
「資産運用」と聞くと、多くの方がまず思い浮かべるのは株式や不動産、あるいは投資信託といった金融商品かもしれません。しかし近年、特に富裕層を中心に「時計」が一種の投資対象として注目を集めているのをご存じでしょうか?
単なる嗜好品ではなく、「身に着ける資産」としての地位を確立しつつある高級時計。その背景には、単なるブランドイメージや美しさだけでは語れない「資産価値」としてのポテンシャルがあるのです。
高級時計が「身に着ける資産」として注目される背景
数百万円から数千万円に及ぶような高級時計の購入は、単なる“浪費”ではなく、むしろ“資産形成”の一環として捉える考え方が浸透しつつあります。その根底にあるのは、価値の下がりにくさ、むしろ上昇する可能性さえあるという市場の実態です。
特にロレックスやパテック フィリップといった一部の人気ブランドは、供給が絞られていることもあり、新品価格よりも中古市場での取引価格が高騰するモデルも存在します。つまり、手に入れた瞬間に「資産」となる──これは他の高額商品にはなかなかない特徴です。
不動産や株式と異なる、時計投資の独自性
時計投資の面白さは、不動産や株式とは異なる特性にあります。たとえば、不動産は流動性に乏しく、手放す際の手続きも煩雑です。株式は日々価格変動に晒され、感情の起伏が大きくなることもしばしば。
一方、高級時計は「保有して楽しめる」という独自の価値があります。日常で身につけることで満足感を得ながら、資産としての価値も保持する。これは「趣味と実益の両立」と言えるでしょう。
初心者でも始めやすい実物資産としての魅力
さらに注目すべきは、時計投資が実物資産であるという点です。実物資産はインフレ耐性が高く、経済が不安定な時代においても価値の保全が期待できます。投資信託や株式と違い、実際に目で見て、手で触れられる安心感は、初心者にとっても大きなメリットです。
第1章:高級時計が資産価値を持つ理由

ブランド力、希少性、歴史的背景が価値を形成
時計の価値を決定づける要素は多岐にわたりますが、中でも大きな影響を持つのがブランド力です。ロレックスやパテック フィリップなどは、長年にわたりブランドの信頼を積み重ね、世界中のコレクターから支持を得ています。
また、数量が限られている「限定モデル」や、生産終了となった「ヴィンテージ品」などは、希少性によって価値が大きく上昇する傾向があります。時計1本に詰まった歴史や技術の重みが、単なるモノ以上の存在価値を生むのです。
供給制限と需要増加による価格上昇のメカニズム
近年、高級時計の供給が意図的に絞られている傾向があります。特にロレックスは、生産本数をコントロールすることで市場での希少性を保ち、リセール市場での価格を安定させています。
これに加え、近年はアジアを中心に新たな富裕層の増加が顕著です。需要が世界的に拡大している一方で、供給が限られていることが、価格の上昇要因となっているのです。
市場の非相関性とインフレ耐性の強さ
高級時計市場は、株式市場や不動産市場と相関しにくいという特徴があります。経済危機が発生しても、一定のモデルは価値を維持または上昇する傾向があるため、ポートフォリオに組み込むことでリスク分散の効果が期待できます。
また、実物資産としてインフレに強い点も特筆すべきです。通貨価値が下がっても、希少性のある実物は相対的に価値が保たれる傾向があるため、長期的な資産保全手段としても有効なのです。
第2章:2025年版 高級時計ブランド別資産価値ランキング

第1位:ロレックス(Rolex)
スポーツモデルの圧倒的なリセールバリュー
資産性という観点でトップに君臨するのが、やはりロレックスです。特に「デイトナ」や「サブマリーナ」、「GMTマスター」などのスポーツモデルは、需要の高さと供給制限が相まって、中古市場での価格が常に高水準を維持しています。
デイトナ、サブマリーナ、GMTマスターの価格推移
例えば、ステンレス製のデイトナ(Ref.116500LN)は、発売当初から市場での価格が定価の2〜3倍で取引されてきました。近年の高騰ぶりは特に顕著であり、資産性を測る指標としても極めて優秀です。
第2位:パテック フィリップ(Patek Philippe)
ノーチラス、アクアノートの希少性と価値上昇
“時計界の王”とも称されるパテック フィリップは、ノーチラスやアクアノートなどのスポーツモデルが非常に高い人気を誇ります。ノーチラス5711/1Aは廃番後、価格が天井知らずに高騰し、数千万円で取引される例もあります。
第3位:オーデマ ピゲ(Audemars Piguet)
ロイヤルオークのデザイン性と市場評価
1972年に登場した「ロイヤルオーク」は、ラグジュアリースポーツウォッチというジャンルを確立させた金字塔的モデルです。デザイン性の高さと希少性により、近年では資産価値としての評価も急上昇しています。
第4位:ヴァシュロン・コンスタンタン(Vacheron Constantin)
フィフティーシックス、トラディショナルの魅力
世界三大時計ブランドの一角とされるヴァシュロン・コンスタンタンは、クラシカルなデザインと高い技術力で知られています。特にフィフティーシックスやトラディショナルは、静かな人気と堅調な価格維持力で注目されています。
第5位:オメガ(OMEGA)
シーマスター、スピードマスターの安定した価値
オメガはロレックスと並び、一般層にも広く知られたブランドですが、その中でも「シーマスター」や「スピードマスター」は、中古市場でも安定した需要があります。比較的手の届く価格帯でありながら、資産価値を持ち続ける点で優れています。
第3章:注目モデル別 資産価値ランキングTOP10

高級時計ブランドの中でも、さらにリセールバリューが高く、多くの投資家やコレクターに支持されている「注目モデル」は限られています。ここでは、2025年時点で特に注目される資産価値の高いモデルをランキング形式で紹介します。
第1位:ロレックス デイトナ Ref.116500LN
発売当初から圧倒的な人気を誇るデイトナは、現在も定価の約2〜3倍で市場取引されることが珍しくありません。黒ベゼルとクロノグラフのコンビネーションが特徴で、ファッション性と投資性を兼ね備えた逸品です。
第2位:パテック フィリップ ノーチラス Ref.5711/1A
ノーチラスの中でもRef.5711は“伝説”の名を欲しいままにしてきました。2022年に生産終了が発表され、以後、中古市場では爆発的な価格高騰を見せています。オークション市場でも1,000万円超えの取引が続出しています。
第3位:オーデマ ピゲ ロイヤルオーク Ref.15500ST
ケースサイズを41mmにアップデートした15500STは、モダンで洗練された雰囲気と実用性の高さが魅力。供給数が限られており、今後の価格上昇も十分に期待できます。
第4位:ヴァシュロン・コンスタンタン フィフティーシックス Ref.4600E
ヴァシュロンの中でも比較的モダンな印象を持つフィフティーシックスは、若い世代の富裕層からも支持されています。資産性に加え、日常使いできる汎用性の高さが人気です。
第5位:オメガ スピードマスター プロフェッショナル
「ムーンウォッチ」の愛称でも知られるスピードマスターは、宇宙で使われた唯一の時計という希少な歴史を持ちます。ヴィンテージモデルは特に価値が上がっており、現行品でも高い価格安定性を誇ります。
第6位:IWC ポルトギーゼ クロノグラフ
クラシカルなデザインとIWCならではの技術力が融合したモデル。比較的リーズナブルな価格帯ながら、長年にわたり一定の資産価値を維持しています。
第7位:タグ・ホイヤー モナコ
スティーブ・マックイーンの愛用で知られるモナコは、角形ケースと独特のデザインで異彩を放ちます。限定モデルは価格上昇の可能性が高く、実は“狙い目”なモデルです。
第8位:ジラール・ペルゴ ロレアート
ロイヤルオークやノーチラスの陰に隠れがちですが、1970年代から続く由緒正しいスポーツウォッチ。近年の注目度上昇で、資産価値もじわじわ上がっています。
第9位:ブレゲ マリーン
フランス王室にルーツを持つブレゲのマリーンシリーズは、格式とスポーティさを融合したモデル。資産価値という点では、今後注目されるポテンシャルが高いです。
第10位:ブランパン フィフティ ファゾムス
ダイバーズウォッチの元祖とも言われるモデルであり、コレクター人気は高いです。新品よりもヴィンテージ市場での価格が際立っており、中長期での値上がりが期待されます。
第4章:時計投資のメリットとリスク

美と資産の両立という魅力
高級時計の投資は、単に価値が上がることを狙うだけでなく、「楽しむ」という要素も兼ね備えています。お気に入りの時計を身につけながら資産性も確保できる──これほど贅沢な投資は他にないかもしれません。
非相関性によるリスク分散
株式市場が下落しても、時計市場が影響を受けるとは限りません。特に希少モデルは、経済の動向に左右されにくい“非相関資産”としてポートフォリオ全体のリスクを緩和する役割を果たします。
実物資産ゆえの保全性とリスク
実物資産であるため、金融商品のようなデフォルトリスクはありません。しかし一方で、「盗難」「メンテナンス」「市場の流動性の低さ」など独自のリスクも存在します。
例えば、保管環境が悪ければ時計はすぐに劣化しますし、偽物のリスクも無視できません。購入時には信頼できる業者を選び、資産としての価値を維持できるよう管理を徹底する必要があります。
第5章:高級時計購入時のチェックポイント

正規品と並行輸入品、どちらを選ぶ?
正規品は信頼性とアフターサポートの充実が魅力ですが、そのぶん価格は高めです。一方、並行輸入品は安価で手に入る可能性があるものの、偽物のリスクや修理時のトラブルを考慮する必要があります。
付属品の有無が資産価値を左右する
保証書や箱、ブレスレットのコマなど、時計の付属品が揃っているかどうかは資産価値に直結します。リセール時には「フルセット」のほうが価格が高くなるのが通例です。
新品か中古か──それぞれのメリット
新品は当然ながら信頼性が高く、製造からの経年劣化もありません。ただし、購入直後に市場価格との差が生じることもあるため、価格動向の見極めが必要です。中古品はその分、価格が安定しており、リセール前提の投資には適しています。
長期保有を前提としたメンテナンスの計画
時計は数年に一度のオーバーホール(分解清掃)が必要です。ブランドやモデルによっては数十万円かかることもあるため、ランニングコストを理解したうえで購入することが重要です。
第6章:時計投資に向いている人・向いていない人

趣味と実益を両立させたい人に最適
高級時計投資の最大の魅力は、資産としての価値を持ちながら「所有の喜び」を味わえる点にあります。つまり、時計そのものに関心があり、愛着を持って身につけられる人にとっては、まさに理想的な投資手段と言えるでしょう。
長期視点を持てる人が成功しやすい
時計投資は、短期的な値動きで利益を得ることを目的とするものではありません。むしろ、数年〜十年以上のスパンで価値を維持・向上させていくのが基本です。したがって、目先の利益に惑わされず、じっくりと保有し続ける忍耐力が求められます。
向いていないのは「即金回収」を狙う人
一方で、すぐに利益を上げたい、キャッシュフロー重視の人には不向きな面もあります。高級時計は売却のタイミングや市場の需要によって価格が左右されるため、リスク管理が不十分な人にとっては負担となるかもしれません。
第7章:資産運用ポートフォリオにおける高級時計の位置付け

株式や不動産との違いを理解する
資産運用のポートフォリオにおいて、高級時計は「補完的な実物資産」としての位置付けが理想です。株式や債券などの金融資産と異なり、価格が市場と連動しにくいため、リスク分散の一環として取り入れることで全体のバランスが向上します。
不動産に似た「保有価値」と「維持コスト」
不動産と同様に、時計にも保有するためのコスト(メンテナンス、保管環境)がかかります。そのため、安易に多数を保有するのではなく、自分のライフスタイルや財務状況に応じて戦略的に選ぶことが重要です。
ポートフォリオ全体の5〜10%以内が目安
時計投資に資金を大きく偏らせるのはリスクが高いため、あくまでもポートフォリオ全体の5〜10%程度を上限に組み込むのがベスト。たとえば、株式6割、不動産2割、現金1割、時計1割といった構成が現実的です。
第8章:資産価値のある時計を手に入れる方法と保管・売却戦略

信頼できる販売店・業者を選ぶ
時計投資で最も重要なのは「本物を確実に購入する」ことです。信頼できる正規販売店や実績ある中古業者を選ぶことが、投資成功の第一歩。特に保証書の有無や過去のメンテナンス履歴など、真贋を確かめる情報が揃っているかは必須チェック項目です。
保管環境は資産価値を左右する
高温多湿、直射日光、磁気などは時計の天敵。防湿庫や高級時計専用のセーフティボックスなどを活用し、定期的に稼働させることでムーブメントの劣化も防げます。見た目の美しさを保つことも、再販価格を上げる大きな要素となります。
売却タイミングは「市場の流れ」と「モデルの動向」に注目
中古市場での価格は、モデルの人気度や希少性、新モデルの発表時期などに大きく影響されます。そのため、売却は「自分が手放したいとき」ではなく「市場が高値をつけているとき」を見極めることが大切です。オークションや専門バイヤーとの事前相談も活用しましょう。
中古市場・オークションの活用法
現在ではインターネット上でも安全に取引できるプラットフォームが増えてきました。「Chrono24」や「WatchBox」などの海外サイト、国内では「ジャックロード」や「KOMEHYO」などが有名です。さらに、サザビーズやクリスティーズといった高級オークションハウスでは、稀少モデルが驚くような高値で落札されることもあります。
注意点とまとめ

高級時計は「ファッション」「機能美」「技術芸術」そして「資産価値」を併せ持つ、非常に特異な存在です。しかし、その価値を享受するためには、適切な知識と長期的な視野が不可欠です。
短期的に利益を狙うのではなく、「使いながら育てる」「次世代に残す」という意識を持って付き合うこと。それが時計投資における成功の秘訣ではないでしょうか。
また、時計の価値は“定価”ではなく“市場価値”で測られます。定価が安くても中古市場で高騰するモデルもあれば、その逆もあるのがこの世界の面白さ。情報収集とタイミング、そして自分自身の好みとのバランスを意識し、納得のいく1本と出会えることが、何よりも大切です。
資産運用の選択肢が広がる中で、「高級時計」というアセットを取り入れることで、あなたのポートフォリオに新しい価値観が加わることでしょう。投資は理性で、時計は情熱で──そんな資産形成のスタイルも、悪くないと思いませんか?

ファイナンス専門ライター / FP
資産運用、節税、保険、財産分与など、お金に関する幅広いテーマを扱うファイナンス専門ライター。
金融機関での勤務経験を活かし、個人投資家や経営者向けに分かりやすく実践的な情報を発信。特に、税制改正や金融商品の最新トレンドを的確に捉え、読者の資産形成に貢献することを得意とする。