
「年収はそこそこ増えたのに、預金残高は横ばい――」。そんなモヤモヤを抱える30 〜 40 代の共働き夫婦は少なくありません。東京都内の30 代夫婦の世帯年収は平均714 〜 823 万円、地方を含む全国平均でも約850 万円に達し、単独世帯を大きく上回ります。media.moneyforward.comkotora.jp にもかかわらず、総務省家計調査が示す手取り(可処分所得)56 万円のうち14 %しか貯蓄・投資に回っていないのが現実です。aeonbank.co.jp
理由はシンプル――お金の「経路」と「役割」が夫婦で共有されていないから。本稿では、共働き世帯の稼ぎを“無意識の散財”から“意図ある資産形成”へ一気に反転させるために、
- 給与日に自動で3口座へ振り分ける「家計3層構造」
- 運用と監査を5:5で担う「夫婦タスク分担術」
- 新NISA年間720 万円を10 年で埋め切る“税ゼロ複利エンジン”
――の3ステップを具体的な数字とフィンテック設定画面つきで解説します。読み終えるころには、夫婦が同じダッシュボードを見ながら資産3,000 万円を目指す道筋が、手触りをもってイメージできるはずです。
第1章│家計は「3層構造」で自動仕分け

1-1. 共同口座=固定費・個人口座=こづかい・投資口座=資産形成
まずは“お金の通り道”を3本に分け、流量を固定します。
口座 | 主な項目 | 月額イメージ(年収850万円共働き世帯) | 目的 |
---|---|---|---|
共同口座 | 住宅ローン/家賃、水道光熱、通信、食費、保険、保育料 | 32 万円 | 生活インフラ維持(固定費) |
個人口座 | こづかい・被服・嗜好品・交際費 | 夫 4 万/妻 3 万円 | 個人裁量費でストレス分散 |
投資口座 | NISA/iDeCo/証券口座など | 夫婦合計 10 万円 | 将来資産を“見える化” |
総務省家計調査の可処分所得平均から逆算すると、手取り 56 万円のうち 約6割を生活固定費、2割弱を投資へ回しても黒字は十分に確保できます。stat.go.jp
ポイント
- 固定費は “共同” 扱いにして家計の不公平感をゼロ化。
- こづかいは完全に自由。夫婦で使途を詮索しないルールが長続きのコツ。
- 投資口座は “未来の生活費” を買っていると定義し、別格扱いとする。
1-2. フィンテックで給与“当日”に3分割する実装手順
- 給与受取口座をネット銀行へ集約(住信SBIネット銀行・三井住友Olive など)。
- 給与振込日に合わせ、
- 定額自動送金(きちんと振込/定額自動送金)で共同口座へ
- 定額自動入金サービスで投資口座へ
— を設定。手数料は無料または月数回無料枠。smbc.co.jpnetbk.co.jp
- 振込日当日に3口座へ“自動仕分け”→残高ゼロ開始で先取り投資が完成。
ワンポイント
定額自動送金は毎月5日 or 27 日が選択肢。給料日が25日の企業なら「27日」を選べば資金不足になりません。koganefinance-blog.com
1-3. ✅セルフチェック:3口座化で“可視化ストレス”は消えたか?
- ☐ 給与日当日に共同・投資口座へ自動振り分けできている
- ☐ 2人のこづかい残高を月末まで確認していない(=干渉ゼロ)
- ☐ 投資口座だけを開けば“純資産の増減”が瞬時に見える
3つとも○なら、この章は合格。1つでも×ならフィンテック設定をやり直しましょう。
第2章│投資タスクを5:5で分担する黄金ルール

2-1. 夫=運用/妻=監査モデルのメリットと落とし穴
- メリット:担当領域が明確で素早い意思決定が可能。
- 落とし穴:情報非対称が大きくなると「知らない=不安」が膨張。 → 月次ミーティングで必ず報告・監査を行う。
2-2. リスク許容度差に合わせた「コア-サテライト担当制」
- 妻(コア):全世界株・債券ETFなどリスク低めを一任。
- 夫(サテライト):AI・半導体・暗号資産など高ボラ資産を担当。
→ 夫の“攻め”がコケても家計全体に与える影響は限定的。
2-3. 月額固定5万円 vs 手取り15%拠出──どちらが続く?
家計調査データから見ると、可処分の 15% を投資に回した世帯の方が、固定額派より投資額が賃上げに連動して増加しやすい傾向。昇給やボーナス増で“自動昇給”するため、長期では差が開きます。kotora.jp
2-4. 夫婦ミーティング月次テンプレ+議事録クラウド共有
- 今月の資産推移(NISA・iDeCo・特定口座)
- 投資額 vs 可処分所得比率 をチェック
- 次月のイベント/支出 を共有
- 議事録をGoogleドキュメントに保存 → URLをLINEピン止め
2-5. Action Tip:Googleスプレッドで“夫婦版ダッシュボード”作成
- シート1:共同口座キャッシュフロー
- シート2:投資ポートフォリオ(証券API連携)
- シート3:こづかい残高(各自手入力)
チャートで資産合計 vs 目標ラインを描けば、進捗率が一目瞭然です。
第3章│新NISAを“2人で720万円/年”使い切る設計図

3-1. つみたて投資枠:全世界株×2=年間240万円
金融庁の新NISA制度では、つみたて投資枠が1人当たり年間120万円。夫婦なら240万円を手数料 0.057%「eMAXIS Slim 全世界株式」にセットするだけで、世界 50 か国・約 3,000 銘柄へ一括分散投資が完了します。fsa.go.jp
複利シミュレーション
年5%・20年間で 240 万円/年 → 8,135 万円(税ゼロ)。生涯で渡される“未来通貨”を買っているイメージです。
3-2. 成長投資枠:高配当ETF+テーマ株で“配当生活β版”
- 夫ポート:HDV・SPYD など米国高配当ETF(月3万円)
- 妻ポート:AWS・生成AIサプライチェーン関連ETF(月2万円)
年間投資枠 240 万円 × 夫婦 = 480 万円。余力はボーナスで一括埋めを狙います。配当金は特定口座に“逃がさず”NISA内で再投資し、実質利回りを最大化。
3-3. 生涯非課税 3,600 万円の埋め順ロードマップ
- つみたて投資枠:夫婦各 1,200 万円(合計 2,400 万円)
- 成長投資枠:夫婦各 600 万円(合計 1,200 万円)
→ 240 万円/年×10 年=完了。10 年で非課税枠を満タンにし、その後は特定口座で“スライド投資”。
3-4. ✅セルフチェック:非課税枠消化率トラッカー導入
- ☐ 夫婦ともに投資枠使用率 50%以上
- ☐ つみたて投資枠が 12 か月連続途切れていない
- ☐ 成長投資枠の配当を全額再投資設定済み
3つすべて○なら、非課税メリットを最大限活用できています。
第4章│iDeCo・企業型DC・RSUを立体的に組み合わせる

4-1. 企業型DC加入者でもiDeCo併用OK? 最新制度を整理
2024年12月施行の法改正で、企業型DC加入者のiDeCo拠出上限は月2万円→最大6.2万円へ引き上げられます。mhlw.go.jpmhlw.go.jp
つまり「会社DCもあるからiDeCoは2万円まで……」という制限は今年で終わり。会社がマッチング拠出してくれるなら、
会社DC(上限6.2万円)+iDeCo(自腹6.2万円)=月12.4万円
という“二階建て”が合法化され、所得控除メリットが倍増します。
4-2. 夫婦で最大年36万円の所得控除インパクトを試算
‐ 会社DC:年間上限 74.4万円(6.2万円×12 か月)
‐ iDeCo:年間上限 74.4万円
→ 夫婦フル拠出で 148.8万円×所得税・住民税 20%=約30万円還付。
還付金はそのままNISA枠へ再投資し「節税→複利」のループを作ります。
4-3. 退職金+年金受取の“出口税制”シミュレーション
‐ 60 歳前後で退職所得控除*+公的年金控除*+iDeCo年金課税半額を3重活用。
‐ 一時金 → 年金受取に分割し、税率の谷間をすり抜けるのが鉄板です。
*詳細な金額は別表を参照(Appendix)。
第5章│固定費を“投資原資”に変える3アクション

5-1. 保険リストラで月1.5万円捻出:AI診断→即解約フロー
日本損害保険協会の調査では、30 代共働き世帯の平均保険料は 月3.2万円。sonpo.or.jp
‐ 医療保険は高額療養費+共済で代替
‐ 収入保障保険を“就業不能保険”へ一本化
――だけで月1.5万円が空き、NISA枠へスライド可能です。
5-2. 住宅ローン変動0.5%→固定1.2%借換えシミュレーション
ネット銀行の10 年固定1.2%へ借換えると、
- 残債 3,500 万円/残期間 28 年 → 総返済差額 ▲189 万円
- 借換え諸費用 80 万円を差し引いても9年でペイ。
固定にして返済額が読めれば、投資計画のキャッシュフローもブレません。mof.go.jp
5-3. 格安SIM・電力切替・ふるさと納税で“実質+利回り1%”
家計調整で年10 万円浮かせ、それを 高配当ETF(利回り 4%)+ポイント還元 1% に回すと実質利回りが1ポイント上振れ。節約は「超ローリスク投資」と同義です。
第6章│「時間=お金」可視化で夫婦キャリアを最適化

6-1. 残業 30h=副業 5 万円──タイムバジェット表の作り方
PERSOL の副業調査によると、30 代副業ワーカーの平均月収は 4.8 万円。残業を月 30h 減らして副業へ振り替えれば、可処分と投資原資が同時に増えます。mof.go.jp
6-2. 家事外注×ポイント投資:時短が生む複利効果+1%
‐ 週 2 時間の掃除代行(6,000 円)→ 空いた時間で副業 1.5h(報酬 3,000 円)
‐ 差額 3,000 円+代行決済ポイント 1 %=“実質コスト 0”
こうした「時間買い」は、家事ストレス減×家計黒字化の両得です。
6-3. 育休・転職・起業で収入変動したときの投資リバランス術
- 投資口座の自動引落しを“%指定”→収入減でも自然にスライド
- つみたて枠優先、成長枠はボーナス回しへ暫定移動
- 副業収入が軌道に乗ったら“%固定→額固定”へ復帰
第7章│税金と手当の落とし穴を回避する

7-1. 配偶者控除・扶養判定の“壁 103/129/150 万円”早見表
‐ 103 万円:所得税ゼロ+配偶者控除フル
‐ 129 万円:社会保険加入義務ライン
‐ 150 万円:配偶者特別控除がゼロ
→ 妻の収入が 130 万円近い場合、“昇給より社会保険料負担増”が大きくなるケースも。
7-2. 不動産・副業収入で児童手当が減る境界線
扶養2人なら 年収 1,100 万円 が所得制限。副業所得が伸びると一発で越えるため、
減価償却 or iDeCo拠出で課税所得 1,000 万円以内に収めると手取りが最大化。
7-3. ふるさと納税&住宅ローン控除“ダブル取り”戦略
住宅ローン控除で所得税がゼロ化しても、ふるさと納税は住民税控除分が残るため損にはなりません。控除上限計算を自治体サイトで再計算し、二重取りを確実に。
第8章│暴落・リセッションへの2層ガード

8-1. 市場急落で夫婦が取るべき3アクション
- ルール①:暴落時は“買付額+20%”へ自動増額
- ルール②:生活防衛資金 6 か月分を死守
- ルール③:お互いの NISA 口座を“監査”し感情ブレーキを掛け合う
8-2. 情報格差ストレスを減らす「ニュース共有5分ルール」
‐ 毎朝5分だけ日経電子版の“今日のニュース5本”を互いに要約
‐ 投資判断は月次ミーティング以外“ノーコメント”徹底
→ 速報系 FOMO(取り残され恐怖)を遮断し、長期戦略に集中できます。
8-3. ✅セルフチェック:月1回“家計×投資合同レビュー”継続率
- ☐ レビュー実施月が 12/12 なら AA 評価
- ☐ 9〜11 回なら BB、8 回以下は要改善
継続率は資産増加率と高い相関が確認されています。
まとめ│今日から動く7ステップ

- 3口座自動振分けをネット銀行で設定
- 夫婦それぞれ新NISA口座開設+自動積立
- 月次家計ミーティングをカレンダー定期予定に登録
- iDeCo/企業型DC拠出上限を最適化し、年末調整で効果測定
- 保険証券をAI診断へ投げ、不要保障を即解約
- 住宅ローン借換え可否をオンライン審査で確認
- ダッシュボードURLをスマホホーム画面にピン留め
共働きの強みは「収入が2本あること」ではなく、「2人で家計を設計できること」にあります。本稿では①給与日に自動で共同・個人・投資の3口座へ振り分ける〝先取りシステム〟、②夫=運用・妻=監査など役割を明示した〝タスク分担〟、③夫婦で年間720万円を新NISAに投入し10年で非課税3,600万円を埋める〝税ゼロ複利エンジン〟の3ステップを提案しました。さらに、iDeCo拠出上限の拡大、保険の断捨離、住宅ローン借換え、副業で時間をお金に換える手法まで網羅。月1回の家計ミーティングとGoogleスプレッドのダッシュボードさえ続けば、可処分56万円のうち投資比率を15%超へ高め、40歳までに純資産3,000万円の到達が十分現実となります。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。