業上、家族の医療費が高額になりやすい点を活かす
医師の家庭では、高額な医療費が発生することが少なくありません。この場合、医療費控除を活用することで節税効果を得られます。例えば、年間で30万円の医療費を支出した場合、10万円を超える20万円が控除対象となり、税率45%の人であれば約9万円の税金を節約できます。
医療費控除は、保険でカバーされない費用や家族全員の医療費が対象となるため、家族の健康管理が重要です。また、申告には領収書や支払い記録が必要なため、こまめな記録を心掛けるべきでしょう。
扶養控除と配偶者控除: 所得制限を考慮した適切な活用
扶養控除や配偶者控除を適切に活用することで、所得税をさらに軽減できます。扶養控除は子どもや親を扶養に入れることで、所得税の負担を軽くする制度です。また、配偶者の収入が一定以下であれば、配偶者控除を利用することで節税が可能です。
例えば、配偶者の年収が103万円以下の場合、最大38万円の控除を受けられます。ただし、控除額は納税者本人の所得が高くなるほど縮小するため、条件を正確に確認する必要があります。
5-2. 資産管理と法人化
資産管理会社の設立: 所得分散と相続税対策の効果
資産管理会社を設立することで、所得分散と相続税対策を効果的に行うことが可能です。例えば、不動産投資を個人ではなく法人で行うことで、家族に給与を支払い、その分を経費として計上できます。これにより、課税所得を分散し、所得税や住民税の負担を軽減することができます。
さらに、資産管理会社を利用することで、相続時の課税評価額を低く抑えることも可能です。これは、資産を法人名義で保有することで、個人所有よりも相続税評価額が低くなる傾向があるためです。
医療法人の活用: 医療法人化による節税メリット
医療法人化は、診療所を運営する医師にとって有効な節税手段です。医療法人は法人税率が適用されるため、個人の累進課税よりも低い税率で利益を計上できます。また、法人の利益を内部留保として積み立てることで、将来の設備投資や従業員の福利厚生に活用することが可能です。
医療法人化には一定の条件や手続きが必要ですが、高所得の医師にとって大きな節税効果をもたらす手段の一つといえます。
5-3. 相続対策
生前贈与と不動産活用: 子どもへの資産移転を計画的に行う方法
医師が持つ高額な資産は、相続時に大きな税負担を伴う可能性があります。これを軽減するために、生前贈与や不動産活用が効果的です。たとえば、年間110万円までは非課税で贈与が可能なため、計画的に子どもへ資産を移転することで相続税の課税対象額を減らすことができます。
また、不動産は現金に比べて相続税評価額が低いため、相続税対策として有効です。特に、賃貸用不動産を活用すれば、収益を生みながら相続税評価額を抑えることができ、一石二鳥の効果が得られます。
6. まとめと実践への第一歩

投資は手段であり目的ではない: 経済的自由を得るための最適解を選ぶべき
投資の本質は、単にお金を増やすことではありません。特に医師のような高所得者にとって、投資は経済的自由を実現し、生活の質を向上させるための手段であるべきです。医師の仕事は責任が重く、ストレスも多い職業です。そのため、時間や労力を無駄にしないよう、投資による収益を活用して人生の選択肢を広げることが重要です。
例えば、退職後に安心して暮らせるだけの資産を形成する、子どもに良質な教育環境を提供する、趣味や家族との時間を充実させるなど、投資が目指すべきゴールは人それぞれです。投資を行う際は、自分自身のライフプランを明確にし、それに最適な方法を選ぶことが大切です。
専門家との連携の重要性: 税理士やファイナンシャルプランナーのサポート活用
医師の仕事は多忙であり、投資や節税の全てを一人でこなすのは非現実的です。ここで重要なのが、専門家の力を借りることです。税理士は税制の最新情報を把握し、最適な節税スキームを提案してくれるプロフェッショナルです。例えば、資産管理会社の設立や医療法人化の際には、税理士のアドバイスが欠かせません。
一方で、ファイナンシャルプランナー(FP)は、資産全体の運用やリスク管理の観点からアドバイスを提供してくれます。NISAやiDeCo、不動産投資など、それぞれの投資手法の利点や注意点を整理し、医師の特性に合ったプランを構築してくれるでしょう。専門家との連携は、限られた時間を有効活用し、最良の投資結果を得るための鍵です。
次に取るべきステップ: 自身の資産状況を見直し、適切な投資プランを計画する
最後に、医師が実践するための具体的なステップを整理してみましょう。
- 自身の資産状況を把握する 現在の収入、支出、資産、負債を一覧化し、全体像を明確にします。これにより、投資に回せる余剰資金や目標額を設定することができます。
- ライフプランを立てる 投資の目的を明確にしましょう。例えば、「10年後に子どもの留学資金を確保したい」「50歳までに住宅ローンを完済したい」など、具体的な目標が重要です。
- 専門家に相談する 税理士やFPに相談し、最適な節税対策や投資方法を見つけます。この段階でNISAやiDeCo、不動産投資など、自分に適した選択肢を具体化します。
- 小さく始める 投資は必ずしも一度に大きな金額で始める必要はありません。少額の株式投資やつみたてNISAなど、リスクが低く学びながら成長できる手法から始めるのがおすすめです。
- 定期的に見直す 投資は始めたら終わりではありません。市場の動向や税制の変化、ライフプランの修正に応じて、ポートフォリオを定期的に見直すことが重要です。
医師が投資を始めるには、多忙な日常の中で時間を確保する必要がありますが、その労力に見合うだけのメリットが得られるのは間違いありません。本記事を通じて、医師特有の経済的課題を乗り越え、資産形成を成功させるための道筋を示しました。ぜひ第一歩を踏み出し、経済的自由を手に入れるための投資ライフをスタートさせてください!

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。