
「資産運用は何から始めればいいのか分からない。だから、とりあえず銀行で勧められた投資信託を買いました。」
このような話は、今でも決して珍しくありません。実際、日本証券業協会が行った調査によると、「投資信託を購入したきっかけ」として最も多かったのが「金融機関からの勧誘」でした。
つまり多くの人が、自分で納得したうえで購入しているのではなく、“勧められたから”という理由で始めているのです。
問題なのは、その“おすすめ”が必ずしもあなたの利益を考えたものではないという点にあります。
特に、金融機関側にとって販売手数料や信託報酬が高い商品は「売りやすい=儲かる」存在。
その結果、リスクに見合わない商品を掴まされてしまい、「気づいたときには損をしていた」というケースも少なくないのです。
日本人に特有の“投資信託あるある”とは?
日本人が投資信託でつまずきやすい理由の一つに、「リスクを取ることへの心理的抵抗感」があります。
OECDが発表した「国際金融リテラシー調査」によると、日本人のリスク許容度は加盟国中でも極端に低く、投資に対する理解や知識も平均以下という結果が出ています。
このような傾向から、多くの人が「損をしたくない」という意識だけで商品を選びがち。
しかし、リスクを避けすぎることで、結果的にリターンを得られず、インフレにすら資産が負けてしまうこともあります。
また、「毎月分配型」や「テーマ型」など、仕組みをよく理解せずに人気だけで選ぶ傾向もあります。
とくに初心者は、「分配金が毎月出る=お得」と誤解してしまい、元本が減っていることに後で気づくというパターンが多いです。
金融庁レポートに見る「損している人の共通点」
金融庁が毎年発表している「投資信託の販売実態に関するモニタリング結果」では、以下のような共通点が挙げられています。
- 信託報酬が1%を超える高コストファンドを購入している
- 購入から数年以内に解約してしまい、損失を確定させている
- 毎月分配型ファンドを短期売買している
これらに共通するのは、「長期運用」や「コスト意識」といった資産形成に不可欠な視点が欠けていることです。
特に信託報酬の高さは、「複利効果を削る最大の敵」とも言われるほど影響力が強い要素。
金融庁の資料によれば、信託報酬1.5%のファンドと0.3%のファンドを20年間運用した場合、最終的な資産額には数十%の差が出るとされています。
つまり、少しの無関心が、将来の大きな“損”につながってしまうのです。
第1章:「損する投資信託」の典型パターンとは?実例とデータで分析

毎月分配型を選んだ結果…30代会社員Aさんの後悔
30代のAさんは、老後のために資産運用を始めようと決意し、銀行窓口で勧められた「毎月分配型投資信託」を購入しました。
当初は、毎月5,000円ほどの分配金が受け取れることに魅力を感じ、満足していたそうです。
しかし、数年後、運用成績を確認して驚きます。
「分配金をもらっていたのに、なぜか元本が大幅に減っている…?」
実は、Aさんが受け取っていた分配金の大半は、「利益」ではなく「元本の取り崩し」によるものでした。
分配金の“額面”ばかりに目を奪われ、ファンド自体の価値が下がっていたことに気づけなかったのです。
これは決して特殊な例ではありません。
毎月分配型ファンドはかつて人気がありましたが、今では金融庁も「中長期の資産形成には適さない」と警鐘を鳴らしています。
高い手数料ファンドで元本割れ…50代経営者Bさんの苦い経験
次に紹介するのは、年収1,000万円を超える50代のBさん。
余裕資金を活用して資産運用を始めるべく、証券会社に相談しました。
担当者から「これはプロが運用しているアクティブファンドなので、非常に安心です」と強く勧められ、信託報酬が年1.6%のファンドを一括購入。
ところがその後、基準価額が下がる一方で、手数料はしっかり差し引かれ続け、3年で15%以上の元本割れに。
「高コスト・低パフォーマンス」の典型的なパターンにハマってしまったのです。
信託報酬は、運用がうまくいっていなくても、毎年必ず引かれます。
つまり、マイナスの運用でもコストだけは確実に損を積み重ねていくことになるのです。
「信託報酬1%」がいかに重たいか?年利3%運用との比較シミュレーション
信託報酬は一見すると「たった1%」に見えるかもしれません。
しかし、そのインパクトは想像以上です。
仮に、300万円を年利3%で20年間運用した場合を考えてみましょう。
- 【信託報酬0.3%】最終資産:約543万円
- 【信託報酬1.5%】最終資産:約417万円
この差は、約126万円。
つまり、手数料の差だけでこれだけ“損をする”可能性があるのです。
投資信託は「長期投資」が前提の商品。
だからこそ、信託報酬の差は複利的に効いてきて、最終的な資産形成に大きな影響を与えます。
第2章:初心者が陥りがちな5つの誤解(続き)
過去の運用成績は未来を保証しない
投資信託の選び方で、初心者がつい信じてしまうのが「過去の運用成績が良ければ、今後も儲かるはず」という考え方です。
もちろん、過去のパフォーマンスは参考にはなりますが、それが未来のリターンを保証するものではありません。
実際、2020年〜2021年にかけて絶好調だった「テーマ型ファンド」(DX関連、ESG投資、グリーンエネルギーなど)は、その後2022年以降に大きく値下がりしたものも多くあります。
理由は、世界的な金融引き締めや金利上昇、テーマの人気が一過性に過ぎなかったことなど。
金融庁の資料でも「過去の成績を重視した投資判断が損失を招く要因の一つ」と明記されており、むしろ長期で安定して運用されているか/市場平均に連動しているかといった視点の方が、資産形成には重要です。
繰り返しますが、“今までうまくいった”は“これからもうまくいく”の保証ではありません。
特にテーマ型ファンドや新興国ファンドは、景気やトレンドの影響を受けやすいため注意が必要です。
銀行・証券会社の「おすすめ」はあなたの利益ではない
金融機関の営業担当者が熱心に勧めてくる投資信託、あなたも一度は目にしたことがあるのではないでしょうか。
たしかに彼らは金融のプロであり、知識も経験もあります。
しかし、それは必ずしも「あなたにとって最良の商品」を紹介しているという意味ではありません。
というのも、投資信託の販売には「販売手数料」や「信託報酬(運用管理費用)」が関係しており、金融機関はそれらの高い商品を“優先的に”売ろうとするインセンティブを持っているからです。
たとえば、信託報酬が年1.5%のアクティブファンドと、年0.2%のインデックスファンドがあるとします。
仮に投資対象やリスク水準が同程度でも、金融機関にとっては、1.5%の商品の方がはるかに儲かるわけです。
その結果、情報弱者が「プロが勧めてくれたから」と鵜呑みにして高コストのファンドを購入してしまい、数年後に後悔する…という流れは非常に多い。
これを防ぐには、勧められた商品をその場で買わないこと。
一度自宅でじっくりと調べ、自分の資産運用の目的に合っているか、信託報酬は適正かを確認する習慣を持ちましょう。
積立なら安心?ドルコスト平均法の限界
「積立投資だから安心」という言葉、投資を始めると頻繁に耳にします。
この考え方の背景には「ドルコスト平均法(Dollar-Cost Averaging)」という投資手法があります。
ドルコスト平均法とは、定額ずつ一定のタイミングで投資を続けることで、購入価格の平均化を狙う方法。
価格が高いときは少なく買い、安いときは多く買うことでリスク分散ができるとされています。
確かに、相場の動きが読めない時代には効果的な手法ではあります。
しかし注意点も存在します。
- 下落相場が長期間続くと、含み損状態が長引く
- タイミングによっては高値づかみになる可能性もある
- 積立期間が短すぎるとリスク分散効果が薄れる
また、ドルコスト平均法は「下がったときも買い続けられるメンタル」があって初めて効果を発揮するもの。
下落局面で不安になり、積立を止めてしまえば本末転倒です。
つまり、積立=絶対に安心という神話を盲信せず、「長期で続ける覚悟があるかどうか」こそが鍵と言えるでしょう。
「つみたてNISAだから大丈夫」と思い込むリスク
「つみたてNISA(少額投資非課税制度)」は、初心者でも取り組みやすい制度として人気を集めています。
年間40万円までの投資が20年間非課税となる仕組みで、2024年からは新NISA制度へと移行し、より柔軟かつ非課税枠も拡大されました。
しかし、「つみたてNISAで買えば安心」と思い込むのは、危険です。
なぜなら、つみたてNISAは“制度”であって、“商品”ではないから。
つまり、つみたてNISA枠内で購入した投資信託が、リスクのあるものであれば、当然元本割れも起こり得ます。
例として、信託報酬が0.9%以上もあるアクティブファンドが、つみたてNISA対象商品に含まれていた時期もありました(現在は除外が進んでいます)。
制度自体は素晴らしくても、選ぶファンドによって結果は大きく分かれるというわけです。
さらに、つみたてNISA枠内で投資した商品は、売却した後に再利用ができないという制限もあるため、慎重な商品選びが求められます。
結論として、「制度=安全」ではなく、「商品=リスクを理解したうえで選ぶべきもの」という認識を持つことが大切です。
第3章:本当に“損しない投資信託”はどう選べばいいのか?
投資信託のチェックポイントはここを見る:信託報酬・純資産・ベンチマーク
投資信託を選ぶ際、パッと見ただけではわかりにくいポイントがあります。
「どれも似たような名前で、何が違うの?」と感じたことがある方も多いのではないでしょうか。
実は、見るべきポイントは明確に存在します。以下の3点が、初心者でも必ず確認すべき基本です。
① 信託報酬(運用管理費用)
まずは、コスト=信託報酬に注目しましょう。
前章でも紹介したとおり、信託報酬が1%を超えると、長期的に見て資産形成の足を大きく引っ張ります。
一般的に、優良なインデックスファンドは0.2〜0.3%程度。
「低コスト=リスクが高い」という誤解をしている方もいますが、むしろ低コストで市場平均を狙う方が安定しており、初心者向きです。
② 純資産総額
次に重要なのが「純資産総額」。これは、ファンドに集まっているお金の総額を指します。
なぜ重要かというと、純資産が少ないファンドは早期償還(=終了)されるリスクがあるからです。
また、規模が小さいファンドは流動性が低く、運用効率も下がる傾向があります。
目安としては、最低でも10億円以上、できれば100億円以上のファンドを選ぶのが安心です。
③ ベンチマーク(指標)との乖離
そのファンドが何を目指して運用されているのか、つまり「ベンチマーク」が設定されています。
たとえば、日経平均やS&P500などが代表的な指標です。
ここでチェックすべきは、「ベンチマークと実際の運用成績の差」。
この差が大きい場合、運用効率が悪い/余計なコストがかかっている可能性があります。
とくにアクティブファンドは、「ベンチマークを上回る成果」を目指していますが、実際には7割以上のアクティブファンドがインデックスに勝てていないというデータもあります(S&Pダウ・ジョーンズ・インデックス調査)。
アクティブvsインデックス…初心者が選ぶべきはどっち?
投資信託を選ぶ際に避けて通れないのが、「アクティブファンド」と「インデックスファンド」のどちらを選ぶかという問題です。
- アクティブファンド: 市場平均を超える運用を目指し、ファンドマネージャーが個別銘柄を選んで積極的に運用する
- インデックスファンド: 市場全体の動きに連動するよう設計され、日経平均やS&P500などの指標に沿って運用される
初心者が選ぶべきは、圧倒的にインデックスファンドです。
理由は以下の通り:
- 手数料が圧倒的に安い(信託報酬0.1〜0.3%程度)
- 長期運用に適している(手間がかからず、自動的にリスク分散される)
- 成績が安定しており、長期的には多くのアクティブファンドを上回る結果を出している
アクティブファンドにも優秀なものは存在しますが、選定には高度な知識と経験が求められ、結果も運用者に依存するため、初心者にはややハードルが高い選択肢です。
「S&P500」や「オルカン」が人気の理由と注意点
ここ数年で大人気となったインデックスファンドが、「S&P500連動型」や「オールカントリー(全世界株式)」です。
- S&P500ファンド: 米国を代表する500社に分散投資。過去数十年の平均リターンは年6〜8%と安定して高い。
- オールカントリーファンド(オルカン): 世界中の株式市場に広く分散投資できる。地域バランスを考慮した安心感がある。
これらが人気の理由は、単純に「強い市場に広く投資できる」から。特にS&P500は、世界経済の中心である米国市場への投資として王道です。
ただし、注意点もあります。
- S&P500は米国集中のため、米国の景気後退やドル安に影響を受けやすい
- オルカンは全世界に投資している分、リターンは若干マイルドになる傾向
- 為替リスク(円安・円高)も影響するため、為替ヘッジの有無もチェックポイント
結論として、「S&P500」や「オルカン」は投資信託の定番中の定番ですが、“万能”ではありません。
それぞれの特徴とリスクを理解した上で、自分の資産状況や目的に合うかを見極めることが大切です。
第4章:あなたの目的に合ったファンドを選べていますか?

老後資金/教育資金/住宅資金で異なる運用戦略
投資信託は「目的」によって、選ぶべきファンドの種類や運用戦略が大きく異なります。
これは、投資期間・リスク許容度・必要資金の金額などが変わるからです。
目的別に適した運用の考え方を整理してみましょう。
◆ 老後資金をつくる場合(運用期間:20年以上)
老後資金づくりは、典型的な「長期運用」に最適です。
ポイントは、長期で積立しながらリスクをコントロールし、複利効果を最大限に活用すること。
おすすめの戦略:
- インデックスファンド(例:S&P500/オルカン)への定額積立
- 信託報酬の低いファンドを選び、長期保有
- つみたてNISAやiDeCoとの併用で節税しながら運用
長期になるほど、相場の短期的な波は平滑化され、堅実な運用が見込めます。
市場の上下に過剰に反応せず、「続けること」が成功の鍵です。
◆ 教育資金を準備する場合(運用期間:10年以内)
子どもの進学資金など、用途と時期が明確に決まっている資金は、やや保守的な運用が求められます。
特に高校・大学入学のタイミングで相場が暴落していては、必要資金を取り崩すことができません。
おすすめの戦略:
- 運用初期は株式比率を多めに、残り数年で債券型や定期預金に切り替える
- バランスファンド(株式+債券ミックス)を活用
- 途中で利益が出たら一部確定・現金化しておく
教育資金では、「ゴールに合わせた出口設計」が極めて重要です。
◆ 住宅資金(目標期間:3〜7年程度)
住宅購入の頭金など、比較的中期的に使う資金は、“減らさないこと”を最優先に考えるべきです。
おすすめの戦略:
- 無理にリターンを追わず、リスクの低い債券型ファンドや定期預金で運用
- リスクをとるとしても株式は3割以下に抑える
- 相場環境によっては一時的にキャッシュポジションを厚くするのも可
「せっかく貯めた頭金が目減りして家を買えなくなった」なんてことがあっては本末転倒。
このケースでは、投資よりも“資金管理”の意識が大切です。
目的別おすすめインデックスファンドと運用期間の目安
目的に応じて、使いやすいファンドとその運用期間の目安を以下にまとめました。
目的 | おすすめファンド例 | 信託報酬の目安 | 最低運用期間 |
---|---|---|---|
老後資金 | eMAXIS Slim 全世界株式(オルカン) | 0.1133%程度 | 15年以上 |
老後資金 | SBI・V・S&P500インデックス・ファンド | 0.0938%程度 | 15年以上 |
教育資金 | たわらノーロード バランス(8資産均等型) | 0.154%程度 | 5~10年 |
住宅資金 | 野村インデックスファンド・国内債券 | 0.154%程度 | 3~7年 |
住宅資金 | 明治安田円債インデックスファンド | 0.15%前後 | 3~7年 |
これらは一例ですが、選ぶ際の基準として「信託報酬の低さ」「資産分散」「運用期間に合ったリスク水準」が大前提となります。
積立投資だけでなく「取り崩し」も見据えた設計を
資産運用というと、「積立=増やすこと」ばかりに意識が向きがちですが、取り崩し=使い方の戦略も極めて重要です。
とくに老後資金を考える場合、運用期間は積立中だけではありません。
リタイア後、20年~30年にわたり、計画的に資金を取り崩す必要があるのです。
このとき重要になるのが、
- どのタイミングで売却するか
- どの資産から崩すか(株式?債券?現金?)
- 市場が悪いときはどう対応するか
といった「出口戦略」。
近年注目されているのが、「定率取り崩し」という方法です。
これは、たとえば毎年資産の3〜4%を取り崩していく方式で、資産寿命を長く保てることが知られています。
金融庁の試算では、「年3%の取り崩しなら、30年以上資産がもつ」というケースも示されています。
これは、取り崩し期にも“少しの運用”を続けることで、資産寿命を延ばすことができるという証左です。
積立を終えた後の戦略まで視野に入れることが、「本当に損をしない資産運用」につながります。
第5章:投資信託で損をしないためのマネーマネジメント術
「リスク許容度」って何?性格によって変わる最適な投資法
資産運用において「損をしない」ためにまず考えるべきこと――
それは、どの商品を買うかよりも先に、自分のリスク許容度を知ることです。
リスク許容度とは、「価格の変動にどこまで耐えられるか」という“自分自身の心の器”のようなもの。
同じ投資信託を買っていても、含み損が出たときに不安で売ってしまう人と、冷静に続けられる人がいますよね。
この違いこそが、リスク許容度の差なのです。
たとえば…
- 攻め型タイプ(高リスク許容度):価格変動をある程度楽しめる、長期投資が前提、株式比率多めのポートフォリオ
- 守り型タイプ(低リスク許容度):元本割れを極端に嫌う、債券・預金中心の運用、値動きが緩やかなファンドを好む
重要なのは、自分がどちらのタイプかを客観的に知ること。
金融機関の中には「リスクプロファイリング診断」などのツールを用意していることもあるので、最初に一度試してみるとよいでしょう。
リスク許容度を無視して商品を選ぶと、どれだけ優れた投資信託でも途中で投げ出してしまうリスクがあります。
つまり、自分に合わない運用は、長く続かず、結果的に“損失”につながってしまうのです。
生活防衛資金の確保が最優先
「投資信託を始めたいけど、貯金が少ない」という人も少なくありません。
しかし、資産運用で最も大切なのは、生活資金を確保したうえで始めることです。
生活防衛資金とは、「万が一、収入が途絶えたときでも一定期間は生活できる現金」のこと。
目安は以下の通りです:
- サラリーマン(家計が安定している):生活費の3〜6ヶ月分
- フリーランス・自営業(収入に波がある):生活費の6〜12ヶ月分
この資金は、投資信託ではなく普通預金や定期預金で確保しておきましょう。
理由は明確で、「いつでも引き出せる」「元本が減らない」からです。
生活防衛資金を確保しないまま投資を始めると、相場が下落しているときに「生活費が足りないから売却」という最悪のタイミングで資産を手放すことになりかねません。
だからこそ、「貯金ゼロでも投資を!」という煽り文句には決して乗らず、まずは守りの資金づくりを最優先にしてください。
資産全体で見る「バランス」が鍵
投資信託は優れた商品ですが、「投資信託だけ」で資産をつくるのが正解とは限りません。
むしろ、資産全体でのバランス=アセットアロケーションが、長期的な損失を防ぐ鍵となります。
たとえば、以下のような配分イメージが考えられます:
資産クラス | 配分比率(例) | 備考 |
---|---|---|
株式型投資信託 | 40% | S&P500・オルカンなど |
債券型投資信託 | 20% | 国内債券・先進国債券など |
現金・預金 | 30% | 生活防衛資金+余裕資金 |
その他資産 | 10% | REIT(不動産投資信託)や金など |
このように、複数の資産を組み合わせておくことで、株式市場が不調でも債券が下支えしてくれるなど、一部が損をしても全体で守れる設計になります。
アセットアロケーションの重要性は、世界中の金融プロたちも強調しており、実際に投資成果の8割以上がこの“資産配分”で決まるという調査もあるほどです(Brinson et al., 1986)。
また、定期的に配分を見直す「リバランス」も忘れずに。
相場によって偏りが出てきたら、“元の配分”に戻すことでリスクをコントロールできます。
第6章:新NISAと投資信託の組み合わせで損しにくくなる理由
2024年以降の新NISA制度をおさらい
2024年1月から、NISA(少額投資非課税制度)は大きく制度改正され、**「新NISA」**として生まれ変わりました。
この制度変更により、より長期的で柔軟な資産形成が可能になり、多くの人にとって“損しにくい投資環境”が整いました。
新NISAの主なポイントは以下の通りです:
項目 | 旧NISA | 新NISA(2024年〜) |
---|---|---|
制度の種類 | 一般NISA/つみたてNISA | 一本化された「新NISA」 |
非課税保有期間 | 一般NISA:5年/つみたて:20年 | 無期限(制限なし) |
年間投資枠 | 一般:120万円/つみたて:40万円 | 最大360万円(つみたて120万+成長240万) |
生涯投資枠(総枠) | 設定なし | 1,800万円(うち成長枠1,200万円) |
再利用(再投資) | 不可 | 可能(売却後、枠を再利用できる) |
投資可能期間 | 2023年で終了 | 恒久制度として継続 |
このように、非課税期間の無期限化や生涯枠の設定など、「長く・柔軟に・効率よく」運用できる設計に進化しています。
成長投資枠・つみたて投資枠の違いを正しく理解
新NISAでは、年間最大360万円までの投資が可能ですが、これは2つの枠に分かれています。
① つみたて投資枠(年間120万円)
- 対象商品は金融庁が指定した低コスト・長期運用向きのインデックスファンド中心
- 毎月の積立投資を前提とし、短期売買はできない仕組み
- ファンドの信託報酬上限、純資産基準なども設けられ、質の高い商品が揃っている
② 成長投資枠(年間240万円)
- 株式やETF、アクティブファンドなど、自由度の高い商品が対象
- 一括投資・売買も可能
- 信託報酬やリスク水準に幅があるため、選定には注意が必要
つまり、つみたて枠は「守り」、成長枠は「攻め」というイメージで捉えると良いでしょう。
初心者や安定運用を目指す人は、まずはつみたて枠から活用するのが基本です。
そのうえで、資産状況やリスク許容度に応じて、成長枠での分散投資を検討するのが王道のアプローチとなります。
非課税期間が「無期限」になったことで何が変わった?
旧NISA制度では、非課税期間が5年(一般NISA)または20年(つみたてNISA)と**“期限付き”**でした。
そのため、多くの人が「期限が切れる前に売却するべきかどうか」で悩むことがあり、長期的な視点での資産形成が難しいという課題がありました。
一方、新NISAでは非課税期間が無期限に変更されたことで、次のようなメリットがあります:
- 長期で持ち続ける前提で運用でき、複利効果を最大限活かせる
- 相場が下落しても慌てて売らずに済む(時間分散の効果が効く)
- タイミングを気にせず、自分のライフプランに合わせて取り崩せる
たとえば、20代〜30代で投資信託を始め、老後まで30年〜40年運用を続けた場合、税金ゼロで複利が効き続けるというのは極めて大きな優位性です。
これは世界的に見ても非常に優れた制度設計であり、長期分散投資を志向する日本人投資家にとって、“損しにくい仕組み”を制度が後押ししてくれる時代が到来したと言ってよいでしょう。
第7章:投資信託に関する「よくある質問」徹底解説Q&A
Q1:インフレが進む中、投資信託は不利になりませんか?
インフレ(物価上昇)が進むと、「お金の価値が目減りする」と言われます。
この観点から、現金預金では資産価値が減ってしまうため、むしろ投資信託のような資産運用こそ“インフレ対策”になると言えます。
特に、株式を組み込んだインデックスファンドやREIT(不動産投資信託)は、物価上昇とともに企業の売上や不動産収益が増える構造を持つため、インフレにある程度対応可能です。
ただし、以下の点に注意が必要です:
- インフレが急激すぎると、中央銀行の利上げが進み、株価にマイナス影響が出る可能性がある
- 為替変動(円安・円高)が収益に影響を与えることもある
つまり、「インフレだから投資信託は危ない」というのは誤解であり、インフレ期こそ投資の必要性が増すと捉えるのが正解です。
Q2:毎月分配型でも良いケースはあるのでしょうか?
前章でも解説したように、毎月分配型ファンドは「元本の取り崩しによる分配」や「コストの高さ」が問題視されるケースが多く、基本的には長期資産形成には不向きです。
ただし、「一部の人にとっては“使い方次第で有効”なケース」も存在します。
たとえば:
- 定年退職後の生活費補填として分配金を使いたい人
- 運用益を都度受け取り、使い道が明確な人(医療費や仕送りなど)
- 税制上の優遇措置が受けられる環境にある高齢者
このように、“資産を取り崩すフェーズ”に入った人であれば、一定の理解と計画のもとで使う分にはアリとも言えます。
とはいえ、分配金の中身が「利益」なのか「元本」なのかを見極めずに飛びつくのは非常に危険です。
選ぶ前に、「普通分配金」と「特別分配金」の違いを必ず確認しましょう。
Q3:投資信託とETFはどう違うのですか?
投資信託(Mutual Fund)とETF(上場投資信託)は、どちらも「複数の資産に分散投資できる金融商品」ですが、いくつかの明確な違いがあります。
項目 | 投資信託 | ETF(上場投資信託) |
---|---|---|
購入方法 | 金額指定(例:1万円分など) | 株式のように「口数」で売買 |
売買タイミング | 1日1回、基準価額で約定 | 市場の価格でリアルタイムに売買 |
コスト | 一部ファンドに販売手数料あり | 原則として売買手数料が必要 |
分配金の扱い | 再投資型・受取型が選べる | 分配金は自動的に口座に振り込まれる |
NISAとの相性 | 新NISAではつみたて枠で活用可能 | 新NISAの成長投資枠で利用可能 |
初心者にとっては、金額指定で手軽に購入でき、自動積立も可能な投資信託の方が扱いやすいといえるでしょう。
一方で、コスト意識が高く、相場に応じて機動的に売買したい人はETFを選ぶメリットもあります。
Q4:楽天証券・SBI証券・マネックス証券で買うならどこがいい?
いずれも人気のネット証券で、投資信託を買うには非常に適した選択肢です。
それぞれに特徴があるため、自分の投資スタイルに合った証券会社を選ぶと良いでしょう。
証券会社 | 特徴 |
---|---|
楽天証券 | 楽天ポイントで投資ができる/楽天経済圏と連携しやすい |
SBI証券 | 業界最多のファンド数/SBIポイント還元が魅力 |
マネックス証券 | 為替手数料が安い/米国株・海外ETFにも強い |
また、近年では「投信マイレージ(ポイント還元)」制度が各社で充実しており、信託報酬の一部がポイントで還元される仕組みも魅力の一つです。
初心者であれば、まずは楽天証券 or SBI証券のどちらかから始めるのがおすすめです。
特に楽天ユーザーなら楽天証券、Tポイント/Pontaなどを活用するならSBI証券が使いやすいでしょう。
第8章:今日からできる!投資信託で損しないための実践チェックリスト
投資信託は、選び方・続け方を間違えなければ、初心者でも手堅く資産を増やせる優れた商品です。
しかし、最初の判断を誤れば「知らないうちに損をしていた…」という結果にもなりかねません。
ここでは、これまでの内容を踏まえて、今日から実行できる「損をしないためのチェックリスト」を用意しました。
このリストを1つずつ確認しながら進めていくことで、ミスを防ぎ、自信を持って資産運用に取り組むことができるでしょう。
✅ 信託報酬は0.3%未満か?
まず確認すべきは、「信託報酬」=ファンドに支払う手数料の割合です。
一般的に、インデックスファンドなら年0.1〜0.3%以下が目安。
この数%の違いが、20年後には大きな資産差になります。
☑「S&P500」「オルカン」「日経平均」など、実績のある低コストファンドを選ぶ
☑商品名の末尾に「ノーロード」「Slim」などとあるものは低コスト傾向
✅ 分配型ではなく再投資型か?
初心者が最も失敗しやすいポイントがここです。
「毎月お金がもらえるからお得」と思って分配型を選ぶと、実際は元本を取り崩しているだけというケースも。
☑「再投資型」を選び、複利の力を最大限に活用する
☑すでに分配型を保有している場合は、「普通分配」と「特別分配」の違いを確認する
✅ 目論見書を読んだか?
地味ですが重要なのが、「目論見書(もくろみしょ)」の確認。
これは、ファンドの目的・投資対象・リスク・手数料などを記載した“取扱説明書”のようなものです。
☑目論見書の「信託報酬」「投資対象」「運用方針」は必ず確認する
☑読みにくいと感じたら、「交付目論見書(簡易版)」からでもOK
✅ NISA/iDeCoとの連携を検討したか?
投資信託の運用益には通常20.315%の税金がかかりますが、NISAやiDeCoを活用することで非課税にできます。
☑新NISAでは、つみたて枠から利用開始がおすすめ(年間120万円まで)
☑iDeCoは老後資金専用だが、所得控除による節税効果が高い
税制優遇を使わないのは、非常にもったいない選択。
“税金で損しない”ための基礎知識として、必ず活用を検討してください。
✅ その投資信託は“自分の目的”に合っているか?
どれほど人気のファンドでも、あなたの目的に合っていなければ意味がありません。
☑「老後資金」なら長期運用に向いた全世界株式や米国株インデックス
☑「教育資金」なら10年以内で崩せるバランス型や債券比率高めのファンド
☑「住宅資金」や短期の資金なら元本割れリスクの低い安全型がベター
常に、「このお金は何のための資金か?」という目的意識を持つことで、判断がぶれません。
✅ 続けられる仕組みをつくっているか?
資産運用は“継続こそ力”です。
いくら優れたファンドを選んでも、途中でやめてしまっては意味がありません。
☑自動積立設定(毎月一定額を口座引き落とし)で“忘れても増える”仕組み化
☑相場が下がっても止めずに積み立て続ける強いマインドを準備
☑半年に一度は保有資産をチェックし、リスク・バランスを見直す
「仕組みで続けられる環境」を整えておくことで、感情による失敗を防ぎます。
終章:投資信託は「知ってる人が勝つ」時代へ。あなたはどう動くか?

投資信託は、初心者にも手が届きやすく、少額から始められ、プロが運用してくれるという魅力的な商品です。
しかしその一方で、「何も知らずに始める人ほど損をしてしまう」という、皮肉な側面も持ち合わせています。
なぜか?
それは、日本では「お金の教育」がなされてこなかったからです。
金融教育を受けてこなかった日本人だからこそ
日本では長らく「投資=ギャンブル」「資産運用=お金持ちのもの」というイメージが根強く残っていました。
学校ではお金についてほとんど教わらず、大人になってからも“勘”や“他人任せ”で金融商品を選んでしまうケースが多いのが現実です。
しかし時代は変わりました。
- 超低金利時代の長期化
- 年金制度への不安
- 物価上昇(インフレ)の加速
- そして新NISA制度の登場
これらの変化を前に、「お金のことを知らないこと」は、もはや“リスク”です。
投資信託の世界も例外ではなく、「何を買うか」以上に、「なぜ買うか」「どのように運用するか」が問われる時代に入ったのです。
情報弱者にならないための学び続ける姿勢
ここまでの記事を読んでくださったあなたは、すでに「何も知らずに投資を始めた人たち」とは一線を画しています。
なぜなら、情報を集め、理解し、考えようとしているからです。
「勧められたから」ではなく、「自分で納得して選ぶ」。
このマインドこそが、長期で損をせず、資産を育てていくための“最強のスキル”になります。
これからも、以下の姿勢を持ち続けてください:
- 疑問があれば、まず調べてみる
- 難しい言葉が出てきたら、あえて“かみ砕いて”理解する
- 他人の成功談ではなく、自分の目的と照らして判断する
投資信託は、知識が武器になる世界です。
そして、その武器は誰でも持てる時代になりました。
“なんとなく始める”から“根拠を持って運用する”へ
最後に、もう一度、あなたに問います。
「その投資信託、なぜ選びましたか?」
もしこの問いに、今日までのあなたなら「ちゃんと理由があります」と胸を張って答えられるなら、もう迷う必要はありません。
あとは実行あるのみです。
資産運用とは、未来の自分への仕送り。
“損をしないため”の知識と準備を、今日この瞬間から積み上げていきましょう。
💬 編集後記:読者のあなたへ
この記事は、資産運用に一歩を踏み出したばかりの読者の皆さまに向けて、
「投資信託で損をしないためには何を知っておくべきか?」を徹底的に掘り下げてきました。
投資は不安も伴いますが、正しい知識と適切な準備があれば、怖れる必要はまったくありません。
むしろ、「知らないこと」こそが最大のリスクであり、学ぶことが“最大の防御”になるのです。
これからも、「資産運用アカデミア」では信頼できる情報を発信し続けます。
あなたの投資人生が実り多きものとなるよう、心から願っています。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。