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物価が上がり続けるインフレ時代には、預金金利も上がっていきます。しかし、預金金利の上昇率は物価上昇率を上回る水準にはならないため、預金だけでは実質的な資産は目減りしていきます。実質賃金が上がらないなかで、資産を防衛し増やしていくためには、インフレ率を上回る成果を目指せる投資が必要です。
給与横ばい、物価は急上昇の悲しさ
日本経済はいまインフレのまっただ中にあり、対前年比の消費者物価指数は、2022年3.0%、2023年2.7%、2024年2.5%、そして2025年2.4%(5月まで)と、毎年2%を超える上昇を示しています。
一方、賃金に目を向けると、名目賃金は一定上昇をしているものの、上昇率が物価上昇率を下回っているため、実質賃金は下落傾向にあります。2015年を100とした賃金指数は、インフレが始まった2022年以降、100を下回る状況が続いています。
このような状況で資産を形成・防衛するには、インフレ率を上回る成果を目指せる投資が求められます。なかでも「不動産投資」は有力な選択肢だといえます。

購入はムリ!? 都市部の収益物件「衝撃の価格設定」
しかし、いまから不動産投資をする場合、ネックになるのが不動産価格の高騰です。
2023年、東京23区の新築分譲マンションの平均販売価格がはじめて1億円を超えたことが話題となりました。以後も新築マンション価格は高止まりしており、2024年の平均価格は1億1,181万円となっています(東京23区。不動産経済研究所調べ)。
国土交通省が公表している、不動産の長期的な価格動向を示す「不動産価格指数」を見ると、2010年を基準として、すべての不動産価格が大きく上昇していることがわかります。
一般的な会社員でも投資対象としやすい区分所有マンションは、全国平均で約2.1倍に上昇しています。ただし、地域差も大きく、北海道地方では2.9倍、九州・沖縄地方では約2.6倍になっています。
また、相続税対策の投資商品として人気が高い一棟マンション、一棟アパートは、約1.7倍の上昇です。
▼不動産価格指数(住宅、令和7年1月分、季節調整値。2010年平均=100)

▼不動産価格指数(商業用不動産、令和6年第4四半期分、季節調整値。2010年平均=100)
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(出所:国土交通省「不動産価格指数(令和7年1月・令和6年第4四半期分」) https://www.mlit.go.jp/totikensangyo/content/001887312.pdf
実質賃金が下がり続けるなか、収益物件の価格が上昇を続けていることから、一般的な会社員などにとって、不動産投資のハードルは2020年以前より高くなっています。
そして、建築工事費は右肩上がりに上昇しています。新築の不動産価格は、今後しばらくは上昇を続けることが見込まれます。新築マンションの価格動向は中古マンションにも影響し、ひいては収益物件価格にも反映されていきます。収益物件の価格が大きく下落する可能性は、当面は低いと想定されるでしょう。
コロナ後のインバウンド再拡大で「都市型収益物件」が注目されるワケ
コロナ禍前の2019年に3,188万人と過去最高を記録していたインバウンド(訪日外国人)観光客は、コロナ禍ピークの2021年には25万人と1%以下にまで減少しました。しかし、コロナ明けの2023年以降、急速に進んだ円安の影響もあって急回復し、2024年には3,687万人と、過去最高を記録しています。2025年は1~3月までで1,000万人を超えており、年間では4,000万人を超えて過去最高を更新するものと見込まれます。
このような背景から、主要な観光地や都市部では、ホテル・旅館・民泊施設などの宿泊需要が逼迫しており、宿泊代金も高騰しています。とくに東京をはじめとした都市部においては、民泊施設がインバウンド観光客の宿泊需要の受け皿として広く用いられています。
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出所:観光庁「宿泊旅行統計調査」
増加を続けるインバウンド宿泊需要を背景に、不動産投資の対象として、ホテルや民泊に転用できる、居住用のマンションやアパートが注目を浴びています。
少額から投資可能な「小口化不動産」…インバウンドのチャンスを掴もう
不動産投資に興味はあっても、数千万円から数億円の投資は二の足を踏んでしまうという人は少なくありません。そのような方におすすめなのが、「不動産小口化商品」と呼ばれる投資商品です。
不動産小口化商品という言葉は、広義では証券化などの手法により少額から不動産に対して投資できる商品全般(REITなども含む)を意味しますが、通常は狭義の意味で「不動産特定共同事業法」(不特法)に基づいて運営される共同出資事業による投資商品を指します。
不特法に基づく不動産特定共同事業とは、一言でいえば、事業主が複数の投資家から資金を集め、収益不動産の購入・管理・運営などの不動産賃貸経営を行い、そこで得られた収益から費用を引いた利益を投資家に分配する仕組みです。
対象となる不動産は、都市部の一等地のマンションや、ホテル、商業ビルなどで、安定した賃料が見込める優良物件でありながら、一般の個人が単独で投資するには、非常にハードルが高い資産です。
不特法に基づく不動産小口化商品には、投資家と事業者との契約形態により、下記の3つのタイプがあります。
・匿名組合型
・任意組合型
・賃貸型
ただし、賃貸型の商品は、現状ではほとんど流通していないため、以下では、匿名組合型、任意組合型のポイントを説明します。
匿名組合型の特徴
匿名組合型とは、少額(数万円程度)から出資できるタイプの不動産小口化商品で、一般的に用いられている仕組みです。ポイントは、不動産物件の登記上の所有者が事業者(不動産小口化商品を組成する事業者)となることです。
投資家は匿名組合契約を締結して、物件を所有する事業者に出資する形になります。投資家が得た収益の税務上の扱いは「雑所得」となり、投資持分の税務上の評価は上場株式に準じることとされます。そのため、所得税、相続税などの節税効果は期待できません。
比較的短期間(数年から10年程度)の保有で、数パーセントの利回りを得るための投資商品という性格です。
任意組合型の特徴
任意組合型とは、出資者によって構成される任意組合が不動産を所有し、事業運営の主体となる点が特徴です。出資者は不動産の共有持分を取得します。そのため、出資者が得る所得の区分は「不動産所得」となります。ただし、他の所得と損益通算はできません。
また、相続や贈与に際しては、出資持分は不動産としての評価となるため、相続税・贈与税の圧縮効果が得られる場合があります。要件に該当すれば、現物不動産と同様に小規模宅地の特例の適用も可能です。
このタイプの商品は、1口の出資額が最低100万円程度からとなり、1口500万円、1,000万円といった商品も多くあります。比較的資金に余裕のある富裕層が、相続後の分割のしやすさなどを考えて、複数口を購入して子や孫にまで引き継いでいくといった使われ方に向いています。
小口化不動産投資の注意点と可能性
不動産小口化商品のデメリットや注意点は、匿名組合型・任意組合型それぞれで異なります。
匿名組合型のデメリットは、元本保証がないことです。ただし、有限責任であり、出資金額以上の損失が生じることはありません。また、優先劣後出資の仕組みを取り入れている商品もあり、その場合は、不動産事業が損失を出したとしても、損失額が劣後出資(事業者による出資分)の範囲内であれば、投資家が出資した元本は保証されます。注意点としては、所得の区分が雑所得で総合課税となるため、他の所得が高い人は最大で55%(所得税+住民税)の超過累進税率が適用されることです。損益通算ができるのは他の雑所得とだけであり、節税効果もありません。
任意組合型のデメリットは、小口化とはいっても、最低100万円程度の投資資金が必要となることです。また、出資元本については現物不動産の所有と同じく無限責任となり、元本保証がないだけではなく、元本を超える損失が生じる可能性もあります。
また、出資した元本を換金する際には、通常、持分を他人に売却する必要があり、流動性はかなり低くなります。さらに所得区分は不動産所得になりますが、現物不動産とは異なる特例的な扱いとなり、他の所得との損益通算ができない点も注意が必要です。
今後のインバウンド需要の増加を考えると、ホテルや民泊施設への投資は、魅力的な選択肢の1つです。しかし、多額の融資を受けて投資をするリスクを採りたくない、という場合は、比較的低額から投資できる不動産小口化商品で、無理のない範囲から投資を検討してみてはいかがでしょうか。
ライター 椎原よしき

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。