近年の世界経済は、金利の高止まり、インフレの持続、地政学リスクの顕在化といった複合的な不確実性の時代に突入しています。そんな中、個人投資家の間で再び注目を集めているのが「REIT(不動産投資信託)」です。
かつては機関投資家向けの資産という印象もあったREITですが、今ではNISA制度の拡充や証券会社各社の取り扱い強化により、一般の投資家でも手軽に不動産投資にアクセスできる手段として広く浸透してきました。
実際、日本銀行の資金循環統計によれば、個人によるJ-REIT(日本版REIT)への投資額はこの数年で着実に増加傾向を示しています。特に2023年以降は、利回りの魅力や実物資産としての防御力に注目が集まり、国内外のREIT市場への資金流入が加速しています。
金利高止まり時代の不動産投資の魅力と落とし穴
金利が高いという環境は、基本的に不動産価格にとっては逆風とされがちです。借入コストの上昇は、REITが保有する不動産の収益性を圧迫する可能性があるからです。一方で、インフレが長期化する時代においては、実物資産である不動産は「インフレ耐性のある資産」として見直されており、家賃収入の上昇や資産価値の維持という観点では有利に働く面もあります。
つまり、REIT投資は“リスクとリターンのバランス”を見極めることが重要なのです。
個人投資家の“手が届く”不動産投資としてのREIT
「マンション一棟を買う資金はないが、不動産に投資したい」――こうしたニーズに応えるのがREITの最大の強みです。数万円〜数十万円単位で不動産市場に分散投資できるうえ、証券口座を通じていつでも売買が可能な流動性も魅力です。
さらに2024年の新NISA制度のスタートにより、REIT投資を「非課税枠」で行える環境が整ったことも大きな追い風となっています。
2025年、日本のREIT市場に起きている静かな変化
2025年に入り、日本のREIT市場は構造的な変化の途上にあります。具体的には以下のような動きが見られます。
- 不動産セクターの多様化(物流施設やデータセンター型REITの登場)
- ESG視点を取り入れた「グリーンREIT」の台頭
- 空室率改善やインバウンド復調による商業・ホテルREITの回復期待
このように、REITは単なる高配当資産ではなく、時代の変化に応じて“進化する資産クラス”となっているのです。
第1章:REITとは何か? — 初心者がまず押さえるべき基本と仕組み

「REIT=不動産投資信託」ってどういう意味?
REIT(Real Estate Investment Trust)は、不動産投資信託と訳され、投資家から集めた資金を使って商業ビル、オフィス、住宅、物流施設などの不動産に投資し、その賃料収入や売却益を分配金として投資家に還元する仕組みです。
つまり、REITを通じて、個人投資家でも間接的に不動産オーナーのような立場を得ることができるのです。
仕組みの核心:多数の不動産に少額で分散投資できる強み
REIT最大の魅力は、「少額で複数の物件に分散投資できる」という点です。たとえば、あるJ-REITが東京都内の複数の商業施設やオフィスビルに投資していた場合、投資家は1口数万円からそれら不動産の運用成果にアクセスできるのです。
この“分散性”が、個別物件への直接投資に比べてリスクを抑える役割を果たしてくれます。
上場REITと非上場REITの違いをシンプルに整理
REITには大きく分けて2つの種類があります。
| 種類 | 特徴 |
|---|---|
| 上場REIT | 証券取引所に上場され、株式のように売買可能。高い流動性が特徴 |
| 非上場REIT | 証券市場に上場しておらず、機関投資家向け。長期運用・安定性重視 |
一般の個人投資家にとっては、東証に上場しているJ-REIT(Japan REIT)が主な投資対象となります。証券口座さえあれば、株式と同様に売買できる手軽さが魅力です。
利回りの見方、配当の仕組み、価格変動の要因とは?
REITの利回りは、主に「分配金利回り」として表示されます。これは、年間分配金額を現在の価格で割った値で、銀行預金や国債利回りと比較されることが多いです。J-REIT全体の平均分配金利回りはおおむね3〜4%前後で推移しています(2025年現在)。
分配金は、REITが得た賃料収入や物件売却益から経費を差し引いた利益の大部分を投資家に還元する形で支払われます。日本のREIT制度では、収益の90%以上を分配すれば法人税が免除されるという仕組みになっており、投資家にとっては「高配当」が実現しやすい設計となっています。
価格変動要因としては、金利動向、不動産市況、個別REITの財務内容やテナント状況、地政学リスクなどが挙げられます。
不動産の“セクター別”に見たリスクとチャンス(オフィス、物流、住宅、商業など)
REIT投資を行う際には、「どんな種類の不動産に投資しているか?」という“セクター”の視点が極めて重要です。REITは決して一枚岩ではなく、対象とする不動産のタイプによって収益性やリスクが大きく異なります。以下では代表的な4つのセクターについて、2025年の展望とともに分析してみましょう。
1. オフィス系REIT — 不安と再評価のはざまで
コロナ禍以降、テレワークの普及でオフィス需要は下火に思われましたが、2024年から都市部を中心に再び“リアル回帰”の動きが強まりつつあります。特に都心一等地のハイグレードオフィスでは稼働率が回復傾向にあり、REITとしての安定感が見直されています。
ただし、地方都市やBクラスビルにおいては空室率が依然として高止まりしているため、投資対象としては慎重な選定が必要です。景気動向との連動性も高いため、短期的な景気の波に敏感な点は留意しておきましょう。
2. 物流施設REIT — 安定成長を支える“EC経済”の裏方
AmazonをはじめとしたEコマースの成長が物流インフラの重要性を押し上げています。大型物流センターを保有するREITは長期契約による収益の安定性が高く、インフレ時代の守りの資産として注目されています。
さらに、再配送・返品対応など物流の高度化が進む中で、最新設備を備えた施設の賃料は上昇傾向にあります。2025年もこのトレンドは継続する見通しで、REITとしての投資妙味は高いと言えるでしょう。
3. 住宅系REIT — 安定収入の王道セクター
日本ではファミリー向けよりも、単身者向けの賃貸住宅に特化したREITが多く、人口動態に左右されにくい強みがあります。転勤や進学などによる移動需要、また都市部での住宅供給不足を背景に、安定した家賃収入を見込める点が魅力です。
特に都市近郊の駅近物件を中心とした住宅REITは、景気の影響を受けにくく、ディフェンシブ資産として有力です。ただし、金利上昇が進んだ場合には資産評価や借入コストの面で圧迫を受ける可能性もあり、金利感応度には注意が必要です。
4. 商業施設系REIT — “回復と挑戦”の入り混じるセクター
コロナ禍で大打撃を受けたセクターの一つが商業施設REITです。インバウンド需要や外出控えの影響で空室率が一時的に上昇しましたが、現在は観光回復・消費の正常化とともに復調傾向にあります。
2025年は、訪日外国人の増加や地域再開発による消費拠点の活性化が追い風となる可能性があります。一方で、ネットショッピングとの競合やテナント構成の見直しなど、構造的な変化にどう対応するかが鍵を握ります。
第2章:2025年に注目のREITセクターとおすすめ銘柄の視点
成熟市場の中に潜む“成長余地”を見極める
2025年のREIT投資でカギを握るのは、「どのセクターがこれから成長するのか?」という視点です。単に配当利回りが高い銘柄を選ぶのではなく、時代の変化や構造転換に沿って「伸びしろ」を持つテーマを押さえることが重要になってきます。
とりわけ注目すべきは以下の4つのセクターです。
【1】物流REIT:EC拡大と地方物流網の整備
コロナ禍を経て拡大したEコマース需要は、依然として強いトレンドです。国内大手物流REIT(例:日本プロロジスリート投資法人など)は、Amazonや楽天の拠点ともなる大型物流施設を保有。配送スピードの高速化・効率化ニーズが後押しする形で、安定的な賃貸収入が見込める点が魅力でしょう。
さらに注目すべきは、「地方都市の物流再編」。今後は東京・大阪といった大都市圏に加え、福岡や名古屋、仙台といった地方中核都市の物流インフラも見直しの対象に。施設の需給バランスを見ながらの慎重な銘柄選定がカギを握ります。
【2】データセンターREIT:生成AI時代の“新インフラ”
2024年以降、生成AIの進展とともに急激にニーズが高まっているのが、クラウドと連動した「データセンターREIT」です。米国ではEquinixやDigital Realty Trustなどが代表例。日本でも、KDDI系やインフラファンドが投資対象として注目を集めています。
データセンターは、AIやIoT、5G社会において“第二のライフライン”とも呼ばれる存在です。電力・冷却設備の整備が必要であることから、参入障壁が高く、長期の安定賃貸契約が一般的。安定した収益と構造的な需要増を同時に享受できる点が強みと言えるでしょう。
【3】住宅REIT:都市回帰とシングル向け物件への注目
日本国内では、東京23区を中心に「都市回帰」が進んでおり、単身者向けのコンパクト住宅やワンルームマンションのニーズが高まっています。このトレンドを背景に、住宅REIT(例:アドバンス・レジデンス投資法人など)は安定的な賃料収入を得やすく、リスクも比較的限定的です。
また、人口減少社会と言われる中でも、就業人口や単身世帯数は都市部で増加傾向にあり、「量より質」へと需要構造がシフトしています。加えて、住宅REITは他セクターと比べて値動きがマイルドな傾向にあるため、REIT初心者にも向いている投資対象となるでしょう。
【4】インフラREIT・再エネREIT:ESG投資の本命候補
SDGsやESG投資の普及に伴い、太陽光発電施設や風力発電所などを組み入れた「再生可能エネルギーREIT」にも注目が集まっています。日本では、「タカラレーベン・インフラ投資法人」などが上場しており、固定価格買取制度(FIT)による安定的なキャッシュフローが魅力。
再エネ関連REITは価格変動が比較的小さく、分配金利回りも5~6%前後と高めに設定されているケースが多いです。インフレ耐性や為替リスクが比較的少ないのも個人投資家には嬉しいポイントと言えるでしょう。
第3章:初心者が選ぶべきREIT銘柄と投資戦略
手堅さ重視か、成長性重視か?まず“自分のスタンス”を明確に
REIT投資とひと口に言っても、その中身は多種多様です。商業施設やオフィスビルに投資するものもあれば、物流倉庫や住宅、ホテルといった異なる用途の不動産に特化したものもあります。
まず初心者が心掛けるべきなのは、“自分の投資スタンスを明確にする”こと。たとえば「安定した分配金を毎年しっかり受け取りたい」という方であれば、堅実な運用実績と稼働率の高いオフィス系REITや、テナントが長期契約を結ぶ物流系REITが有力候補になります。
一方、「中長期的な成長余地を狙いたい」という方であれば、住宅系や商業施設系、あるいはインバウンド回復を背景にホテル系REITに注目するのも一案です。
初心者向けの注目REITジャンルと代表銘柄
ここでは2025年現在、初心者におすすめできるREITの“ジャンル”と“代表的な銘柄”をいくつか紹介します。
① 物流特化型REIT
EC市場の拡大とともに注目を集めているのが物流REITです。たとえば「日本ロジスティクスファンド投資法人(証券コード:8967)」などは、安定的な稼働率と比較的高い分配利回りが魅力。
物流施設は長期契約が一般的で、景気変動にも強いため、初心者にも扱いやすいジャンルです。
② 総合型REIT
複数の不動産セクターにまたがって投資する“総合型”は、個別物件の影響を受けにくいのが特徴です。「日本ビルファンド投資法人(証券コード:8951)」などは、オフィスを中心としながらも分散されたポートフォリオが魅力。
複数セクターに分散されているため、REIT初心者にとっては“バランス型の入門銘柄”といえるでしょう。
③ 住宅系REIT
比較的安定した需要が見込まれる住宅系REITも注目のジャンルです。「アドバンス・レジデンス投資法人(証券コード:3269)」などは、都心部を中心とした賃貸住宅に投資し、景気変動の影響を受けにくいのが特徴。
特に人口が集中するエリアに物件を持つREITは、空室リスクが低く、安定した収益が見込めます。
REIT投資の基本戦略:単独購入か、ETF/投資信託か?
初心者にとって、REITの“個別銘柄”を選んで購入するのは少しハードルが高いと感じるかもしれません。その場合は、複数のREITに分散投資できる「REIT ETF」や「REIT投資信託」を活用するのも良い選択です。
たとえば「iシェアーズ・日本REIT ETF(証券コード:1476)」は、東証REIT指数に連動して複数の銘柄に分散投資できるので、初期投資としての安心感があります。
また、投資信託であれば毎月一定額を積み立てられる「REIT型バランスファンド」もあり、NISA制度とも相性が良いです。
分配利回りだけを見て飛びつかない — “中身”こそ重要
REIT投資の魅力としてよく語られるのが「分配利回りの高さ」ですが、この数字だけに飛びつくのは危険です。利回りが高い=魅力的に見えますが、裏を返せば“価格が下落している”というケースもあります。
投資判断では、分配金の持続可能性(=賃料収入の安定性)、物件の立地や稼働率、テナントの質、資産の分散状況など、ファンダメンタルズをしっかり確認することが重要です。
第4章:2025年注目のREIT市場トレンドと、今後の投資判断ポイント

金利動向とREIT市場の「反発力」
2025年のREIT市場を見通すうえで、もっとも注目すべきは「金利動向」です。REIT(不動産投資信託)は、金利が上昇すると利回り面で債券と比較された結果、相対的に魅力が薄れる傾向にあります。2022〜2023年にかけての世界的な金利上昇局面では、多くのREIT銘柄が大きく調整を受けました。
しかし、その反動として現在(2025年)は「利上げの終了」「利下げ観測」が市場に織り込まれ始め、REITが“出遅れ資産”として見直される局面に突入しつつあります。とくにJ-REIT市場では、東証REIT指数が2024年後半から徐々に反発を始めており、「今が仕込み時」と捉える投資家も増加中です。
セクターごとの注目テーマ:物流・住宅・ホテルに光
REITはひとくくりで語られがちですが、実際には投資対象となる不動産の“セクター”によってパフォーマンスやリスク特性が大きく異なります。
- 物流系REIT:コロナ禍以降、EC(電子商取引)の拡大により大きく成長したジャンル。直近では一服感もあるものの、アジア圏を中心に物流拠点の再整備需要は高く、長期目線では堅調な見通し。
- 住宅系REIT:人口減少時代においても「都市部の単身者向け賃貸」など特定エリア・属性に強い需要が根強く、安定収益源として注目度が高い。
- ホテル系REIT:インバウンド(訪日外国人)需要の回復が本格化。2025年は大阪万博開催を見据えて、観光系物件への投資に再び資金が流入する可能性がある。
こうしたセクターの違いを理解することで、REIT投資はより戦略的に取り組むことができます。
ESG視点でのREIT選定もカギに
近年のREIT投資では、ESG(環境・社会・ガバナンス)を重視する機関投資家の存在感が増しており、環境性能の高いビルや、持続可能性を意識した運営を行うREITが資金を集める傾向にあります。
特に「グリーンボンド」や「環境認証付き物件」を組み込んだREITは、安定した機関投資資金の流入が期待できるため、中長期的にはパフォーマンスが安定する可能性が高いとされています。
投資判断のポイント:単なる“利回り”ではなく、“中長期テーマ”を意識せよ
2025年のREIT市場では、「目先の利回り」だけで銘柄を選ぶのは得策とは言えません。なぜなら、金利変動やマクロ経済の影響を強く受けるからです。むしろ以下のような中長期視点が求められます。
- 今後5〜10年の社会・経済構造にマッチしたセクターか?
- ESG的観点で機関投資家の支持を得やすい設計か?
- 管理運営会社の実績や、資産規模の安定性はどうか?
これらを踏まえ、「時流に乗ったREIT」を選ぶことで、長期的に安定した資産形成につながる可能性が高まります。
第5章:REIT投資の注意点とリスク管理
REIT(不動産投資信託)は少額から不動産投資が可能な点や、分配金収入を得られる点で、個人投資家にとって魅力的な資産クラスです。しかし、安定性が強調される一方で、もちろんリスクも存在します。ここでは、初心者が特に気をつけたいREIT特有のリスクと、それに対する具体的な管理方法を紹介していきます。
金利変動リスク:REIT最大の敵は「金利の上昇」
REITの価格は、金利の動きに非常に敏感です。これは、REITの多くが不動産を担保に資金調達をしているため、金利上昇により資金コストが増加することで、利幅が縮小し、投資家に分配される利益も減少する傾向があるからです。
特に長期金利が上昇すると、安全資産である国債の利回りが高まり、相対的にREITの魅力が薄れるという構造があります。これにより、REIT価格が下落することも少なくありません。
リスク管理のポイント:
- 利上げ局面では、「借入比率(LTV)」が低いREITを選ぶ。
- 短期的な金利動向に一喜一憂せず、中長期の安定収益を重視した投資方針を持つ。
市場流動性リスク:売買しやすいかは銘柄次第
上場REIT(J-REIT)は証券取引所で株式のように売買できますが、全ての銘柄が十分な流動性を持っているわけではありません。特に、規模の小さいREITや、投資家人気が薄いセクターのREITは、出来高が少なく、急に売買しようとすると価格が大きく動いてしまうことも。
リスク管理のポイント:
- 時価総額が大きく、日々の売買代金が安定している銘柄を中心に選ぶ。
- 出口戦略を想定し、売却時の流動性を意識しておく。
セクター別リスク:一見同じREITでも中身はバラバラ
REITは、不動産に投資するという意味では同じですが、「何に投資しているか」でリスクが大きく異なります。例えば、オフィス系REITはテレワークの普及などにより空室率が上がりやすく、商業施設系は消費動向の影響を強く受ける一方、物流系REITはECの成長を追い風にしています。
リスク管理のポイント:
- セクターの特性と将来展望を理解した上で、テーマごとに分散する。
- 景気敏感型(オフィス、商業)と景気非敏感型(住宅、物流)をバランスよく組み合わせる。
天災・災害リスク:不動産ならではの宿命
REITの投資対象である不動産は、地震や台風、火災といった自然災害の影響を受けやすい資産です。特に日本は地震大国であり、リスクの所在を甘く見ると痛手を被る可能性もあります。
リスク管理のポイント:
- 投資先不動産の所在地や耐震構造について情報開示しているREITを選ぶ。
- 保険対応やBCP(事業継続計画)を積極的に開示している運用会社に注目。
外部成長依存リスク:新規取得が成長の鍵だが…
REITの成長は、「外部成長(新規物件の取得)」に依存する部分が大きいですが、不動産市況が高騰している局面では、良質な物件を適正価格で仕入れるのが難しくなります。無理な拡大は、収益力の低下や財務リスクを招く可能性も。
リスク管理のポイント:
- 「内部成長(既存物件の収益改善)」にも力を入れているREITを評価する。
- 過去の取得実績や運用方針、スポンサー企業の安定性なども重視。
第6章:REITを活用したポートフォリオ構築の実践ポイント
資産運用におけるREITの位置づけとは?
REIT(不動産投資信託)は、その安定したインカム収益と分散投資効果から、特に中長期的な資産形成を目指す投資家にとって有効な選択肢のひとつです。株式や債券と比べて相関が低いため、ポートフォリオ全体のボラティリティ(価格変動リスク)を抑える役割を果たしてくれます。
例えば、2022年〜2023年にかけてのような株式市場の調整局面でも、物流系REITや住宅系REITは比較的堅調に推移しました。これは、不動産セクターが実需に支えられやすい特徴を持つためであり、リスク分散の視点からも評価されています。
リスクとリターンのバランスを取るには?
REITをポートフォリオに組み込む際の基本は、「他の資産とのバランスを見ながら、過度に偏らないこと」です。以下のような配分例が、初心者には参考になるでしょう。
| 資産クラス | 割合(例) |
|---|---|
| 株式 | 40% |
| 債券 | 30% |
| REIT | 15% |
| キャッシュ(現金) | 10% |
| その他(コモディティなど) | 5% |
このように、REITは全体の15%前後を目安に組み入れるのが一般的です。利回りを確保しつつも、経済ショックなどによる価格変動に備えるには、他の資産とのバランスが欠かせません。
セクター分散の重要性
REITには様々なセクターが存在します。代表的なものとしては、以下が挙げられます。
- オフィス系REIT
- 商業施設REIT(モール・店舗など)
- 物流施設REIT(倉庫など)
- 住宅系REIT(賃貸マンションなど)
- ホテルREIT
- データセンターREIT
仮にオフィス市況が悪化しても、物流や住宅といった他のセクターがカバーできれば、全体としての安定性が高まります。よって、1〜2銘柄に集中せず、セクターの分散も意識した投資が肝要です。
海外REITの活用も視野に
日本国内のREITだけでなく、米国やアジアなど海外REITに目を向けるのもひとつの選択肢です。例えば米国のREIT市場は、世界最大規模を誇り、データセンターや医療施設など専門性の高い資産にもアクセス可能です。
ただし、為替リスクや税制の違いもあるため、投資の際は信託報酬や配当課税の仕組みも確認しておきましょう。
REITと他の資産クラスとの比較 ― ポートフォリオにどう組み込むか
資産運用を考える上で、REIT(不動産投資信託)が単体でどれほど魅力的であっても、他の資産クラスとの比較を抜きには語れません。多様な資産に分散して投資することで、リスクを抑えながらリターンの最大化を図る「ポートフォリオ戦略」が、特に今のような不確実性の高い時代においては必須となります。
ここではREITと「株式」「債券」「コモディティ(商品)」「現金資産」などの代表的な資産クラスとの比較を通じて、REITの立ち位置や役割、さらにはどのようにポートフォリオへ組み入れるべきかをわかりやすく解説していきます。
株式との比較:リターンの質と値動きの違い
REITと株式の違いを語る際に最も重要なのは「リターンの質」です。REITの主な収益源は、保有する不動産から得られる賃料収入に基づく分配金であり、これが投資家へのインカムゲインとして機能します。一方で株式は、企業の成長性に賭けるキャピタルゲインが主な収益源です。
値動きにおいても、REITは株式市場に上場しているため、短期的には株式と似たようなボラティリティを持ちますが、中長期で見ると配当の安定性が下支えとなり、比較的穏やかな値動きになる傾向があります。特に市場が不安定な局面では、配当利回りの高さが魅力として意識されやすくなります。
債券との比較:金利との相関関係と“ミドルリスク・ミドルリターン”の位置づけ
REITは「ミドルリスク・ミドルリターン」の資産クラスとよく言われます。債券に比べてリスクは高いものの、利回り水準や成長性を期待できるという点で、リスク資産である株式と安全資産である債券の“中間”に位置します。
ただし注意したいのが、REITも金利変動の影響を強く受けるという点です。金利が上昇すると、将来のキャッシュフローの割引現在価値が下がるため、REIT価格が下がりやすくなります。特に日本のような長期金利の低下局面ではREITが買われやすく、反対に利上げ局面では調整リスクが高まります。
コモディティ(特に金)との比較:インフレヘッジとしての位置づけ
REITは「実物資産」であり、保有する不動産そのものがインフレに強いとされます。これは、インフレ時に地価や賃料が上昇する傾向があるためです。こうした意味では、金(ゴールド)や原油などのコモディティと同様、インフレ局面での資産保全効果が期待できる存在ともいえます。
ただし、コモディティは基本的にキャッシュフローを生まない「価値保存資産」であるのに対し、REITはインカムを伴う「価値創造資産」という位置づけです。この違いは、長期的に資産を積み上げたい投資家にとって大きな意味を持ちます。
現金・預金との比較:インフレリスクと実質利回り
現金や預金は元本保証があるため安全性が高い一方で、インフレが進行すると実質的な購買力は低下します。一方でREITは、物価上昇に応じて賃料も上がる可能性があるため、インフレ耐性のある資産クラスと位置づけられます。
そのため、ポートフォリオにおいて「守り」の役割を果たす現金とは異なり、REITは「インフレに備える攻守のバランス役」として活用されやすいのです。
ポートフォリオへの組み込み方:理想的なバランスとタイミング
初心者がREITをポートフォリオに組み込む際に重要なのは、「全体の資産バランスを見ながら、REITがどの役割を果たすか」を明確にすることです。
例えば、「インカムゲインを増やしたい」「インフレに備えたい」という目的があるなら、全体の10~20%程度をREITに振り分けるのも一つの戦略です。一方で、「金利上昇リスク」や「不動産市況の変化」などにも備える必要があるため、REITの比率は過度に高くすべきではありません。
第7章:REITの今後の市場動向と、投資判断の新しい視点

2025年以降、REIT市場を取り巻く環境は大きく変化しつつあります。世界的な金利動向、都市構造の再編、そしてテクノロジーの進化がREITのパフォーマンスに与える影響は、かつてないほど複雑化しているのが現実です。この章では、REIT投資における中長期的な見通しと、従来の視点にとらわれない「新しい評価軸」について考察します。
金利環境の転換期とREIT市場
REITはその性質上、金利の動向に強く影響されます。金利が上昇すれば、REITの利回りの相対的な魅力が低下し、価格が下落する傾向がある一方、金利が高止まりする局面でも、物件の賃料収入が安定していれば配当利回りを維持することも可能です。
2025年現在、米国をはじめとする先進国では「高金利の長期化」への懸念が根強く、日本国内でも長らく続いた超低金利政策の修正が続く可能性があります。こうした中で注目すべきは、金利上昇局面に強い「物流系」「データセンター系」のREITです。これらのセクターはテナント需要が堅調であり、賃料改定力を持つ物件が多いため、インフレ環境下でもキャッシュフローを維持しやすいのが特徴です。
都市の再編と「生活インフラREIT」への注目
働き方やライフスタイルの多様化に伴い、「都市構造の変化」が加速しています。都市の中心部一極集中から、郊外や地方都市への分散、またリモートワークや地方移住の増加による不動産需要の変動は、REITにとって新たな潮流です。
このような環境下で注目されているのが、「生活インフラ型REIT」です。医療施設、介護施設、教育関連施設、公共住宅といった“非サイクル型”の資産を中心とするREITは、景気変動の影響を受けにくく、長期的な需要が期待できます。人口減少や高齢化が進む日本においては、こうしたREITが「社会的課題を解決しながら投資リターンを得る手段」として注目される場面が増えていくでしょう。
ESG・インパクト投資の視点を取り入れる
世界の機関投資家や大手金融機関では、もはやESG(環境・社会・ガバナンス)を無視した投資戦略は通用しない時代となりました。REITも例外ではなく、「ESG対応型REIT」「グリーンREIT」といった銘柄への資金流入が加速しています。
例えば、環境性能の高いビルを保有し、電力の再エネ化に取り組むREIT、あるいは地域再生に資する社会的意義のある施設を保有するREITなどは、ESG投資枠として評価されるケースが増えており、長期資金の受け皿となり得ます。
AI・データドリブンなREIT分析が主流に
テクノロジーの進化も、REITの評価手法を大きく変えようとしています。過去には「立地」「築年数」「テナント」など物理的な要素が主軸でしたが、今後はより高度なデータ分析、AIによる賃料予測、地域の将来需要予測などを活用した“未来志向”の評価が重要になるでしょう。
個人投資家にとっても、そうした分析を提供するプラットフォームやAIツールを活用することで、より科学的で精度の高い銘柄選定が可能になります。経験や勘に頼らない、客観的でデータに基づく投資判断こそが、今後のREIT投資における新たな基準です。
REIT投資は“長期で見る力”が試される時代へ
不動産市場は一朝一夕に変わるものではありません。短期的な価格変動に惑わされることなく、「どのセクターに、どんな構造変化が起きているか」を読み解き、中長期的な視点で投資を継続する姿勢が、REIT運用では欠かせません。
特に、将来的に人口構造が大きく変わることが予測されている日本市場においては、「持続可能性」を見抜く力、そして「変化に対応できる資産」を見極める力が、投資家の勝敗を分けることになるでしょう。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。
