資産運用の選択肢が多様化するなか、最近特に富裕層や高所得層の間で関心が高まっているのが「ドバイ不動産投資」です。美しい高層ビルが立ち並び、世界中の富とビジネスが集まるこの都市は、観光や商業の魅力だけでなく、実は「圧倒的に優れた税制環境」でも知られています。
「所得税なし」「固定資産税なし」「キャピタルゲイン税なし」――この三拍子が揃った税制メリットは、日本のような高税率国家では考えられない“夢のような条件”です。一見するとリスクがありそうな海外投資ですが、実際にはその仕組みをきちんと理解し活用すれば、資産形成における強力な武器となり得るのです。
とはいえ、ドバイがどれほど税制的に有利であっても、日本に住む限りは日本の税制も無視できません。国外で得た利益は国内で課税対象となるため、「ドバイは非課税だから安心」といった表面的な情報に飛びつくのは危険です。
本記事では、ドバイ不動産投資における税制の仕組みを基礎から丁寧に解説するとともに、日本との税務関係や、実際に投資する際に気をつけるべきポイントまでを徹底的に掘り下げていきます。
「節税」を超えた「戦略的な資産形成」の第一歩として、ぜひ参考にしてみてください。
1. 所得税・固定資産税・キャピタルゲイン税の非課税

ドバイが世界中の投資家から注目される大きな理由のひとつが、「ほぼすべての個人向け税制が免除されている」という点です。
ドバイでは、個人に対する所得税、固定資産税、そしてキャピタルゲイン税(資産の売却益にかかる税金)が一切課税されません。つまり、賃貸で収益を上げても、売却して利益を出しても、それらに対する現地での課税はゼロ。日本国内では考えにくい、まさに“税制のオアシス”と呼べる環境です。
たとえば、日本で不動産を売却した場合、保有期間が5年以下なら約40%、5年超でも約20%もの譲渡所得税が課されます。ところが、ドバイではそれが一切ないため、キャピタルゲイン狙いの戦略にとっても圧倒的に有利なのです。
ただし、日本に住民票を持つ投資家がドバイで得た収入については、日本の所得税・住民税の対象になります。いわゆる「国外財産」の扱いとなり、海外不動産で得た収入は日本の確定申告時に申告義務があるのです。
ここで重要になるのが、「国外財産調書制度」や「海外所得の申告漏れリスク」。仮に年間200万円以上の海外所得を得た場合は、きちんと日本で申告しないと重加算税の対象になる可能性があります。つまり、ドバイでは税金がかからなくても、居住地の日本で課税されるリスクは常に意識しておく必要があるということです。
2. 不動産購入時の登録料と関連費用

ドバイで不動産を購入する際には、物件価格の約4%の「DLD(ドバイ・ランド・デパートメント)登録料」が発生します。これは日本で言うところの登記料や印紙税にあたるもので、物件取得にかかる法的な手続きの一環です。
内訳は以下の通りです:
- ドバイ不動産局登録料(Registration Fee):4%
- 仲介手数料(Agent Commission):2%
- Oqood Fee(オフプラン物件時):0.25%
- 登録手数料(Trustee Office):約5,000ディルハム(約20万円)
仮に3,000万円の物件を購入すると、初期費用だけで200万〜250万円ほどが必要となる計算です。日本の不動産取引と比較して、決して安くはない初期負担と言えるでしょう。
また、登記は原則として購入者が100%の負担をするのが一般的であり、日本のように「売主・買主で半額ずつ」といった慣習は基本的に存在しません。購入前にはこの点を必ず確認し、資金計画に織り込んでおくことが大切です。
3. 法人税の導入と適用条件

2023年6月、UAE政府は新たに法人税制度を導入しました。これにより、国内で事業を展開する法人に対して、年間所得375,000ディルハム(約1,568万円)を超える部分について、9%の法人税が課されるようになりました。
ただし、この制度の適用対象は「法人」に限定されており、個人投資家としての不動産所有には直接関係ありません。とはいえ、以下のようなケースでは法人税の影響を受ける可能性があります。
- 不動産投資会社を設立して運用する場合
- 賃貸経営を法人登記で行っている場合
- 不動産仲介や開発を法人で営む場合
さらに、ドバイには「フリーゾーン(Free Zone)」という特別経済区が存在し、この区域内の法人には一定条件のもと、税制優遇(事実上の非課税)が継続される場合があります。つまり、法人化によって法人税が発生する可能性はある一方で、運用次第では免税も可能という柔軟性のある構造なのです。
法人設立の有無や所在地(フリーゾーン内外)、活動内容などによって税制が大きく変動するため、法人化を検討する場合は専門のコンサルタントや税理士のサポートが不可欠です。
4. 相続税・贈与税の非課税

ドバイでは、個人の財産に対する「相続税」や「贈与税」は一切課税されません。これはUAE全体の特徴でもあり、資産を次世代にスムーズに移行できる仕組みが整っています。
つまり、たとえばドバイに不動産を所有していた場合、その資産を子どもや配偶者に相続・贈与する際に、現地で税金を支払う必要はありません。この点は、日本国内と大きく異なる部分であり、多くの資産家が「ドバイを国際的な資産保管場所」として注目する理由でもあります。
ただし、ここで見落としてはならないのが「日本側の課税」です。たとえドバイで非課税であっても、日本に居住する人が国外資産を相続・贈与した場合は、日本の相続税・贈与税の対象になります。
たとえば、日本の相続税は基礎控除を超える金額に対して最大55%の課税率がかかるため、場合によっては資産の半分以上を税金として納めなければならないこともあります。ドバイの非課税制度に安心しきらず、あくまで「二国間の制度をどう組み合わせるか」がカギになるのです。
このように、ドバイでの資産形成や相続戦略を考える際には、「どの国に居住しているか」「どの国の法制度が適用されるか」といった“居住者ベースの税制ロジック”をしっかり理解しておく必要があります。
5. 日本との二重課税防止条約

日本とUAE(アラブ首長国連邦)は、2013年に「租税条約(正式名称:租税に関する二重課税の回避及び脱税防止のための日本国とアラブ首長国連邦との間の条約)」を締結しています。この条約により、ドバイで得た収益に対して日本でも同様に課税される“二重課税”を避ける仕組みが整っています。
この制度を活用することで、たとえばドバイで法人税が発生した場合には、その分を日本の所得税・法人税から差し引く「外国税額控除」が適用される可能性があります。逆に、ドバイ側で課税されない(=ゼロ)場合、日本での課税がそのまま発生することになりますが、少なくとも“二重に”取られることは回避されます。
ただし、この条約の適用を受けるためには、いくつかの手続きを要します。代表的なのが「租税条約に基づく届出書」の提出で、これは確定申告時に同時提出する必要があります。また、場合によってはUAE政府が発行する「居住証明書」なども必要になることがあります。
これらの手続きは煩雑になりがちなので、実際の投資段階では、国際税務に精通した税理士や弁護士に相談することが推奨されます。誤った申告や未申告は追徴課税のリスクにもつながるため、早期に専門家のサポート体制を構築することが、成功する海外投資の前提条件といえるでしょう。
まとめ 税制面から見たドバイ不動産投資の魅力と課題

ここまで見てきたように、ドバイ不動産投資における税制は、「非課税を最大限に活かすことで、資産の最大化が狙える環境」といえます。特に所得税や相続税がゼロという事実は、日本の投資家にとっては極めて魅力的です。
しかし一方で、日本に住む限りは日本の税法から逃れることはできません。ドバイの優遇措置を活かしながらも、日本との税務ルールを踏まえた上で戦略的に行動することが重要です。
つまり、真に成功するためには「ドバイの制度に詳しいプロ」と「日本の制度に強いプロ」、この2つの視点を持ったサポーターを味方につけ、バランスの取れた投資判断を下すことが必要なのです。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。