資産運用や資産管理に関心のある方なら、プライベートバンクに興味を持たれたことがあるのではないでしょうか。
しかし、プライベートバンクは、業務内容や成り立ちが一般的な銀行とはかなり異なっているため、よくわからないという方も多いでしょう。そこで本記事では、プライベートバンクとはどのようなものか、概要を解説します。
プライベートバンクとは「富裕層専門」の金融機関
プライベートバンクとは、富裕層のみを顧客とし、資産の保全や運用、その他金融サービスを提供する、富裕層専門の金融機関です。
富裕層専門という点以外にも、単に資産を預かるだけではなく、専門的かつ中立の立場で、資産保全や運用、節税などのアドバイスをおこなうこと、専任の担当者がついて金融以外の相談にも乗ることなどの特徴があります。
プライベートバンクの歴史
プライベートバンクは、18世紀ごろにスイスを中心としたヨーロッパの各地で誕生しました。その源流はいくつかにわかれていますが、中心となるのは、当時ヨーロッパ各地で宗教弾圧を受けてスイスに逃れてきた新教(プロテスタント)の貴族たちが、自分たちの資産を守るために設立した銀行です。
また、別の流れとして当時のスイスの傭兵が資産を預けるために設けられた銀行も、プライベートバンクの起源となっています。他にも、リヒテンシュタインやドイツなど、ヨーロッパ各地に起源の異なるプライベートバンクが存在してきました。
伝統的なプライベートバンクの特徴
伝統的なプライベートバンクは、富裕層専門である点以外にも、いくつかの特徴を備えていました。
1点目は、私的な所有形態です。そもそもプライベートバンクの「プライベート」は、一義的には、株式会社のような「パブリック・カンパニー」(公開会社)ではなく、プライベート・パートナーシップ(私的組合)という組織形態に由来するものです。日本風にいえば、家族経営の同族会社に近いイメージですが、多くのプライベートバンクを運営しているのは王族や貴族の一族です。
2点目は、無限責任パートナーシップです。無限責任とは、債務に対してパートナー(銀行の経営者)が、無限に個人保証するということです。この点が、出資者の責任が出資額に限定される、有限責任の株式会社などとの大きな違いです。
現在でも、スイスにある「スイス・プライベートバンカーズ協会」では、最低でも1人の無限責任パートナーが存在することを加盟の条件としています。この仕組みが、プライベートバンクへの高い信頼につながっていました。
3点目は、徹底した顧客の秘密保持です。スイスでは、国内の銀行に対して、第三者への顧客情報の提供を法律で禁止してきました。この秘密保持も、富裕層が安心して資産を預けられる理由となっていました。
他にも、口座開設できるのは既存顧客からの紹介のみで、積極的に顧客を増やさないことや、数世代にわたって顧客の資産を管理することなどの特徴がありました。

現在のプライベートバンク
現在でも、上のような特徴を備えた伝統的なプライベートバンクは存在しますが、その数は徐々に減り、現代の金融情勢にあわせた変貌を遂げています。
例えば、多くのプライベートバンクで無限責任パートナーが廃止され、有限責任パートナーのみで構成されたり、株式会社化されたりしています。
また、投資銀行業務や運用商品開発に取り組んだり、グローバルに拠点進出して総合金融グループ化したりするプライベートバンクもあります。
狭義の(伝統的な)プライベートバンクと広義のプライベートバンク
世界的な大手金融グループ、例えば、JPモルガン、UBS、モルガン・スタンレー、ゴールドマン・サックスなどは、いずれも富裕層向けのプライベートバンキング部門(ウェルス・マネジメント部門)を備えています。これらの大手金融グループのプライベートバンキング部門も、プライベートバンクと呼ばれることがあります。
しかし、これらのグループはいずれも一般的な商業銀行業務や投資銀行業務を行っているため、厳密にいえば富裕層専門のプライベートバンクには該当せず、いわば広義のプライベートバンクだといえます。
ただし、現在では伝統的なプライベートバンクも変貌を遂げているため、狭義と広義の境界はあいまいになってきています。

プライベートバンクは「絶対に顧客の情報を漏らさない」は本当か?
映画やコミックなどでは、プライベートバンクは、匿名で番号だけで管理される「番号口座」があり、警察や税務署などが問い合わせても顧客の情報は開示しないといった設定がよくあります。
たしかに20世紀までは、それが正しい面もあったのですが、2001年の同時多発テロ、2008年の世界金融危機などを経て、マネーロンダリングや脱税に対する国際的な金融機関の協調が進み、スイスも2018年から「自動的情報交換制度(AEoI)」に参加しています。
これにより、スイスのプライベートバンクは、外国人顧客の口座情報をその居住国の税務当局に自動的に報告することが義務付けられています。また、マネーロンダリングやテロ資金などの疑いがある資金に対しても、当局への報告が義務付けられています。
絶対に秘密を守る銀行のイメージは、過去のものだといえるでしょう。
ライター 椎原よしき
