静かに、しかし確実に。2025年、ホテル投資という資産運用手法が再び脚光を浴びつつあります。コロナ禍によって壊滅的な打撃を受けたホテル・観光業界は、いまやかつての水準以上の勢いで回復基調に入り、その復興の波に投資家たちの関心が向かっているのです。
日本政府観光局(JNTO)のデータでは、2024年の訪日外国人観光客数は3,000万人を超え、2025年には4,000万人台に突入すると見込まれています。この数字が意味するのは、ホテルの稼働率がコロナ以前の水準に戻り、さらなる供給不足すら起きているという現実です。
このような中、富裕層の投資家たちはいち早く動き出しています。なぜなら彼らは、次の3つの理由から、ホテル投資を「いま仕込むべき資産」と捉えているからです。
投資家の中でも富裕層が特に注目する3つの背景
① インフレ対策としての実物資産
現金や債券の購買力が目減りする中で、不動産、とりわけ価格改定が柔軟なホテル事業は、物価上昇の波を逆手にとった投資先として再評価されています。
② 相続・節税対策の効果が高い
ホテルは「事業性資産」として評価額を抑えやすく、減価償却による所得控除も得られるため、富裕層にとっての税戦略と親和性が非常に高いのです。
③ 社会貢献や地域創生と結びつけやすい
地域活性化や地方創生とリンクしたホテル運営は、単なる収益ではなく「社会的意義のある投資」として、意識の高い投資家たちに支持されています。
第1章:2025年のホテル投資はどう変わったのか?

コロナ後の回復フェーズから「再構築フェーズ」へ
2020年から続いたコロナ禍によって、世界の観光業は壊滅的な打撃を受けました。とりわけ日本国内のホテル業界では、稼働率の急低下や倒産の連鎖などが発生し、多くの投資家がこの市場から一時撤退する状況に。
しかし、2023年から2024年にかけてはV字回復の兆しが鮮明となり、2025年の今、「リカバリー」を超えて「リビルド=再構築」のフェーズに突入しています。
このフェーズでは単なる稼働率の回復にとどまらず、「どのような体験を提供できるか」「どんな滞在価値を持たせられるか」というホテルのブランディング力が問われています。つまり、ただ部屋を貸すだけの時代は終わったのです。
世界の観光トレンドとインバウンド動向(データ分析含む)
国連世界観光機関(UNWTO)の報告によると、2024年の世界全体の観光客数は前年比約18%増。アジア太平洋地域の伸びは特に著しく、日本はその中心的なマーケットとされています。
また、訪日客の動向を見ると、宿泊先の多様化が進んでおり、「都市ホテル」から「地域密着型宿」「ウェルネスリゾート」などへニーズがシフト。長期滞在や“体験重視”の傾向が、ホテルの設計やサービス内容に新たな方向性を与えています。
ESG・ウェルネス型ホテルの台頭と資産価値の変化
2025年現在、世界的にESG(環境・社会・ガバナンス)を意識した投資が主流化する中、ホテル業界でも「環境配慮型」「地域共創型」のホテルが注目を集めています。
たとえば、再生可能エネルギーを使ったエコホテルや、地産地消にこだわるレストランを併設した宿泊施設などがその代表例。こうしたコンセプト型ホテルは、単なる宿泊施設ではなく、「ブランド資産」としての評価を高めており、今後の資産価値の伸びしろも大きい分野です。
第2章:ホテル投資の基本構造をあらためて理解する

ホテルビジネスの収益モデルとは?(ADR、稼働率、RevPARの意味)
ホテル投資の収益性を評価する際に重要となるのが、「ADR(平均客室単価)」「稼働率」「RevPAR(販売可能客室1室あたり収益)」の3つです。
- ADR(Average Daily Rate):宿泊1泊あたりの平均価格。高価格帯で売れるホテルは収益性が高い。
- 稼働率(Occupancy Rate):総部屋数に対する実際の宿泊数の割合。
- RevPAR(Revenue Per Available Room):ADR × 稼働率で計算され、収益力の実力値を表す。
これらを総合的に見ることで、単純な宿泊料金だけでなく、ホテル全体の「営業力」「集客力」「価格戦略」が読み取れるのです。
仕組み別(リース/委託/直営)の運用スタイル比較
ホテルの運用方法は大きく分けて以下の3つがあります。
- リース型:運営会社にホテルを貸し出し、固定賃料を得る。安定収入だが、利益の最大化は難しい。
- 委託運営型(マネジメント契約):専門の運営会社に管理を委ね、売上に応じた収益をシェアする。
- 直営型:オーナー自らが運営を担う。収益性が高い反面、リスクと手間も大きい。
それぞれメリット・デメリットが明確であり、自身の投資スタイルやリスク許容度によって選ぶ必要があります。
一般的な不動産投資との“決定的な違い”
最後に、マンションやアパート投資とホテル投資の根本的な違いを確認しておきましょう。最大の違いは「収益の変動性」です。
賃貸不動産は固定家賃による安定収入が期待できる一方、ホテルは季節やイベント、為替、観光トレンドといった外部要因に左右されやすい“変動型収入”です。
この変動性があるからこそ、繁忙期には大きな利益が出せる反面、閑散期のリスク管理も問われるという特徴があります。これは「不労所得」ではなく、「戦略的経営」に近い投資だと捉えておくべきです。
第3章:富裕層はなぜ再びホテル投資に動いているのか

非連動資産としてのホテルの強み
株式市場や仮想通貨のような「市場連動型資産」と異なり、ホテルは経済指標や金融政策の影響を直接的には受けにくい「実物資産」です。特に、都市型ホテルやリゾート地の宿泊施設は「その地域に宿泊ニーズがある限り」収益が発生するため、市場全体の暴落時でも比較的安定したキャッシュフローが得られます。
富裕層はこのような「非連動資産」を好む傾向にあり、ポートフォリオ全体のバランスをとる意味でもホテル投資は効果的です。
相続・税制・法人化…富裕層にとっての戦略的メリット
ホテル投資には、節税・相続対策としての強みも多数存在します。
まず、ホテルという事業性資産は「収益還元法」により不動産評価が行われるため、実勢価格よりも相続評価額が低くなるケースが多いのです。これにより、相続税の圧縮が可能になります。
また、建物部分に対する減価償却が大きく取れるため、所得税や法人税の節税にも有効です。特に、法人化してホテル運営を行う場合、所得の分散や経費計上の柔軟性も加わり、富裕層にとっては“攻めと守り”の両方を実現できる構造となります。
「所有から運用へ」——自ら使うホテルを投資対象に
最近では、「セカンドハウス感覚」でホテルを所有し、自らの滞在にも使いながら、それ以外の期間は運用会社に貸し出すというスタイルも広がっています。これは特に富裕層に人気の「ブティック型」「ヴィラ型」のリゾートホテルで見られる傾向です。
自身のライフスタイルと資産運用をリンクさせるこのアプローチは、単なる投資ではなく「人生設計の一部」としてのホテル投資という新しい価値を提示しています。
第4章:エリアとホテルタイプで変わるリスクとリターン

都市型 vs 地方型:収益モデルの違いと2025年の傾向
都市型ホテルは稼働率が高く安定収益を見込みやすい一方、物件価格も高く、競争も激しいという特徴があります。反面、地方型ホテルは立地リスクが大きいものの、物件取得コストが低く、差別化によるブランド化もしやすい。
特に2025年現在では、地方再生施策の一環としてインバウンド観光客の地方誘導が進んでおり、「地方×体験型ホテル」というニッチ市場が拡大中です。
ブティックホテル、リゾートホテル、サブスク型ホテル
宿泊施設の形態も多様化が進んでいます。
- ブティックホテル:デザイン性とコンセプトを重視。個性を打ち出しやすく、顧客のロイヤルティが高い。
- リゾートホテル:長期滞在向けで、富裕層やインバウンドに人気。季節変動に左右されやすいが高単価が狙える。
- サブスク型ホテル:月額定額で複数拠点に泊まれる仕組み。出張族やリモートワーカーに支持され、新しい需要を創出中。
それぞれのタイプにはターゲットや運用方法の違いがあり、投資判断の際には顧客属性とのマッチングが重要です。
インフラ整備とエリア再開発がもたらす将来価値
ホテルの価値を押し上げる要因の一つが、地域のインフラ整備や都市開発です。たとえば、新幹線延伸、空港の国際化、大型商業施設の誘致などは、周辺ホテルの収益性や資産価値を飛躍的に高める可能性があります。
富裕層投資家はこうした「将来の変化」に注目し、数年後を見据えた先回り投資を行う傾向が強いのです。
第5章:ホテル投資の「本質的なリスク」を直視する

不況、パンデミック、自然災害…過去の失敗事例に学ぶ
ホテルは「非連動資産」ではあるものの、完全にリスクと無縁ではありません。観光業に依存している以上、経済不況や感染症、自然災害のような外的要因に対しては脆弱です。
例えば2020年のコロナ禍では、都心のビジネスホテルが急激に稼働率を落とし、事業撤退や売却を余儀なくされたケースも多く見られました。
オペレーションに依存する利益構造の落とし穴
ホテル事業の収益は、「ハード」よりも「ソフト」、つまり運営の質に左右されます。優れた立地や設備を持っていても、オペレーターのマーケティング力やスタッフの接客品質が低ければ、稼働率やリピート率に大きな差が出てきます。
したがって、ホテル投資においては「どのオペレーターと組むか」が成否を分ける重要な要素です。ブランド力、運営実績、CS管理体制などを入念にチェックする必要があります。
キャッシュフローとレバレッジの誤算
ホテル事業は一見華やかで利回りが高いように映りますが、初期投資が大きく、キャッシュフローの変動も激しいため、資金繰りが詰まると即座に経営危機に陥る可能性もあります。
特に融資を活用してレバレッジをかけた場合、空室率の上昇や単価下落が即返済リスクに直結します。慎重なシミュレーションと、万が一のための「緊急対応資金」の確保が欠かせません。
第6章:2025年、初心者がホテル投資に挑戦するための「実践戦略」

小口化商品、不動産クラファンから始めるホテル投資入門
「ホテル投資=億単位の資金が必要」というイメージを持つ方は少なくありません。しかし実際には、近年の金融技術の進化によって、数十万円から参加できる投資商品も増えています。
代表的なのが、不動産クラウドファンディング(通称:不動産クラファン)です。これは複数の投資家が少額ずつ出資し、ホテル案件などを共同で保有・運用する仕組み。運営はプロが担い、投資家は定期的に分配金を受け取るというモデルで、手間もリスクも比較的抑えられます。
例として、国内某社が展開するクラファン型ホテル投資商品では、1口10万円から参加でき、予定年利は4〜7%程度。ホテルの選定基準や運営実績も透明化されており、初学者でも判断しやすい構成です。
資産別シミュレーション:3,000万円・5,000万円・1億円の最適解
ホテル投資は資金量によってアプローチが大きく異なります。ここでは簡単な資産別モデルをご紹介しましょう。
- 3,000万円前後:都心部の小型物件や地方の温泉宿泊施設を区分で購入、または複数のクラファン商品に分散投資。
- 5,000万円前後:地方都市にある中規模ビジネスホテルの運営委託型投資が現実的。収益と資産保全のバランスを狙う。
- 1億円超:フルオーナー型でのヴィラやリゾートホテルの購入。高級ブランドと提携し、収益の最大化とブランディングを両立。
重要なのは、「自分がどこまで関与したいのか」という投資スタンスを明確にしたうえで、資金配分と運営手段を選ぶことです。
専門家と組むことで得られる「情報」と「保険」
ホテル投資には、物件選定、法務・税務、運営管理といった複雑な判断領域が多いため、プロフェッショナルのサポートが極めて重要です。信頼できる不動産コンサルタント、税理士、オペレーターとのパートナーシップは、想定外のリスクを回避する“保険”のような存在です。
また、富裕層向けの「プライベートバンキング」などでは、収益性だけでなく、相続・信託・法人化まで含めた包括的なホテル投資戦略の提案が受けられる場合もあります。自分一人で判断しようとせず、「任せるところは任せる」姿勢も、長期的な成功のポイントです。
第7章:投資で終わらせない——“共感”と“体験”で選ぶホテル資産の未来

単なる収益ではなく「理念」と「共創」を求める時代へ
2025年以降、ホテル投資は単なる収益装置ではなく、投資家の価値観や社会貢献意識と強く結びついたテーマへと進化しています。
たとえば、地方の廃校をリノベーションして地域密着型の宿泊施設を作るプロジェクト。こうした取り組みには、収益性だけでなく、「地域の未来をつくる」というミッションが内包されており、投資家は“共創者”としての喜びを感じることができます。
自分の名を冠したホテル、地域創生への参加という選択肢
実際、近年では「自分の名を冠したホテルを持つ」という選択肢に魅力を感じる投資家も増えています。ブランディング戦略の一環として、自らの理念やストーリーを宿泊体験として形にできることは、他の投資では得がたい醍醐味です。
また、ホテルの運営を通じて地域経済に貢献し、雇用や観光の創出に寄与するという側面も、社会的ステータスを重視する層にとっては大きな価値となります。
未来志向の投資としてのホテルの可能性とは
技術革新や観光スタイルの変化により、ホテルのあり方はこれからさらに多様化するでしょう。サステナビリティを軸としたゼロエネルギーホテル、AIによる完全無人運営型施設、デジタルノマド向けの滞在特化型ホテル…。
投資家に求められるのは、こうした未来像を見据えながら「どんな体験価値を届けたいか」を起点に戦略を立てること。資産形成だけでなく、“未来づくり”の担い手となる自覚が、次世代のホテル投資家の姿なのです。
まとめ:ホテル投資は“自分らしさ”を形にできる、唯一の不動産戦略

ホテル投資は、高利回りや節税効果といった「数字の話」だけでなく、投資家自身の価値観やライフスタイルが色濃く反映される資産運用手法です。
だからこそ、資産を「増やす」だけでなく、「活かす」ための選択肢として、2025年の今、ホテル投資は改めて注目されているのではないでしょうか。
本記事で紹介したトレンドや事例、戦略を一つひとつ参考にしながら、あなた自身の“理想のホテル投資像”を描き、ぜひその一歩を踏み出してみてください。

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。